輪の都とアノール・ロンド。画面を通してグウィンドリン、フィリアノール、ハーフライトのようなものの三人が複雑な表情のまま沈黙している。
グウィンがアノール・ロンドを去ってからやってきた息子。彼がグウィンドリンに手渡したのは、おそらく母がこの世を去ったことを告げる白いカーネーションだった。本来なら悲しむべき場面。
しかし三人とも彼女と面識がなかった。
「お姉様」
「ん、ん?何?ドリンちゃん。いいよー!お姉ちゃんに何でも聞きなさいっ」
「お兄様のお母様って、写真、とかで見たこととか、ないですか…」
「んー…」
グウィンドリンのいまいちな世間話に、腕を組み、目をくりくりと回して悩むフィリアノール。「お姉ちゃんくらいきれいだったって噂しか聞かなかったなあ。それにお姉ちゃんとも年が離れてたしほとんど話してないんだよね。結婚してお姉ちゃんが出て行っちゃってからも、私ずっとお父さんと一緒だったし。あとさあ」
フィリアノールが意地悪そうな顔をしながら、つんつんと画面を指差す。「お父さんの奥さんてみんなすっごい美人じゃん?だからお姉ちゃんくらいきれいだったっていっても『ふーん』って感じなんだよねえ。だってさあ、ドリンちゃんのお母さんもさぁ、ドリンちゃんみたいな可っ愛い〜子産むくらいだし、さぞきれいな女性なんでしょ?」
グウィンドリンが耳を赤くして顔をそらす。
「こ…こわい人です」
「会ってみたいわー、『おかあさま、ご子息の心身の教育はこのワタクシにおまかせください!』ってね!」
「お、お姉様、私は」
「隠してももう無駄だよん。ドリンちゃんはついてる子なのに女の子の格好してミッションスクールに編入しちゃったドキドキ学園生活の主人公だって、もうお姉ちゃんわかっちゃったから」
「???」
「そのうちわかる日が来るさ」
わかりたくないです、と言おうとして、フィリアノールが指で横を指しているのに気づく。意図を察したグウィンドリンはハーフライトのようなものを仕事に戻らせ、決裁を待つ人々を恫喝して下がらせると、二人きりで向かい合い、お辞儀をした。
「改めましてドリンちゃん。大王グウィンの末娘、フィリアノールです」
「初めましてお姉様。大王グウィンの息子、グウィンドリンです。未熟ですが、お父様から聖地を預かっています」
「うんうん、大王を継ぐにふさわしい良い返事だ」
フィリアノールが満足そうに何度もうなずく。
「お姉様、本題に入る前に、2つ質問していいですか?」
「いいよー」
「どうして私が男だってわかったんですか?ハーフライトさんにもばれてるみたいで」
「そりゃあオンナのしたたかさがないからよ」
「したたかさ、ですか」
「そうそう。ドリンちゃんは素直すぎるの。もうね、そんな子はオンナのエサよ、エサ」
「なんかマツコ・デラックスみたいな言い方ですね」
「は!?」
「いえ、すいません」
「だからね、毎日身の回りのお手伝いをしてくださってるお付きの女性の方にね、したたかく、しぶとく生きる女子道を学ぶといいよ」
「はぁ…がんばって、みます。それからもう1つ」
「はいはいなんでしょ」
グウィンドリンが迷い、机の下で指をこすりながら言う。「聞いていいことかわからないんですが、お姉様の髪、私のおばあさまそっくりなんです。くせのある、長い黒髪…」
「へー」
「私のおばあさま、混沌の魔女だったって言ってるんですけど」
「えー!あ、そうなんだ!」
「偶然ですかね…」
フィリアノールが髪に視線を向け、人差し指で巻きながら言う。「どうだろうね、もしかしたら私とドリンちゃんのおばあさん親戚かもしれないね。だって私のお母さん人間だもん」
「え、そうだったんですか」
「そうそう。お父さん内緒にしてたけど。まあ人の口に戸は立てられぬもんでね。隠しててもバレちゃうもんなのよ」
「お兄様と母が違うというのは、そういう理由で」
「うん。でも誰も知らない人だって。私そっくりのきれいな女性だったって。うれしいよね。私、見た目には結構自信あるほうなんだけど、噂が本当なら、それはお母さんのおかげだから。だからね、もしこの黒髪がお母さんがくれたものなら、大事にしたいんだ」
そこまで言って、ふっとフィリアノールの表情が変わり、目をグウィンドリンに戻して言った。
「で、私の命日が決まったんでしょ?いつ?」