朝、私はアラーム音で起きた。よし、設定した時間通りだ。
隣にいる妹紅も目を覚ます。
「大丈夫、すぐに戻るから」
私は妹紅のデコにキスをしてからベッドを出た。
彼女は眠たげに瞼をパチパチさせると眠ってしまった。
廊下に出るとすぐに所に妖夢がいる。
「こんな時間にお出かけですか?」
「ちょっと鈴仙の所にね」
昨日は妖夢の目を盗んで射命丸に会っていたので、今日は特に私の動向に機敏に反応する。彼女は私がどこで何をしていたか気になるらしい。話せないので、子供の寄れないプライベートな場所にいたとごまかしておいた。
すぐ近くなのに鈴仙の部屋までついて来る。
私は振り返って妖夢の目線に合わせて話す。
「今から見聞きする事はお口にチャック」
「…幽々子様に仕える身、約束できかねます」
「だろうね。でも私は君を信じるよ」
私はウィンクした。
妖夢はしばらく目を伏せていたが頷いた。
「今しばらくの間だけです」
「ありがとう」
私達は一緒に鈴仙の部屋に急ぐ。
社員寮の奥の部屋…。あった。
部屋は施錠されている。だがここの鍵は実はちょっとしたコツがあって…。
私は襖の両端の僅かな隅に指を入れて上に持ち上げる。
…よし、外れた。
「普通に起こした方が良かったのでは?」
勝手に入る事に抵抗感がある様子の妖夢。まあ、それが普通の反応だ。
「永琳とイナバにバレるリスクは避けたい」
音を立てない様に一緒に部屋に侵入する。
…私もなんだかんだ妹紅や大妖精の事を言えなくなってきた。
鈴仙は布団の中で抱き枕を抱えて寝ていた。
「ずっとこの時を待っていたよ妖夢……」
そんな寝言を言いながら抱き枕に頬ずりしている。
妖夢はやや困惑した顔でこちらを向いたが、気付かないふりをした。
これ以上変な寝言を言う前に起こしてあげないとまずい。
私は彼女の名前を呼びながら体を揺さぶるが中々起きない。
「大丈夫…天井のシミを数える間に終わるからね…」
どんな夢を見てるんだ。
当の妖夢は少し顔を赤くしている。
「これが私のクラスターだッ…!!」
そんなセリフを口走りながら起きた。
そして私達を見比べる。
それからまた布団の中に潜った。
「…リアルな夢だな。目の前に姫様と妖夢さんが見えた気がする」
「夢じゃないよ。聞きたい事があって来たんだ」
「夢の中ぐらい寝かせてくださいよ。非番なんです今日。妖夢はいただきます」
彼女はそう言うと、妖夢の腕を引っ張って布団の中に引きずり込む鈴仙。
やや控えめに抵抗する妖夢を力強く抱きしめ寝ようとしている。
「あー凄い。まるで本物みたい。温かいし、何よりこの飾らないワイルドな匂い」
妖夢は彼女に抱きしめられながらこちらに目線を送り助けを求めている。仕方がない。
私はスマホを弄って音楽を鳴らした。玉兎ならほぼ例外なく嫌がる起床ラッパの音だ。
それを聞くなり鈴仙は急いで布団を蹴り上げ、服を乱暴に脱ぎ捨てると急いでいつもの服を着て私の前で敬礼をする。
「…って何させるんですか!」
「こうでもしなきゃ、そこにいる妖夢と一線を越えそうだったから…」
私は改めてベッドでやや目を伏せがちに赤面している妖夢を指さした。彼女は青ざめながらこちらを見る。
「お師匠様によろしくお願いします」
そう言って彼女は指先をこめかみに当てた。私と妖夢は急いで止めた。
まずは彼女に落ち着いてもらってから、事情を話した。
昨日射命丸に教えてもらった事を鈴仙に教えた。あれは誰かに連絡を繋ぐためのアドレスのはずだ。玉兎用にしてあるので普通の機器を利用して使う事はできない。なので彼女が頼みの綱なのだが…当の本人はやや困惑していた。
「タランテラとクロウはさておき、衛星局の白樺さんって人に向けて送るアドレスのハズです。でも、衛星局につなぐならHNP×××じゃないですよ」
今さっきのアドレスに通信してもエラーになるか、最悪変な所に繋がってトラブルが発生しかねない。
「リスクを冒してまで接続実験はできないか…。また振り出しに戻った」
やっと何か掴めたと思ったのに。私は力が抜けて座り込む。
ただの出鱈目だった?でもそれにしては妙に具体的だ。
鈴仙は髪を引っ張ったりしながら考える。
「姫様の協力があればもう少し踏み込んだ調査ができますよ」
「本当?」
「今試験室にあるお師匠様のパソコンから一部のデータをぶっこ抜きます。明日までに先ほどの情報の詳細を洗い出しますよ。3分ほど気をそらしていただくだけで充分です」
「勘弁してください。私が悪うございました」
私は土下座した。冗談じゃない。ただでさえ永琳の忠告を無視して勝手に調査して事件に深い入りしているというのに、よもや永琳のパソコンからデータを盗むなんてとんでもない。何をされるか分からない。
それにしても恐ろしい事を真顔で言うものだ。
「3分だけでいいのに…」
「とにかく、もうこの話はもうやめ!」
持ち掛けた話を忘れる様に言い含めて、他の方向からの調査を試みる事にした。
同じ種族と言う事もあって、コンタクトが取れそうな烏天狗…。姫海棠はたてに連絡して会う約束を取り付けた。込み入った話になると伝えると、事務所で話をすることになった。人間の里の入り口から少し歩いた先の骨董品屋の2階に事務所があるらしい。
約束の時間の少し前に事務所についた。私は会った下の階のおじさんに挨拶をしてから2階に上がった。ノックをすると中から返事が聞こえたので入る。
「アロー、輝夜さん。込み入った話って何?何々??」
うっ、思いのほかぐいぐい来る。
この手のノリはあまり見ないなぁ。
「醜聞?醜聞ですか?あの人この人の痴情のもつれ!はたまた殺人事件!!早くお聞かせください!!」
「え、えっと…玉兎の事なんだけど」
私は紫から借りたペンを見せる。これを見せてもどういう代物なのか分からなかったらしいので、これが地上にない成分でできた玉兎の忘れ物である事を話した。彼女は頷きながらメモにペンを走らせていく。
「ついに地上への侵攻が始まってしまったのか!あるいは殲滅作戦!!第三次月面戦争勃発かなー!??事の発端はいずこに…」
随分他人事みたいに言うんだなぁ…。烏天狗が相手なので、素がこうなのかからかっているのか分からないのがまた…。
私は月の民との手引きの裏に烏天狗の影がある事を話した。
彼女は恐ろしい速度でキー入力して携帯画面のメモを文字で埋めていく。
「こいつぁ調べ甲斐がありそうですね。幻想郷に落とす月の影、裏切り者は天狗か!センセーショナルな記事を書いて大衆不安をあおり、やがて噂が幻想郷の重鎮に渡り天狗達が対応に追われてる間にならもっと踏み込んだ調査するのもいいかもしれませんね」
「そんな事を記事にしたら立場を追われるでしょ」
「ジャーナリスト道を歩む事を決めた時より覚悟の上。身内が斬れなくて何がメディアかって話」
いや、まあ確かにそうなんだけどさ…そう割り切れるもんなの?
彼女の考え方はまるでわからないが、どうやら射命丸の様に自分たちの種族が玉兎としている手引きについては本当に知らない様に見えた。しかし、情報の共有を条件に捜査を手伝ってもらえることになった。お互いの立場を利用すればもっと事を上手く運べる気がする。
また、文々。新聞の休刊もあって改めて花果子念報との契約もした。
…射命丸の言う事が本当なら、彼女の新聞も近いうちに情報媒体として機能しなくなるはずだが…今はアレがどういう意味で言っているのかわからないと何とも言えない。
姫海棠はたての事務所を後にすると、人間の里に玉兎がいないか少し回って帰る事にした。