僕と君と償う過去と   作:近衛龍一

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雄二の思惑

「痛ててっ……」

「大丈夫かの明久……?」

 

その日の放課後、思わず雄二に素の姿の片鱗を見せてしまった明久は、その分を取り返そうとわざと雄二に騙されたフリをしてEクラスへと宣戦布告をしに行った。

下位クラスからの使者はボコボコにされると言っていたが仕方が無いと腹を括り向かった明久は、当然の如く怪我を負い、今に至る。

そしてクラス自体は現在Eクラスと交戦中。

明久は宣言通り戦争には参加していない。

 

雄二としては明久が抜けるだけで大きな痛手だったのだが、戦争の話を持ちかけた際に秀吉までもが戦争への参加を拒否したため、試合は押され気味。

 

高みの見物……というわけではないが、明久と秀吉はそんなクラスのピンチをただ見るだけで決して動こうとはしなかった。

 

「全く……。お主は戦争に参加せんのじゃからわざわざ宣戦布告なんぞ行かんでも良かろうに…」

 

はぁ、と大きくため息を吐く秀吉は呆れた目で明久を見ながら怪我の手当を行っていた。

明久の方は『あはは……』と乾いた笑いを漏らす。

 

「これもバカの仕事ってやつかな。しょうがないよ。バカを演じる以上はね」

「前も言ったのじゃがバカ過ぎじゃ……。お主は演じ過ぎて本物のバカになってきてるのではないかの?」

「それならそれで本望だよ」

「嘘でもそんなことを言うでない。さっきのは冗談じゃ」

 

軽く頭が痛くなりそうな明久の言葉に、秀吉は顔を顰めつつもきっちりとその腕に包帯を巻いた。

 

「よしっ。これで大丈夫じゃ」

 

パチンと明久の腕を軽く叩くと、手元の救急箱を片付ける。

手当をしてもらった明久は、その腕を何度か回し、秀吉に『ありがと』とお礼を言った。

 

「気にするでない。それこそ、これがわしの仕事じゃ。しっかり明久を見張るよう姉上に言われておるからの」

「僕ってそんなに優子に信用されてない……?」

「バカを演じて怪我をするような人を信じろという方が無理じゃ」

 

しれっと毒を吐く秀吉に明久はぐうの音も出せずに大人しくなる。

そんな明久に秀吉は内心面白がりながらも尋ねる。

 

「なんじゃ? ちょっと傷ついたのかの?」

「まぁ……ねぇ……?」

「ならば少しは考えを改めるのじゃ」

 

母親が息子を叱るような秀吉の言い方に明久は『は〜い』と言いながら肩を落とす。

軽く落ち込む明久の様子を見た秀吉は柔らかく微笑む。

 

「少しは自分の体を気遣うのじゃぞ? 姉上もお主を心配しておるのじゃから」

「はい……」

 

渋々ながら頷いた明久は、すぐに表情を引き締めた。

 

「それよりも秀吉」

「うむ。雄二の件じゃな?」

 

明久が何の話をすぐに察した秀吉。

雄二の見せた戦争のやる気に明久は疑問を抱いていたのだ。

 

「雄二が僕に懇願することなんてなかった。そんな雄二が負けたら設備のランクが下がる試召戦争で僕に頼み込むなんてありえないからね」

 

そう言う明久に秀吉は首を縦に振って頷く。

雄二の面倒事が嫌いな性格は同じ学年の誰もが知っているくらい有名だった。

去年の清涼祭もほぼ不参加。

体育祭やクラスマッチなどもあったが、運動神経がいいにも関わらず自ら補欠になっていたくらいだ。

 

「あやつはプライドが高いからのぅ。少しでもお主に頼もうとすること自体初めてではないかの?」

「うん。そうだね」

 

常に明久を見下している雄二があそこまで必死に頼み込む理由が明久には全く分からない。

一体この戦争のどこに雄二がプライドを捨て面倒なことをする価値があるのか。

それを考えることが今の明久たちの課題であった。

 

と、そんな時。

 

『土屋がEクラス代表を打ち取ったぞ〜っ!!』

『『『うおぉぉ〜〜っ!』』』

 

突如上がる雄たけび。

その言葉からしてどうやらFクラスが格上であるEクラスに勝利したようだ。

 

「勝ったみたいだね…」

「そのようじゃな…」

 

2人にとってFクラスの勝利は雄二の目的とするAクラス戦に近づくということ。

Aクラス戦を望んでいない2人からすればあまりよろしくない状況である。

 

「ムッツリーニが倒したってことは雄二はまだ姫路さんを出してないみたいだね」

「恐らくの。須川の話では、今回の戦争で余程のことがない限り姫路は出さんつもりじゃったらしいからの」

 

喜ばしくない状況でも2人は雄二に感嘆する。

この戦争でFクラスが勝つためには、学年次席の実力を持ちながらも振り分け試験時に途中退席のためFクラスに振り分けられた姫路の力は必要だっただろう。

しかしながら、雄二はAクラス戦の為に姫路の存在を隠し温存するべく、今回の戦争で出さなかったのだ。

その辺は流石元神童というべきところである。

 

「やっぱり一つずつ上のクラスを倒していくのかな?」

「そればっかりは雄二に聞いてみらんと分からんのじゃ」

「そうだよね…」

 

結局2人は一向に雄二の思惑が分からないままクラスメイトの帰還を待ち、その後すぐに下校となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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