ゲーム開発の進展を聞いて改めて例の横スクロールゲームをプレイしていた。
何といっても見やすいUI、操作に対するレスポンスの良さに磨きがかかっている。
個人的には前回でもそれなりに満足していた主人公のグラフィックのドットが更にきめ細かくぬるぬる動く。
僅かだがドット絵によるムービーも追加されていて、ゲームの魅力も増している。
ゲームで集めたポイントはゲーム開始前やチェックポイントにあるショップで使う事ができる。
これらでコスチュームやアイテムを購入して遊ぶこともできるようになった。
ただ、1つ不満なのがやはり難易度の低さだ。
キャラの操作性の向上と共に敵もそれなりに強くはしてあるが、どうしても物足りない。
4面から5面にかけてそれなりに手応えはあるが…。
6面はまだ途中の様だった。
私はベッドに寝転がり考える。
正直、難易度が高くないのはこのままでいいんじゃないかと考えている。
今回のターゲット層はまだデジタルゲームに触れて日の浅い子供たちだ。
私の納得のいく難易度にすると子供たちはクリアできないのではないか…そんな不安がある。
更に、私と違って子供たちはコンテニューの度に金を入れる事になるのだ。
「他の誰かの意見が欲しい…」
一瞬、妹紅の顔が頭に浮かんだ。ダメだ。
全くゲームに触れた事のない人物のプレイを参考にしてしまえば、少々経験のある子供達にとってもヌルゲーになってしまいかねない。
しばらく考えていると、ふとまた思い浮かんだ。
「チルノ…!」
そうだ。あいつも確かデジタルゲームを触っていた。
丁度いいサンプルが見つかった。
そうと決まれば話は早い。
私はさっさと支度をして永遠亭を出た。
「お、輝夜じゃないか」
迷いの竹林で出会ったのは妹紅だった。
「おはよう。奇遇だね」
「おはよう。今、永遠亭に向かってたんだ」
妹紅の影から誰かが出てきた。古明地さとりだった。
彼女は私に向かってペコリと頭を下げる。
妹紅はさとりを案内する他に用事はなかったらしく、また竹林の中に消えていった。
「この間妹がお世話になったのでそのお礼にと思いまして。しかし、何やらお急ぎのご様子。また日を改めてお伺いします」
何やら手籠の中に白い箱が見える。
菓子折りには見えないが…。
何にせよせっかくご足労いただいたのだ。
無下にする事もあるまい。
まぁ強いて言えば一言連絡が欲しかった所だが。
「すみません。以後気を付けます」
さとりは申し訳なさそうに頭を掻いた。
そういえばさとりは心が読めるんだった。内心でもあまり矢鱈な事は考えられない。
つい最近になってから忙殺の日々から解放されたばかりなのだ。
多少のケアレスミスも仕方がない。
「そう考えて頂けると助かります」
「ト書きに返事をされるとやりづらいなぁ」
「すみません」
チルノの元に行くのはまた後日にしよう。
今はせっかくのお客人が来てくれたのだ。
ここはおもてなしするとしよう。
さとりが持って来た箱の中身は焼き物だった。
そういえば、妖怪の山で最近陶器市があってるとか聞いたな。
それにしてもあのずっしりとした感覚…いくらだったのだろう。
私はお茶を淹れて彼女の座る机の上に置いた。
「ありがとうございます。いただきます」
私はちょっとした菓子を出して向かい合って座る。
彼女の好意は大変ありがたいのだが、やっぱり私は少し苦手だ。
何を話せばいいのか、何が趣味なのかとか一切分からない。
向こうはどれぐらい私の事が分かるのか分からないが、向こうからそれを取っ掛かりとして話題を膨らませる事はしないあたり…ただコミュニケーションが苦手なのかもしれない。
「変わった子ではありますが、妹の方が人との付き合いは得意な気がします」
「好きな事と得意な事は必ずしも一致するとは限らないからね」
「難儀な事です」
同じタイミングにお茶を飲んだ。
世間話は最近したばかりなのであまりこれと言った話題がない。
ん…そうだ、そうだな。それを試してみよう。
私はスマホを取り出して彼女に見せる。
「デジタルゲームって分かるかな」
「え、ええ…。コンピューター上の処理で操作したりして遊ぶゲームの事ですよね」
ん…?
さとりはデジタルゲームを知らないと思っていた。にとり雑貨店とは競合関係にあるので、それに触れる機会もないはずだと思っていたが…。あるいはにとりの方から売り込んで地霊温泉での販売でもしたんだろうか。
いやそんな話は聞かない。
まあいい。今大事なのはとりあえずさとりはゲームをプレイした事があるという事だ。
「それで、そのゲームの事なんだけど…」
PRRR…。
こんな時に電話だ。相手は…にとりだ。どうしたんだろう。
さとりは大丈夫だとジェスチャーを送るので部屋の外に出て電話に出る。
『ああ、蓬莱さん?今大丈夫?』
「大丈夫だけど、何?」
『筐体が完成したんだ。一度プレイしてみない?』
「そりゃやってみたいけど…」
私は今の状況について説明した。彼女は興味津々に顛末を聞いていた。
『差支えがないならそのさとりも呼んで欲しい』
「え?…まあ、聞いてみるよ」
にとりが何を考えて競合相手を呼ぼうとしているのかは分からないが、取り敢えず電話を切るとさとりに今の話を聞かせた。彼女も少し驚いた様子だったが、快く承諾してくれた。
待ち合わせ場所は人間の里のホームセンターだった。
お互いに顔を合わせて挨拶を済ませると一緒に向かう。
道から察するに行先はにとり雑貨店ではないようだ。
町はずれと言う事だけは間違いないが…。
着いた場所は簡素だがまだ建って新しい洋風の家だった。
「ここは?」
「自宅兼事務所だよ。前は雑貨店に寝泊まりしてたんだけど、改装してからは使い勝手が悪くなってね。それでここを建てたんだ」
それから彼女と一緒に家に入った。
入ってすぐ右側に窓口があった。
誰かがやって来た。
「にとりさん、町内会からです」
「また話を蒸し返したのか?」
窓口の女性はうなずいた。にとりはため息をついた。
「球磨、客を案内を頼む。筐体のテストプレイだ」
そう言って彼女は事務室に入って電話を取った。
口調は穏やかだが声色に怒気が混じっている。何やら揉めているようだ。
球磨と呼ばれた女性は事務室から出て部屋に案内する。
「何か揉めてるの?」
興味本位で聞いてみた。
「ええ、業務に関する一部の事で近隣住民に理解を得られていない状態でして。再三交渉を続けていますが…」
球磨はため息をついて項垂れる。
さとりもデコの辺りを抑えて首を横に振った。
「その土地に長く住まう古株は、やって来た新参が幅を利かせる事を面白く思わないものです。不可侵条約が緩くなったあの時、地上と地下での大きなトラブルが発生しない様に働きかけるのは大変苦労しましたよ」
苦労人なんだなぁ…。
球磨とさとりは知り合いの様で、近況に関する話をしていた。
競合相手であっても、仲が悪いという物でもないのかもしれない。
部屋に到着すると、ゲームの電源を付ける。いつも端末で見てる画面とはまた変わってて非常に面白そうだ。触ってみたい気分はあるが…まず最初にこれをプレイさせたいと思っていた相手はさとりだ。
「にとりさんはもうすぐ来ると思います。何かあれば私は窓口近くにおりますので声をおかけください」
そう言って球磨は去って行った。
取り敢えず待ち時間でゲームの操作説明をした。
さとりがこのゲームをプレイしてどんな感想を抱くのか楽しみだ。
チルノの学校生活で出した球磨ってオリジナルのボスキャラがいて、友達に「キャラの掘り下げが足りないんじゃないか」と言われて書いたのが次作のストーリーオブザ球磨だった。
話も完結させたのでもう登場させる事もないだろうと思ったけど、いないものとして扱われるのもどうかと思ったのでちょっとだけ顔出ししてみた。