ぐーやんでござるよ   作:ヤングコーン

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どれだけ長く生きても、不慣れな事には戸惑うもんだね。はあ…


18話 恋の行方

今日は妹紅と一緒に喫茶店、鳥々発嘴に来ていた。

私達は千切りサラダを注文し、お冷を飲みながら待った。

 

それまで口数少なくどこか心ここあらずだった彼女だが、ついに意を決したようにこちらに向き直った。

 

「私達な、周囲から既に付き合ってる風に見られてる」

 

…よく2人で出かけたり、手をつないで歩いたり、遊んで回っていたからなぁ。

 

私も「恋が知りたい!」という理由で積極的にくっついたり距離を詰めたりしていた。

友情と取られるにはいささか無理があるか。

 

「この間なんて姫海棠って鴉天狗に実際の所どうなのかと質問攻めに遭った。適当に答えを濁すと『やましい事でもあるんですか!』とか好き勝手な事を言ってた」

 

この間、焼けた鳥肉の匂いがすると思ったらそう言う事があったのか。

なるほど、このどちらともいえない関係も下手に長引かせるわけにはいかない。

 

妹紅が言いたい事を組んで私は姿勢を正した。

 

「実力不足を痛感させられる事も多々あったが、できる事はやって来たつもりだ。どんな返事も覚悟できてる。気持ちを聞かせてほしい」

 

そう言って彼女は私からの返事を待つ。

 

こんな事になってしまったのは私がいつまでも返事を保留していたからだ。

幸いにも心は決まっている。返事はこうだ。

 

「妹紅、私は…」

 

 

 

 

今日は永琳を部屋に呼んでいた。

 

彼女はプライベートと仕事を分けるため、沽券を保つべく日頃は私と一定の距離を置いている。

 

そんな永琳が普通に友達として接してくれる方法がある。

彼女からもらった鈴を彼女の部屋に置いておくことだ。

 

すると永琳は仕事終わりに私にその鈴を返しに来る。

 

「永琳、私ますます分からなくなったよ」

 

「恋愛の事?」

 

私はうなずいた。

 

「愛は分かる。私が永遠亭の皆に感じている事。でも恋が分からない。媚薬を飲んで肉欲に溺れてみたけれど…効果が消え去っってしまえば何がそんなに大事なのかさっぱりわからなくなる」

 

妹紅が私にどんな気持ちを向けているのか、どう応えていいのか分からない。

 

まるでミステリーだ。情報は増えるのに、増えれば増えるほど謎は深まる。

価値観の違いだと言えばそれきりだ。私には理解できない。

 

「私たちは永遠の命を手に入れ、自己保存する事への欲も繁殖して自らの遺伝子を持つ子孫を残す事への欲もなくなったのかもしれない」

 

「でも妹紅は私に恋してるよ?」

 

「うーん…それもそうか…」

 

永琳も考え込む。あまり気にしてる風ではないが、彼女も良く分からないのだろうか。

 

「永琳は恋したことは?」

 

「あるけど」

 

「その感覚が恋しくなった事はないの?」

 

彼女は首を横に振る。

 

「恋愛は人生を豊かにしてくれるけど、必ずしも必要なのもではないから。私はあなた達と一緒にいる事、仕事をする事が何よりの幸せ。懐かしむ事はあっても恋しいとは思わないわ」

 

…価値観は人それぞれか……。私にとって良くなかったのは、自身が恋を体験する前にその機会がなくなってしまった事だろうか。妹紅にも昔好きだった人がいたのかもしれない。

 

こんな事なら、永遠の命を手に入れる前に経験しておくんだった…。

 

私には永琳の様に生涯打ち込み続ける趣味のようなものはない。

永遠の命というのは、想像を絶するほど永い物なんだと痛感した。

 

「…私が不老不死じゃなくなったなら、また恋というものが分かるのかな」

 

「輝夜はきっと大げさに考えすぎよ。何となく好きになって、何となく別れる事もある。言うほど恋愛にドラマなんてない。そゆもんじゃないの?」

 

…確かに、本の中で見た恋というのはとても劇的なものばかりだった。恋ってそういうもんだと思ってた。現実はそうじゃないのかもしれない。

 

もっと簡単に考えてもいいのかもしれない。

 

この気持ちが本物だと信じる事ができたなら、それはきっと…。

 

「永琳、ありがとう。今一度、自分を見つめなおしてみる」

 

「ふふふ。その面構えこそ、私の良く知る輝夜だわ」

 

私は来るその日まで、今しばらく妹紅には待ってもらう事にした。

 

 

 

 

「妹紅、私は君がいなくなった時の事を考えていた」

 

予想外の返答に妹紅はキョトンとする。

 

結局、気持ちは定まらなかった。でも今は自分の思いをただ言葉に紡いでいる。

それが自身の本音を引っ張り出してくれる気がした。

 

だから今はそれでいい。

 

「私は家族さえいればそれでよかった。煌びやかな金品も、世に轟く名誉も、絶世の美男美女の恋人も…どれだけ持て余しても心は寂しいまま」

 

私には妹紅の気持ちが分からない。妹紅にも私の気持ちは分からない。

私のこの話を聞いてどう思ってるかもわからない。

 

辛い事も苦しい事もたくさんあった。

それでも、私にとって欲しいものはずっとそばにあった。

 

彼女はただ黙って最後まで話を聞いてくれる。

 

「妹紅、貴女のいない人生はきっと今より退屈でつまらない。私の人生の彩る鬼灯になって欲しい」

 

妹紅は笑った。

 

「お前はいつもいつも回りくどいんだよ」

 

むぐぐ…。分かってるよ。

 

どう言葉にしていいか分からなくて、気持ちが空ぶってる。

気持ちだけでも伝わればと思ったけど…。

 

「好き!愛してる!これでいいでしょ!?」

 

私は顔を真っ赤にしながら言った。

 

「聞けて良かった」

 

妹紅は嬉しそうに笑う。

もう…からかわれ役はいつも妹紅でしょ…。

 

全くもう、こんなの全然私じゃない。

 

「私も愛してる」

 

もう聞き飽きた。分かってるのに今は少し気恥ずかしかった。

 

「ん゛ん゛っ…」

 

ミスティアが咳ばらいしながら立っていた。手には千切りサラダ。

何と言うか、本当に申し訳ない。

 

私達はいつもの様にお喋りをして、サラダを食べて、この場を後にした。

これからは恋人か…。

 

帰りは寄り添いあって歩くもので、何度かこけた。

 

 

 

 

「お届けにあがりましたよー」

 

烏天狗が新聞を持って襖を開けた。

 

私と妹紅は抱き合って寝ていたので、それを見られてしまった。

まあ、別に後ろめたい事はないが。

 

彼女は明らかに不機嫌そうに舌打ちした。

 

「…おーお、朝からお熱いですね。これここに置いときますんで」

 

烏天狗は何かチラシを置いて行った。

新聞は取ってないが…たまにこうして無料で何かを置いて行く事がある。

 

それにしても、他人の個室にいきなり踏み込んできておいてその物言いはあんまりじゃない?

 

妹紅は起き上がって烏天狗の方を向いた。

 

「恋人と過ごす朝はいいぞ」

 

「(自主規制)!私はそういうフィジカルな付き合いはしないんで結構です」

 

そう言って飛び去って行った。

 

妹紅はチラシの内容が気になるようだが、私はまだ尾を引く眠気に彼女を離すまいと巻き付ける腕の力を少し強くする。妹紅は少し笑って私の背中をさすった。

 

もう少しだけこうしていたい。

 

そう思っていると何か足音が近づいて来た。

 

「姫様ー、お客様がお見えですよ」

 

鈴仙だった。開いたままの襖から顔を出した。

 

「姫さ…わああっ!!イチャつくんだったら襖は締めてやってくださいよ!!」

 

「天狗じゃ、天狗の仕業じゃ!」

 

私は事実を伝えたが、鈴仙は信じてくれなかった。本当の事なのにぃ。

 

お客様とあっては仕方がない。起き上がって対応にあたる。

にとりか…あるいはさとりか。誰だろう。

 

先の客室には意外な人物がいた。

 

「唐突な訪問を何卒お許しください。此度は我が主人、幽々子様の急用の命令により馳せ参じた次第。不躾な事は重々承知ながら、何卒お話に耳を貸していただきたく…」

 

魂魄妖夢だった。

 

話を聞くに、幽々子はどういう訳か私にボディガードをつけたいらしい。

自分の身ぐらい自分で守れるが…これはどういう事なのだろう。

 

理由を尋ねても当人は私の身を護る事以外はなにも聞かなかったらしい。

 

「お前の主人の警護はどうするんだよ。庭も広いんだろ?」

 

「幽々子様は大変思慮深いお方です。何か訳あっての事なのでしょう。ご迷惑はおかけしません。ただお傍に置いていただくだけで良いのです。何卒、何卒私めをば…」

 

平伏して私に頼み込んでいる。事情を聴いていれば、もっと具体的な話をして私を説得するのだろうが…そうしないあたり本当に何も聞かされていないらしい。

 

意図が分からず、幽々子にどういうつもりなのか問いただしたいが…。

無理を承知で頭を下げる彼女の体面、手ぶらで返すのも酷だ。

 

少し悩んだが、私は頷いた。

 

「分かったから顔を上げて。あなたを私の護衛として近くに置くわ。でも、ここでの暮らしは私達のやり方に従ってもらう。いいね?」

 

「ご厚意に感謝いたします」

 

良く分からないまま、とにかく妖夢が私のボディーガードになった。

 

非常にぼんやりとではあるが、何か良くない事が起きようとしているのではないかと胸騒ぎがしていた。




この間、晴々しい気持ちで起床して出勤しました。夢心地な朝だと思ったら、本当に夢でした。
あんな気持ちで起きる事ができるのが夢の中だけなんて…やっぱ辛えわ
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