ぐーやんでござるよ   作:ヤングコーン

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暖簾に腕押し、糠に釘。あの烏天狗、掴み所がなくて何を考えているかさっぱりわからない。顔に出さないだけで内心は焦ったり不安になったりしてるんだろうか……。


22話 射命丸の独り言

家に帰ってあのペンを調べてみると、これは地上に来てからそれなりに時間が経過してるらしく月と地上の大気を構成する成分の違いから少々変質している事がわかった。つい最近じゃない…少なく見積もっても1か月以上は経過している。

 

紫はいつこれを拾ったか言わなかった。

嘘は言ってないが、つい最近の出来事であるように私に思い込ませようとしたんだろうか。

 

幽々子が妖夢を私に差し向けた事と何か共通した理由が?

 

それから、宝物庫と貯蔵庫のチェックもした。持ち出されたものはないように思えるが…。

しかし警備体制の見直しはした方がいいかもしれない。

 

後で永琳に相談して人員配置の変更をすべきだ。

 

庭に戻ると妹紅と妖夢が弾幕勝負を行っていた。

攻防は激しいがお互いを試すように戦っている。

 

妹紅から放たれた鋭い弾を捌き切れず、被弾してしまった。

 

「お手合わせありがとうございます」

 

妖夢は頭を下げる。

 

「見事な切り返しだった。一瞬の判断が遅れていたら負けていたのは私だったかもしれないな」

 

「ご謙遜を」

 

運動不足の解消に手合わせをしていたらしい。そういえば最近は私も体力が落ちたかもしれない。

 

私は夕方まで2人を誘ってランニングした。

 

 

 

 

就寝前、永琳に重役会議の内容と紫から持った玉兎のペンの話をした。

宝物庫と貯蔵庫に関する人員配置の件に関しては見直しの相談も聞き入れてもらえた。

 

ペンに関しての永琳の判断もおよそ私と同じ見解だった。

以前の異変時に来た偵察部隊の物か、月に行った時にくすねた物か…そんな所だろうとの事。

 

永遠亭としての振る舞いはこれまで通りであるべきであると同時に、私には妙な動きをする相手に下手な詮索をしたり深入りしない様に念を押された。まあ…約束はできない。

 

近々、人間の里に視察に行くらしいので今から1週間ほどはいつ予定を入ってもいい様に空けておくように頼まれた。

 

射命丸の事は…悩んだが言わなかった。

 

自室に向かう途中で会った鈴仙に会った。

事のついでに人間の里で玉兎に会わなかったか聞いてみる。

 

「会わなかった」と即答するかと思ったが、意外に彼女は返答を渋った。

 

会った事があるなら絶対に報告しているはずだ。黙っているはずがない。

それならこの沈黙は何なのか…。

 

「いるはずがありませんが…どうしてそんな事を?」

 

私は紫から貸してもらったペンを見せる。

 

「!!」

 

彼女は驚いてそれを眺める。

 

心当たりがあるのだろうか。私はこのペンが商店街の踏まれるところに落ちていた事を話す。

 

「まさか、そんなはず…」と独り言のように呟いている。

どういう事なのか詳しく尋ねてみた。

 

「先々月、人間の里に薬の補充にでかけていると交信をキャッチしたんです。それは途切れ途切れで具体的な内容は聞けませんでした」

 

「永琳には報告したの?」

 

彼女は首を横に振る。

 

「勘違いだって思ったんです。あの時、私は近くを探して回りました。玉兎がいるのであれば放置してはおけないと思って。…でも、どれだけ探しても探知すらできず……。もしかして疲れてるだけなのかなって」

 

…なるほど、確かに変な話だ。鈴仙の波長を使った操作でさえ見つけられない様な玉兎が、幻想郷に私達がいる事を知りながら交信を盗聴させてしまう様な凡ミスを犯すなどと到底思えない。何ら接触もないためわざと聞かせたとも考えづらい…。

 

鈴仙は腕を組みながら考える。

 

「地上潜入任務用の頭巾…。アレでも開発されたんでしょうか」

 

「それはないと思うけど…」

 

その頭巾は前々からある噂好きの玉兎達による都市伝説だと信じられてきた。

地上偵察用に作られた、完全に姿を消したり音を消したり…触れて確認する以外のほぼあらゆる方法での探知が不可能になる装置だ。

 

遷都計画時のついでに本当に製作がされていた事が分かったが、運用不可とされ開発も中止されていた。

装置の小型軽量化が上手く行かず、使用者の安全性の問題も解決できなかったようだ。

 

当開発にあたった科学者は装置の制御システムのフレームに使用するのに適した物質が月にあればすぐにでも実用段階まで飛躍するのにとボヤいていたらしい。

 

一時期は完成のイメージ図が面白珍兵器としてネットミームになってクソコラ画像が出回ったとか。

 

とにかく、計画が潰れたと同時にその頭巾の開発も中止になったし完成もしなかった。あるはずがない。

 

「…鈴仙の勘違い…なのかなぁ……」

 

「一応、これから人間の里に立ち寄る時はいつも以上に目を光らせておきます」

 

「ありがとう、そうしてくれると助かる」

 

今はこれ以上考えても仕方がないので、この場は別れた。

 

他に手掛かりはないか…。

 

 

 

 

私は妖怪の山の麓付近のアパートまでやって来た。まさか私が変装する羽目になるとは思わなかった。

紙に書いてある様子からは間違いない、ここだ。

 

通行証は射命丸の言う手順に則って他人名義で作った。

 

どういうカラクリなのか知らないが、これで私が得た名前は『実在していた、または実在している』ため天狗が調査しても怪しまれる事はないらしい。

 

射命丸もこれを利用して人間の里に人間として潜伏している。

…まさか幻想郷で背乗りの取引をする事になるとは思わなかった。

 

指定通りの部屋番号のプレートの部屋のチャイムを鳴らした。

程なくしてから射命丸が出てくる。

 

「どうぞ、入ってください」

 

「お邪魔します」

 

中は3DKほどだろうか。年季が入っているのかどこかしこか傷が入っていたり汚れてはいるが私物は少なくこざっぱりしている。机の上にうっすらと埃が積もっているのが見えた。あまり使わないんだろうか。

 

「ここ、防音とか大丈夫?」

 

「このアパート、今は私以外に誰も住んでないので大丈夫です」

 

彼女は土地の権利書を見せた。なるほど、この建物の所有者なのか。

 

私は客室で待機するとお茶と菓子を持ってやって来た。

 

「それで、会って話したい事って何です?」

 

「これを見て欲しい」

 

私はそう言って玉兎が持っていたらしきペンを置いた。彼女はそれをまじまじと眺める。

 

「これは玉兎が使っているペン。地上にはない物質で作られている。これが商店街に落ちてたんだって」

 

「珍しい事もあるもんですね」

 

「単刀直入に聞くけど、あなた、あるいはあなた達は月の民の視察の受け入れの手引きとかしてないよね」

 

「お答えできません」

 

…正直な所、してないと言って欲しかった。

ポジティブに捉えるなら、私に嘘は言わなかった。

 

半ば冗談交じりの出任せが的を射る事になるとは…。

 

彼女は「お茶でもどうですか?」と注いだお茶を勧める。今はそんな気分じゃない。私は断って彼女の目をじっと見つめる。彼女も同じように見つめ返す。

 

「相手はあのゲームの開発部?あるいは民間企業?」

 

「お答えできません」

 

さすがに月人と直接取り引きしてる事はないはず。あるとするなら玉兎…。

玉兎向けに地上の観光旅行の案内してるとか?

 

いや、天狗の立場にしたって、玉兎の立場にしたってリスクが高過ぎる。

 

「ご理解下さい、信頼はビジネスの命です。守秘義務があるため個人の裁量で受け答えできる範囲はとてもとても狭いのです」

 

「ビジネスのためなら、幻想郷の安全にも値札をつけるの?」

 

「質問の意図が分かりません。…何やら取引に関して大きな誤解をしておられる様ですが幻想郷の安全を脅かすような大それた事を賢者達を目を欺いて秘密裏に行えるとでも?」

 

バックについているのが月の民ならそれが絵空事では済ませられない。それが分かって言っているのであればあまりに悪質な冗談であり、分からないで言っているのであればあまりに愚かだ。

 

どちらにせよ話にならない。私は手荷物をまとめて立ち上がる。

 

「今日は私のために時間を割いてくれてありがとう。もう帰るね」

 

「誤解を解く事ができず心苦しく思いますが、お急ぎとあれば致し方ありませんね」

 

誤解は解く必要がない。天狗達は大した危機感もなく軽率な取引をしているという事が分かっただけで充分だ。彼女は玄関まで付いて来る。申し開きの一言二言ぐらいあるかと思ったがそれも思いつかなかったようだ。

 

靴を履いて一瞥した時さえ、表情は相変わらず淡泊な物だった。

 

「お邪魔しました」

 

「道中お気をつけて」

 

ドアを閉めてすぐ、立ち去ったふりをして壁に耳を当てた。

やや手口が古臭いが、こういう時の独り言で有益な情報を漏らす事がある。

 

…しばらくしてため息が聞こえた。

 

『今から独り言を言います。HNP×××、衛星局、白樺、タランテラ。クロウより。…これで勘弁してください』

 

足音が遠くなる。私はお礼を言って自宅に戻って行った。




タイトルと最初の数話のサブタイを見る度に、今書いてる内容との温度差に風邪ひきそうになる←
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