目が覚めた。鳥のさえずりが聞こえてくる。
庭にいる鯉にエサをやると、部屋に戻った。
それから例の薬を飲んだ。
さて、効き目が出るのはいつ頃か…。
軽くストレッチでもしてから妹紅にい会いに行こう。
そうこうしていると部屋に鈴仙が現れた。
「あの、昨日の薬やっぱりもらってもいいですか」
「あ、ごめんもう飲んじゃった」
「え?」
「え?」
鈴仙は首を傾げている。ああそうか。媚薬って基本的に相手に飲ませるものだからな。
自分飲んだと言ってしまったもので困惑したのだろう。
しばらく腕を組んで考えていた様子だが、急にハッとした顔をする。
「もしかしてもうその効果が現れたり…」
んー…言われてみれば体がポカポカとしてきた。
効き目が表れるのが早いが、プラシーボか?
「言われて見れば鈴仙がやけに色っぽく見えてきた」
「急いで妹紅さんの所に行った方がいいですよ…」
「うん…そうしようかな」
できるだけ誰かに会わないようにして永遠亭を出なければ。
…廊下を歩いていると早速と永琳と出くわした。
「ああ、姫。昨日はありがとう。おかげでゆっくり休めたよ」
「うん…それは良かった。あまり無茶したりしないでね」
ヤバい永琳まで何だか色っぽく見える。
元々から美人だけどまさかそういう目で見えて来る日が来るだなんて思わなかった。
スラっと美しい曲線を描く髪。端正な顔づくり。細く撓る指。
鎖骨から首にかけてのエレガントなカーブもいい。
これが多くの人を悩ませる肉欲なのか。
「大丈夫?ぼーっとしちゃってるけど…」
永琳が距離を詰めて私のデコに触れる。
私は驚いて距離を取る。
「??」
「あ、いや…大丈夫!ちょっと用事あるから!」
そう言って急ぎ足でこの場を去る。
こんな物を試しに誰かに飲ませようとした魔理沙も魔理沙だが、自分が飲むことになって苦労したという気持ちは良く分かった。自分がそういうつもりで見ていなかった人物がそういう風に見えて来ると言うのは地味に堪える。
やっと門の近くまでやって来た。あと少しだ。あと少しで出られる。
そう思っていると、走ってた誰かとぶつかった。
イナバだ。
「あいたたた…。姫様か。大丈夫です?」
「大丈夫…」
いかん…体が芯から暑い。目に映る物の何から何までが扇情的に見えて来る。
触れ合う欲に飢えている…。値段相応じゃないじゃないか…。
イナバがまだ地面に倒れたまま起き上がらない私の元に駆け寄って手を差し伸べる。
私はその手を握って体を起こす。
「…イナバのお手てはぷにぷにしてて気持ちがいい。もっとよく触らせてくれるかな」
「ひっ!いきなり何を言い出すんです」
ああ…この全身から香るワイルドな匂い。自分を飾らない者に漂う自然で野生の匂い。
長く生きてるだろうに弾ける幼さはとても惹かれる物がある。
この第二の腕の柔らかさもたまらない。
「あの…また何かの悪戯です?」
「あっ、いや何でもない!ごめん!」
私はハッとして立ち上がる。危ない危ない、これはよくない。
その場しのぎの適当ないい訳をして迷いの竹林へ向かおうとする。
それがいけなかったのか余計に心配されてしまった。
「困っているなら、もっと頼ってくれたもいいんですよ?」
うぐう…今はその善意が返って辛い…。
たまに変な悪戯をされたりする事もあるけど、心の根で想ってくれてるんだと改めて実感する。
できればこんな時以外で知る事が出来てならもっと良かった。
心配してくれるイナバを何とか説得して迷いの竹林に出た。
やっと、やっと妹紅の所に行ける…。
こんな時に…こんな時に限って出くわさない。
体中をかける淫らな奔流が脳を徐々に侵していく。
心が快楽に飢えている。刺激が欲しい。
私は近くの木にもたれかかって休む。
「大丈夫ですか?」
…現れたのは上白沢さんだった。どうして妹紅じゃないのか…。
尋ねてみるとどうやら入れ違いになってしまったらしい。
野暮用で出かけた妹紅と、寺子屋の授業で使う物の収集に迷いの竹林に来た彼女。
私の体調の変化を見て私を心配してくれる彼女。
まずい…また自分が何をしだすか分からない。
少々抵抗はあったが、やむを得ず今しがた媚薬を服用中である事を告げた。
やや困惑されたが、妹紅が返って来るまで介抱してくれると申し出た。
「気持ちはありがたいですけど、今の私は本当に何をしでかすか分かりませんよ…」
「かといってこのまま放ってはおけませんよ。事情が事情なので多少の事は汲みます」
彼女は私を横にして膝枕してくれる。ああ…服越しに感じる体温が温かい。
人肌だ。人肌が恋しい。もっと触れ合いたい。
堅苦しい服で隠した魅力が透けて見える。
「先生…先生から匂いがする。迸る、内なる情欲の匂い…」
「?」
いや…気のせいじゃない。
研ぎ澄まされた感覚にははっきりとわかる。彼女の内面に激しく渦巻く物が見える。
これは危険だ。臨界を迎えようとしている。私は彼女の太ももを撫でた。
「もっと素直になればいいじゃないですか。操とか、世間体とか気にしない…迸る性欲をどこかにぶつけたいんでしょう?」
「あの…おっしゃる意味が…その、わかりません」
黙ってお互いに見つめ合う。彼女の眼の奥から感じる視線は少し熱を帯びてきた。
分かる。あと一押しだ。
「先生…教育してください」
「…悪い生徒ですね」
上白沢さん…、今の私を止められるのはあなただけなんです!
割とノリノリじゃないですか!止めてください!
彼女の目つきがまさに捕食者のそれに見える。
ああ…妹紅、ごめん。やばいかも。
「お、2人してここにいたか」
妹紅がひょっこり現れた。上白沢さんは短く可愛い悲鳴を上げた。
私が体調不良を起こしてる事を手短に伝えてくれた。
それから耳元で「さっきの忘れてください」と伝えてそそくさと去って行った。
ああ良かった…ついに妹紅の元に到着できたんだ。
妹紅にも諸事情を話した。
ここまで著しい変化は隠しおおせない。先に説明しないといらない誤解を生みかねない。
妹紅は可笑しいやら呆れるやらの表情をする。
「お前って本当に変わってるよな」
「仕方ないじゃん…。もっと知りたかったんだ。プラトニック面だけじゃない、フィジカル面から見る恋を」
薬の効果はまだ切れないのか…。妹紅にあまりだらしない姿は見せたくない。
思わず上白沢さんを口説き始めるぐらいだ。今でも必死に情動を押さえている。
妹紅は意地悪そうに笑う。
「それで、分かったのか?フィジカル面から見た恋ってのは」
「うん。今物凄く妹紅とえっちしたい」
「ストレートに言うな」
彼女は何も言わずに私を抱きしめる。
ああ…人肌だ。人肌のぬくもりだ。温かい。
私も抱きしめ返す。
「私達はまだ恋人じゃないから、ここまでで我慢だ輝夜」
「体験版はここまでです」
「?」
抱きしめられたままの妹紅の中で体をうねらせる。
少しでも多くの刺激が欲しいが、彼女はそれに応える気がない。
こんなの…生殺しだ。
私は必死に視線で訴える。
「せめてキスだけでも…」
「駄目だ」
そういう彼女の目はどこか加虐的だった。ううう、困ってる私を見て楽しんでるな。
私はこんなに苦しいというのに、抱きしめたままだなんて…。
彼女の体を強く抱きしめ返し、少しでも自分を彼女で満たそうとする。
「妹紅は私が好きなんじゃないのか?」
「ああ。だから媚薬なんてないお前に求められたいって思うんだ」
…今のは、ちょっとずるい。心の奥でドキッとしてしまった。
こんな時に何て殺傷力の高い言葉を選ぶんだ。
でもその…好きかも。
徐々に薬が抜けてきて、激しい情欲は去って行った。
妹紅は私の顔を覗き込む。
「少しは落ち着いて来たか?」
「うん…」
私は背中をさすられる。ああ…何だかとても眠くなって来た。
眠気で重くなって来た目を必死に開けようとする。
「……もうしばらくこうしてていい?」
「お前が望むまでいつまでもこうしていよう」
私は言葉に甘えて彼女の腕の中眠った。
これで若い恋人と上手くいくね。マルガリータとかってさ…!