永琳が戻って来るまで一人で地霊温泉に向かう。
その途中で人が倒れているのが見えた。
私は体をゆすって無事を確認する。
その人はガバッと体を起こすとこちらを向いた。
誰かと思えばあの古明地さとりの妹のこいしじゃないか。
「おい中村、ここから14番掩蔽壕が見えるか」
「誰が中村だ」
とにかく見つけてしまったので、さとりの元に連れて行ってあげよう。
「さとりお姉ちゃんが心配しているよ。一緒に行こう?」
「鉄条網を突破する気か。いいだろう」
相変わらず何言ってるか分からないが、ついて来てくれるようだ。
旧地獄にはあまり来ないので道に詳しくない。温泉までの道は丁寧に案内されているが…。
温泉から少し離れた場所に簡素な建物がある。これが事務所の様だ。
ドアベルを鳴らすと中から赤髪おさげの子が出てきた。
「はい、何かご用…あれ、こいし様?」
「見かけたから連れてきた。あんたのご主人、探してたでしょ?」
「え、ええ…。えっとどうしよう、今さとり様はお取込み中で…」
『目に刺さるニャン!おっぱいぷるんぷるん!』
上からさとりの怒声が聞こえる。何やら立て込んでいるらしい。
当の彼女らも忙しそうだ。仕方がない。
ここはもう少しの間面倒をみようじゃないか。
「今日はひとっ風呂浴びに来たんだ。その間だけ面倒を見るよ。それでいい?」
「すみません、ご迷惑をおかけします。これ、クーポン券です。良かったら使ってください」
「ありがとう」
クーポン券を受け取った。事務所を後にして永琳に連絡するも、思ったより手こずってるらしくもう30分はかかるとの事だった。
さすがに先に風呂に入ってるのはどうかと思ったので近くの商店街を見て回る事にした。
何か面白いものないかなぁー。
しばらく見て回っていると、霊夢がベンチに座ってイカ焼きを食べていた。
「珍しく景気いいね」
「あたぼうよ。博打で鬼をひん剥いてやったのさ」
「勝ったの!?鬼に!??」
賭け事にはめっぽう強いと耳にした事がある。
鬼との交友ができる様になったと言っても大抵は惨敗で帰るという噂だ。
人間の大抵は鬼との賭け事と言う非日常的な遊びを楽しむのであって勝ちに行く事は少ない。
当の彼女も鬼を相手に大敗を喫してしまい、竹林にタケノコを掘りに来てたのをよく見た妹紅から聞いていたが…。
「イカサマを暴いてやったのよ」
地霊温泉の賭場はイカサマに寛容的だ。
基本的に騙される方が悪いとされる場所なのだ。
代わりにイカサマを指摘する『告発』と言うシステムもある。
イカサマを指摘してそれが証明された場合はそいつはゲームに応じたペナルティと身体チェックが入る。
告発に成功すればイカサマ師から罰金が貰える特典付きだ。
ちなみに無闇に告発できない様に証明に3回失敗するとお手付き扱いとなってその日は告発できないようになる。
霊夢は手口が分からないから野放しになっていたイカサマ師にわざと勝負を仕掛けたらしい。
勝負の最中に道具に細工し、相手がイカサマをしたと告発した。
一文無しになりギャラリーに徹していた時代に見抜いたイカサマ師の共謀者だった店員が身体チェックに入るが、こちらは既に買収してて手を打ってあった。そこでそいつの不正の道具を奪われてしまう。
仕上げに正々堂々と勝負を挑み、正面から相手を打ち破って金を毟ったらしい。
「目には目を、歯には歯をって奴ね。種明かしされて乗り気じゃなくなった相手を挑発して勝負の場に立たせるのが一番難しかったわ」
「それにしてもよく賭け金なんてあったね」
「ある訳ないでしょ。今日中に5倍にして返せなかったら裸踊りでもスピリタス一気飲みでもしてやるって言ったら喜んで貸してくれたわよ」
それだけ自信あっての事なんだろうが…。霊夢の話によれば最初のイカサマ以外は不正無しに勝利しているのだ。普通じゃない。
彼女は酒をグビグビと喉に流し込んだ。それから笑いながら何かを取り出す。虎柄のパンツだ。
「最後は持ち金ないのにどうしてももう一勝負して欲しいって懇願してきてね。だから私は金を、相手にパンツを賭けさせて勝負してやったの。相手は今頃、股座が寒いでしょうね」
確かに鬼のパンツは高額で売買できる。だが…。
「そのパンツ、旧地獄のお土産コーナーで買えるパチモンだから高額買い取りはないと思う」
こいしがケタケタ笑いながら言った。
「はあ!?」
霊夢が焦った顔をする。
それから財布の確認を始めた。
「だ、大丈夫。また勝てばいいから…」
「これに懲りたら賭け事なんてやめなさいよ……」
私は数万ほど貸してあげた。調子に乗って旧都の酒なんて買うから…。
ようやくやって来た永琳と、こいしと一緒に温泉に入った。
この熱過ぎずぬる過ぎずの絶妙な湯加減。使用された木々の独特な匂い。
清掃が隅々まで行き渡っていている。
体中から疲れと言う疲れが抜けていく。
「これで夜景が見られたらもっといいんだけどもね」
永琳が笑いながら言った。確かに言えてる。
それからさっきの霊夢の話をした。
「貸したはいいけど、あの子に返す充てあるの?」
「さあ」
私は肩をすくめた。
「ああ言うタイプは絶対に懲りない」
こいしは手で水鉄砲して遊びながら言った。まぁアレで懲りるぐらいならそもそも前に毟られた時にギャンブルに手を出そうなんて考えなくなるだろう。こいしの言う通りかもしれない。
今回はすぐに返しに向かったようなので裸踊りは避けられたと思うが…。
永琳はため息をついて腕を組んだ。
「本人のためにもならないし、もう貸しちゃ駄目よ」
「わ、分かってるって…」
もし土下座とかされたら心が揺らぎそうな気がする。
思えばにとりに金を貸した時もそんな感じだったし。
私は遠くで忙しそうに動き回ってる妖精を眺めた。
考えてみると私もにとりから金を返してもらえなかったら困る訳だよなぁ…。
「私も働いてみようかなぁ」
「手伝ってくれるの?」
「ううん、永遠亭でじゃなくてさ」
なんだ、と肩を落とす永琳。
そういえば、文々。新聞には求人の広告が出ていた気がする。
帰りに店に寄って買って行ってもいいかもしれない。
「うちに来たら?」
こいしは水鉄砲を私の顔に浴びせた。
「あんたの世話なら考える」
私はお湯をかけ返した。永琳はそんな様子を笑って見ていた。
温泉を後にすると、私達は改めて事務所に向かった。
お燐から執務室に案内される。
「すみません、妹がお世話になりました」
さとりは手櫛で髪の毛をざっくりと整え頭を下げた。
「ほらこいし、あなたもお礼を言いなさい」
「はぁい。また遊ぼうね」
こいしはウィンクをしてあっちに戻る。
「それにしても、大丈夫?かなりお疲れの様だけど…」
永琳が心配そうに言った。服はくたくたで血色も前より悪く見える。
心なしかサードアイも充血して見える。
こいしはさっさと部屋に入り、彼女はコーヒーを淹れて私達に出した。
「新人育成がイマイチ間に合ってなくて…。細部まで目が行き届かないからそこそこケアレスミスも生じてるんです」
永琳がデコのあたりを抑えた。
頭抱えるほどじゃないが、彼女にもよく似た様な経験があるらしい。
私はどちらかというと人を振り回して来た質なので何とも言えないが。
「永遠亭の様に一枚岩には行きませんね…。人材を適材適所に捌くその手腕の秘訣、是非ともご教授願いたいものです」
永琳は笑った。
「粉骨砕身、全力で事に当たってるだけですわ。ね、姫」
その意地悪な笑顔やめろ。
それからお互いにしばらく取り留めのない話をして家に帰った。
さとりは私ならバイトでも大歓迎だと言っていた。根拠はよくわからないが。
家に帰るとスマホのゲームを少し進めてレビューをメモに書き溜めた。
眠気で瞼が重くなって来た頃、私はベッドに入った。
これからやる事について思いを馳せながら眠りについたのだった。