妖夢がいなくなったのを確認すると、私は姫海棠に連絡して事のあらましを伝えた。この情報を記事にするタイミングは慎重に行わないともみ消されるだけだと言い含め、天狗の里の調査を進める様に話を進めた。
射命丸にはメールで白樺メンバーの総数と、頭巾の画像を添付して送った。
そして紫にペンを返したいと連絡した。
明日にでも返信は来るだろう。
私は部屋に戻って寝ている妹紅の隣で横になった。
「お前も忙しそうだな」
「本当にね。感傷に浸る暇もなくて天手古舞よ」
私はこれまでの事を全て話した。
これからは時間勝負で一気に畳みかけなきゃいけない。
少しでも肩の荷は下ろしたかった。
妹紅は話をよく聞いて意見を言ったりしてくれた。
やはり事を大事にせずに済ませるには移住計画は潰すしかないという所で一致した。
しかし、この問題を禍根を残さずに解決するとなるとまるでいい案が浮かばない。
結局、こればかりは結論が出なかった。
しばらくの沈黙後、妹紅はため息を漏らした。
「…苦心していただろうに、傍にいて気付けないとは情けない」
「永遠亭に住んだこととか、紅魔館で働いてる事とか慣れない環境で大変な妹紅に余計な心配をかけたくなかったんだ。君って鈍い様で時に的を射る事を言うから不安だったよ」
フォローはしたつもりだが、余計な事を言ってしまったか妹紅は落ち込んだ様子だった。どんな顔をしていいやら分からず私に背中を向けてしまう。
「もっと頼れる人間になりたい」
私は後ろから妹紅の脇腹をくすぐった。
「あはは、あははははは!やめ、やめろバカ!」
「妹紅は妹紅のままでいいよ。一生懸命悩んで、馬鹿正直で、達観してる様でどこか青臭い。そういう所を含めて好きになったんだって思う」
「ちぇっ、言ってろ…」
ついに拗ねた。人を励ますって難しい。
そっぽを向いたままの彼女の背中にしがみつく様にして寝た。
…朝、急に電話がかかって来た。射命丸か、紫かと思えばにとりからだった。
『なあ蓬莱さん、そちらのウサギの中に私の光学迷彩装置を盗んだ奴はいないか?』
「ええ?」
『確かにうさ耳があったんだ!うさ耳が私の光学迷彩装置を確かに…』
「落ち着いて、順を追って話してもらっていいかな」
…うちのウサギは基本的に縄張りの外に出たがらない。考えられるとするなら悪戯好きのてゐだが、彼女は昨日はずいぶん前に自分で仕掛けた罠に引っかかって怪我をしてたため永遠亭を出なかったはずだ。
前夜、野暮用で久しぶりに光学迷彩を使って妖怪の山で活動をしていたにとりは鳥々発嘴の前でそれを脱いで中に入ったらしい。そして中で寛いでいると、光学迷彩装置がずり落ちて…。不思議に思って手を伸ばそうとすると1人でに走り出した。
急いで走って装置を掴もうとするが、虚空を掴むばかり…に思えた。
不思議な感触と共に現れたのは間違いなくうさ耳を生やした者だった。
朝までかけて探したものの手掛かりを得られず、
私が手に掴んだ何かを乱暴に奪い返すと、弾幕をばら撒き対応に追われている間に逃げられてしまったらしい。
「…光学迷彩装置を盗んだ犯人は既に自身を透明化させる何かを持ってたって事……?」
『私がその何かを掴むまでは確かにそいつは姿が見えなかった。暗かったけど照明で明るい店の中でさえ見えなかったから間違いない。…なんで自分が既に持ってる様なものを欲しがったか分からないが』
今考える中で、それがあり得るもっともらしい連中と言えば…。
「白樺の玉兎…」
正邪によって盗まれた頭巾は私が持っている。もし犯人が玉兎だとしたら、同じ効能を持つ物が欲しかったのかもしれない。そうなると…2か月前にペンを落とした玉兎はまだ月へ帰っていない???
『ごめん、よく聞こえなかったけど何だって?』
「いや、何でもないよ。犯人探しに協力したいけど、その装置を見つける方法は何かある?」
『…恥ずかしい話、まだ熱探知には対応してないんだ。だから私の持ってるサーマルゴーグルがあればすぐに見つけられる』
…利用している玉兎はそれを知らないはずだ。派手に探して回らない限り怪しまれずに見つける事ができるだろう。
『ウサギは早いし賢い。仮に犯人がお宅のウサギであっても捕まえられる自信がない。お手数かけて申し訳ないが、サーマルゴーグルは貸すので手伝ってもらえないだろうか』
「分かった」
地上に残った玉兎か…。いくらあの頭巾を使って透明化しているにしても、私達に一度もバレずに2か月も潜んでいるだなんて…にわかには信じられない。あるいは行き帰りはしてるのか?月の民に一切バレずに??
何にしても現実的とは思えない。あるいは本当にうちのウサギなんだろうか。
電話を切ると、不在着信が残っているのが見えた。見やると射命丸からだった。
私は電話をかけなおした。呼出音が鳴ってる間に後ろから妹紅がやって来る。
出勤の時間が来たらしい。廊下を歩いていると上から紫が降ってきて妹紅の上に落ちて2人とも転げた。
『もしもし、八重さん?』
私を偽名で呼ぶ射命丸につながった。あーもう滅茶苦茶だよ。
先に立って手を差し伸べる妹紅と、手を取って起き上がり謝辞を述べる紫。私が電話中だと分かるとまた来ると言い残して去って行った。神出鬼没も良し悪しだ。
それから応答した射命丸との電話では、まず白樺メンバーの総数と頭巾の画像の意味を聞かれた。私は率直に聞いた事を包み隠さず伝えた。198名の難民が幻想郷に来る事を計画している事と、触れる以外は感知しようがない頭巾。
その他、以前に見学とやらに来た玉兎がまだ幻想郷にいる可能性がある事を話し、事実関係を尋ねた。
…紫に聞かれているかもしれないが、いずれは真正面から話し合う必要がある。私は自室に戻ると本館まで聞こえない程度に大きな声で話した。
『私から情報を聞き出すためのハッタリじゃないでしょうね…』
「あなたの今のリアクションを聞けただけででパオツァイへの連絡の用事は終ったようなもの。もう既に欲しい情報を得るためのパイプは手に入れたし、もう電話を切ってもいい。そっちはどう?」
強気で言った。姫海棠、紫、光学迷彩を着た玉兎。カードはある。全くの嘘でもない。
電話越しにさえ狼狽える様子が伺えた。
これらの情報の照合を迅速にするには射命丸から多くの情報を聞く必要がある。
もう少し揺すってみるか…。
「幸いにも白樺はその移住計画を私達が手伝ってくれると信じてる。あなた達にとって不都合な事も喋るだろうね。…でも、私達に不都合な情報を隠す相手に情報提供できない」
『うう…分かりましたよ……』
私は射命丸が知ってる範囲の事を聞いた。こちらから新しい情報が分かり次第また連絡することを伝えて電話を切った。取り引きの対価は科学技術の供与だったらしい。また、彼女らが聞かされていた移住の人数は20名だったらしい。
見学に来た玉兎は転送装置を使って帰ったらしい。だが、その折に頭巾をかぶっていた(当人達は転送に必需であると答えていたのだという)ため帰ったように見せかけるのは難しくなかったようだ。
やってきたのは2羽。わざわざリスクを冒してまで光学迷彩を盗んだなら、片割れが帰ってる事もないか…。
転送装置はまだ特殊な状況下でないと稼働させられないらしく、一度に1体までしか送れない様だ。同日に5回が限度という制限もあるらしい。198体も送り込むつもりなのだから、かなり疑わしいが。
『直接取引してる訳じゃないので、知っててもこのぐらいが限度です』
「分かった。午後から玉兎を探すから、見つけて情報を聞き出せたら追って連絡する」
そうして電話を切った。どうせ近くにいるだろうが、私は紫に話は済んだと送った。
26話は物語的な動きも少なく、面白味のない話になってしまった。
次の話は頑張りたい。
物語を畳みに入ると、物語の引っ張り方が進行上の都合でやや強引になってないかいつも気になる。
今回のにとりと射命丸の言動が不自然じゃなかったかかなり不安だ。