私もてゐも見せてって何度もお願いしたけど断られた。見せてくれないかなぁ…。
檜と樫と柊木も逮捕される。処遇は分からないが、情状酌量の余地はあるはずだ。
私達は衛星局で取り留めのない話をしていた。別れを惜しむように。
もう時間になる。いつまでもこうしてはいられない。
「…皆と地上を歩けたらいいのに。カフェ店とか、温泉とか渡り歩いて……」
檜は目じりに溜めた涙を拭った。
「湿っぽいな。今生の別れじゃあるまいし」
樫が笑って言う。そういう彼女も目が潤んでいた。
できれば違う形で会いたかった。そして地上で一緒に遊びたかった。仕事がしたかった。
日々、大変な事とかくだらない事で話に花を咲かせて…。
「そうだね。また会えるよ。絶対」
確証なんてない。気休め程度の言葉。
短い間だけど、気持ちが通いあった仲間だった。
治安部隊の玉兎が呼んでいる。
「…そろそろ行かなきゃ」
柊木は寂しそうに笑う。私達は円陣を組んで最後の別れとする。
「鈴仙さん、今度会う時は温泉行きましょう。おすすめお願いしますね」
檜が笑う。
「私は喫茶店でパフェが食べたいです」
樫が檜に続いて言う。
「代金は永遠亭で稼いでもらうからね」
私は冗談を言う。
「…私達、地上の夢は諦めないから」
柊木が小声で言った。思わず皆で笑う。
「うん…待ってる」
そうして私達は別れた。師匠達の待つ所へ向かう。
叶うかも分からない約束を残して。
私は射命丸と鳥々発嘴の暖簾をくぐった。
今日は八重やパオツァイとして来てないので気兼ねなく話せる。
「ただいま」
「おかえり」
店主、みすちーが迎えてくれる。
最近は座るテーブルの位置も大体同じになって来た。
みすちーもいつもの感じでお冷を運んでくれる。
「ママ、いつものを2人分」
「昼間はママと呼ばないでってば」
「分かったよママ」
彼女はため息をつきながら店の奥に行った。
射命丸が困惑しながら私を見ている。
「ひょっとして浮気ですか…?」
「昼はカフェ店、夜はスナック。そんな感じだから通い慣れてる人はママって呼んでるんだよ」
親身になって相談を受けるもので、多くの人から親しまれている。
かつ深入りしたり背負い込み過ぎない。対人距離の取り方が上手い。
ここ最近は余計な事に首を突っ込んではトラブルを招いてしまっている事もあり、自戒の念と敬意を表して私も同じくママと呼んでいる。
それはさておき、私はあれからの出来事を射命丸に掻い摘んで話した。
まぁ協力してもらったのだから当然なのだが、姫海棠からの質問攻めはとても疲れた。
程々にぼかしてもらっているものの、本事件を掲載した記事は飛ぶように売れた。
自分たちの身近な所で秘密裡にこんな事が行われていた…!と、少し大げさに煽ってある。
まぁ偵察が行われたり転送装置の配置場所の候補に挙がる場所が上がったりしてたけれども。
「天狗達は後始末と釈明に追われるでしょうね。ああ、有給休暇取っておいて良かった」
本当は花果子念報が飛ぶように売れて悔しいのだろうが、まぁ…わざわざそれをわかって寸鉄を入れるほど私も冷酷ではないので黙っておいた。
チャイムが鳴った。客が入店した様だ。
やってきたのは姫海棠だった。
射命丸は驚くと、頭襟をバッグに隠して急いでマスクとサングラスする。
「あいつにここにいるのバレたくないんで、今は私をジョー・ギリアンと呼んでください」
どっかで聞いた偽名だなぁ…。
姫海棠は私を見つけるととたたたとやって来る。
そして射命丸の隣に座ると、メモ帳を開いて目を輝かせる。
「さあさあ輝夜さん、新しい質問を用意してきましたよぉ!」
「もうスリーサイズぐらいしか教える事ないって…」
…これで最後にする事を条件に私は答えられる範囲で質問に答えた。
烏天狗の質問攻め恐るべし。
姫海棠はご満悦の表情でメモ帳にペンを走らせる。
非常に景気よさそうだが、転送装置に工作したり情報をリークしたりしていたので天狗としての立場は少し危うい。それでも普通に天狗の里に帰っているし、仲間から白い目を向けられてもまるで気にしていない。
鋼のメンタリティ、その知的好奇心、圧倒的バイタリティ…正直羨ましい。
「ああ…この事件に関わる機会があって良かった…!今や輝夜さんの一言一句は私にとっての金品!はあ…幸せ」
「へぇ…それは良かったですね。煽る割には中身の充実しない記事に見受けられましたが?」
よせばいいのに射命丸は我慢できずに姫海棠に嚙みついた。
確かに誇張表現が目立つのは確かだ。しかし嘘は言ってない。ただ購買欲を刺激する内容に仕上げてあるだけだ。
「んもう…まるで文々。新聞の購読者みたいな事を言うんですね。儲かればより多くのリソースを割いて活動できる様になるんです。私は情報をより面白可笑しくデコレーション、ラッピングをしてるだけじゃないですか。色気のある記事、上手い経営。そこまでやって仕事なんです」
…さては姫海棠、射命丸の変装を見破ってるな。
あの小馬鹿にしたような顔、写真に撮って額縁に飾りたいほどいい表情だ。
射命丸は隠せない苛立ちを露わにしながら笑う。
「素敵ですね。ジャーナリストより、小説家の方が向いてるんじゃないですか」
射命丸は精一杯の皮肉を言ってみせる。
「ああ、なるほど。最近見ないと思ったら小説家になってたんですね…文ちゃん♡」
「二枚貝、貴様の人生に終止符を打ってやる…!!」
「きゃー、ひーとーごーろーしーー」
きゃっきゃと出ていく姫海棠と、追いかける射命丸。
お前ら本当に仲いいな。でも店の中では静かにしなさいよ。
みすちーが奥から料理を運んできた。当然ながら注文した通り2人前ある。
仕方がないので、私はてゐを呼んで一緒に食事をした。
昼を過ぎ今更になって光学迷彩を返すのを忘れいた事を思い出した私はすぐににとりに連絡した。
メールも電話も帰って来ない。怒ってるんだろうか。
私は一度永遠亭に戻ると月での手土産を持って出かける。
着いたにとり雑貨店の店員に話を聞くと、彼女は博麗神社の方へ向かって行ったらしい。
私は飛びながら向かっていると、道端でにとりが倒れているのが見えた。
私は彼女の体を起こして意識を確認する。
「んーあー…蓬莱さんか。へへへ、ご機嫌よう」
酷く酒臭い。
「ちょっ、にとり…昼から酒飲んでるの?」
「んあー?私はお酒になんか酔っちゃいない。んぇっへっへ。お酒が私に寄ってるンだ」
可笑しな事を口走っている。仕方がないので私は介抱してあげる。
千鳥足で動けない様子なので、私は彼女の肩を担いで移動する。
少し移動するとえずいた。その直後に嘔吐する。
何となく予想していたので回避したが、後ちょっとで服に付着する所だった…。
「あぁ…もう私は駄目だ。捨て置け盟友」
「光学迷彩を返しに来たんだ。それにこのまま放っておけないよ」
気分悪そうにしてるにとりを事務所の自室まで送ってあげた。
どうやらあの球磨と言う子はいないらしい。
私は彼女をベッドの上に載せてあげた。
光学迷彩と月で買った菓子折りをタンスの上に置いた。
「それで、何があったの。金?」
「んー…蓬莱さん?ああ、ああ…意識がはっきりして来た。大丈夫だ、鬼と飲みニケーションしてて…。あ゛ーう゛ー、頭が痛い…」
「今日はもう仕事を休んだ方がいいよ」
「うン、そうする」
妖怪付き合いも大変なんだなぁ…そう思いながら私はにとりの事務所を後にした。
今日は夕方から紅魔館で立食パーティーだ。
それまではゆっくり休んでいようと永遠亭の自室に向かっていると門の前に正邪が立っていた。
ああそうか、スマホの充電か。
私は彼女を永遠亭の中に入れてあげた。
「人間の里からここまで来るのしんどいでしょ。長く住むなら人間の里に居を構えて、にとり雑貨店から電気を買ったら?」
「今度行われる人間の里の選挙、立候補するつもりなので選挙活動に忙しくなりそうなんです。今しばらくは…」
「ええっ?!…ああ、そうなんだ。私はてっきり豊聡耳神子の応援をするとばかり…」
「彼女はまさに聖人君子ですが、志す政治の方針がまるで異なるため袂を分かつと決めたのです。今でもお慕いしておりますよ」
客室に入れると中で充電させた。
…心を入れ替えると言って神子の元にいたとは言え、今までの前歴が前歴だ。さすがに目を離すのは不用心と思う。
とはいえお茶も出さないのはどうかと思ったので、その時だけ離れて茶菓子を運んだ。
「お心遣い痛み入ります」
会釈程度ではあるが、頭を下げた…。
以前会った時は頭を下げるという行為ができず動揺していたというのに。
まさか本当に改心を?
いや、でもまさか…。
あれやこれやと勘繰っていたが、彼女がスマホの使い方についてあれこれと聞くのでそれを手伝った。
使いやすいようにアプリの並び替えをしたり、検索のタブを減らしている最中に開いた検索履歴の中に「身長 伸ばし方」とあったのが忘れられない。気にしてるんだ…。
怪しい動きを見せるまでは下手に邪推しない事にしよう。私はそう思いながら付き合う事にした。
いつも3点リーダーが多くなり過ぎてないか気になる。