アノール・ロンド、かつての謁見の間。ここを不死の英雄を迎える試練の間とすべく、改装作業が進められている。
「ねぇグウィンドリン様ぁー、いつになったら生き肉がやってくるんですかー、ハンマーの血が乾いちゃってますよー」
暑いのか素肌に浮いた玉のような汗をうちわで仰ぎながら、お団子ヘアの女が話しかける。それに背を向けるグウィンドリンは、台座に乗った獅子騎士の彫刻を回しながら、完成度を確かめていた。
竜狩りの獅子騎士、オーンスタイン。王が去ってからしばらくたったある日、爆発したような髪型のやべー男が霊廟にバイクをふかして乗りつけると、
「オヤジーーーーーーーー!!」
と号泣しながら手向けの花と惜別の品を置いていった。翌日、
「お
と書き置きとわずかなソウルだけを残し、彼は爆発頭の後を追ってアノール・ロンドを去ってしまったのだ。
「
有無を言わさぬ失踪劇にグウィンドリンは悲しむ暇も与えられず、やむを得ずソウルを竜骨に込め、オーンスタインのゴーレムを作っているのである。
「ねえ聞いてますかグウィンドリン様ー」
「うわっ」
女が背後から身体を押しつけ、グウィンドリンが飛びのく。
「もう四騎士ひとりもいないんですしー、わたしにー、血騎士スモウとかー、かっこいい名前くださいよー」
「…」
グウィンドリンは耳を赤くしそっぽを向いている。その様子に女はへらへらと笑った。
「あー、わかっちゃいましたー。グウィンドリン様わたしの胸がうらやましいんですねー」
「…それは違います」
「王女様のー、マボロシもー、胸ー、大きくてー、すごいリアルですよねー。グウィンドリン様ー、意外とー、そういうのお好きだったんですねー」
「違いますって」
「むっつりな変態さんですねー」
「汗が臭いのを勘弁してほしいんです!」
作業中だった面々が大声に思わず手を止める。
「…ひどーい」
磨かれた床に汗の水たまりを作りながら、女が泣き始めた。確かにこの言い方はない。
「…すみません」
「来ないでよー。クサいんでしょー、わたしー。ふくすんふくすん」
「グウィンドリン様今のはあんまりなのでは」
「汗なんてみんなかくでしょう」
「パワハラですよ」
「前の王のほうが不満があったら一思いに殺すぶんまだマシだった」
「いやそれはない」
「だいたいこういう会話ギャグって作品を知ってる人以外全然面白くないんですよ?わかってます?」
「見てくださいよ、もう1000字になっちゃってるじゃないですか。タイトル詐欺ですよタイトル詐欺」
「ハンサムだからっていい気になるな」
「ハンサムしか取り柄のないハンサム女」
散々の言われようのなか、グウィンドリンは拳を握って声を張り上げた。
「何と言われようと臭いのは許しません。スモウさん。暑ければシャワーを浴びるように。抗菌グッズ、冷却設備、必要なだけ揃えます。皆さんにも言っておきます。なぜこの聖堂にタバコの吸い殻が落ちているんですか?喫煙所のルールを守りなさい。勤務時間中の飲酒は禁止。それから意見箱に毎週届きます。人事課長のワキガが耐えられないと。自覚症状があるなら申告しなさい。保険適用が可能か判断しますし、部署の変更も考慮に入れます。いいですかみなさん。ここは聖地アノール・ロンドです!火の時代を侵そうとする勢力がはびこる今、規律の乱れは決して許しません。一人一人、けがれなく、気高さを常に心がけるように。よろしいですね!」
はい!
「あのー、グウィンドリン委員長ー」
「私は委員長ではありません。なんですか」
「わたしの部屋にー、エアコン入れてくれるならー、委員長のことー、許すー」
「わかりました。あなたは不死の英雄を試すために健康でいなければならない身分。すぐに取り付けさせましょう。みなさんも業務効率を上げるために必要なものがあれば書式を守って書類を提出するように。書式にわずかでも不備があれば絶対に受け取りません。よろしいですね!」
はい!
「やったー、委員長ー、すきー」
グウィンドリンの思わぬ発言に、謁見の間が活気にわく。ただ一人、その場にあって名指しされた人事課長だけが、心に深い深い傷を負っていた。
* * *
林の中を、一本の幼木が意思を持つようにするすると移動している。滑るように。不思議に満ちたロードランにあって、その幼木の動きはあまりにも奇妙であった。ベルカはシフに引かれるまま、その後を追いながらつぶやく。
「このタイトル詐欺っぷりはありえない…」