アノール・ロンド、忌まわしい謁見の間。その日も夕焼けはぶち壊したいほどきれいだった。
気疲れが続いたためか心なしか小さくなったグウィンの前に、プリシラの子とベルカがひざまずいている。
「おじいさま。初めまして」プリシラの子が言った。
「おお。こちらにおいで」
身につけた衣をなびかせ、グウィンの膝に腰掛ける。祝福を施された純白の生地、金糸の刺繍は光を反射し、絶世の美貌とあわさって満月が現出したような美しさだった。謁見の間に集まっていた騎士達もその麗しさに思わず息を飲む。
「ほっほ。さすが我が孫。余にそっくりだ」
「大王。その子は生命狩りの能はないといえど忌み者の子、ゆえに未だ名がございません。名付け親になっていただけませんか?」
ベルカは顔を伏せたまま、姿勢を崩さずに言う。グウィンに血のつながりが一切ないのをさとられないように。
「おお。そうかそうか。では余の心残りを埋めた者として、グウィンドリンと名付けよう。余と同じく、この光の世を陰から支えるのだ。よいな」
「はい。おじいさま」
一斉に拍手が起きた。
「ベルカよ。お前にも世話をかけた。改めてアノール・ロンドで過ごすことを許そう」
「ありがたきお言葉。ですが私は忌み子を産んだ身。清浄な世界で暮らすことは許されません。絵画の向こうで王と王女の繁栄をお祈りしております」
グウィンはわずかに眉を動かした。「そうか。お前は今でも我が妃、不便のないように何かよこしてやろう」
「そのお気持ちが最上の贈り物でございます。けがれた私のことはお気になさらず、むしろ、私はなかったものとお考えを。王の寵愛を受け、私は幸せでございました」
「よかろう。では誰か見送ってやるといい。ご苦労であった」
それを聞いたベルカはついに一度もグウィンと顔を合わせることなく、振り返って謁見の間を去った。グウィンドリンは寂しさをさとられぬよう、口だけ「お元気で」と動かした。
* * *
「ただいま、我が家!」
白い灰が降り積もる教会。ベルカが半日ぶりに帰ってくると、折れた剣やたいまつを持った住民と、大鎌をかまえたプリシラが出迎えた。
「ベルカさん、お嬢様は別棟に隠れてますから安全ですぜ」
「オッケー」
「久しぶりに太腕が鳴るぜ」
「鍛冶屋のおっさんも準備万端ね」
「ぼ…僕は戦いは嫌です…けど…殴ってきた相手が…勝手に傷つくのは許されますよね…」
「因果応報!」
「コケー!!」
「頭がカラスになると喋れなくなるのは不便よな。っていうかコケーってニワトリじゃあるまいし。カーだよ、カー」
「コケー!!」
「まったく。あれ?バーニスのあんちゃんと竜は?」
「私の部屋を守る最終防衛ラインだ、と橋の向こうに」
「えー、そこまで行かせないよ」
ボッ…。
「…」
焚き火が揺らぎ、ベルカを含む誰もが橋の向こうに注意を向けた。
ガシャ…。ガシャ…。
金属の擦れる音とともに、鎧に身を固めた騎士達が向かってくる。グウィンの贈り物にして、あの世への見送り人であった。