白樺メンバーを統率する月人、楠木は最初から天狗を利用する気でいた。真っ当な取引をして天狗の里に居座る気などなく、初めから狙いは人間の里を根城に置く事だった。偵察部隊がこうして測量に来ていたのは、来る移住の日に難なく乗っ取るための算段を立てるためだった。
彼女らが天狗に話してた情報とは異なり、転送装置によって1度に送れる実は数は5体までだったようだ。1度に1体までと偽り2度転送を行った。『見学』のための玉兎が2羽、残り8羽が工作部隊として紛れ込んだ。帰りの日も同じように1度ずつ帰るように見せかけ工作部隊が4羽ずつ月に帰った。
工作部隊がどこで何をしたのかは本当に知らない様子だった。メンバーの中でも大雑把な階級がつけられ、シェアできる情報を制限したのだ。
「…こうでもしないと、せっかく逃げ延びた直後に月に強制送還させられるじゃないですか…。私達だって苦渋の判断だったんです」
樫が訴えかける眼差しで言う。私は話を聞きながら作っていた交信遮断装置を彼女らの腕につけた。
「でしょうね。私もあなた達にこんな事をする事を心苦しく思う」
「それなら私達を解放してください。こんな事、誰も幸せにならないはずです」
「あなた達の自由は大きく制限させてもらう。条件が飲めないなら地下牢に戻す」
永琳の元に置き、永遠亭の外に出さない。光学迷彩装置はにとりに返すし、頭巾はこちらで丁重に預からせてもらう。腕につけた装置の効果で交信もさせない。その旨を伝えた。
「198名もの亡命者が月から出たとあれば、これを許してしまった月の民の治安部隊は赤っ恥を掻いた事になる。面子を保つため、必死に事態の収束に動くでしょう。身柄の引き渡しも困難なら、強硬手段に出る。地上で好き勝手するなら、縄張り意識のある妖怪も黙ってない。衝突は免れない」
信仰、畏怖、血肉…人間は幻想を守るための糧だ。人間の里で戦えば地上の妖怪達は全力を出す事は出来ない。益々不利になる。一方、月の民はそんな事お構いなしに猛威を振るう。想像もしたくない様な悲劇が起こるだろう。
地上の事が分からない彼女らどういう事態になるのかを教えると、改めて自分達がどんな計画に組み込まれたのか理解して言って顔色が悪くなる。
「月人、楠木はおそらくそれを承知の上で計画を敢行しようとしている。あなた達の計画に未来性はない。あなた達は利用されてるの。…お願いだからお互いのために大人しくしてて」
楠木がどんな動機があってこんな計画を立てたのかは分からない。しかしどういう事態になるか知らないでこんな計画を立てるほど馬鹿じゃないはずだ。一体何が目的で…。
檜は樫に目線を送る。彼女はため息をついて頷いた。
「…脱兎計画。柊木にそう言えば楠木さんは輝夜さんと対話せざるを得ないはずです」
「樫…。輝夜さん、信じてください。私達は計画に従えば地上で暮らせるって聞いてたんです。こんな、恐ろしい事になるなんて…。純粋に、ただ憧れてたんです…」
檜は耳をペタンと力なく前に倒して言った。
「ありがとう。私から話をしてみる。…手荒な真似をしてごめんね」
私はこの場を鈴仙に任せ、永琳に話をしに行った。匿って欲しい、と言えば深く詮索をせずに話を受け入れてくれた。あれこれ質問されるだろうと考えを巡らせていたといたが…杞憂だった。
何だかドっと疲れた気がして昼まで寝ようと部屋に帰ろうとすると、永琳は背中を向ける私に「上手くいやりなさいね」と言っていた。
昼過ぎ、私は姫海棠と共に転送装置のある部屋に来ていた。転送装置とプログラムを調べるに、樫や檜の言うように1度に1体までと言う情報が嘘なのは確かな様だ。…工作部隊が帰ったという情報が嘘じゃない事を祈るが…さすがに8羽も各々が頭巾を用いたとしても2か月も隠れおおせるとも思えない。
2羽が紅魔館に忍び込んでいたのは盲点だった。紅魔館でのバイトは労力とさえなれば素性の詮索などせずに働かせてもらえる。後日、レミリアには視察をお願いしたいと思う。あの頭巾があればバレないとは思うが、特にパチュリーと言う魔女に感づかれる可能性がないとは言えない。
築いた信頼関係を下手に崩す事もないだろう。彼女なら快く協力してくれるはず。
射命丸から聞いた話と、装置について考える。
…転送装置が同日に使えるのは5回までだと言っていた。これが本当なら、烏天狗と手引きして来る予定だった数が20名だったためどのぐらいのスパンでこれを繰り返すつもりだったのかはさておき最低でも4日はかかる。
1度に来るのが5名。1日に5回繰り返す事で25名。4日かけて100名。透明になった80羽の玉兎が余分に来る。白樺メンバーの総数は198名なので、98名が月に残される事になる…。
「メンバー全員が幻想郷に移り住むって訳じゃないんですかね」
姫海棠は首を傾げた。
「地上へ移り住むという点で集まった有志が、自分が取り残される事をよしとするもんかな」
それも98名も。
私は転送装置を弄ってみる。
「わわ、何やってるんですか輝夜さん!無闇に弄って故障したり、元に戻せなくなったりしたら…」
「大丈夫大丈夫、ちょっとバラした所を元に戻すだけでしょ。いざとなったら組み立てた烏天狗になんとかしてもらうから」
「そんなご無体な…」
私は装置を分解していくと、フレームの割に内装が貧相な事に気付いた。この大層な外側は組み立てた時に安定させる以外にあまり意味がない。物質は…地上のもので組み立てられてしまうのか。まあそれもそうか。向こうの治安部隊に感づかれずに月の物質を地上に送り届ける方法なんあるはずがない。
…もし転送される工作部隊が少しずつ部品を所持してやって来ていたなら、こっちで組み立てる事もできるかもしれない。全部バラしてみない事には正確な予想はできないが、外側のフレーム以外の部品をそれぞれの玉兎が持って転送されて来たとしたら…20から30羽いればおよその基礎は作れるのではないか。
最初の転送実験でやって来た工作部隊は8羽。どう考えても足りない。
私は装置を元に戻してから自分の考えを姫海棠に述べる。
彼女は腑に落ちない顔をして唸る。
「最初の工作部隊、何しに来たんでしょうね」
「測量なんじゃないの?私にとっては潜伏してた2羽を2か月も潜伏させてた理由の方が分からない」
触る意外に感知しようがない頭巾なんてものを持っていながら、バレるリスクを高くしてまで悠長に長期期間潜伏させるだろうか?あの2羽がまだ私に隠し事をしているのか、あるいは当人らも知らない理由で幻想郷に置いているのか…。
私は機器のポートに記憶媒体を差して情報をコピーさせる。
「あっ、分かりましたよ。これより小さな転送装置を作るんですよ。1度に1体ぐらい行き来できるような。それなら8羽が持ち運ぶパーツの数で済むとか」
「月から地上への転送なんて機能を付けてこれ以上の小型化なんてできるかなぁ…。それに最初の8羽でそれが出来たら今まで計画が実行されなかったのは変じゃない?」
「まあ…確かに言われちゃそうですねぇ」
データのコピーが終わった。一応調べ物は終わったのでこの場を後にした。
私は永遠亭に戻ってゲーム用に使ってたパソコンを起動させデータを読み込ませる。…一部のデータの解析は鈴仙に任せた方が早いかもしれない。白樺メンバーの樫と檜は真面目に仕事をしていた。
どの道、データの移行が終わる夕方までは何もできそうにない。
それにしても、小型化か…。
「ねえ姫海棠さん、もし8羽の玉兎が本当に小型の転送装置を作ってたなら…どこに隠せると思う?」
「うーん…さすがに8羽分のパーツを持って紅魔館に潜んでたとも考えづらいですし…無縁塚?」
「人間の里から遠いし危険も多い。香霖堂の店主が珍しいものを発見して持ち帰らないとも思えないし、私が行ったときにそれらしいものは売ってなかった」
第一、素材が月の物で作られた部品があの店で売られてたなら私が見逃すはずがない。
「灯台下暗し、妖怪の山の麓とか…霧の湖」
「妖怪の山なら河童がそんな物を放っておくとも思えませんし、霧の湖なら妖精や妖怪から壊されてしまいますよ」
まあ…それもそうか。河童が何か発見したならにとりが黙ってないし、にとりが発見したのなら月の物質と言う観点から私に何も質問してこないとも限らない。あのあたりに隠された可能性は低いか…。
私達はふと思いついた。
「「魔法の森!」」
10話ぐらいで終わらせる予定だった話が30話近くまで来た訳ですが、まだ最終回が見えて来ない…。いっそサプライズ=ニンジャさんに登場願おうか…←