トントントントン…。
私ははリズム良くプラスチックの土俵を叩く。
やがてコテン、と妹紅の紙力士が倒れた。
「ハイサーイ!私の勝ち」
「ムゥ…やりおる」
4戦4勝。いやあ、敗北の味が知りたい。
あーあ。少し飽きてきたな。私は畳の上に横になる。
「それで、罰ゲームは?」
わざわざ妹紅の方から言ってくる。
1回目は3回回ってワン、2回目は顔に落書き。
3回目は霊夢の物真似。
馬鹿正直に罰ゲームを受けるし、ここまでワンサイドゲームだとさすがに気が引ける。
「別にいーよ今回はナシで」
「やる前に罰ゲームを提案したのはお前じゃないか」
「お前が負けてばかりなもんだからネタが思いつかないんだよ。保留だ保留」
適当に話を流した。
あまりやる事がないもので段々と眠くなって来た。
妹紅が急に咳をする。
「風邪か」
「そんな所だ」
「野宿なんてしてるからでしょ。家ぐらい借りればいいじゃん」
上白沢さんから話を聞くに妹紅は家に住む事なく竹林で竹に背もたれて寝てるらしい。
掛け布団もしないし風邪を引く事も少なくない様だ。
私からも何か言う様に頼まれたが素直に聞きそうにない。
「厳しい環境は己の心を律するに適している。何不自由ない暮らしは心を不健康にする」
「ひょっとしてマゾ?」
「物は考えようだ。好きに捉えるといい」
真面目か!
彼女との会話はどこまで行っても平行線だ。
また咳をする様なので永琳に言って風邪薬を貰って来た。
渡そうとするとそれを拒む。
「死ねば治る。その薬は生きて病に苦しむ人に渡せばいいだろう」
「私に風邪が移るでしょ」
「それもそうだな。ちょっとその辺で死んで来る」
不老不死になれば嫌でも死生観が変わるだろうが、こいつの考え方はどうも自傷的でならない。
私は罰ゲームに風邪薬を飲んで安静にしてる事を提案した。
気乗りしない様子だったがちゃんと聞いて薬を飲んでくれた。
「この間、鈴仙に会った。お前の事を心配してるようだったぞ」
「そお?そっけない態度取られるけどな」
「おちゃらけたり、とぼけてる様子でいつも心ここに在らずだとか…。庭でぼんやり遠くを眺めてる所をよく目撃されてるらしいぞ」
私も考え事がない訳でもないのだ。ただいずれも取り留めのない事で、同じ結論に辿り着いてしまう。
永遠というのはあまりに永い。
思考という病が自身を蝕む時、それを紛らわせるために思考を止めるのだ。
私がぼんやりと外を眺めているのはちょうどその時間。
ここ最近は特に考え事も多かったので気にするウサギもいたのだろう。
「心配してくれる者がいるのも中々いいもんだな、妹紅」
笑ってそう言うと、彼女は何も言い返さず遠くを見ていた。
妹紅が発熱したので永遠亭に置いてきた。
私はにとりに用事があるので雑貨店に向かった。
今回は飛べる事を覚えてたので早く着いた。
人間の里から少し離れているというのに、そこそこ人がいる。
中を覗くと見知った顔の複数が店員やっていた。
にとりは工場の方にいると聞いたのでそっちに向かっていると、途中で会った。
「あ、蓬莱さん」
昔どういう名乗りをしたか覚えてないが、にとりは私の苗字を蓬莱だと誤解している。
蓬莱山さんと呼ばれても何なのでそのままにしているが。
「首尾はどう?」
「上々だ。手答えもある。大々的に宣伝もしてるし、かなりの売り上げが期待できるだろう」
「かなりの自信だね」
「もちろん。それにしてもこんな所で会うとは。工場見学でもしてく?」
小動物は他者につけ込まれる事を恐れ弱みを見せない。平生を装いながらも、苦痛に耐えてたり辛い思いをしてたりする。だから飼う時は日頃の些細な変化も見逃さない様にしていないと、目に見えて弱ってる時には既に手遅れだったりする。
河童と言う種族の多くもきっと似た様な気質を持ってるのだと思う。生意気で負けず嫌いで、口で笑って腹で泣く。この態度は鵜呑みにできない。
射命丸から聞くにまだ開発方針を決めてる最中だ。
もしかすると予定より遅れてるのでは無いかと睨んでいる。
下手な事を言って警戒されては聞き出せる物も聞き出せない。
彼女の状況について確認するためにも少し親しくなる必要があるな。
「ううん。それはまた今度にする。今は2人でゆっくり話せたらと思ってね。時間ある?」
「あっ…、雑貨店に寄る用事があるから今から1時間後になら。人間の里にいい店知ってるんだ、どうかな」
「いいね。じゃあそこにしよう。先に行ってるよ。集合場所は…寺子屋前とかどうかな」
「分かった」
まずはお互いに別れそれぞれの目的地に向かって歩き出した。
人間の里に来たのは案外久しぶりかもしれない。
町並みもそこそこ変化がある気がする。
寺子屋の授業は終わった様で、下校する学童もちらほら見える。
「シッ…シッ…」
前からシッシッと言いながらシャドーボクシングしながら走る金髪の子が現れた。あの子は確かルーミアとか言ったな。
アホの子みたいだが、私が殺された事件では真犯人を見つけ出し事件の真相を明らかにしている。
「ルーミア!お前は補習だと言っただろう!」
上白沢さんが走ってルーミアを追いかけに来た。
後ろから彼女の肩を掴みかかろうとするが、半身だけ反らして回避した。
その後も猛攻をしかけるが、ルーミアは中々捉えられない。
「私はこの日のために修行して来た。先生の頭突きには当たらん!」
努力の方向音痴か?
上白沢さんの掴みを回避してたルーミアだったが、足元を刈る様な蹴りを受け体勢を崩した所に頭突きをもらってしまった。
彼女はルーミアを肩に担ぐ。
「お恥ずかしい所をお見せしました」
「ああ、いえ。凄い体術ですね」
私はついでに妹紅が熱を出してる事について伝えた。
それからあまり人を心配させない様に言っておいた事も。
「そうですか…。分かりました、ありがとうございます。あの子ももう少し自分を労って欲しいんですけどね…」
「いつか伝わりますよ。上白沢さんを悲しませるって分かってるから、今に自分を蔑ろにしなくなりますって。今日だって風邪ひいて永遠亭に来たわけですから」
嘘も方便だ。彼女が悲しむ事ぐらいは知っているだろうが、それをきっかけに自身を改める事はしないだろう。本人は修行のつもりだと言っている。価値観の違いだ、説得はできない。
それでもお互いにいがみ合うだけだった関係に、ここ数年で変化が表れているのも事実。後の事は彼女らの問題なのだろう。
「そう…ですよね!今日はお見舞いに行こうかな…」
彼女ははにかみながら笑う。照れ笑いのついでにルーミアが肩から落ちたが気付いていないらしい。
「お待ちしておりますよ」
上白沢さんはいそいそと中に入って行った。取り残されたルーミアと私。
まだ気絶してるかと思いきや、ルーミアはむくりと起き上がってスカートの埃をはたいた。
それから家に帰ろうとする彼女の背中を見送る。
「あまり先生を困らせるんじゃないぞ」
「へっ、大人が言っても格好つかねえや」
彼女はニヒルな笑みを浮かべそう言って去って行った。
その背中が見えなくなる頃、入れ替わる様ににとりがやって来た。