グウィンがよこした討手は誰一人帰ってこなかった。しびれを切らし、王の刃キアランを呼び出す。
「キアラン、参りました」
「討手がやられるのは多くとも半分とお前は言った。だから余はお前が言った数の倍を送った。それでなぜまだ報告がないのだ?」
キアランは両手を組んで言う。「我が君。グウィンドリン様が聞いておられます」
「そうだった」
グウィンは孫を見て言う。「おじいちゃんは大事な話がある。お前は向こうで本でも読んでいなさい」
「おじいさま。ここにある本はすべて読んでしまいました」
「ほっほ。そうか。さすが我が孫だ。ではおじいちゃんがクイズを出そう。難しいぞ」
「はい」
「第一問。ローリング回避の無敵時間は所持重量によって変わる。全部で何種類あるか。つぎ。第二問。寵愛と加護の指輪のみを装着したときに所持重量が96.0のキャラクターがいたとき、特定できるステータスと数値はいくつか」
「質問がございます。どちらの問題もレギュレーションによって答えが変わらないことは存じ上げているのですが、シリーズによって答えが変わってしまいます。どうすればよろしいですか」
「うむ。では1に限定しよう」
「わかりました。答えは…」
グウィンドリンが答えようとしたとき、グウィンの後ろでキアランが首を振った。
「…わからないので調べてまいります」
「うむ。お前は実戦経験がないからこのような問題は難しいだろうな。余のようにデモンズソウルで対人1万回積んでからまた来るとよい」
「はい」
グウィンドリンが銀騎士とともに去った後、キアランがようやく口を開く。
「我が君。私は混沌の魔女と生命狩りの力を見誤っておりました。かの力は我ら四騎士に匹敵するやもしれません」
「ならば全員を向かわせよう」
「なりません。皆が向かえば、誰がグウィンドリン様をお守りできましょう」
「そうだな。では一番弱いお前が行くと良い」
キアランは屈辱で身が震えた。
「お前ならば失っても余は困らぬ。よいか、二人を殺した証を持ち帰るまで顔を見せるな。期待しておるぞ」
「…はっ」
* * *
「大した自信だな」
絵画世界に足を踏み入れたキアランは、教会へ続く橋が健在であることに驚いた。ここさえ落としてしまえば絵画を修復するまで十分すぎる時間が稼げるからだ。ただ、驚きはまもなく別の形でやってきた。
鼻をつく血と肉の焦げる匂い。見せしめに引き裂かれ、千切られた人の断片。降り積もった灰の白い部分が見つからないほど、いたる場所で激しい戦闘が行われたようだ。空を舞うカラスにとってはこの地すべてがごちそうの載った皿といえる。
キアランが考えうる最大の戦力、それでも多すぎるほどだったのを、グウィンは念には念を入れさらにその倍の数を送り込んだ。ベルカがどれほど強くても、絶え間ない戦いのなかで武器は壊れ、魔法は使い果たし、無残に殺されたはずだ。
ならばなぜ討手の誰一人として帰ってこない?
キアランは事前の取り引きで得た情報をもとに、迷うことなく進んでゆく。討手は誰も生きていなかった。呆けた生き残りはみなこの世界の住人だった。キアランを気に留めず、生ける屍のように意思もなくヨタヨタと歩いている。
『久しいですね、ベルカ様。いや、忌み人たちの母、ベルカ』
『キアラン…元気そうでよかった』
『私は王の刃。ここであなたを討たねばならぬ』
『ねえキアラン。私たち、どうして出会っちゃったんだろうね』
『情けは無用。参る!』
「ベルカ様ーーーーーーーーー!!」
わずかながらそんな哀しき決闘になるまいかと妄想していたのに!ずっと妄想して濡らしていたのに!山びこだけが自分の叫びを晒すかのように恥ずかしくもこだましている。出口につながる崖の上でキアランは立ち尽くしていた。
取り引きした情報によれば、ここから飛び降りれば元の世界へ帰れる。結局ベルカと子が死んだ証拠は得られなかった。このまま帰ってもグウィンによる私刑が待っている。かといってここに留まっていれば、いずれ四騎士最強のアルトリウスも送られてくるだろう。この世界のどこかでベルカが生き延びていたとしても、アルトリウスと戦うことだけは避けなければならない。
ここへ来て得た事実をグウィンに話し、裁きを受けよう。もし取り引きが嘘でこの崖がただの穴だとすれば、…それでもよい。
キアランは身を投げた。直後、
「キアランーーーーーーー!」
耳に届いたなつかしい声にキアランは振り返った。目の端にとらえたのは、ぶんぶんと手を振るベルカと、黄色のターバンを幾重にも頭に巻いた、ウーラシールのジェレマイア。
そうか。ベルカ様は…
キアランは霧のように消え、アノール・ロンドへ帰った。見下ろしていた二人の後ろから、先ほどまで透明だったプリシラも実体を取り戻す。
ベルカはキアランがやってきてから去るまで、ずっと様子を追っていた。ウーラシールの秘儀、光をあやつる魔法のひとつである「見えない体」で自身を隠して。