紫と共に廊下を歩く。突き当りの廊下を左に曲がった部屋に入った。
……何と言うか、どこからともなく現れたり消えたりするのでただ歩くという姿がむしろシュールに見えてしまう。
室内のテーブルに向かいあって座った。
尋問でもするのだろうか。
彼女は徐にペンを置いた。
「これは?」
「手に取って見て欲しい」
これが何だというのだろう。私はそれを手に握ってまじまじと見てみる。
この手触り、独特な光沢、細かな意匠…。地上の物質で作られた物じゃない。
私はそれを机の上に戻した。
「どこでこれを?」
「商店街。人に踏まれそうになってるのを拾ったわ」
私は顎に手をあてて足を組んだ。
そんなはずはない。月の民の私物がどういう状況で商店街なんかに?
…紫がこの話を私に持ち掛ける理由……。
「遷都計画は白紙に戻ったはず。あるはずがない」
「そうでしょうね。ただ、どういう訳かこれが商店街にあった。事実はそれだけ」
月の民が動いてこちらに情報が回ってこないはずがない。
となれば…倉庫か宝物庫に侵入者が?
事実関係を洗い出す必要がありそうだ。
「こっちで調査したい。これは借りても?」
「ええ、何か分かったら連絡を頂戴」
私はこの場を後にした。
外で待機していた妖夢は幽々子と話をしているようだ。
私が話してもまたはぐらかされるだろうし、後に鳥々発嘴で会う約束をして人間の里に出かけた。
人間の里に偵察機部隊の玉兎を探しに行くためだ。
本当にいるのなら、接触してくるかもしれない。
気休めにもならないだろうが、それでもしばらく練り歩いた。
…分かってはいたが、やはり玉兎はいなかった。
商店街で拾ったと言うのは嘘だったんだろうか。
しかし何の目的で?
下手な考え休むに似たり。私は諦めて待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所の鳥々発嘴にやってきた。
そろそろここも行きつけの喫茶店…と言う事になるんだろうか。
あまり人間の里の店を巡ったりしないから、下手に冒険しないだけだろうか。
この店には堅苦しい静けさも、耳をつんざく喧しさもない。
ここは居心地がいい。寛ぐのに、考え事するのに向いている空間だ。
「まるで第二の自宅だ」
そう呟くと、お冷が置かれた。
「おかえりなさい」
ミスティアが笑顔でそう言った。独り言が聞かれていたとは。
次に店に来るときは「ただいま」とでも言って入店しようか。
しばらくすると妖夢が入店した。
きょろきょろとして、手を振る私を見つけてこちらに来る。
「お待たせしました」
「幽々子は何か言ってた?」
「いえ、ただ庭仕事と雑務についての話のみで…。何故に蓬莱山さんの元に私を護衛として送ったのか、幽々子様はどこで何をしておいでなのか…。いずれも聞き出す事はできませんでした」
「そう…分かった。相変わらず何考えてるか分からないけど、ひと段落済むまでは私の傍にいるといいわ。それから、私の事は輝夜って呼んで」
「承知いたしました」
それからお茶を楽しみながら、共通して盛り上がれる話題を探しに話をしたりした。
学問に関する事については特に興味津々な様子で、地上の事や月の事で意見を交換しあったりした。
表情の変化に乏しく寡黙な彼女が、表情をころころ変えながら立て板に水の様に良く喋るので驚いた。
小一時間ほど話す頃、お互いに少し話疲れて交換した意見を反芻していた。
特に訳もなく窓の外に視界を移すと、キャスケット帽を深々と被った女性が目に入った。
…何となくだが気になる。
「輝夜さん?…あの旅行バッグを持った人が気になるんですか?」
「…うん。何となく知り合いを見てるみたいで」
キャスケット帽を被った彼女がこちらを向くと、やや早歩きで人ごみの中に紛れていく。私は急いで代金を机の上に置いた。
「ごめん妖夢、支払いお願い!」
「輝夜さん!?」
私は急いで店を出て走り出す。キャスケット帽の彼女も走り出した。やっぱりだ。彼女は私を知っている。人ごみに紛れて見失わせるつもりなんだろうが、そうはいかない。私は飛んで彼女のあとを追いかける。
住宅の間を器用に抜けていく。飛ぶだけじゃ駄目だ。
くそ、せめて動きやすい服を着てくれば…。
角を曲がって辺りを見渡すがいない。
「見失った…?」
あるいは空?
…いや、もしどちらでもないとしたら…。
まだ近くにいるとしたら…。
私はすぐ近くの物陰を探す。
「「!!」」
いた!
「どうして逃げるの!」
「あんたが追いかけるからでしょ!」
どうせ立ち止まっても逃げるのはやめないと思う。
私は何とか行き止まりの場所に彼女を追い詰める。
彼女はまだ周りに逃げ場がないか見回している。
「ちょっと話をするだけじゃない」
「…近づかないでください、大声出しますよ……」
う…。それは困る。少し先には命蓮寺もある。
叫ばれてしまえば面倒事は必至…。
まさに駆け込み寺と言う訳か。
まだ確信には遠いが、何となくそうなんじゃないかと思う名前が頭に浮かんでいた。
本当に勘違いならこれ以上詰め寄るのはまずい。
「頭隠して尻隠さず。首の後ろの羽毛が襟から見えてるよ、射命丸さん」
彼女は驚いてうなじに手をやる。それからハッとする。
もちろん嘘だ。だが彼女なら引っ掛かると思った。
「ひ、酷いじゃないですか輝夜さん!こんな嘘…」
「ごめん…だって頑なに正体を隠すから…」
宴会の時に鬼に酒を飲まされていた彼女が体のどこかに羽らしき物が生えたという様な旨の発言をしているのを聞いた事を覚えていた。良く分からない体の変化に戸惑ってる様子だった。
どこに生えてるかまでは分からなかったがハッタリは上手く行った様だ。
妖夢が追い付いてきたが、彼女の事情も汲んで少し離れた所で待機させた。
「それで、過労って聞いたけど?」
「それは活動休止のための建前です。多くの事は語れませんが、秘密裏に進めている調査があるんです」
「調査…?」
彼女は頷く。
「これだけは言えます。人間の里のメディアは今に機能しなくなります。私は真のジャーナリストであるために鳴りを潜めているのです」
現時点で彼女が何を言っているのかはさっぱり分からないが、私をからかってる様にも見えない。ここ最近は不可思議な事ばかり起こるので、少々参って来た。
難しい顔をする私に彼女は頭を掻いて考える。
「時が来ればお話します。今しばらくお待ちください」
彼女の新しい連絡先をもらった。正体を隠すためにも今までの連絡先はあまり応答できないらしい。
貰った連絡先の名前は偽名になっていた。パオツァイ?
「今の私はその名前を名乗っているので、次から私に接触する時は人間の里の人間として接してくださいね」
「わかった」
彼女はそう言って去って行った。…メディアが今に機能しなくなる?
一体何を知ってて、何のために活動しているんだか…。わからない。
また増えた謎に頭を痛めながらも、妖夢と一緒に自宅に帰った。
最終回間際に展開を詰め込んできた作品を見た時、「これどうオチをつけるんだろう」ってヒヤヒヤする。…これを書いてる自分にもここからどう最終回に向かうのかまるで分からないからヒヤヒウアしている←
アーサー・ブレイク博士、僕はこの物語にどうオチをつければいいんです!教えてください!