アズールレーン ━深海の瞳━   作:空白部屋

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主人公が救助されて寝ている間、数日経過していたというような表現がありましたがそれを消してほとんど時間が経過していないという風に改稿しました。


第六話 問題と責任

 

 周囲の音が消え去ったかのような静寂がこの空間を包む。鉄血寮の人通りのない廊下で、ボクはこの原因を作り出した本人であるプリンツさんに警戒しながら口を開いた。

 

 

「業者じゃない……ですか。見ての通り、会社の制服を着て仕事をしているのですが……」

 

 

 苦笑しながらおどけてみせるが、どうせこの言い訳も無意味になるだろうなぁ。そう理解しながら頭の片隅でこの状況を打破する方法を必死に考える。

 

 

「そんな粗末な変装で本気で騙せると思っているのかしら? だとしたらさぞかし滑稽ね」

 

 

 まさにおっしゃる通りです。

 嘲笑するような声音と表情でこちらを挑発するプリンツさんに心の中で同意する。実際問題ここまで上手くいっていたこと自体が異常なのだ。普通はこうやってすぐにバレてもおかしくはないのに。

 

 

「ちなみに……これからボクをどうするおつもりでしょうか?」

「さぁ、どうしようかしら?」

 

 

 プリンツさんは楽しげに言ってるけど、よくよく観察していると口は笑っているのに目が笑ってない事に気付いた。

 

 

(あ、これ駄目なやつだ……)

 

 

 昔、博士からこういう人物はかなり頭が回って面倒な相手だと教わったことがある。というか軍部の人間や実験体の中にいたよこういう人。

 しかも考え事をしていたら無言で更に接近してこようとしていたので思わずボクと彼女の間に段ボール箱を挟んで接近を止めた。

 そもそも壁ドンの姿勢だったからただでさえ近い距離が瞬く間になくなってしまう。今でも顔が真っ赤になりそうなのにこれ以上彼女に接近されるのは遠慮してもら━━━ってちょっと待って。挟んだ段ボール箱が徐々にへこんで悲鳴あげてるんですけど!? 

 

 

「あの、できれば離れてくれると嬉しいのですが……」

 

 

 すみません、すみませんと姿の知らないヒッパーさんに段ボール箱が三割くらい潰れていることを内心で謝りながら少しでも抵抗しようと体を壁ドンされていない左へ移動させようとした瞬間━━━鋼鉄でできた竜の頭がそれを防いだ。

 

 

「抵抗なんてしない方がいいわ。死・ぬ・わ・よ」

「あっ、はい」

 

 

 瞬時に艤装を展開させたプリンツさん。生身でも制圧できるだろうに、わざわざ艤装を使って脅してくる辺り彼女なりの優しさかもしれない。こうやって圧倒的な力の差を一切の暴力を振るわずに示せるのだから。

 これがもしボクじゃなく普通の人間だったらきっと恐怖のあまり泡を吹いて倒れるかも……いや、それはちょっと言い過ぎかな?

 ボクは観念したように肩を竦めると、抵抗しない事を示すために両手を挙げようとして荷物で塞がっていることを思い出した。

 

 

「あの……抵抗はしないので、それを解除して貰ってもいいですか?」

 

 

 艤装を見ながら取り敢えず言葉だけでもという思いで抵抗しない事をプリンツさんに伝える。すると彼女はしばらく何かを考えた後、軽く左右に頭を振ってため息をついた。それと同時に彼女が纏っていた艤装が細かい正方形になり、淡い光となってどこかへ消えた。

 

 

「怯えないのね……あなたは」

 

 

 呆れたような、それでいて感心したような複雑な表情で呟くプリンツさん。そんな彼女にボクはわずかに微笑みながら言った。

 

 

「ええ。だって、ボクを殺すつもりなんてなかったでしょう? それに、そもそも無闇に危害を加えるようには見えませんでしたから」

「……言っておくけれど、本気で抵抗しようとしていたら骨の六本は覚悟して貰うつもりだったわ」

「えぇッ!? ていうか地味に骨折りすぎじゃないですかそれ!?」

 

 

 まさかの事実にちょっとショックを受けながら知らぬ間になんか助かっていたことに安堵する。というか流石に骨を折りすぎでは……?

 

 

「それはそうでしょ。今は滅多にないけれどスパイや暗殺なんて絶対にないとは言い切れないもの。もしそうだったら問答無用で骨を折るわ」

「あ、あはは……そ、そうなんですか」

 

 

 今ボクは凄くぎこちない笑みを浮かべているだろうなと自覚できた瞬間だった。

 

 

「それでその……いつまでこの態勢を続けるおつもりで……?」

 

 

 正直言ってこの態勢は色々な意味で心臓に悪い。壁ドンなんて博士から(強制的に)教わっただけで、誰にもされたことないからとても恥ずかしい。いや、されたことあったとしても恥ずかしいだろうけどさ。

 取り敢えず今のこの状況を誰かに見られると困る。幸い、ボク達はほとんど人通りのない廊下にいるからまだバレてはいないものの、このままだとバレる可能性があるので一刻も早く離れて欲しい。ちょっと名残惜しいけど。

 プリンツさんはボクの問いに口角をつり上げながらまるで獲物を狙うような目で体を密着させてきた。その際段ボール箱がどうなったのか、ボクは見なかったことにした。何か責任問われたら全てプリンツさんのせいにしよう、そうしよう(現実逃避)

 

 

「っ!? あ、えと……」

「ふふっ。顔を真っ赤にして可愛いわね。そんな無防備だと悪い女性に食べられるわよ?」

 

 

 そう言いながらボクの顎を左手でクイっと上げるプリンツさん。ボクはもう耳まで真っ赤になっているんじゃないかと思うくらい、顔に熱が宿っているのがわかった。というかそろそろ思考がショートしそう……

 

 

「あ、あぅ……」

 

 

 何か言わねばと思うもこんな状態でまともに思考できるはずもなく、ボクはか細い声を上げる。

 

 

「……………」

 

 

 プリンツさんがボクの顔を凄い凝視してくるけど、ボクは恥ずかしさでいっぱいなので勘弁して欲しい。そしてそのまま何時間にも(多分、現実は数分だけど)感じられるなんとも言えない空気がこの場を包んでいると━━━

 

 

「このような場所で、いったい何をしておられるのでしょうか? プリンツ・オイゲン様」

 

 

 人通りの少ない廊下に、可愛らしい笑顔のメイドさんがどこか優雅さのある振る舞いで立ってこちらを見ていた。

 

 

(えっ、なんでメイドさん? 多分ここ、学園みたいな見た目してるけど軍事基地だよね?)

 

 

 ボクの疑問は最もだと思いたい。一人内心で困惑するボクをよそにメイドさんに声をかけられたプリンツさんは壁ドンの体勢をやめてボクから一歩離れると、気怠げに彼女の方へと視線を向けた。

 

 

「あら、もう来たの? さすがはロイヤルのメイドね。もう少し遅く来てくれても良かったのだけれど……」

「申し訳ございませんがそういうわけにもいきませんので。一応、そちらの方は重傷者ですから」

 

 

 そう言いながらチラリとこちらに視線を向ける。メイドさんはすぐにまた視線を戻したけど先程の目はちょっとだけボクを咎めるようなものだった気がした。

 

 

「そう、それなら仕方ないわね。残念だけれど、さっきの続きはまた今度にするわ」

 

 

 本気なのか冗談なのか判断しづらいことを言い残してプリンツさんは軽く手を振りながら離れていく。それを見届けたボクはふと、メイドさんの方に視線を向けると彼女とバッチリ目が合った。

 ちょっと気まずい雰囲気になるかと思ったけど、そうなる前にメイドさんが完璧な所作で自己紹介をした。

 

 

「申し遅れました。(わたくし)、ロイヤルメイド隊のメイド長を勤めさせて頂いております、ベルファストと申します」

「え、と……どうも、ご丁寧にありがとうございます……ボクは、アスカと申します」

 

 

 なんとか自分も自己紹介をするが完全に相手の雰囲気に気圧されてしまう。

 一切の淀みのない、完成された一礼を当たり前のようにこなすメイドさん━━━もといベルファストさんに気圧されないのは彼女より立場が上の人か、もしくは豪胆な人くらいだろう。ボクはなかなか慣れそうにないね。

 

 

「なるほど、アスカ様と言うのですね。それではアスカ様、何故先程のような状況になっていたのかを、これまでの過程を含めて全てお話していただきたいのですが……よろしいでしょうか?」

「あ、はい……」

 

 

 満面の笑みでお願いのような形で言ってはいるものの、それが形だけで言外に拒否権はないと言われているのがボクでも理解できた。

 謎の迫力におされたボクは、背中に冷や汗を流しながら乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 取り敢えず持ったままだった荷物(半分くらい潰れてる状態)を後から来た他のメイドさんが代わりに運んでくれるそうなので渡した。そして現在、ボクとベルファストさんは詳細な状況の経緯を報告するため、この軍港の責任者である指揮官のいる執務室へと向かっている。

 

 

「ところでアスカ様。体調の方は問題ないでしょうか?」

 

 

 歩きながらこちらを見て心配してくれているベルファストさん。それにボクは、腕や肩、脇腹などを軽く触って問題ないことを確認した。

 

 

「ええ、少し筋肉が痛いですけど特に問題はないですね。歩くことも、走ることもできますよ」

 

 

 彼女の優しい心遣いに内心で感謝しながら返答する。

 寝起きの時はちょっとキツかったけど、今ではもう慣れたし特に問題ない。その事を伝えるために肩を回してアピールしてみたんだけど、それを見たベルファストさんは眉を寄せて何かを考えているような、難しい表情をした。

 彼女の様子を見て、ボクはどこかいけなかったんだろうかと疑問に思いながらアピールをやめた。

 

 

「そうでございますか……でしたら、今のところ問題はなさそうですね。念のため、報告が終わった後はヴェスタル様に診ていただきますので」

「ヴェスタルさん……ですか?」

「はい。ヴェスタル様は医学に精通しておられる方ですので、ちゃんと診ていただいた方がよいかと」

 

 

 医学に精通している……つまり、そのヴェスタルさんは間違いなく医者だろう。それを理解した途端、不意に歩みが止まってしまった。表には出さないよう険しくなりそうな表情を抑えているが、隠しきれているかどうかはわからない。

 

 

「……どうかなさいましたか?」

 

 

 不思議そうに小首を傾げるベルファストさん。

 

 

「いえ、医者には……あまりいい思い出がないので。ほら、子供の頃に注射とか色々ね。だからちょっと苦手意識があるんです」

 

 

 咄嗟だったので何も考えずに言ったけど嘘は言ってない。これで誤魔化せるようにと心の中で祈りながら止めていた足を動かす。

 

 

「足を止めてしまってすみません。行きましょうか」

「……かしこまりました」

 

 

 上手く誤魔化せたのかベルファストさんは特に何も言わず、了承して歩き出した。

 それからボクはベルファストさんの後ろをついて行き、鉄血寮を出て中央の大きな建物へと入った。この建物に入る時、かなりの数のKAN-SENらしき人達が出入りしているのが印象的だった。

 見たところ寮よりも大きいし、大勢の人が使用するだけの施設が建物内に充実しているのだろう。いったいこの軍港はどれだけ掛かったのだろうと思わずにはいられない。維持費もとんでもなさそうだ。

 ちなみに周囲の人達にジロジロと見られることはなかった。すれ違ったとしても少し目を向けられるだけで、またすぐに視線を元に戻して何事もなく通りすぎていく。

 これもベルファストさんがいるお陰だろう。もしボク一人だったらこうはならなかっただろうし。

 ベルファストさんの人望に内心で感嘆しながら、報告が終わった後はどうしようかと悩む。

 彼女が言う通り報告が終わればヴェスタルさんに診て貰った方がいいけど、それだとボクが困ってしまう。

 体の外見はあまり問題ではないが体内は人体実験の時に色々といじくり回されているので酷いことになっている。どれくらい酷いのかというと医者がレントゲンでボクの体内を見たら顔面蒼白にするレベル……だと思う。内蔵の一部やその他にもセイレーン技術が使われているのでかなり無茶苦茶だ。

 レントゲン……とかはしないと思うけど油断はできない。どこからこの事実にたどり着つかれるかわからない以上、警戒をするに越したことはない。

 

 

「アスカ様、ここがご主人様の執務室となります」

 

 

 ベルファストさんの声に意識を引き戻される。どうやらもう執務室に着いたようだ。窓から見える景色から推測するとここは建物の最上階と思われる。

 

 

「今から入室するのですが……アスカ様。心の準備はよろしいでしょうか?」

「はい。問題ありません」

 

 

 これからボクがどうなるのか、それはこの扉の先にいる指揮官の人柄に掛かっていると言っても過言ではない。ベルファストさんはボクの返事を聞いた後、扉を三回ノックした。

 

 

「ご主人様、ベルファストでございます」

『どうぞー』

 

 

 中から男性の声が聞こえた。きっと彼女が言っていた指揮官の声なのだろう。自然と拳に力が入る。ボクは密かに覚悟を決めながら、ベルファストさんと執務室に入室した。

 

 

 

 


 

 

 

 

 机にある積み重なった書類や壁際に並ぶ本棚から漂う紙独特の匂い。天井の照明のおかげで薄暗くはないものの、必要最低限の物しか置かれていないこの部屋は書斎とそう変わらないものだ。この部屋の壁や床のデザインが豪奢なだけあってどうしても違和感がある。

 そんな部屋で部屋の奥に設置された木製の机に両(ひじ)をつけて片手でこめかみを押さえている29歳の男性━━━指揮官が疲れたようにため息をついた。

 ここは指揮官の仕事場である執務室。そして目の前に設置されたソファーに座っているのは数時間前に砂浜に打ち上げられていたアスカという少年。

 現在、彼から事の顛末を聞いた指揮官が思わず頭を抱えたくなったというのが現在の状況だ。

 

 

「どうぞ」

 

 

 静かに紅茶の準備をしていたベルファストが指揮官とアスカの前に出来上がった紅茶を置く。

 

 

「ありがとう、ベルファスト」

「ありがとうございます。ベルファストさん」

 

 

 二人の感謝の言葉にベルファストは軽く一礼をした。

 取り敢えずせっかくいれてくれた紅茶を飲んで一息つく。

 

 

「さて、どうしようか」

 

 

 コトッと小さく物音を立ててティーカップを置いて小さく独り言を呟いた指揮官。

 彼はアスカから聞いた内容を整理しながら思い返していた。

 アスカという少年は幼い頃に家族を亡くし、児童養護施設に入れられそうになった所を母の友人である星宮という女性に保護され一緒に暮らすことになったらしい。しかし、その女性も五年前に亡くなられて完全に一人に。そしてその五年間どうすればいいのかわからなかった彼は路頭に迷っていた所を人拐いに()い、虐待やら強制労働、その他諸々と酷い扱いを受けたそうだ。中には筆舌し難い事もあったそうで、彼の酷く悲しげな表情からどれほどのものだったのかを察した。

 そして人拐いの使っていた施設から隙を見て逃げ出した彼は連中に見つかり、追い詰められたところ足を滑らせて崖から海に転落。そしてここに流れ着いたらしい。

 ここまでが、この母港に流されるまでの話。想像していたものよりも悲惨な過去話を聞かされ心が沈む。それと同時に人拐いに対する怒りも湧いてきた。

 セイレーンが現れる前と同じくらい治安が改善されたとはいえ、やはり犯罪組織などがなくなるわけではない。目の前の少年がその証拠である以上、その事を指揮官は改めて思い知らされた。

 そして、次が彼がここに来てからの話。

 気を失っていた彼は、ここがどこかもわからず周囲には誰もいなかったため医務室から出たそうだ。そして廊下を歩いていると曲がり角で急いでいた明石とぶつかり、彼女に業者の人かと勘違いされて誤解をとく暇もなく流されて荷物の運搬をしていたと。

 

 

「……………はぁ」

 

 

 再度、ため息が出る。

 内容を軽くまとめてはみたが……なんというか事実は小説よりも奇なりという(ことわざ)が当て嵌まる内容だった。

 アスカの過去については嘘をついているようには見えなかったので事実と見ていいだろうと判断する。だが、ここに来てからの経緯を聞いて指揮官は後で明石を呼び出そうと決めた。

 指揮官も明石の店をよく利用するので彼女のことはよく知っている。そのため、彼女がアスカのことを業者と勘違いしたのは真っ赤な嘘だということがすぐにわかった。大方、お金儲けの予感がしたから巻き込んだだけだろう。

 

 

(かなり厄介なことになったな……)

 

 

 色々と問題はあるものの、普通なら児童養護施設に預けるのだが……犯罪組織に拐われていた過去があるため、もし連中に見つかったら彼を預けた児童養護施設も巻き込まれることになる。

 しかも彼は荷物を運ぶためうちの母港の倉庫に入ったと言っていた。倉庫には兵装やその設計図、装備箱やメンタルキューブなど一般には公開できないような軍事機密のオンパレードだ。それらを見られたからには帰す訳にはいかなかった。

 とんでもない事をやらかしてくれたな、と明石を恨みたくなるがそれは後だ。今はこの少年をどうするのか決めなければならない。

 

 

「アスカ君は、どうしたいんだい?」

 

 

 指揮官が少し目を細めて彼に問う。

 本当はハッキリと言った方がいいのだが、見た目に反してしっかりとしていそうなので敢えて曖昧に聞いてみることにした。彼がどういう返答をするのか気になるというのもある。それは彼女も同じようで、ベルファストは何も言わずに耳を澄ませている。

 

 

「ボクは…………ボクは、帰る場所もなく、行く宛もありません。これ以上、あなた方に迷惑をかけたくないと思っています……ですが、烏滸(おこ)がましいとは思いますが……ボクの働き口を、紹介してはくれないでしょうか……! 恩は必ずお返しします。ですからどうか、どうかお願いします……ッ!」

 

 

 そう言って頭を下げるアスカの姿に少しだけ驚く。しかし、いざ働くとなるとかなりの問題がある……が、そこはさすがのベルファスト。何か妙案があるようで、指揮官が悩んでいるのを見ておもむろに言った。

 

 

「では、アスカ様を明石様のお店の従業員として雇ってはいかがでしょうか?」

「それは……アリかもしれないな」

「明石様への処罰はまた別として、アスカ様を巻き込んだ責任を取ってもらった方がよろしいかと」

「その結果が、働き口のないアスカ君を明石の店の従業員にする……か」

 

 

 なかなかにいい提案だとは思うが……しかし、それでもいくつか問題は残る。その事を指摘しようとベルファストに目を向けた指揮官だが、彼女は指揮官の意図を察したようで、こくりと小さく頷いてみせた。

 

 

「ご主人様。問題とは、発覚されない限り問題となることはございません」

「黒ッ!? メイド長がなかなかに黒いッ!」

 

 

 見惚れるような笑顔で、当たり前のように問題発言するメイド長に思わずツッコミを入れる指揮官。しかし彼女はそんな指揮官をスルーして自慢げに言った。

 

 

「我々ロイヤルメイド隊は情報の収集、偽造、抹消などお手の物でございます。人間一人の偽造など、完璧にこなしてみせましょう」

「いや怖ッ!? うちのロイヤルメイド隊が思ったよりも怖かった!?」

 

 

 知ってはいけないロイヤルメイド隊の闇を垣間見た指揮官は己の体を震わせながら叫んだ。

 

 

「えと、宜しくお願いします……」

「えぇッ!?」

 

 

 丁寧にベルファストに頭を下げるアスカに指揮官が驚きの声をあげた。確かにベルファストの提案は渡りに船のようなものではあるが、先程の発言を聞いても躊躇なく頭を下げてお願いする辺り、彼もどこかズレているのかもしれないと感じた指揮官。

 

 

 こうして今日、アスカという少年が色々あってこの母港で働く事になった。ロイヤルメイド隊、恐るべし。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 事情聴取を終えた後、ベルファストと共にアスカを再び医務室へ向かわせた指揮官は、椅子の背もたれに体重をかけながらアスカについて考える。

 汚れのない真っ白な髪に、深海のような暗い青の瞳。まるで日光にほとんど当たっていないかのような白い肌は、人によっては病人と間違えられるだろう。背は低く、年齢はおよそ12~15歳の間と言ったところか。

 名前からして重桜の出身かと思うが……それにしても異様だ。彼の悲惨な過去を聞いた手前、あまり彼の過去について詮索するつもりはない。しかし、見た目とは裏腹に礼儀正しく頭の回転がかなり早い。あのような過去を持っていながらそれを一切悟らせない技量……指揮官には彼がどこか歪んで見えてしまっていた。

 

 

(……いや、ダメだな。もう決めたことだし今更何も言うまい)

 

 

 問題ないとベルファストが言うのだからこれ以上考えても無駄だろう。それより今は明石を呼ぶべきか。

 指揮官は近くに設置してあるマイクを手に取ると、額に青筋を浮かべながらスイッチをオンにした。

 

 

『えー、工作艦明石。至急、執務室まで出頭せよ。ちなみに逃げようとすればロイヤルメイド隊がお前を全力で捕縛しに行くのでオススメしないぞ』

 

 

 一応、釘を刺しておいたが果たして効果はあるのかどうか。そんな事を考えながら指揮官は残りの紅茶を飲み干した。

 どこか遠くで『ニャア"ア"ア"ア"ア"ア"ァァァ━━━ッ!?』という猫の鳴き声が聞こえた気がした。

 

 

 




【アズレンこそこそ噂話】

・メイドによって運ばれた段ボール箱の惨状を見たヒッパーは「私のガンプラがあああああ━━━ッ!?」と叫んでいたらしい。
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