「ドリンちゃんそれ遠回しに私のことブスって言ってない?」
ベルカが虚空に言った。気が触れたかと不安になるアルヴィナ。
「あ、今の独り言。で、そうそう。ウーラシールの光の魔術ってさ、闇を操る魔術なんじゃない?」
「ほう。続けな」
「暗い場所を明るく照らしたいとき、周りをもっと暗くすれば、相対的に明るくなる。だから光を作ろうと思ってあれこれ試す人には絶対に作れない。魔術を知りつくしてるシースにだって作れなかった。だってそうだよ、光とは対極の、闇の魔術なんだもん」
「あんた、あの白いトカゲの知り合いだったのかい」
「うん。でね、私の孫のドリンちゃんはウーラシールの魔術を学んでテレポートできるようになって、宵闇は時間を行き来できるようになった。それで思ったんだ。ドリンちゃんや宵闇は、たぶん私たちとは違う世界が見えてる。光を通して見るのとは全然違う世界が見えてる」
深淵の穴。結界に守られ命をつなぐシフ。黒い影の聴衆。深淵の魔物。それらと舌先三寸で向かい合うベルカ。
「私、アノール・ロンドの雰囲気もここの雰囲気も両方知ったからわかる。どっちも同じ。闇の力を邪教だ、悪いものだって決めつけるのは間違ってる。怖がんなくていいんだよ。だって光は闇から生まれるんだもん」
「…」
「ねえ、もしかしてグウィンってこのこと知ってたんじゃない?世界から光が消えそうになったから、新しい光、ドリンちゃんや宵闇が見ているのとは違う景色を作るためにアノール・ロンドを出ていった」
かすかにざわつく音が聞こえる。
「シースの図書館やママの家を封印したのって、自分の後継者の試練のためじゃなくて、このことを知られたくなかったからなんじゃないの?私はよく知らないけど墓王って人はもうこのこと知ってて、でも誰かにこのことを勘ぐられないようにシースやママに合わせて封印したんじゃないの?」
「ドリンちゃん、墓王には会えるって言ってた。もしかしたら私と同じことに気づいちゃうかもしれない。なんか、私、闇は邪悪じゃないのに、そのことを知るのはすごく良くない気がしてる」
「光が闇から生まれるって知っちゃったら、いまのこの世界や常識を守るために多くの人が傷ついたり犠牲にされたりしなくてもいいんだってなったら、私たち、何のために頑張ってきたんだろうって、胸がざわざわするの」
「そうさ。だからチンピラどもにダークレイスなんて大層な名前をつけて煽る出っ歯のヘビはね、火の時代を終わらせようとしているんだよ。自分たちのためにね」
まくしたてるベルカに、ようやくアルヴィナが口をはさむ。
「違うの!いや、違わないかもしれないけど…光が消えたら闇だって消える…ここ、深淵の入り口なんでしょ?闇の本拠地みたいなものなんでしょ?でも、ソウルに満ちてるよ。もしかしたらアノール・ロンドよりもずっと。ソウルは使えば消えるよ。だから闇だっていつか消えちゃう…ねえ、そうしたらどうなるの?知ってる?」
「深海の時代が来るのさ」
ドン!
カリムの手で小ロンドに穴が穿たれ、土砂崩れのごとく水が流れ込む。家々に覆いかぶさり、沈めてゆく。それは地響きとなって、小ロンドの目と鼻の先にあるこの地も揺らした。
がらり、とベルカの立っていた地面が崩れ、その身体は深淵の渦に飲み込まれていった。