「いい加減にしないと、お尻引っぱたくよ!!」
グウィンの霊廟、いまや『暗月の剣』の本拠地となった暗月の霊廟が地鳴りで揺れた。千年耐えるはずのガラス窓がきしみ、柱の輪郭が衝撃でブレている。
「ふぅ…お、おばあさま。ごめんなさい。怪我はありませんか?」
「命に別状がある重傷だけど、なん、なんくるないさー」
グウィンドリンの放った衝撃波でベルカは豪快に壁にめりこんだ。はみでた部分がブランブランと揺れ、助けを求めて手を振っている。あわててグウィンドリンが引きずり出そうとするが力なく、ベルカは渾身の力を振り絞って抜け出した。
「はー。…ね、かんたんでしょ。これが『神の怒り』。奇跡はただの物語だから、それっぽいものができたらオッケー。大きな衛兵さんはジジイがキレたときを思い出すんだってさ」
「魔術とは全然違うんですね」
「そそ。で、そんなにプリシラって怖かった?」
「…」
ベルカの問いにグウィンドリンが無言になる。
「よし!今のは忘れて、『雷の槍』やってみようか。ビリビリ溜めて、ドーン」
「びりびりためて、ドーン?…こんな感じですかね」
グウィンドリンが錫杖を持って振り下ろすと、極大の光弾が放たれ柱を貫いていった。なろう作品かな?
「どうでしょうか」
「え、えーと、すごいけど、でもドリンちゃん、持ってる杖がヘンじゃない?ドリンちゃんの魔力が全然発揮されてないように思えるんだけど」
「やっぱりわかりますか」
グウィンドリンが恥ずかしそうに錫杖をなでた。細かな黄金の装飾がきらきらと光る。
「鍛冶屋の方に作ってもらったんです、これ。太陽の信仰が高まらないと力が出ないように」
力がセーブされててあの威力なのは、やっぱりなろう作品かな?
「どうして?」
「私は王の娘ですから、いまは不得意でも、奇跡を使えるように頑張ろうって思って、これにしたんです。信仰が高まっていけば、この杖も使いこなせるようになりますから…」
「なんと健気な」
たまらずベルカがグウィンドリンを抱きしめる。直後、強烈な殺意を感じた。
「ベルカ様。言われたとおり、不死人の骨を持ってまいりましたが、なぜハグしているんです?」
あわてて手を離すと、女騎士が麻の袋をぶら下げたまま、仮面の奥から憎々しい視線をぶつけていた。
「あ、あらー。いいところに。じゃあドリンちゃん、霊廟の外で焚き火しようか」
「焚き火?」
「そうそう。オッサン直伝のリラックスアンドコミュニケーション設備!作り方を教えるから行こう。さすがにこれ以上お墓で騒げないでしょ」
「わかりました」
グウィンドリンがそう言うと、ふっと気配が消えた。
「あれ?」
「おばあさまー。こちらですー」
霊廟の外からグウィンドリンの呼ぶ声が聞こえる。
「グウィンドリン様は瞬間移動の御業も持っておいでです」女騎士が常識のように言った。
「はぁ!?」
* * *
霊廟の外、女騎士から骨片の入った袋を受け取ったベルカは、それを床に置いてグウィンドリンを問いつめた。
「ドリンちゃんテレポートできるの?」
「テレポート?そんなのできるわけないじゃないですか」
「今やったじゃん向こうからこっち!」
ベルカが何度も地面を指差すと、グウィンドリンはそのことですか、とクスクス笑った。
「ふふ。あれは転送です」そう言って錫杖を取り出す。「おばあさまはスペルスワップを使えますよね?」
「うん。魔法の使用回数を増やすテクニック。私それで絵画世界守ったり修復手伝ったりしてたんだもん」
「それならもうできたも同然です。あとは転送先の座標を指定して光を曲げれば」
しゃべりながらグウィンドリンは姿を消してはあちこちに出現する。
「ね?簡単でしょ?私、足がこんなので歩くのが遅いので、この魔術にはお世話になってるんです」
「…」それをテレポートというのだ。
「ジェレマイアのおじさまは『ウーラシールの宵闇様なら時間移動もお手の物だ』って言ってましたよ」
「じ…時間移動…」
ウーラシールすげえ。
行きたい。行って宵闇様とやらにご指導たまわりたい。そうベルカは思った。