「ふん!ふん!」
アノール・ロンドの大通りで、狼騎士・アルトリウスが左手に弓を持ったまま、走ってはジャンプし、くるくる回っている。
「何やってんの」
「おおー!我が宿敵、罪の女神よ!ここで来たる戦いに備えているのだ!とう!」
次に着地したとき、アルトリウスは得物の自称・聖剣を左に構えている。
「ほれ」
ベルカに向き直ったアルトリウスはふざけた声とともに剣を突き出した。狼騎士の巨躯と同じほどの巨大な剣は、一瞬にしてベルカの首をかすめた。血の気が引く。むしろ、よけようとしていたら命中していたかもしれない。
「はっはっは。見よ、罪の女神よ!腰に下げたレイピアの速さで聖剣を突く秘儀だ!」
「あんた、今まで左利きだと思ってたけどその技を使うためだったのね」
「そのとおり!このアルトリウス、ほうきを使うとき以外はすべて右利きなのだ!」
そう言って再度突くアルトリウス。
「ちょっと、危ない」さっきよりも内側に寄った剣に、ベルカが驚く。
「ほれほれ」ベルカが逃げるのをからかうように、アルトリウスが剣を突きながら追う。
「やめてよ!」
「…」
怒気をまじえたベルカの声に、アルトリウスが止まる。
「46人だ」
「なに」
「貴公が殺した我が同胞の数。46人だ」
「…私を恨んでんの」
「このアルトリウスだけではない。殿下がいなければ、皆が貴公を生かしてはおかぬ。感じないのか、アノール・ロンドを覆う憎しみがすべて貴公に向けられたものであると」
「…それは」
グウィンのせいだ。もしくはあのとき私は殺されるべきだったのか?くやしさと悲しさ、寂しさに答えが出ず、ベルカの目に涙が溜まる。
「すまなかったな」
アルトリウスが剣をしまった。
「このアルトリウス、いくら邪神といえど女を泣かせる資格は持たぬ。さあ、ゆこう」
ベルカが泣き止んで歩き出すまで、アルトリウスは静かに待っていた。
* * *
「おおー!我が相棒シフよ!なんでもない、なんでもないのだぞー!」
ウーラシールへ向かう道に、相棒の狼・シフと、見送りとしてグウィンドリン、暗月の女騎士が待っていた。そこへやってきたベルカが幾度も涙を拭っているので、シフが心配そうに鳴く。
「おばあさま。本当は盛大に送りたかったのですが、なにぶんこのような状況なので」
「…気にしてない。白教の引き継ぎはどうなったの?」
「灰の巨人ロイド様が引き続き主神の大役を引き受けていただけるとのことです」
「そう。じゃあ安心だね」
心を隠し、泣きはらした顔でベルカはニッコリと笑った。
「おばあさま。狼騎士様。くれぐれも油断なさらぬよう。何だかいやな予感がするのです」
「ご安心めされよ。祖母上殿がウーラシールに足を踏み入れたとき、すでに悪の根はこのアルトリウスに断ち切られているであろうからな!はっはっは!」
そう言ってベルカの背中をバンバンと叩く。
「念のため、王家の祝福を施した魔除けのペンダントをご用意いたしました。お二人ともお持ちください」
グウィンドリンが銀色のペンダントを2つ差し出した。狼騎士の紋章が焼きつけられたそれを受け取ったアルトリウスはお礼とともにシフの首にかける。
しまった。
そうグウィンドリンが口を開こうとしたとき、ベルカがアルトリウスの手にもう一つのペンダントを握らせ、言った。
「邪神は悪に強いから平気。じゃあ行こ」
そう言って別れの挨拶もせず、すたすたと杖をつきながら行ってしまった。