【神槍】のイメージがしにくい方はガンダムユニコーンのビームライフルを想像していただければいいと思います。イメージ的には近いので。
※ちなみにあのビームライフルほど威力はありません。
薄暗い研究室の中、ボクの艤装を専用の工具で調整している女性がいた。周囲にはボクとその女性以外誰もおらず、ガチャガチャと機械をいじっている音がやけに大きく聞こえる。
これは……夢、というより過去の記憶だろうか。より正確に表現するなら、過去の記憶の映像を観ているような感じがする。
『博士、調整はいつ頃終わりそう?』
過去のボクが博士に声をかける。彼女は軍の研究員で、人類の中で一番セイレーンに詳しいと言われるほどの天才だ。ちょっと変わった人ではあるものの、ボクの艤装の点検などをよくしてくれた。
『んー、もうちっと待ってて。新しい機能とか追加してる途中だから』
何でもないように言う博士にボクは眉をひそめた。
『また変なものつけないでよ? この前なんて、博士の作った【
『でもそのお陰でセイレーンの注意をひくことが出来て作戦は成功したじゃないか』
『結果論じゃん……それに、やるなら事前にボクに知らせて欲しいんだけど』
『知らせたらサプライズじゃなくなるじゃないかッ!』
『そんなサプライズはいらないよっ!?』
突然キレだした博士に思わずツッコミを入れる。
『とまぁ、冗談はさておき』
『ボクは冗談に聞こえなかったんだけど……』
『シャアラップッ!! 取り敢えず、今回は変なものじゃなくて今後必ず役に立つものをつけてるのさ』
作業を続けながら、視線すらこちらに向けずに自信満々に答える。そんな彼女の背中にボクは呆れたような視線を向けた。
『できれば毎回真面目にやって欲しいんだけどね』
『可愛げないなぁ、あーちゃんは』
『その呼び方はあまり好きじゃないんだけど……せめてアスカって呼んでよ』
『だが断る。あーちゃんはあーちゃんだよ。それはいつまで経っても変わることはないさ』
意味深に微笑む彼女に、ボクは後頭部を掻いてどこか居心地悪そうな顔をした。
『それで、その追加する新しい機能ってなに?』
『んー、教えないっ!』
『いや教えてよ。正直、物凄く不安なんだけど……』
『えー? どうしよっかなー?』
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる博士をボクは冷たい目で見下ろした。
『もぅ、昔はあんなに可愛かったあーちゃんが、今はこんなに冷たくなっちゃって……』
『誰の影響を受けてこうなったのかは博士が一番よく知ってると思うけど』
『えへへ、そんな褒めるなよー。照れちゃうでしょー?』
『一つも褒めてないから』
いつものちょっとふざけたやり取りが繰り広げられる。現実ではしばらく会っていないからか、この光景がなんだか懐かしく感じられた。
『よしっ、完成っと……あー、疲れたぁ…』
そう言って座りながら工具で艤装をいじっていた博士がそのまま後ろに倒れ込み、その場でごろんも仰向けに寝転がった。
ボクはしゃがんで博士の顔を覗き込む。
『終わったのはいいとして、結局教えてくれないの?』
ボクの質問に対して、博士は少し困ったような笑みを浮かべた。
『本当にどうしよっかな。君の利になるものではあるんだけど、伝えようか、伝えないか、なかなか判断が難しくてね』
『博士でも判断が難しいものってあるんだね……』
『そりゃあ、私だって人間なんだから難しく思うものなんて世の中には五万とあるよ』
いつも【私に不可能などないッ!!】と豪語しているような博士らしくない返答に、ボクは内心で驚いた。
『それに、私は艤装の開発や研究などが専門ってだけでそれ以外はお手上げだよ』
『確かにそうだね。朝、昼、晩、いっつも料理黒焦げにしてるし……』
『うっ……』
ボクの指摘に博士が気まずそうな顔をする。
彼女は料理が大の苦手で、いつも料理を黒焦げにしてしまうのだ。というか、むしろ黒焦げ過ぎて炭になってるし。だからボクが博士の代わりに料理を作ったりしている。たまに塩と砂糖を間違えるけど。
『それに、まともに作れるのはカレーだけじゃん。しかもそのカレーに温度計刺して料理するのって多分博士くらいだと思うよ?』
『あーっ! あーっ! 聞こえないー! 聞こえないー!』
聞くに絶えなくなったのか、博士は両手で耳を塞いで叫んだ。
タイマーやレシピを使うのはまだわかるけど温度計まで出してくるところはさすがだと思う。ボクもやったことない。……今度、やってみようかな。
『そうやって向き合わないからいつまで経っても上達しないんじゃない?』
『そーいうこと言うんだ。へー。そういう意地悪な事を言うあーちゃんには新機能のこと絶対に教えてあげませんっ!』
『えぇ……』
どこか演技をしているように感じつつも、ボクは呆れたような声を出した。
『ほらほら、とっとと言った! 艤装の最終チェックあるしあーちゃんにずっと構っていられるほど私は暇じゃないの!』
『はいはい、わかりましたよーっだ』
少しいじけたような口調で部屋から出ていくボク。しかし、このまま視点が動かない。ボクの記憶なら、出ていった後の出来事がボクを中心に映し出されるはずなのに。
『はぁ……やっと行ってくれたかな……』
博士が一つため息をつくと、安堵したように呟いた。
『本当に教えなくてよろしかったのですか? マスター』
突如、どこからともなくこの部屋に声が響いた。その声は流暢であるものの、どこか機械的だ。
そんな声に博士は驚くことなく、さも当たり前のように反応した。
『マスターは私じゃなくてあーちゃんに設定してあるはずなんだけどね』
『おっと、これは失礼しました。それで、ドクター。二度目の質問ですが、本当によろしかったのですか?』
一度目とは違い、二度目の質問にはどこか少しだけ圧が込められているような気がした。
博士は普段見せないような難しい表情で答えあぐねていたが、しばらくして渋々語りだした。
『別にいいさ。彼に【コールドスリープ】なんていう一方通行のタイムトラベルの話をしても仕方ないでしょ。それに、この話を彼が聞いたらきっと取り外すように言ってくるだろうし…』
『彼はセイレーンのいない平和な世界を見たいとおっしゃっていたのでむしろ喜ぶのでは?』
『……以前、彼に【君だけ平和な世界に行けるなら、どうする?】と質問した事がある』
懐かしそうに話す博士に、声はしばらく沈黙したあと彼女に質問する。
『……答えはなんと?』
『【自分だけ平和な世界を見ても寂しいから行かない】だってさ……ほんと、笑えるよ』
『そう言う割には嬉しそうですね……』
『うっさい……その後、【それに平和な世界を見るなら博士と一緒に見たい】って言ってくれたんだよ』
少し頬を緩ませ嬉しそうに語る彼女に、AIは鬱陶しそうに呟いた。
『のろけですか? 他所でやって下さい』
『バカ言え。彼が私に向ける感情は恋愛ではなく親友へと向ける友情だ。それは私が一番理解している』
『私にはそうは見えませんが……』
『ははっ、そりゃそうだ。君がそう見えて、人の感情を理解していたら感情のあるAIと名付けてあげるよ』
『………………』
博士のジョークにAIは沈黙する。もしかしたら少し拗ねているのかもしれない。勝手にそう思っているだけだが。
その様子に博士は少し肩を落とすと、話を戻した。
『話を戻すけど【コールドスリープ】の事は彼には教えない。そして、これは彼が瀕死の状態になった時、強制的に発動させるようにしてある、いわゆる一種の生命維持装置だ。そしてこれが発動した時、【コールドスリープ】の期間は約300年という設定にしてあるため、その間彼は無防備になってしまう……』
『……300年、私が彼を守れと?』
『その通りだよ。艤装が破壊、もしくはなくしてあるなら君がその300年の間に資材を集めて修理しろ。怪我をしているなら薬品を使って治癒しろ。なんとしてでも彼を生かせ。絶対に死なすな。これは君の創造主である私の命令だ』
いつもの様子からは考えられないほど、彼女の
『かしこましました。300年、私が彼をお守り致します』
博士が初めて見せた強い感情に臆することなく、AIは淡々と了承した。
『しかしながら、ドクターは何故そのように焦られているのです?』
初めて見せた博士の強い感情から察知したものは、その固い意志に見え隠れする焦燥感だった。彼女は何かに対して焦っている。それが、何故焦っているのか理由がわからないAIにはどうしても不可解だった。
『……最近、KAN-SENという存在が突如出現したのは知っているかい?』
『ええ。なんでもセイレーンを倒せるほどの力を持ちながら、我々人類に協力してくれていると聞き及んでいます』
『そうさ。彼女達KAN-SENは人類が作り出した実験体よりも強く、そして数が多い』
『……なるほど。そういう事ですか』
少し回りくどい言い方をする博士に、AIは納得したように呟いた。
『そう。君の考えている通り、そう遠くない内に軍は実験体を全て処分するだろうね……KAN-SENという実験体より強力でコスパも良い彼女達がいるなら、当然、軍は彼女達と共に戦うことを選ぶだろう。そしてKAN-SENとの関係に
吐き捨てるように呟く彼女に、AIは静観することにした。今の彼女はしかめっ面で、いかにも不機嫌そうだからだ。こういう時は黙っておくのが最善の選択であるとAIは学習している。
『それに、これからはセイレーンとの戦争がより激化する。今までは奴らが好き勝手していたが、KAN-SENという強敵が現れた以上、向こうも全力で潰しに来るだろう……そして今までとは比較にならないほどの死人が出る。そんな激戦の中に彼を放り込ませるなんて私には我慢ならない。例え彼の意思を無視することになっても、私は彼に生きて欲しいんだ……』
『……………………』
『名も無きAI、君にこの気持ちがわかるかい? 誰かに生きて欲しい、幸せになって欲しいと願うこの気持ちが。たった数年、その短い時間ずっと彼の面倒を見てきた。嬉しい時も、悲しい時も、どんな時も家族のようにずっと私は彼と一緒にいた。私にとって、彼は良き親友であり、部下であり、家族だ。そんな彼を……優しい性格の彼を下らない戦争で死なせるなんて誰が許容できようか。これは所詮、私のエゴでしかない。しかし、私は彼を死なせないと誓った。私がいない世界に彼を送ることになったとしても、私は決して歩みを止めない。全てはこの私のためにね……』
静かに、しかし力強く呟いた彼女にAIはどこか自虐的に言った。
『私には……よく、わかりません。AIは人間の複雑な感情を理解できていませんから……』
『だろうね。すまないがAIに感情を持たせられるほど、私も賢くないんだ』
再びこの部屋に静寂が満ちる。
どれくらいの時間が経過したのか、博士はゆっくりと言葉を紡いだ。
『もう一つ、君に頼みがある』
『今度は命令ではなく頼み……ですか?』
不思議そうに呟くAIに、彼女はコクリと頷いた。
『ああ、そうだよ。これには君に選択肢がある。どうしようと君の勝手さ』
『それで、その頼みの内容とは…?』
『……300年間、ここのセキュリティシステムの管理を君に任せたい。私が他界した後、ここを軍に占拠されるのは避けたいんでね。もし上層部がこの施設を見つけた時、セキュリティシステムが機能していなかったら好き勝手されるのは目に見えてる。中には大事な物もあるから守りきれないと判断した時は遠慮なく自爆装置を起動させて盛大に爆破して欲しい』
『かしこまりました。私のコピー体と回線を接続、連動させます』
『決断早いねぇ……』
一秒も迷わない返答に、博士はどこか感心したように呟いた。
『創造主の頼みとあらば、私に断るという選択肢はありません』
『実に君らしい答えで安心するよ……』
そう言って博士は机に置いてあるコップを手に取り、中に入っている残りのインスタントコーヒーを飲み干す。
『……遠距離なら、彼は強いんだけどね』
突然、独り言を口にする博士にAIは淡々と答えた。
『それは【
『それだけじゃないさ。彼には狙撃の才能がある。剣は……まぁ、凡才だけど』
『よくそれで部隊長を勤められるものです』
『こーら、意地悪なこと言わないの。彼だって好きで隊長やってる訳じゃないんだし、少しくらい多目に見てやりなよ』
さらっと毒を吐くAIを博士は頬を膨らませて咎める。
『……ドクターは少し……いえ、かなり彼に甘いかと』
『これくらい普通だよ、普通』
『なるほど、これが俗に言う親バカですか……』
『今すぐバラバラに解体してやろうかこの毒舌AIめ』
創造主にも毒を吐くAIに、博士は「調整ミスったかなぁ……」と今更ながら少し後悔し始めた。
『ドクター、もし彼が今後生き残って【コールドスリープ】を発動させなかった場合はどうするのですか?』
AIの質問に博士は少し考えたあと、苦笑しながら言った。
『そうだね……彼が【コールドスリープ】を発動させない確率は3%未満だけど……もし、君の言う未来になっても私は今までとは変わらないよ。彼を全力でサポートする、その一点に限る』
『他の実験体にはそこまで言わないでしょうに……』
『彼は特別だからね。というか、他の実験体は癖が強すぎてあまり相性よくないんだよ……』
他の実験体のことを思い出したのか、疲れたような表情をする博士。その様子にどこか社畜のサラリーマンのような印象を感じた。
『まぁ、それだけが原因じゃないんだけど』
『他にも何か原因が?』
『KAN-SEN達が現れた数日後くらいかな……あの
険しい表情で言う博士に、AIは何の話なのかすぐに理解した。
『確かに……こちらのデータベースに記載されている研究員が何人か行方知れずになっていますね。時期も、丁度ドクターの言うKAN-SENが現れてから数日後です』
『可能性としては……上層部に消されたか、それとも鉄血か重桜の陣営に逃げたのどちらかだろう。鉄血や重桜はセイレーンの技術を用いて戦うからね……研究員達とは気が合うかもしれない』
『まさに毒を以て毒を制す……ですか。上層部が犯した禁忌と似通ってますね』
当然のように皮肉を言うAIに博士は気軽に答えた。
『ま、消されてる可能性の方が物凄く高いけどね』
『知られたくないから関係者は皆、口封じですか……ドクターもいつか始末されるのでは?』
『あははっ、確かにそうだね。でも奴らに私を始末することなんてできないだろうさ』
確信めいた事を言う博士に、AIはそれもそうだと納得する。セイレーンの艤装の残骸から新たな特殊艤装を作り出すほどの天才だ。彼女を殺せば、人類にとって大きな損失となる。殺したくても殺せないだろう。
それに、もし上層部が博士を殺そうと刺客を送ってきても、彼女は過剰すぎるほどの防衛手段を常に持っているので問題はない。
『さて、世間話もそこまでにしてとっとと研究でも再開しますか!』
んんーっ! と言いながら両腕を上に挙げて背筋を伸ばす博士。AIもその言葉に賛同し、一時的にシャットダウンした。
『私が死ぬまでには完成させておくつもりだけど……果たして彼は有効活用してくれるかな…?』
彼女は楽しそうな表情を浮かべながら今研究している対象へと視線を向ける。
そこには液体の入った巨大な容器があり、その中心でプカプカと揺れる
【らくがきコーナー】
アスカ「ボクはいつ目覚めるんですか?」
作者「次はちょっとした資料みたいなの作りたいから次の次かな」
アスカ「えっ、次じゃないんですか?」
作者「期待させてごめんち☆」
アスカ「えぇ……」