ぐーやんでござるよ   作:ヤングコーン

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33話 邯鄲の夢

研究室に入ってすぐの、机の上にリフトのスイッチの様な物が置いてあった。

まさかと思うけど…起爆装置って…これ??

 

いや、さすがにそれは…ないはず。

これじゃまるで持って行ってくれと言わんばかりだ。

 

…でも楠木は私がここに来る事を知らないはず。そのまさかもあり得る?

 

「…確かめたいなら押してみるといい」

 

「!!」

 

この部屋には誰もいない。もしかして、私に話しかけた???

 

「それは間違いなく君の探してる起爆スイッチだ。それを探し、私を捕縛しに来たんだろう?」

 

うう…はったり、とは思えない。私がここに来るのを予想していた?

彼女はため息をつきながら私の方を振り返ると鏡を指さす。

 

鏡を見ると、透明になった私のボディラインの輪郭が黒く可視化されていた。

 

「この室内は特殊ガスで満たされている。頭巾のシステム上、必ず見えるようにできてるんだ。私と隠れん坊がしたいのなら好きにするといい」

 

私は頭巾を取った。

 

目の前のモニターに多目的ホールが映っている。それぞれの玉兎がわいわいと楽し気に地上への旅路に胸を躍らせている様子だった。

 

「君は彼女らよりも早く念願の地上での生活を手に入れた。彼女らも同じ願望を抱いている。何故に協力してやらない」

 

「…揺さぶりをかけったって無駄だ。その計画は玉兎を捨て駒にする事で成立する。良くそんなお為ごかしが言えたな」

 

「そう誰かに教えられたんだろう?自らの頭で考える事を放棄して、周りの言った事を鵜呑みにする。靡いてばかりで、自らの行いに疑問を持った事はないのか?」

 

私はホルスターからリベレーターを取り出して構える。

 

姫様が貸してくれた物で、妖力を弾とする様に改造された地上の銃がモデルの物だ。

威力と発射速度は申し分ないが、ライフリングが短いので軌道はクセが強いし飛距離も出ない。

 

なので本当に当てるとなるともっと距離を詰める必要があるが…牽制には充分なはず。

 

「他者を見下す形でしか理解できない楠木には私がそんな風に見えるんでしょうね。ここへやって来たのも、計画を潰すのも、お前を捕縛するのも私の意思だよ!ゆっくり膝をついて両手を頭の後ろにやりなさい!」

 

「…捕らぬ狸の皮算用。ひょっとして私を追い詰めたつもりでいたのか」

 

彼女は口を開いて笑って見せる。奥歯の辺りで何かが光った。

それはまるで手榴弾のピンの様な…。

 

私は青ざめる。

 

「起爆装置を…自分の歯に…?」

 

「ああ。その装置も本物、私の歯に仕込んだ装置も本物だ。…君が乗り込んで来る事は想定内だ。姫様が私の計画に反対している事を知った時からね。君は図らずも私に呼ばれてここへ来たんだ」

 

そんな…。

 

私はどうすべきなのか判断が鈍る。楠木は笑ったままハンドサインを出した。後ろで扉が開く。

 

「鈴仙…。お願い。抵抗しないで」

 

現れたのは柊木だった。その手にはテーザー銃が握られていた。ワイヤレスで電撃を流せる代物だ。僅かながら体温探知で追尾性能もついてる。私でもこの距離から回避は非常に難しい。

 

…どの道、起爆装置を確保できなかった時点で私にこの状況を打破する方法がなくなった。私は大人しく柊木に縛られる。

 

「ごめんね…。私も地上に行くためだけに今日まで頑張って来たんだ…」

 

「柊木…」

 

地上に行ってもすぐに送還される事は話したはずだ。

それに、軍に所属してたなら猶更それが理解できたはず。

 

なのにどうして…。

 

私は樫に交信して任務が失敗した事を伝えた。

そして、転送装置で地上に帰り永遠亭に戻る様にと。

 

師匠達に任務が失敗した事を伝えようとしたが、連絡がつかない。

この室内を満たす特殊ガスとやらが、持ってるインカムに影響を及ぼしているからだろうか。

 

樫に永遠亭に戻った後の報告も頼んだ。

 

 

 

 

もうすぐ脱兎作戦が決行される。

何も騒ぎは聞こえなかったが、樫は逃げ延びただろうか。

 

「鈴仙、ロープの結びきつくない?大丈夫?」

 

柊木が心配の声をかける。

 

「大丈夫…」

 

彼女の顔を見上げると、ウィンクをした。

なんだ…??

 

楠木がこちらに歩み寄って来る。

 

「鈴仙…悲しむ事はない。私達は新しい時代の礎になろうとしているんだ。これはとても名誉な事なんだよ。その歴史的瞬間の目撃者なれるんだ」

 

「お前のやってる事はただのテロだ。どんなに高尚な御託を並べた所で」

 

「先生も同じ事を言っていたな…理解に苦しむ」

 

彼女は顎に手をやって考える仕草をする。

師匠は楠木のテロ行為に心を痛めていた。

 

肥大化した自尊心と過去への妄執が歪んだエゴイズムを加速させているんだろう。

 

「こんな事を知ったら、あなたの姉さんだって悲しむよ…」

 

それを聞くと楠木は急にゲラゲラと笑い出した。

 

「…君は何か勘違いしてる様だ。私の姉はテロ事件の被害者ではないよ。首謀者だ」

 

「!!」

 

そうか…、そうだったのか。あの事件で私が捕らえたのは…。

だからこの場に私を呼んだのか。

 

私に復讐するために…。

 

「大丈夫だ。玉兎達が全員地上に着いたのを見せたら、お前を射殺してやる」

 

楠木はそう言って笑いながらモニターの方を振り向くと、そこにはライフルを振り上げた樫がいた。思考が停止したまま立ち止まる楠木のこめかみに銃床がヒットする。彼女は床に崩れた。

 

「樫!」

 

倒れた楠木を樫が押さえつけた。柊木はテーザー銃を楠木に向ける。

彼女は私を裏切ったんじゃなかったのか…?

 

そうか、柊木と一緒に侵入したのか。

頭巾に頼れないまま隠れていたとは…。

 

「うぐ、うぐぐ…馬鹿だなこんな事をして…。今すぐに、衛星局ごと吹っ飛ばしてやる…!!」

 

そう言って彼女は大きく口を開けた。私はすぐに頭を押さえつける。

 

「ぐ…お前たちはもうおしまいだ…。ピンは抜いてやったぞ…」

 

……しばらくしても爆発の音も聞こえないし、アラートも鳴らない。

楠木の表情も焦りに滲んで歪む。

 

執務室のドアの開く音が聞こえた。中から姫様と師匠がやって来る。

 

「どうやってここに…!?」

 

「方法さえ選ばなきゃ月に来る方法はいくつかあるしね」

 

姫は肩をすくめる。

 

「あなたの爆弾は処理させてもらったわ。1人で設置できる大きさと数、かつ衛星局を潰せる大規模な爆発…あなたの使用する爆薬の種類と設置場所の特定に時間はかからなかったわ」

 

爆弾は起爆薬に2種類の薬剤を混ぜ化学反応させ、更に炸薬となる薬と混合する事で爆発させる物だったらしい。建築物を爆発するのに用いる爆弾らしく、起爆薬の片方は気密性を保たねばならず、大気に触れさせると変質して使い物にならなくなる物だったようだ。

 

炸薬から発生するガスを探知するタイプの、リモコンと掃除機をチューブで繋いだような爆発物検知器を姫様が私達に見せる。

 

「ごめんね鈴仙。時間を稼ぐにはこうするしかなくて…」

 

柊木は起爆装置がもう1つある事に気が付いていた…。演説の時にピンが見えたのか。それで…。

 

彼女は私を拘束していたロープを解いた。それからモニターの操作をすると、先程まで玉兎達が多目的ホールで飲み食いしていた映像が変わって中央に寄せられている映像に変わる。中央には綿月姉妹がいた。どうやら監視映像は録画に切り替えられていたらしい。

 

「メンバーの日頃の変化に気付いていたなら、これが録画だと看破されてたでしょうね。これはあなたの他者への無関心が招いた事よ」

 

師匠は楠木に憐みの目を向けながら言う。

彼女は尚も納得の行かない顔で周りを睨む。

 

「は、はは…。計画は丸潰れか…」

 

楠木はかすれた声で笑っていたが、急にエビ反りに体を起こして押さえつけていた樫のデコに頭突きをした。僅かな隙を突いて後ろに回って人質に取る。

 

「もう気が遠くなるほど待った…。数十年、数百年、数千年…また気長に待つさ」

 

楠木はそう言いながら窓際に向かう。

 

「こんな奴逃がしちゃいけません!私の事は構わず楠木を捕まえてください!」

 

樫が叫ぶ。

 

私は柊木にテーザー銃を渡すように言った。私はそれを受け取ると楠木に向けて構える。まだ撃てない。

 

彼女は窓際に近づくと樫を手放して窓に向かって体を思い切りぶつかる。しかし、そこは壁だった。能力を使って窓の位置を誤認させたのだ。よろめきながら尚も逃げようとするので、テーザー銃のを発砲し針を撃ち込んで電撃を流し、無力化させた。

 

「嘘だ…こんなの夢だ、私はただ……」

 

楠木は床に倒れ、もがく様に蠢きながら独り言の様につぶやく。

 

「そう、これは夢。あの日のテロ事件から続く永い夢。あなたは目を醒まし、現実と向き合う時が来たんだ」

 

私は彼女の体をロープで縛る。彼女は虚ろな目をしたまま大人しくしていた。

これでようやく脱兎計画は終わりを迎えたのだった。




もう6、7回ぐらい校正してるけど説明不足がもうない自信がない。疲れた…。
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