僕と君と償う過去と   作:近衛龍一

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一つの想いは……

「……ゆう……じ……っ!」

 

フラフラと、しかしその足取りはしっかりと雄二の方へと向かっており、翔子はそのまま倒れこむように雄二に抱きついた。

 

「しょ、翔子……!?」

「………………で」

「は……?」

「……もう…私を置いていかないで……?」

 

顔を上げてジッと雄二を見つめるその顔には涙が零れ、表情はとても寂しそうだった。

 

「……今の話…聞いてたっ…。雄二が…私の為に色々してくれてたって……でも…私…知ってた……っ」

 

その時に雄二は衝撃を覚える。

バレていたのだ。

雄二の行動は全部自分の為にやってくれたことを。

でも、霧島は微塵も雄二から離れるつもりはなかった。

つまり、雄二の行動は無意味……いや、行動を起こせば起こすほど霧島は雄二に惹かれていく、雄二の望んでいたこととは遠くかけ離れていっていたのだ。

 

「……ありがとねっ……雄二っ……。でも……もうやめて…っ。今日の雄二は……別人だった……っ。もう……あんな雄二はみたくない……っ!」

 

霧島はただ純粋に怖かった。

自分を嫌いという雄二が。

ウザイという雄二が。

嘘だと分かっていた。

でも、その口から聞くのは怖かった。

何かに取り憑かれるように自分を遠ざけようとする雄二が、ドンドンエスカレートする内に何時の間にか本当に自分のことを嫌いと言うかもしれない。

そう思っていたから。

 

「……それに……私は雄二から離れたくない……っ!」

「…………っ!」

 

雄二はたった今初めて気がついた。

自分に抱きついて泣いている少女の肩が震えている。

いつも自分の側にいてくれた少女はこんなにも弱々しかったのだと。

 

「……私は…雄二と一緒にいたい……っ。どうしても……離れたくない……っ」

 

雄二は一瞬迷ったが、そっと、霧島の背中に手を回した。

 

「……何か…私が悪いなら……変えるから…っ。だから……雄二の側に……居させて……?」

「翔子……」

 

自分は何てバカだったのだろうか。

まるで霧島の事を理解したかのように、離れてやろうとしていた。

でも、何も分かってはいなかった。

こうやって近づけば、すぐに分かることだったのに。

 

先ほど明久が話していた雪だるまの話。

霧島はまるで雄二が居ないと溶けてしまいそうな。

雄二は霧島にとって支えてくれる、ただ、離れると熱湯のような存在にもなる。

だったら自分のすべきことは何か。

今まで沢山迷ってきたのに、雄二はそれが嘘かのように答えを出す事が出来た。

 

「後悔……すんなよ」

「…….え……?」

「俺を選んで、後悔するなよ」

「……うんっ!」

 

一瞬にして明るく輝く霧島。

彼女が自分を望むのなら、自分は彼女に応えてあげればいいじゃないか。

住む世界は関係ない。

そんなものは、自分がその世界に追いついていけばいいものだから。

元神童の頭はようやく働いてくれた。

ずっと雄二の求めていた答えを出してくれた。

今ある少女の笑顔。

きっと、それが正しい答えだ。

 

雄二は霧島の笑顔を見て顔が火照る。

それを見られないようにする為に、雄二はギュッと霧島を抱きしめた。

 

「明久、お前に頼みがある」

 

とはいえ今は明久たちが目の前にいる。

雄二はすぐに霧島を離すと、明久の方に向き直った。

 

「何……?」

「成宮に、謝らないといけない。お前は成宮と仲いいんだろ? だったら……」

「雄二よ。それはわしに任せるのじゃ」

「秀吉が?」

 

雄二は、明久の詳しい事情は知らない。

だから、明久は千春との仲がいいと思ったのだ。

それを悟った秀吉は急いでフォローに。

今明久が千春と話す事は、おそらく無理だろうから。

 

「うむ。姉上に掛けあってみるのじゃ。お主、どうせ姉上にも謝らんといかんじゃろうが」

「そ、そうだな…….じゃぁ、頼んだ」

「任せておくのじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にすまなかった」

 

きっちりと頭を下げる雄二。

その横には同じく頭を下げるムッツリーニと、同伴の霧島、秀吉、そして明久の姿が。

 

「いいわよ……。大体の話は秀吉から聞いた。坂本君の事情も分からなくもない。それに千春がいいって言ってるし……」

「うん……。ただ、あまりに急だとこっちも焦っちゃう……かな……」

「悪い……」

 

許してくれるといいつつも、やはり雄二に怯えている千春は優子の後ろに隠れて話していた。

雄二はもう少し謝ろうとも思ったが、これ以上は逆に千春に悪いだろうと思いなおした。

 

「えっと……それじゃこれで俺は失礼する。設備に関しては規則道理に行うつもりだ」

「分かったわ。これからは気をつけてちょうだい」

「ああ」

 

霧島からはFクラスの設備落とすつもりはないと言われたが、雄二はそれでは迷惑をかけた千春や優子、明久、秀吉に示しがつかないと断っていた。

雄二は元よりAクラスに勝ったとしても霧島をFクラスなどの設備に落としたくなかった為、わざわざEクラスから順番に落としていたのだ。

自分達の設備は落ちてCクラス。

明久に建前として説明していた姫路のことに関しても、Cクラスほどの設備があれば充分だろう。

 

それに、Fクラスの敗戦を受け入れることにより現在試召戦争ができるクラスはAクラスのみとなる。

わざわざAクラスが格下クラスを相手に戦争を仕掛けることもないだろうし、Aクラスの皆は最低2ヶ月は腰を据えることができるわけだ。

 

自分を怯える千春に心に痼りの残る雄二ではあったが、とりあえず今回の件についてはある程度型をつけた。

ただ、雄二は去り際にやはり千春が気になって、振り返った。

 

「なぁ、成宮と明久は仲がいいんだよな……? 明久、お前残って成宮とーーって明久……?」

 

迷惑をかけてしまったこと。

それはどんな事情があれど、変わりない事実なため、雄二は明久に話してやってくれと頼もうと頼もうとしたが、明久は既に教室からいなくなっていた。

 

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