ぐーやんでござるよ   作:ヤングコーン

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いや私はあんなに太眉じゃない


35話 プロパガンダ映画…?

正邪と別れると私は紅魔館で開催された立食パーティーに参加した。

重役会議の時によく見かけるメンバーは大体揃ってる様だ。

 

私はレミリアに挨拶をする。

色々と聞きたい事はあったが、後にしよう。

 

レミリアは時間になると開会式を始める。

これからの催し事や行ってる事業についての話があった。

 

…妖精メイドも妹紅も忙しそうに辺りを歩いている。

そういえば変だな。考えてみるとあのメイド長を見かけない。

 

厨房へ向かう妹紅を追った。

 

「あのメイド長はどうしたの?」

 

「ん?ああ…良く分からないんだが人間の里に行くように指示されたらしい」

 

こんな忙しい時に?

…前に聞いた時も変な話だと思った。

 

何といっても立食パーティーの事前通知が遅かった事だ。予定が立てられる様に最低でも1か月ぐらい前にはパーティーの知らせが来る。まるで急ぎ用事の様だった。なのに今回の発表はそれほど重大な物でもなかった。

 

それに加え、メイド長の不在。いくら妹紅が仕事の呑み込みが早いにしたってこの仕事を任せっきりにしてあの子を人間の里にやるだろうか。

 

不明な点が多い。

 

「手伝うよ」

 

私は腕まくりをして意気込む。

 

「あはは、気持ちだけありがたく受け取っておくよ。でも今は私はお前を客としてもてなしたい。それに、客に雑務を手伝わせたとあってはホストであるレミリアも面子が立たないだろ?」

 

「うん…まあ確かに。あまり無理はしないでね」

 

「ありがとな。今日はパーティーを楽しんで行ってくれ」

 

そう言って彼女は仕事に戻って行った。

私もパーティーに戻ろうと廊下を歩いていると古明地さとりと会った。

 

彼女は私を見かけるとこちらに駆け寄って来る。

 

「ちょっとこちらにいいですか」

 

「え?うん、いいけど…」

 

私は彼女に連れられどこかへ向かう。一体どこに案内しようというのだろう。

 

 

 

 

 

「えっ、立食パーティーの目的って私達を集めるためだけだったの!?」

 

阿求が人差し指を口元に当てて静かにするように言った。

いや、だって唐突にそんな事言われても…。

 

「壁に耳あり障子に目あり、ここはいつもの会議場じゃないんですよ…!」

 

小声で注意するあっきゅん。いや分かってるけどサ。

この室内には重役会議でよく見る顔ぶれが集まっている。

 

豊聡耳神子と幽々子は会場にいたはずだが、この室内には見かけない。

これから呼びに行くんだろうか。

 

「急な催し事でごめん。でも手っ取り早く確証をえるならこれが良案だと思ったんだ」

 

レミリアが申し訳なさそうに言う。彼女の言っているのは、人間の里に居座っている正邪の事だった。

 

誰も本気で改心してるなんて思わないが、少なくとも近隣住民と神子は彼女を信頼している。ぞんざいには扱えない。確かに悪行を働こうとしている証拠を得る必要があるのだ。幻想郷の有力者が集まり監視の目が緩くなる時が何か行動する時だと。

 

立食パーティーが行われるというのにメイド長が人間の里に送られたのも、ここに姿を見せない幽々子も正邪の動きを監視することが目的だったらしい。

 

「いつもはリモートでの参加になるので、今日は皆さんと顔を合わせて話し合うのは何だか新鮮です」

 

さとりは少し嬉しそうに話した。いつもは画面越しだものね…。

 

「それぞれ心の内に秘めた物がありますからね…」

 

阿求が同情する様に言った。

…ううむ、彼女はト書きも読んで来るので余計な事が言えない。

 

さとりは阿求の顔を覗き込んでいる。

 

「残念ながら本当です。嫌われる妖怪たる所以ですよ。今朝、召し物が風で飛んで他所に落ちてたのを近所の方が教えに来ましたね?」

 

「…嫌わてるの原因は能力ではなく人の内情を徒に暴く性格にあるのでは?」

 

「ふぐう!!」

 

さとりは胸を押さえながらその場に倒れる。

私は彼女を抱き上げると近くの空いた机の上に寝せてあげた。

 

神子がこのメンバーがパーティー内にいない事を感づかれる前に解散しなければならないと言う事で、紫が連絡事項について手短に話した。

 

 

 

 

立食パーティーを後にすると、月の民ネットを開いて映画製作会社の公式サイトを開く。そこでとある映画を購入してダウンロードした。

 

今日は妹紅は後片付けが忙しくそのまま泊まるため帰ってこない。なので暇なのだ。

 

そう言う事で、あれからネットで今回の脱兎計画に関する騒動を調べている時に見つけた問題の映画、蓬莱人地上に堕つと言う作品を見るに至った。

 

本来は地上に憧れを抱く玉兎を出さない様にと言う意向から作られた本作は、狙いとは大きく外れて地上に憧れを持つ玉兎が増えてしまった。公開停止する動きもあったが、反対の声も多く有料にて公開と言う落としどころでまとまった。

 

…それにしてもダウンロードが終わらない。

 

「まだ起きてるんですね」

 

てゐだった。

 

「不老不死にとって寝る事も食べる事も趣味みたいなもんだしね」

 

「確かに」

 

私は今から映画を見るのだというと、今夜は寝つきが悪いから一緒に見たいと言い出した。なので私は膝の上にてゐをちょこんと載せて動画のダウンロードが終わるまで待つ。

 

「姫様、こっちにてゐが来ませんでした?」

 

今度は鈴仙がやって来た。お手洗いに行く途中で私の部屋に向かうてゐを見かけて、悪戯するのではないかと追いかけたのだという。話を聞くと彼女も寝つきが悪いのだという。

 

「フィンランドサウナで血行を良くするために体を叩いて使うヴィヒタと言う物を片手に、新たな白樺メンバーを結成した衛星局に単身突入する夢を見ました」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「なにそれこわい」

 

彼女も見ると言い出したので、一緒にダウンロード画面を眺めていた

いよいよ終わると、私は早速と動画を再生する。自己主張の激しいロゴマークと同時に本編が始まった。

 

画面に表示される主人公は私にそっくりだった。

 

「おい肖像権」

 

まぁ美人に描かれてるからいいか。

…やけに太眉に描かれてるのが気になる。

 

おそらく私がモデルであろう人物、三重は不老不死になった罪で地上に流刑になる。

しかし、地上に送られた私は農業をやりながら独り身で貧しい暮らしをしている。

 

「外見寄せてる割には初っ端から違うじゃん…」

 

まあ地上に憧れる玉兎を減らすためなので分かってたが…。

登場するキャラクターも平気で嘘をついたり裏切ったりして三重を苦しめる。

 

しかも月人の迎えが来ない。だから永琳をモデルにしたキャラも月に残ったままである。

蓬莱の薬は結局誰が作ったのか作中ではっきりしない。その辺にでも落ちてたんか…。

 

「はい歴史修正主義ー!」

 

「姫様、うるさい」

 

てゐに怒られた。だってさぁ…これ酷くない??

中盤に入ると住処を転々としていた三重は冴えないが優しい男…吾作と結ばれる。時代は鎌倉ぐらいだろうか。

 

そこからの恋愛シーンは割と力が入ってて、見てる分には普通に面白かった。

優しいが頭が固く融通が利かない吾作の窮地を三重が機転を利かせて事態を突破する…みたいな具合でテンポよく話が進む。

 

牛を使って田んぼを耕したり、稲を干したり、そういう描写が非常に丁寧だ。

近所付き合いのいい三重は近所の人から農作物をもらったりする。

 

…牛耕農法って鎌倉時代にありましたっけ?

 

月人に知り合いはいないはずだがやけに河城にとりにそっくりなモブキャラがいたのもジワる。

 

やがて吾作は年老い三重の事が思い出せなくなっていく。同じ場所に長く住み過ぎた事もあり近所の人々はやがて若いままの三重を不気味がる様になった。

 

ついに死んでしまった吾作の傍で、地上の民の短命さと永遠の永さを三重は嘆いていた。

 

作中の吾作は当時の時代的にはかなり長生きしてた事になるが、敢えてそこはツッコミを入れなかった。

 

「……マジ無理こういうの…普通に泣く…」

 

「姫様、それティッシュじゃなくて私の耳です。やめてください」

 

物の怪の様に忌み嫌われ、同じ場所に長居できない三重。

次に引っ越した先では月に居た頃の知識を活かしてオーバーテクノロジーな薬を発明して人を治して回る。

 

意外にいい活躍してんじゃん…。

 

しかし、飛躍的医療の進歩により住処としていた国の国力が上がり近隣諸国のパワーバランスが崩れ各地で戦が頻発する様になってしまう。他国に押さえつけられ燻っていた城主の野心に火が点いてしまったのだ。

 

人を救うために始めた事が、結果的にに大勢の怪我人を死人を出す結果になってしまった。「こんなはずじゃなかった…」半ば捕らえる様に城に匿われていた三重は自責の念に堪えられなくなりそう何度も呟きながら何もかも捨てて遠くの山林に逃げ延びる。

 

「わ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

「ひ゛め゛さ゛ば゛ぁ゛!!!」

 

私と鈴仙は泣きながら抱き合う。

てゐは困惑しながら私達を眺めていた。

 

「三竦み状態で保たれた均衡だったって言うか…。でも遅かれ早かれ戦にはなってたと思うよ。方広寺鐘銘事件の『国家安康』『君臣豊楽』ぐらいの難癖をつけてでもね」

 

彼女は肩をすくめて半笑いした。

 

その後、戦果に期待して戦力を投入し続けたが三重がいなくなった事で頼りの医療の品質は落ちてしまい、両国共に戦を続ける事ができなくなった。その年を襲う冷害に大飢饉が発生し、流行り病も発生しとどこまでも鬱展開が続いた。

 

城から逃げて一向に画面に映らない三重がどうしているのか各々気になっていたが中々映らない。

 

「皆どうしたの?」

 

永琳がやって来た。私達が見てる動画を見て吹き出した。

どうやらこの映画を私達より先に見ていたらしい。

 

当人は時代考証的におかしな点や、物語の進行上の都合のためとはいえかなり無理がある一部の描写についてツッコミをいれたりして楽しんでた様だ。

 

翌日の仕事も考えれば早く寝るべきではあるが、珍しく悪ノリして一緒に最後まで見る事になった。永琳が話ごとのエピソードや小ネタ、元ネタや雑学や時代考証的な間違いなどを踏まえて教えてくれるのでとても勉強になった。…ただ永琳の笑いのツボは良く分からない。

 

永琳とは運命を共にして生きてきたが、彼女は外の世界の事をよく見てたんだなぁととても感心する。長生きしてると目まぐるしく変わる世の中の変化についていけなくて、様々な事に無関心になってた。数十年の年月の出来事が昨日の事の様に思える。

 

終盤でようやく映った三重は寂びれた小屋の様なみすぼらしい家でホームシックになっていた。

窓から月を見上げ、それでも自分は地上で幸せになって見せると決意を新たにする所で本編は終わる。

 

前半は地上はロクな所じゃない、月での暮らし最高!みたいな主張を前面に出した様な内容だが途中から製作の思い入れでもできたのか人間ドラマの美醜が丁寧に描かれていた。

 

地上の民が作ったという事なら首をかしげる様な所も多々あるものの、月の民が作ったという事を考えればかなりの再現度の高さと言える。

 

どんな困難にも総じて前向きに生きる三重、生きる事が苛酷で不便も多いがそれ故のドラマとロマンもある…そんな所がウケたらしい。現代人が時代劇を見て楽しんだり、その時代にタイムトラベルしてみたいとか言う感覚に似てるのかもしれない。

 

私達はそれから1時間ぐらい、意見交換をしたり感想を話し合ったりした。

 

何だかちょっと若返った気分だった。

それからは襲いかかって来た強烈な眠気に誰も部屋から出られず、そのまま私の部屋で皆寝てしまった。

 

…たまにはいいよね。おやすみ皆。




タイムトラベルするなら過去より未来に行きたいけど、もし未来が未来世紀ブラジルみたいになってたら嫌だなぁ…。
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