ぐーやんでござるよ   作:ヤングコーン

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閑話 夢々々々

朝から強い倦怠感を感じた。体が少しふわふわして、気分が悪い。

この調子では勉強が身に入らない。今日は休む事にした。

 

昨日までは何ともなかったのに、急だった。

あれやこれやと悩む事も多かったので、心労が体に来たのかもしれない。

 

…予習も復習もしている。勉強の遅れは心配ないけど……チルノちゃんの顔が見られないのは残念だ。

 

目を瞑ってしばらく横になっていたが、こんな時に限って眠れない。

小説を書く気にもならずぼんやりと天井を眺めていた。

 

『何もしない』をするのはどれぐらいぶりだろう。思えばいつも何かに追われるように過ごしていた。

まだまだ永く生きる事になるだろうに、人生の余白が怖くなったように。

 

私は本棚に飾られた青緑の本を見た。

自分の書く小説から本質が抜け去ったのはいつ頃だったか。

 

私は立ち上がって本棚に向かう。

 

「これはもう死体だ。生き帰って欲しいと私がしがみつく、魂の抜けた形の抜け殻。葬ってあげなきゃ」

 

私は本棚を乱暴に倒した。そして地下室から灯油を持ってくる。そうだ。全て燃やしてしまおう。

鼻歌交じりに本棚の上から灯油をかける。

 

「何やってるの大ちゃん!!」

 

いつの間にかドアを開けて立っていたチルノちゃんが驚いた様子で叫んだ。

 

「あれ、チルノちゃん?寺子屋はどうしたの?」

 

チルノちゃんは本棚をどかし、本に付着した灯油を拭いたりしている。

 

「それは燃やそうとしてたんだ。だからそんな事しなくていいんだよ」

 

「良くないよ…」

 

半ば強制的にベッドに寝かせられ、彼女は家の片づけをする。

ああそうか。家に火が燃え移る事が心配だったんだ。あるいは私が燃える事?

 

まぁ物が燃えても私が燃えても正直何でも良かったわけだけど。

 

チルノちゃんは珍しく寺子屋を休んだ私を心配してお見舞いに来てくれたらしい。顔が見れて嬉しい反面、授業が遅れてしまう事が少し心配だ。

 

「訳を話してよ、何があったの」

 

「不要になったものを燃やそうとしただけだよ」

 

「そんな事、大ちゃんは心から望んでない」

 

「私自身の意志で燃やそうと思ったのに?」

 

チルノちゃんはうなずく。不思議な事を言う。食べたいから食べる。寝たいから寝る。喋りたいから喋る。同じ事、それは私の望みじゃなくてチルノちゃんの望みなんじゃないのか。

 

ぼんやりとしている私の手を握る。ほのかに冷たい。

 

「大ちゃんは疲れてるんだよ。その苦しみから抜けたくて、極端な結論に辿り着いてしまっただけ」

 

「…ごめん、言ってる事が分からないよ」

 

どういう訳か寂しそうにしてる彼女は、人間の里から買ってきたらしいリンゴを取り出した。そして洗って、包丁で剥いている。

 

それから丸ごと持って来た。

 

「あげるよ」

 

「うん、ありがとう」

 

果肉が削げている。チルノちゃん、リンゴを食べる時は皮ごとだものね…。慣れてないのに、私のためにわざわざ…。それを受け取ってシャクシャクと食べる。美味しい。

 

私が食べている間、彼女はぼんやりと私の横顔を眺めていた。

 

食べ終わるとまたベッドに横になって天井を眺める。どこを眺めているのか気になったのか私の視線の先を覗いたりしていた。

 

「空腹な時ってネガティブ思考に陥りがちらしいよ。どうかな大ちゃん、気は変わった?」

 

「…分からないよチルノちゃん。あの本がどういう内容だか分かってる?」

 

「うん。主人公と恋人は、私と大ちゃんを模したキャラクターなんだよね」

 

そうだ。青緑の本は全て1巻完結で、大体は特定の設定だけを引き継いだリブート作品となっている。愛の形が少し歪になっているので受け取り手によってはそう見えないものもあるかもしれないが、ほぼ2人は結ばれている。

 

チルノちゃんには既に恋人がいる。それなのに、自分がモデルのキャラが私のモデルのキャラと結ばれる作品が生まれ続けている事に何も思う事はないんだろうか。

 

「私達はこれまでも、これからも友達。お互いにそうでありたいと思ってる。この本の事、どうして鬱陶しく思わないのか不思議なんだ」

 

「鬱陶しくなんかないよ。私は小説を書いてる大ちゃんが好きなだけ。好きな事に一生懸命な大ちゃんはとても輝いてる」

 

「…あのね、チルノちゃん。私は君の事をたまに鬱陶しく思うんだ」

 

酷い言葉だと思った。私を親友だと思ってて、こんなにも心配してくれる彼女にかける言葉じゃない。チルノちゃんもさすがに堪えた様で落ち込む。でも本当に思ってる事だ。

 

「君は私にとって星の様な存在なんだ。空に輝いて、手に届かない。そうあるべきなのに、その妖しい輝きで私を狂わせる。君の方から手に届く所に来てしまう。君は空にいるべきなのに」

 

私の中のドス黒い欲望が背中を伝って這い上がって来る。チルノちゃんのその不安や悲しみ、恐れを含んだ表情さえもがこの心を増長させる。いい。ならいっそ嫌われてしまおう。その方がお互いのためにもなる。この心を吐露しよう。

 

チルノちゃんの肩を私は掴んで迫る。

 

「きっと見てるだけの愛に飽きちゃったんだ。私は君が欲しい。君を愛したいし、愛されたい。我慢してる私の前に現れて私の理性を焼き切る無邪気で残酷な君を、憎いほど愛してる。君の純白を、私の黒で塗りつぶしたい」

 

これで言いたい事は言った。こんな私を嫌って家を出ていくといい。私はベッドに戻って目を瞑り、天井を仰ぐ。チルノちゃんは何も言わなかった。

 

ギシ、ギシ…。目を開けると、チルノちゃんはベッドに上がって来ていた。

それから私の唇に自分の唇を押し当てる。

 

「!??」

 

私は酷く混乱する。今、チルノちゃんが私にキスをした!?チルノちゃんから!??

心の中で何かの線が千切れていく音がする。彼女のキスは天国に昇るほどの心地だった。

 

彼女の手が私の体をまさぐる。

 

「ほら、私の純白を大ちゃんの黒で穢してくれるんじゃないの?」

 

「待ってチルノちゃん、君には恋人がいて…、待って……」

 

悶え、身をよじる私に容赦のない攻め。僅かな理性に、轟々と音を立てて羞恥と快楽が押し寄せる。顔を他所に向ける私の首筋を彼女は噛んだ。

 

ああ……、私、チルノちゃんに侵されてる…。

 

 

 

 

「大ちゃん、大ちゃん!?」

 

チルノちゃんの声が聞こえる。えっと…なんだっけ。確かベッドの上で…。

彼女は心配そうに私を見ている。近くには慧音先生もいた。

あれ、慧音先生?

 

「大丈夫か?…」

 

あ…。そうか、夢だったのか。

 

「ずっと私の名前を叫んでたから、とにかくただ事じゃないと思って起こしてたんだ」

 

寝ている間だったけど、そういえば叫んでいた様な…遠く近くそんな記憶がある気がした。良かった、寝言で具体的な事を言ってなくて。おかしいとは思ってた。チルノちゃんがあんなことをいうはずがない。

 

安心したような、ちょっと残念だった様な…。

 

慧音先生は遠くにある本棚を眺める。

 

「なあ…ちなみに新作執筆の予定とか…、まだ先になりそうかな」

 

「いえ、夢から着想を得たので近いうちに書く予定です」

 

「本当か!それはいい事を聞いた」

 

先生はご機嫌そうだ。先生が嬉しそうにしているとこっちも嬉しくなる。

チルノちゃんは不思議そうに首を傾げた。

 

「それで、どんな夢を見ていたの?」

 

「それはちょっと…言えない」

 

夢の中とは言え、あんな事に…。言えない。とても言えた物じゃない。

できるだけ考えないようにした。

 

その後、慧音先生は今日の授業内容を大雑把にまとめたノートを置いて帰って行った。後からしっかり勉強しておかなければ。

 

チルノちゃんは家が近い事もあって家に残ってリンゴを切ってくれた。

まさか現実でもリンゴを持って来てくれるとは。奇遇な事もあるものだ。

 

チルノちゃんは剥いたリンゴを丸ごと私に渡して言った。

 

「それで、夢の続きやる?」

 

「え?」




チルノが大ちゃんを普通に看病してる話を書こうと思ってた所までは覚えてる
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