アズールレーン ━深海の瞳━   作:空白部屋

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見直ししてないからおかしい所あるかも。
あと、KAN-SENがKAN-SENを呼ぶときどういう名前で呼ぶのかわからないので間違ってる所があれば教えてくれたら嬉しいです。
(例:プリンツはエンタープライズのことをなんて呼ぶのかとか。


第五話 どこまでいっても謎だらけ

 

 KAN-SENとはなかなか面白い構造をした者だとボクは個人的に思う。突如として現れたセイレーンに対抗する人類の救世主でありながらセイレーンのように謎が多い。彼女達はいったいどこからやってきたのか、どうして女性だけなのか、何故見た目と釣り合っていない異様な力があるのかなど、本当にわかっていない事が多々ある。

 これはボクがコールドスリープする前の話になるけど、KAN-SENが出現した当時はセイレーンの増援かもしれないと警戒されていたので人類からはあまり歓迎されていなかった。しかし、彼女達は滅亡に近い状況に追い込まれていた人類に協力し、セイレーンを共に撃破することで一定の信頼を得た。

 付け加えるなら彼女達はセイレーンの撃破だけでなく、確保した海域で漁を行う漁船の護衛とその他の手伝いや、倒壊した市街地や港町の復興作業、セイレーンに襲撃された後の人命救助や炊き出しなど……数え出したらきりがない。

 これらの情報は全て博士から教えて貰った事であり、彼女は「もしかしたら近い未来、彼女達KAN-SENが国を引っ張っていく存在になるかもしれない」と言っていた。

 たしかに博士のその推測は間違っていないと思う。現に人類にとって彼女達には返しきれないほどの大きな恩がある。KAN-SENという不確か()()()存在を好意的に捉えている人がほとんどを占めているのがいい証拠だ。

 別にそれが悪いとは思わない。むしろ彼女達の協力を得ることで今まで衰退していくだけだった人類は大きな希望を見い出せたのだから。

 だが、ボクは彼女達KAN-SENを人類の救世主だと思うと同時に、まるで遅効性の猛毒みたいだとも思った。

 未知の存在であったKAN-SENは人類に称賛され、その人の枠組みを超えた力は敵を粉砕する希望と信頼されている。ましてや容姿は見麗しい少女ときた。一部のマスメディアで報道されていたため、世間からの反応も好印象。

 当時は本当に余裕がなかったとはいえ、こうもトントン拍子に物事が順調に進むと逆に怪しく見えてしまう。

 

 

(……こうやって彼女達が思い思いに過ごしている様子を見ると疑っている自分が馬鹿らしくなるよ)

 

 

 それぞれ桜の木の下で宴会やら鬼ごっこやらやっている姿を見ながらボクは小さく笑みを浮かべる。

 言わば捉え方の違いだ。平和とは言い難い環境で育った人類ではあるが……セイレーンに直接襲われたりしたのは沿岸部の人達だけだ。内陸部までセイレーンの直接的な干渉はなく『セイレーンのせいで沿岸部は酷い被害を受け、経済的なダメージを与えたため物資が高騰した』という認識くらいしかない。例え実際に現場を見たり被害者に聞いたりとした人もいるだろうが、それは頭では理解しているだけで直接的な被害を受けた少数の生き残りのように身に染みているわけではない。

 ボクは正真正銘、命懸けの戦闘をしてきたから人並み以上にセイレーンの脅威を身に染みて理解している。言ってしまえば違いはそこだ。セイレーンに直接的な被害を受けたか否か。その違いが多少なりともKAN-SENへの印象に関わっている。

 見た目や性格、人類との関係性などセイレーンとの違いは数多いが、そもそも彼女達はセイレーンと同様に突如として現れた。それ以外にも人の枠組みを超えた力や艦船を模した装備や戦闘など酷似している部分も同様に多い。

 実際に助けてくれたKAN-SENを疑う人もいるだろうが、それを表に出して言う人はいないだろうし、ましてやそんな事を思っている人自体がごく少数だ。例え声を挙げて彼女達への疑惑を唱えても大多数による好印象の意見がそれを抑圧する。

 上層部がマスコミを使って印象操作をしているのも間違いないけど、集団心理による効果もあるだろう。ほとんどの人がKAN-SENの存在を認めているから自然的に他の人もKAN-SENへの疑いや警戒心が薄れていく。

 こういった様々な現象が重なり合ったからこそ、彼女達は驚異的な速度で批判の声もなく人類に受け入れられたのかもしれない。

 ……それなりに長ったらしく考えてはみたものの、所詮これらの考えは博士から聞いた情報を整理して推理してみただけ。ただの個人的な推測でしかない。

 

 

(まぁ、ボク達がセイレーンと戦い続けていてもセイレーンを殲滅するどころかいづれじり貧で国が滅びる可能性が高かったんだけど……)

 

 

 なんせ実験体はセイレーンの一部を取り込んで色々と肉体を改造された上で出来上がるものだ。適合できる人間なんて滅多におらず、仮に適合したとしてもそのおぞましい実験に精神が耐えらずに植物状態のようになる事も珍しくない。だから実験体は数が少なく、KAN-SENが現れなかったら遠くない未来にじり貧で国は滅んでいた。

 そう思えばやはりKAN-SENは人類の救世主であり、信頼の厚い味方なのだろう。

 ボクが彼女達に猛毒のような印象を抱いたとしてもそれは何の影響もない個人の思想でしかなく、ノーリスクでハイリターンを得るなど夢でしかないことを考えると受け入れるという選択肢が最善なのだろう。どんな選択にも多少のリスクには目を瞑るべきなのが世の中だし。

 ……と、いうわけで結局何が言いたいのかというと━━━

 

 

 ━━━KAN-SENを讃えよ、美少女を讃えよ、可愛いは正義だ。

 

 

 以上、ボクの現実逃避でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、冗談はここまでにしておこう。ちょっと博士の()()()()なるものが移っていた気がするけど気のせいだと思いたい。

 それに、現実逃避したのにはちゃんとした理由がある。

 

 

(……やっぱりというか、視線の数が一つ増えてる)

 

 

 現在はエンタープライズさんと共に鉄血寮に向かっている途中だけど、いつの間にかこちらを監視するような視線が一つ増えていた。ちょくちょくエンタープライズさんからも視線を感じるけど、もう一つの方はボクをガッツリ見ている。それだけならちょっと気になるくらいで終わっていたんだけど、原因はどこから視線を感じるのかがわからないこと。

 これでも軍に所属していた頃は、余程の事がない限り視線の原因を特定できていた。というかほぼ確実に特定できる。それなのにボクが現在進行形で視線の原因を特定できていない。その事実がボクの心を容赦なくへし折りにくる。多少なりともあった自信が木っ端微塵に砕かれそう。というか若干砕かれてる。

 こちらを見ているのはKAN-SENだろうなと推測はできるけど逆に言ってしまえばそれだけしかわからない。なるほど、博士が敵対するなと言った理由がよくわかった。

 

 

(死ぬ気でやればそれなりに戦えると思うけど確実に負ける……)

 

 

 これは予想じゃなくて確信。セイレーンに勝てるのも道理だ。

 

 

「うん? 先程から貴方は何かを気にしているようだが……どうかしたか?」

 

 

 バレないように周囲の様子を(うかが)っていたけど、ボクの様子に気付いたエンタープライズさんが首を傾げながら問い掛けてきた。

 

 

「……いえ、周囲の桜が綺麗だったのでつい。気になったのならすみません」

 

 

 少し恥ずかしげに笑みを浮かべると、彼女は納得したのか嬉しそうに頬を緩めた。

 咄嗟に出た言い訳としては上出来だと思う。実際、桜は満開でとても綺麗だし嘘ではない。

 

 

「この時期は丁度、桜が満開になるんだ」

 

 

 どこか自慢気に語るエンタープライズさんの様子を見る限り、彼女もこの景色または桜そのものを気に入っているのだろう。その事にボク自身も嬉しくなる。

 

 

「ええ、桜の木の下で飲む日本酒はさぞかし美味しいでしょうね……」

 

 

 まだボクの家族が生きていた頃、桜が好きな祖父と一緒によく家族ぐるみで花見をした。その時の祖父は桜の木に背を預けながら朱色の(さかづき)で頬を緩めて日本酒を美味しそうに飲んでいたのがとても印象的だった。

 

 

「こら、未成年が言うものではないだろう」

「それもそうですね」

 

 

 育った環境のせいか子供っぽくない事を言ってしまう。眠っていた時間を含めれば300歳以上というとんでもない年齢になるけれど、肉体的には初めて人体実験を行った12歳か13歳くらいで完全に停止しているため一応、子供の部類に入る。

 エンタープライズさんの少し咎めるような視線にボクは苦笑いを浮かべるしかなかった。きっと真面目な性格なんだろうな。

 

 

「ところで、鉄血寮はあとどのくらいで着きますか?」

 

 

 これ以上話が弾むとボロが出そうなので少々強引ではあるが流れを切って話題を変える。

 

 

「もうすぐだ━━━っと、ほら。あそこにある建物が鉄血寮だ」

 

 

 指をさした先にはユニオン寮と同等の大きさを誇る建物があり、少々デザインは異なるものの建物の造りが同じなのでここが鉄血寮だと理解した。

 しばらく歩いて鉄血寮にたどり着いたボクは出入口で止まってどうしようかという視線をエンタープライズさんに向ける。

 

 

「ふむ、鉄血寮までの案内ならできるが……すまない、最後まで力になれなくて。私が代わりに鉄血寮のKAN-SENに案内を頼んでこよう」

「ありがとうございます、エンタープライズさん」

 

 

 ここまでよくしてくれたエンタープライズさんに気を遣わせるのは少し心が痛むけど、ボクが他のKAN-SENに声を掛けるよりマシだろう。もしかしたら変な疑いを掛けられるかもしれないし。

 こうしてエンタープライズさんが近くにいたKAN-SENに声を掛けようとすると、別の誰かがこちらに接近してくる気配を感じた。

 

 

「あら、誰かと思えばグレイゴーストじゃない」

 

 

 背後から聞こえてくる声に振り返ると、そこには艶やかな笑みを浮かべてエンタープライズさんに視線を向けるKAN-SENがいた。

 煌めく銀髪のツーサイドアップに、端正な顔立ち。赤と灰色の特徴的な服を着ており、大人びた雰囲気もあってかかなり色気があるように見える。

 

 

「……プリンツか」

 

 

 彼女の顔を見たエンタープライズさんの眉がほんの一瞬だけピクリと動く。あまりにも小さな変化だったのでボクでも見逃しそうだった。

 

 

「丁度良かった。少し、頼みたい事があるのだがいいだろうか?」

「ふーん……あんたが私に頼み事ねぇ」

 

 

 どこか楽しげに口端を上げるプリンツさんに、僅かに眉を寄せるエンタープライズさん。二人の事を深く知らないので判断できないけどもしかしてこの二人は仲が悪いのだろうか?

 

 

「あぁ、業者の方が案内図を紛失してしまってな……ヒッパーの部屋に荷物を届ける予定らしいのだが、手伝ってはくれないだろうか?」

「……業者が……そう」

 

 

 エンタープライズさんの頼み事を聞いて初めてボクの方に視線を向けたプリンツさん。その目はまるで何かを見定めるようなもので、居心地の悪くなったボクは逃げるようにして周囲に咲き誇っている桜を見た。

 興味が失せたのか、プリンツさんは再びエンタープライズさんに視線を戻した。

 

 

「貸し一つ……と、言いたい所だけれど別に構わないわ。ちょっと暇だったし退屈しのぎにはなりそうね」

「すまない、助かる」

 

 

 そう言ってプリンツさんが頼み事を了承したのを確認すると、エンタープライズさんは用事は終わったとばかりに踵を返した。

 

 

「先程聞いていた通りだ。目的地まではプリンツが案内してくれるだろう。大した事も出来ずにすまなかった……」

 

 

 顔だけボクの方に向けながら、エンタープライズさんは申し訳なさそうに言った。

 

 

「いえ、そんな事はないです。最初、ロング・アイランドさんの部屋まで案内してくれましたし、鉄血寮までの道のりもエンタープライズさんと話をしていてとても楽しかったですよ」

「そうか……そう言ってもらえると、嬉しいよ」

 

 

 一瞬だけ、どこか懐かしむように目を細めたエンタープライズさんは、今度こそ振り返る事もなく今まで歩いてきた道のりを戻っていった。

 

 

(そういえば……先程まで感じてた視線がなくなってる)

 

 

 立ち去る彼女の背を見送りながらいつの間にか消えていた視線に首を傾げる。あれほど強烈だった視線が突然消えると、安心する一方でどこか嵐の前の静けさのような不気味さも感じる。

 

 

「ねぇ、いつまでそこで立っているつもり? 早くしないと置いていくわよ?」

「あっ、すみません、すぐ行きます」

 

 

 プリンツさんの呼ぶ声にボクは一言謝りながら彼女の後に続いて鉄血寮の中に入る。寮の中はユニオン寮のように簡素でもなく、ボクが目覚めた場所のように豪奢でもない。何やら独特なデザインや物があれど、丁度この二つを足して二で割ったような感じだ。

 

 

「……一つ、聞きたいことがあるのだけれど」

 

 

 歩みを止めることなく唐突に、プリンツさんが口を開いた。

 

 

「? なんでし━━━ッ!?」

 

 

 ━━━ドンッ!!

 

 

 ……返事をしようとしたらプリンツさんに壁ドンされた。突然で驚いたけど、ちゃんとボクが反応できる速度に手加減されていたため特に抵抗することはしなかった。突き出された手も、狙いはボク自身ではなくその真横の壁だったし。

 

 

「えっと……?」

 

 

 何故、ボクは壁ドンされているのだろうか。博士から聞いたことあるけどこれって仲のいい男女がやるやつなんじゃないだろうか。

 突発的に起きた謎過ぎる状況に首を傾げるが、やった本人は至って真面目な表情で言った。

 

 

「あなた……業者じゃないわよね」

 

 

 射抜くような鋭い視線に、ボクは表情をひきつらせて冷や汗をかいた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 アスカと別れたエンタープライズは、来た道を戻りながら彼について考えていた。

 

 

「やはり、間違いではなかったのか……」

 

 

 自身の簡素なスマートフォンの画面を見ながら人知れず呟く。スマホの画面には艦内通信と呼ばれる掲示板が開いており、現在エンタープライズが見ている掲示板にはイラストリアスが保護した少年が姿を消したという情報が公開されていた。

 保護された少年とアスカ……特徴は酷似していたため、もしかしたらと思っていたのだが、その時のエンタープライズは少年(アスカ)が姿を消した事を知らず、ましてやそれが業者に成り済ましているなど想像もしていなかった。

 だからこそ、似ているなとは思いつつも結局は何も言わずに別れたのだ。普通はそんな状況になる方がおかしいので誰もエンタープライズを責められはしないが。

 

 

(まぁ、彼はプリンツが案内しているので問題は…………ないと信じたいが)

 

 

 エンタープライズとプリンツの仲はあまり良いとは言えないが、それ故によく相手の事を知っている。仕事では信頼できるものの、それ以外ではあまり信用できないので不安になってきた。果たして彼を預けたのは間違いではないかと思えてくるエンタープライズ。

 もしこの艦内通信を見ているなら彼女は必ず気付いているだろう。そのまま大人しく捕まえてて欲しいところだが、あの余裕を持ったいつもの表情を思い浮かべると素直にそうしてくれるとは到底思えなかった。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 小さなため息をついて艦内通信を見ていると、そろそろロイヤルメイド隊のメンバーがロイヤル寮から外に捜索範囲を広げるとのことだった。

 本来なら自分が行くべきだろうが、今から行ったところでアスカが他の場所に行っているかもしれない。二度手間の挙げ句すれ違いはさすがのエンタープライズも勘弁して欲しいと願う。

 しかし、何もしないというのもエンタープライズ自身がそれを許容できないので不慣れな文字打ちをしながら「少年を鉄血寮辺りで見た」という目撃情報を載せておいた。優秀な彼女達のことだ、すぐに事は終息するだろう。

 今後彼の扱いについては色々と気になるところだが……

 

 

(……気になる事と言えば、あの発言だろうか)

 

 

 エンタープライズの脳裏に浮かぶのはアスカとの会話の一部。彼が桜を綺麗だと言っていた時のことだ。

 

 

『ええ、桜の木の下で飲む日本酒はさぞかし美味しいでしょうね……』

 

 

 最初は知らない銘柄の酒類かと思ったが、多少酒を嗜む者としてよくよく考えてみればそうではない事がわかった。

 

 

「日本酒……か。彼は何故、大昔の重桜の国名を言ったのだろうか」

 

 

 重桜酒は、ビールやワインとはまた違った味わいのある重桜特有の酒だ。彼は日本酒と言ったが恐らく重桜酒のことだろう。今や日本という国名を知る者はほとんどいない。300年ほど前の人類の存亡を懸けた世界大戦時にデータや書類などほとんど消失したからだ。

 だから300年前の国名やそれに関する事を知っているのは軍の関係者か歴史の専門家くらいだろう。よほど詳しくなければ日本という国名すら出てこない。エンタープライズでさえ日本酒について考えた所でその国名を思い出したほどだ。

 

 

「謎は深まるばかり……か」

 

 

 青葉辺りならそれはもう喜んで暴きに行きそうだな、と思いながらその様子が容易に想像できてエンタープライズは思わず苦笑した。

 少しの間ではあるが、アスカはあまり自分の事を誰かに語ろうとはしないように見えた。けれど、だからと言って彼が悪人であるようには見えなかった。

 

 

(不思議なものだな……)

 

 

 普通はもう少し警戒なりなんなりするはずなのに、あまりそうしようとは思わなかった。

 もしかしたら彼は指揮官としての素質があるのかもしれない。そんな事を思いながら、エンタープライズは今後どうなるのだろうと少し先の未来に思いを馳せた。

 

 

 




『アズレンこそこそ噂話』

・明石はアスカのことを業者でないと気付いている。しかし何やらお金儲けに関する予感がしたのでわざと偽の業者に仕立て上げたらしいよ。

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