…ミギ ハシノ トラックへ ハイレ。…OVER
「思ったんですけど、天狗の里の受信用の転送装置をぶっ壊せば万事解決なんじゃないですか?」
姫海棠が手をポンと叩いて言った。まあ送信先がなくなる訳だから白樺メンバーは来られなくなる。わざわざ派手に壊さなくとも、正常に作動しない様に仕込んだりすれば下手な騒動に巻き込まれずに行える。
「…ありだわ」
私は頷いた。
「でも私達だけ地上で暮らしていいなんて、仲間に申し訳ない気が…」
樫が頭を掻いた。
「帰れなくなったものは仕方ないよ」
檜が呑気に笑いながら言った。ううん…考えて見れば普通は元来た月に帰れない事に関して悩む所だが彼女らの目的はもとより地上への移住が目的でここにいる。向こうから身柄の引き渡しを言い渡されなければこのままでいいのかもしれない。
月の民の目を欺いての移住計画には大型太陽フレアが不可欠だ。頓挫すれば次の計画実行まではかなり期間が空く。メンバーを解散させるなり、綿月姉妹に任せるなりどうする事もできる。まあ、向こうの決まりに則った処罰はあるだろうけれども。
「これだけの好条件を逃したら次の機会の目途も立ちませんし、楠木も気が逸って自爆したりしないですかね」
鈴仙は不安げに言った。
「優曇華の言う通りだわ。彼女は正気じゃない」
永琳は腕を組みながら言う。
…自爆も彼女にとってのデモンストレーションだと様な旨の発言をしていた。自身らの死と引き換えに世間の注目を浴び研究成果とやらを世間に知らしめる何ら方法があるのかもしれない。
私は檜と樫に腕につけさせた交信遮断装置の解除を頼まれた。彼女らの知ってる範囲で向こうに流されて不利になる情報もないので、私はそれを解除する。
彼女らは仲間と交信した…。
「あれ、繋がらない?」
2羽とも交信が繋がらない。
遮断とか妨害を受けているとかではなく、応答してくれないらしい。
「檜と樫が裏切った…とかでも伝えたんですかね」
あり得る話だが、ついさっき交信を切ってからすぐに指示したにしては対応が早過ぎる。もっと早い段階で交信に応答しない様に指示されたとしか思えない。話を聞くと予定では毎夜、状況報告をしていたらしいのでそれが途絶えた時にはそういう根回しをしていたのかもしれない。
今ははっきりした事は分からない。
メンバーに応答を拒否され落ち込む樫と檜。
他に、白樺メンバーの玉兎の状況を確認する方法は…。
「姫様、私柊木に交信を試みたいと思います」
「応答してくれるかな」
「楠木が柊木に私の交信に応答しない様に指示する前ならできるはずです」
私達が計画に反対である立場だと分かったの今さっきだ。楠木は月人であって玉兎ではない。もし物理的な距離が開いているのであれば、リアルタイムでいきなり指示はできないはずだ。試してみる価値はあったし、迷ってる暇はなかった。私は鈴仙に柊木への交信を許可した。
…鈴仙はサムズアップをする。どうやら応答があったらしい。
私達はそれを盗み聞きしたりできないので、今しばらくは鈴仙の様子を見守った。
「樫と檜の2羽は、交信が途絶えた夜から応答しない様に指示されてた様です。逆上される恐れがあり少しためらいましたが、楠木の正体と脱兎計画の全容を伝えました」
「ありがとう鈴仙。それで、柊木はなんて?」
「にわかに信じ難いと言っていましたが、計画について不明瞭な点が多く不信感を抱いていた事もあり一先ずは私を信頼してくれるようです」
私はホッとした。柊木も元軍人だ。自身と鈴仙の交信を他人に傍受させるようなヘマはしないだろう。これで状況確認と、上手く行けば柊木を動かして状況を有利に運ぶ事だってできるかもしれない。
尤も、彼女もテロ事件の被害により昔の様な身体能力はない。あまり無茶はさせられない。
「…姫様、師匠、私に案があります。柊木に協力してもらい転送装置で衛星局へ赴き、起爆装置を確保し楠木を捕縛します。そして通信室から現在地点を月の都に知らせ、事態が落ち着くまで安全な場所で待ち治安部隊に楠木の身柄の引き渡しをした後にこちらに戻ります」
「簡単には言うけどね…」
「ええ、簡単ですよ。奴の開発した頭巾を使えばね」
ひとたび装備して使えば、触れる他にほぼ探知する方法がない頭巾。確かに衛生局内であっても有効だろう。だが、彼女だけに任せるのは…。
「却下よ。むざむざ死にに行く様なもの。それに玉兎を捨て駒にする様なあの子が、頭巾を使った裏切り行為を予想してないとは思えない。探知する手段は持ってるはず」
「お願いです師匠。離れ離れになったとしても、かつての同胞です。見殺しにはできません」
「…潜入任務そのものを否定してる訳じゃないわ。やるなら確実性を高めるために前準備が必要というだけ」
「永琳?」
永琳は鈴仙の案をより確実にするためのに様々な提案をする。
まず頭巾の改造。これは私と永琳が。衛星局の潜入ルートと退路の模索…これは鈴仙と樫と檜が。転送装置を使うために柊木を説得する事は鈴仙の最優先事項だ。最後はこのメンバーで作戦会議をして実行に移す。そういう内容だった。
「どう考えても無謀だよ永琳、鈴仙にこんな危険な任務をさせられない」
永琳が本当に作戦を決行する体で話をしているので私はそう言うが、永琳はデコを抑えてため息をつく。
「…放っておいても勝手に単身突入するつもりなんでしょ、優曇華」
「心は頭ほど聞き分けが良くないんです。お許しください」
…拘束してでも止めようと思ったが、ここまで本気なのなら無理に止めまい。
双方共に被害を最小限に抑える様に作戦をより確実なものにする必要がある。
「これからここにいるメンバーは共通して同じ作戦のために動く事になる。便宜上、作戦には名前がいる。作戦の命名は立案者の鈴仙に任せる」
「では脱兎計画に因んで搏兎作戦で」
そうと決まれば早速と私達も搏兎作戦のために動き出す。
檜と樫には衛星局のざっくりとした作図をお願いし、鈴仙には柊木の説得に当たってもらった。私と永琳は早速と頭巾の研究に入る。姫海棠とは一度別れ、天狗の里の転送装置に細工を施すように頼んだ。
当作戦の実行に当たるのは私、鈴仙と樫だ。頭巾の数は2つ。檜は軍務の経験がないため永遠亭で待機になった。
搏兎作戦決行日は、脱兎計画の開始前日の夕方だった。解析や改造、侵入ルートや退路の確保に時間がかかったというよりは、より確実に楠木を捕縛するに都合のいいタイミングが計画実行の2時間前しかなかったからだ。
もっとも頭を悩ませたのは、局内の頭巾対策だ。柊木の調べによれば衛星局の各所にはゲートが点在しているらしい。ゲートの中の特殊な粒子が枠内を一定の速度で行き来し、その往来が特定のペースを保ち続けている。
しかし、ゲートを物体かが潜るとその時の反復パターンから通過した物体の凹凸を認識し、データを照合させ正体を推測する。生物だったと認識された場合には写真が撮られ、登録されたメンバーの顔と映像の顔が照合される。頭巾で透明化していると姿が映らないので、異常事態と判断してアラートが鳴る。そういう仕組みだ。
更に、それらの操作、解除はコントロールルームのみ可能なため、解除するにはそこを制圧する他にない。交代制かつ常時玉兎がいる。数は8~11。騒ぎを起こさずそれだけの数を制するのは無理だ。
計画の決行直前はコントロールルームでの処理が自動になる。樫はそのタイミングでセンサーの解除、その後に転送装置前に待機。私はその間に起爆装置の確保、楠木の捕縛を行う。
それまでのセンサーを掻い潜って移動する方法は荷物の中に入って運搬してもらうという物。ある程度は柊木も協力してくれるが…後は頭巾と当人の機転でどうにかするしかない。
定時になると、柊木は動作確認と称して転送装置を起動して私達を局内に招き入れた。樫と共に空調ダストの中に入って倉庫を目指す。
そういえば23話以降挿絵を描いてなかった。近いうちに追加しまふ