とんでもないイケメンだった。
「おお…おお…わが娘プリシラよ…よくぞこんな玉のような子を産んでくれた…」
「…」
「…そろそろ母に抱かせてはくれぬか」
「やだ」
「祖母に抱かれた孫は脳が良くなると」
「言わない」
「あまり長時間母親に抱かれた赤ん坊は脳に悪影響が」
「出ない」
絵画世界のアイドル・プリシラが身ごもったことで、住民たちによって血眼になって犯人探しが行われた。可能性のある者は文字通り八つ裂きにあい、それまでの静寂が嘘のように恐慌状態となった。ベルカが心を鬼にして武力制圧していかなければ、完全な廃墟となっていたかもしれない。
プリシラの心は深く傷つき、霧の扉がかかった部屋に閉じこもってしまった。中に入れるのは母であるベルカだけ。
それでもイケメンだった。下半身はタコのように何本も足が生え、先端がヘビの頭になっているのが玉にキズだが、そんなささいな問題など帳消しになるほどのイケメンだった。
ベルカは目の前に宝石を見せびらかされながら近寄れない状況に身もだえした。プリシラは内緒で複数の男と関係を持っていたので、父親が誰かはおそらく特定できない。おそらく気に入った男とおやりになってしまうのはイザリスの家系がもつ宿命なのだろう。ベルカもシースと出会った日におやりになったし、母であったイザリスの魔女も複数の男との間に7人の子供をもったのだから。
それにしてもイケメンだった。透き通るような白い肌に切れ長の瞳、手入れしたかのようなツヤのあるまつ毛、整った鼻先に控えめの唇。赤子の段階でこのイケメンぶりであれば、長じてどんな超絶美男子になってしまうのか、想像するだけでベルカは正気を失いかねなかった。
「プリシラ、あなたのお父さんのことは前に言ったね?」
「太陽の光の王グウィン」
「もしあなたが男の子を産んだってわかったら、きっとさらいにくる」
「嘘つかないでよ」
「もし本当に来たら?」
「守る」
「そう。でもそんな心配せずに暮らせる方法があるよ」
「ママ、詐欺師みたいな口ぶりだよね。何考えてんの?」
「これ」
ベルカがつまんで見せたのは、ほのかに光る白金の指輪。生まれた性と所作を逆のものにする『化生の指輪』だった。
「これで女の子として育てよう」
「この子は男だよ」
「でもそれを知ってるのは私とあなただけ。女の子だったらあいつはさらいに来ない」
「すぐばれるよ」
「ばれないばれない。だってそんなにかわいいんだもん」
「かわいいのは認める」
「でしょ?ずっと一緒に暮らしたいでしょ?あいつにさらわれたくないでしょ?」
「一緒にはいたいけど、なんか、うまくだまされてるように聞こえるんだけど」
「じゃあさらわれてもいいの?」
「やだ」
「それじゃ女の子として育てよう。いい?」
「…少し考えさせて」
結局、プリシラの息子は娘として育てられることになった。
「…まずい」
まもなくプリシラの子は四六時中ベルカの心臓を傷つけることになった。
頭脳明晰、スポーツ万能、おまけに超がつくほどのイケメンならぬ美少女。そんな才能の塊が「おばあさま」となついてくるのだ。興奮で心臓がもたない。
「はぁ…はぁ…」
実の娘、自身を母と慕う少女、そして宝石のような孫。そして心優しき人々と穏やかな日々。こんな幸せな日常が続いてよいものか。
運命はそれを許さなかった。