私は人間の里で時間をつぶしていた。
石を拾っては川に投げる。
「はぁ…。何やってんだよ私は」
頭に浮かぶのはやはり輝夜の顔だった。
さとりを永遠亭に送った時、挨拶を済ませるとすぐにその場を去った。
あいつの顔は至って普通で、何というか…。
私はあいつを意識しているけれど、あいつは私を意識していない。
一体、一体どうすれば…。
「やっぱり…諦めるべきなのか?」
縁がなかった。それだけで済む。
愛する事さえやめてしまえば苦しまずに済むのかもしれない。
手元の石を握る。投げつけようと腕を振り上げると、目の前に誰かが座ってこちらを見ているのに気が付いた。
「おわあ!!」
いつからいたのか分からないが、少女は目を白黒させている私をまだ見ている。
えっと…こいつはどこかで見た事がある。どこだったか…。
…あまり詳しく思い出せないがさとりの妹だった事は覚えている。
「青春しているか?」
彼女は私にそう話しかけた。
「ちょっと何言ってるか分からない」
名前…なんだっけ。後ちょっとの所で思い出せそうなんだが思い出せない。
古明地こ…まで思い出せるんだが…。
こ…こ……。
「思い悩んでいるようだな、吉田」
「妹紅です」
良く分からないが古明地妹は私の相談にのってくれるつもりでいるらしい。
とはいえ、友達でもなければ知り合いでもない彼女にどうして胸中を打ち明けられるだろうか。
私は首を横に振った。
彼女を姉の元に送ってあげよう。
「私は古明地こいし。あなたは妹紅。自己紹介も済んだし、これで私達知り合いだよね?」
ソレが見えたら終わりそうなピエロみたいな事を言ってくる…。
彼女は私の隣に座る。
そして近くの花の茎を千切って眺める。
…実は、誰かに構って欲しいだけなのではなかろうか。
「お姉ちゃんが私を探してくれないんだよ」
「離れずに傍にいてあげればいいじゃないか」
「お姉ちゃんは私が傍にいない限り、心のどこかで私の事を心配してくれてる。ずっと傍にいたら、私の事を考えなくなる」
はは…それは困った構ってちゃんだな。
心で笑うと彼女は私の顔を見てムスッとする。
おかしいな。表情に出てたっけ?
「お姉ちゃんはずっと私の事だけを考えていればいいんだ。朝起きて、寝る時までずっと」
「ははは…」
重度な偏愛を持ってるようだ。
探してくれない、か…。こうして行方を眩ませる事で彼女の気を引いてるつもりでいるこいしにとっては面白くない事なんだろう。
「…お姉ちゃんはね、私の事が好きじゃないの」
彼女はぼんやりと遠くを眺めながら寂しそうに言う。
家族として、じゃなくて恋愛対象として…らしい。
それはまぁ…抵抗がある人も少なくないかもしれない。
親族を恋愛対象として好きになるというのは良く分からないが…。
「成就しない恋ってのは辛いな」
私は輝夜の事を頭に思い浮かべながら、半ば独り言の様につぶやいた。
しかし、こいしは首を横に振る。
「ううん。辛くないよ」
「好きな人が他の人と付き合ったり、自分の恋心が届かなくなったら辛くないか?私は辛い」
彼女はこちらを向いて悲し気に笑う。
「私以外の誰かと付き合って幸せになるなら、その方がいいから。本当に好きな人だから、幸せになって欲しいって思うんだ。…その相手が自分じゃなくてもね」
幸せになって欲しい…。
思えば私の恋心は独り善がりだったのかもしれない。
私の恋心に、少しでも相手の事を思いやる気持ちがあっただろうか。
私は輝夜に自分の事を好きになって欲しかった。自分の恋人になって欲しかった。
輝夜の気持ちはどうなんだろうか。考えた事もなかった。
一寸先の闇の中に光明が見えた気がした。
彼女への好意は変わらない。自分を好きになって欲しい気持ちも。
それでも、こいしとの会話の中で自分の中で何かが変わっていくのを感じた。
「お前は私が思ってるよりずっと大人なんだな…」
「でしょ?」
彼女は白い歯を見せて笑う。
「だから、家に帰ろうな?」
「絶対に嫌」
恋心ってきっと複雑なんだな。そう思う。
ボタンを押してゲームをスタートするさとり。
まずはボタン操作を行い手慣らしをする。
それからステージを先に進んで敵を倒していく。
「不便さを感じさせないキー入力への反応…。いいですね」
ステージギミックを利用して敵を倒しながら前に進んでいく。
「ぎこちなさを感じない。さとりん、プレイした事あるゲームって何?」
「えっ!?いや…その、あはは。何でしたっけね」
事情は良く分からないがさとりんはすっとぼけている。何故?
しかし、幻想郷でプレイできるゲームってかなり限られているはずだ。
にとりが販売したポケットゲーム。チルノの持っていたゲームの筐体。
私が烏天狗に渡されたアプリのゲームの類…。
その他にプレイできそうなゲーム…。
「スペース・タクティカル…」
さとりは驚いてこちらを向いた。画面の中の自機がミスになった。
あ、図星だこれ。持ってるんだあのゲーム。
彼女は訝し気な表情でこちらを見る。
まさかここまで動揺するだなんて…。
これまでどんな時も表情の変化に乏しかった彼女だから自分もつられて驚いてしまう。
「あなたがタケノコワッフルでしたか…」
「ひゅい!??」
し、しまった墓穴を掘ってしまった。
こいつは心が読めるんだった。迂闊だった。
思わず某河童みたいなリアクションしてしまった。
タケノコワッフル…それはスペース・タクティカルをプレイする時の私のHNだ。
しかし周りの奴のプレイヤースキルの低さに煽りに煽りまくったらいつの間にかネットで悪質ユーザーと言われてしまっていたのだ。
お互いに見つめ合う。
「ごめんごめん、やっとひと段落したよ」
にとりが部屋にやって来た。どうやら電話の対応は終わったらしい。
張り詰めた空気に暖気が流れ込んでくる。危ない所だった。
さとりも改めてゲームを再開する。
彼女の手慣れたプレイも4面から雲行きが怪しくなる。
「む…、うむむ…」
3面から顔を出していた鳥の敵が心許ない足場の上で猛威を振るう。
ジャンプ中に攻撃を行えば飛距離が足りず落下死してしまう。
すれ違いジャンプはタイミングがシビアで中々向こうの足場にたどり着けない。もたつけばダメージを受けてしまう。
彼女は少し考えていたが、飛び道具を使って敵を倒してジャンプ。
「えっ!??」
まさかの即時リスポーン。彼女は再び谷に落とされてしまった。
いよいよゲームオーバー。
深呼吸をして再びコンテニュー。残機を減らしに減らして最適化された動きで同じ場所まで戻って来る。
一度ジャンプして足場に戻って敵をスポーンさせる。倒してもやはり即時リスポーン。
「…調整ミスか?」
にとりが顎下に手を当てながら言った。
「いや、普通に行けるよそこ」
さとりが真剣な表情で敵をスポーンさせ、引き付けてからギリジャンプ。
タイミングは上手くいった様で向こうの足場に着地できた。
「やった…!」
が、喜びも束の間。画面向こうから現れた犬に轢かれて谷間に落ちてしまう。
「あう…」
きゅっと目をきつく閉じて俯くさとり。
唇を噛みながらもあれやこれやとタイミングを見計らって跳ぶがタイミングが合わず中々向こうの足場にたどり着けない。敢え無くゲームオーバー。
画面に表示されるゲームオーバー画面にとうとう彼女は項垂れてしまった。
私は彼女の肩に手を置いた。
そして席を変わる。
頻繁にゲームオーバーになっていたあの場所に戻って来た。
まずは敵をスポーンさせて足場に戻る。更に敵の攻撃をその場でジャンプして回避させた。
すれ違いジャンプでもいいけど足場との距離、心の余裕的には一度その場で回避が一番いい。
「駄目、すぐに前に飛ばないと敵が戻ってきてしまう!」
さとりが焦りながら言った。
「別にすれ違いジャンプでもいいんだけどね。もっと楽に攻略したいじゃん?」
私はタイミングを合わせてジャンプした。
後ろに敵が迫る。
「当たる!」
興奮気味に叫ぶさとり。もちろん、それが狙いだ。
私は背中を敵にぶつけて貰いノックバックで小さな足場に乗った。
これで下の足場にスポーンする犬と雑魚を回避。
まだ付いてくる鳥を撃破して安全な足場に移動してさとりに代わった。
「悔しいですが上手いですね、輝夜さん」
さとりは口を尖らせながら言った。
「でもこの難易度、子供達にはキツいかな。修正すべきか…」
にとりは頭を掻いた。うーん…これはこれでいい気がするけれども…。
夜が遅くなるまで一緒に遊んで様々な意見を交換したり出し合ったりした。
もう6月になってまう…。こんな調子で12月まであっという間なんだろうなぁ。