霊廟の外。袋から取り出した骨片で山を作りながらベルカが聞いた。「ねえ、カリムからのお客さん帰った?」
「はい。手ぶらで帰しました」あっけらかんとグウィンドリンが答える。
驚いて手を止めるベルカ。
「なんでそんな失礼なことするの!?」
「切れ者だったからです」
「じゃあなおさら」
「敵国に有能な人がいると困ります」
「あー…」
ベルカは納得して作業に戻った。せっかく交渉を取りまとめた有能な外交官なのに、みやげもなく本国へ帰れば無能の烙印を押されるだろう。かわいそうに。
「よし」
できあがった小山にベルカが鍛冶屋に作らせた導火線を突き立てる。黒光りするその剣は先端が螺旋を描き、熱に強い。
そこへフッと火の粉の吐息を吹きかけると、パチパチと音を立てて静かに炎があがりはじめた。
「きれい…」思わず女騎士がつぶやいた。自然と三人とも火を囲んで座り込む。ベルカが袋を逆さまに振り、コトリと落ちたガラス瓶を小山に立てかけると、その緑色のビンは焚き火の炎であたたまり、徐々に黄色い熱を帯びてゆく。
「オッサンは酒瓶を置いてたんだけどね。ドリンちゃんにはまだ早いかな」
「おばあさま。先ほどから言うオッサンとはお父様ではないのですか?お父様はお酒を召し上がらいので」
「あーそっか。ドリンちゃん知らないもんね。昔ママのところによく遊びにきてたオヤジがいたんだ。毛むくじゃらで口が大きくて、いつも笑ってて酒臭かった。すごい腕力だったよ」
「酒臭いとは、お父様の友人のフラムトさんとどっちが臭いでしょう」
「誰それ」
「ご存知ないですか?お父様の友人です。真っ黒で首が長くて、でも歯を磨いてほしいんです、本当に。言いたくはないんですが、お話しするたびに楽しかった思い出が一つずつ消えるくらいひどい」
「口臭が」
「直球すぎ」女騎士は声を出して笑ってしまった。
「どんな話したの」
「姿を見せるのが恥ずかしいなら姉のグウィネヴィア様の幻影を作れって」
「作ったんだ」
「はい。お姉さまの寝室だった場所に」
「そこで私は毎晩グウィンに抱かれていたんだよ」
「ええー!?」
「まあいいや。続けて。で、幻影を作ったら」
「注文がとにかく多いんです。肖像画そっくりにしたのに、胸はもっと大きいとか、揺らせとか、揺れ方を自然にしろとか、右胸のホクロの位置まで注文をつけて。ほんっと気持ち悪い」
「はい本音いただきましたー」
自然と三人の会話がはずむ。
「ね。リラックスアンドコミュニケーション設備でしょ、これ」
「はい」
「一人ぼっちでもここに集まれば、知らない人とでも話せるようになるんだ。だから、これをロードランの色んなところに作れば、少しはさびしくなくなると思う」
「おばあさま、それ名案です。ぜひ作りましょう」
「これ燃料はなくてもいいんですか?」女騎士がベルカに聞く。
「うーん…、火の持ちはいい方だけど、ソウルを注いだり、もしくはたくさん持ってる人がメンテナンスしたり、しなきゃいけない。私がイザリスにいたときは妹がやってくれてたけど」
「では整備士も用意しましょう」グウィンドリンが言った。
「その役目、ぜひ私に」女騎士がすぐに答える。
「みんな頼もしいね〜」
けらけら笑いながらベルカは温めていたビンを持ち上げる。黄色く変わったフチの中で、熱がゆらめいてオレンジ色に光っている。
「ほら、飲んでみて」ベルカが女騎士に差し出す。騎士は兜を脱ぎ、栗色の髪を下ろすと、ビンに口をつけて傾けた。
「…あったかい」
「へっへー。酒だともっとキモチイイんだけどね!はい、じゃあドリンちゃんに渡して」
「私は猫舌なので最後で良いです…」
「えー、せっかく片思いからの間接キスをお見舞いしてやろうと思ったのに」
「か、間…」赤面した女騎士は反射的にベルカの背中を引っぱたいた。
「痛ったー!!」