アズールレーン ━深海の瞳━   作:空白部屋

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キョロo(・ω・= ・ω・)oキョロ

よし、誰もいないな……

φ(o・ω・o)ノ⌒@(最新話

|))=3 シュバッ



第七話 医務室にて

 

 

 あれから指揮官に事情聴取という名の報告を終え、執務室を後にしたボクはベルファストさんに連れられて元いたロイヤル寮の医務室へと向かっている。本来ならヴェスタルさんに診てもらうために彼女の所属であるユニオンの医務室に行かなければいけないのだが、ボクが目覚める前にベルファストさんと、イラストリアスさんという人がヴェスタルさんを呼びに行っていたらしい。

 なるほど、ボクが目覚めたのはかなりタイミングが悪かったのか。道理で誰もいなかったわけだ。

 ヴェスタルさんは現在、ロイヤル寮の医務室にいるようで、そのままロイヤル寮の医務室で診てもらう事になった。ちなみにイラストリアスさんもいるらしい。彼女は砂浜に打ち上げられていたボクを発見してくれた命の恩人なので感謝の気持ちを伝えたいと思う。

 

 

(それにしても……さっきは心臓が止まりそうだったよ)

 

 

 事前に設定は決めていたものの、不自然にならないように説明するのが大変だった。それに完全に嘘というわけではなく真実も混ぜているのでバレにくいと思う。

 まぁ、こんな体験はできればもう二度としたくないけど、そのお陰で無事、働き口を用意してもらえたので結果オーライだと思いたい。指揮官やベルファストさん、明石さんに感謝だ。かなり罪悪感はあるけれど。

 

 

「ベルファストさん、診察をこと「諦めた方がよろしいかと」……そうですか」

 

 

 表向きは元気だから診察を断ろう……という理由で診察をなんとか拒否できないかなって考えてたけどどうしようもなかった。このやり取りも三回目だし。

 肩を落として落ち込んでいるとそれを見かねたベルファストさんがこちらに視線を向けた。

 

 

「アスカ様、お元気そうでなによりですが念のためです。発見された当初はかなり衰弱しておられましたので、万が一ということがないように診てもらうことを、なにとぞご理解下さいませ」

「うっ……はい」

 

 

 何故か説得された。

 もうこれは覚悟を決めて受けるしかなさそうだ。レントゲンはなくてもできれば今の状態の自分を知られたくなかったけど……そうも言っていられない。

 いったい何を言われることやらと、これから起こる出来事を予想して気を落とす。

 そして憂鬱な気分のまましらばらく歩き続け、とうとうロイヤル寮の医務室に着いてしまった。

 相変わらず……というか、高級ホテルのような豪奢な内装がどうにも落ち着かない。これから起こることも相まって余計にそう感じるだけだと思うけど。

 ベルファストさんは音を立てずに扉を開けると中に入った。ずっと後ろから着いてきて思ったのだが彼女は暗殺者か何かだろうか。先程の音もなく扉を開ける技術もそうだけど、一緒に歩いていて足音がしない上に気配がとても静かだ。そういえばロイヤルメイド隊は情報の収集、偽造、抹消はお手の物と言っていたから多分、諜報に特化しているのだろう。まぁ、だとしてもメイド長だからこそこの実力なのか、それともこれがロイヤルメイド隊の平均的な実力なのか……もし後者だったら怖すぎる。

 そんな事を思いながら医務室の中に入ると、ベットに腰を掛けて優雅に紅茶を飲んでいる女性の姿があった。

 健康的な白い肌に、整った顔立ち。高級そうな純白のドレスに着飾られることなく着こなしている姿はまさに貴族のご令嬢そのものだ。そして何よりも目を()くのがボクと同じ白い髪に青い瞳という特徴。しかし、同じでありながらボクとは決定的な違いがある。

 彼女はボクの髪のように色素の抜けた病的な白色ではなく、百合の花のように美しい白色だ。瞳の色も青だけれど、深海のように暗く澱んでいるものではなく、青空のように澄み切った綺麗な青色。

 何故ここまで違うのだろう。そんな事を考えながら、彼女のその綺麗な色が少しだけ羨ましいと思った。

 

 

「ご機嫌麗しゅうございます、イラストリアス様」

 

 

 ベルファストさんが言った女性の名前に、ボクは少しだけ目を見開いて驚く。

 

 

(そうか……この人が……)

 

 

 名前を呼ばれた女性━━━イラストリアスさんはゆっくりとした動作でティーカップを机に置くと、こちらへと視線を向ける。

 

 

「ご機嫌よう、ベルファスト。そちらの方も、お元気そうでなによりですわ」

 

 

 そう言って彼女は、全てを包み込むような、優しさと温かさに満ちた柔らかな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 彼女……イラストリアスさんはボクの様子見と伝言のためにここにいたらしい。本来ならヴェスタルさんも医務室にいるはずだけど、委託に出ていたKAN-SENの子達がセイレーンとの戦闘ののち、かなり手酷くやられたのでそちらの治療を優先したらしい。中にはかなり危ない状態の子もいるとか。

 それを聞いたベルファストさんは難しそうな顔をしている。イラストリアスさんも表情はほとんど変わらないもののどこか固さを感じた。

 

 

「そうでしたか……そのような事が」

「ええ。以前からセイレーンの活動が目撃されていましたが……ここ最近になって急激に活発化していると陛下もお気になさっていたようですし、今後もセイレーンとの戦闘は増えるでしょう……」

 

 

 顎に手を当てて考える仕草をするベルファストさん。あまり表情や雰囲気は変わっていないけど、どこか焦っているような感じがした。だいたい、イラストリアスさんから委託の子達がセイレーンに襲撃されたと聞かされた時くらいからかな。

 そんな様子を見たイラストリアスさんが彼女に気を遣うように言う。

 

 

「心配なら見に行ってはどうでしょうか? 委託組には、貴女の姉もいるでしょう?」

「いえ、しかし……」

 

 

 イラストリアスさんの提案に渋るベルファストさん。

 メイドとしての矜持なのか、仕事を優先しようとするその姿勢は立派ではあるけど、家族が心配ならそちらを優先して欲しいとも思った。

 かなり自分勝手なこと言っているのは理解している。しかし、目の前にいる家族を心配するベルファストさんを放っておくわけにもいかない。

 ボクは彼女の腕を指で軽く突っつく。

 

 

「? アスカ様……?」

 

 

 ボクの意図がわからず不思議そうに首を傾げるベルファストさん。

 

 

「イラストリアスさんもこう言っている訳ですし行ってみてはどうでしょう? 家族が心配なら、尚更です」

「…………ありがとうございます。お気遣い、痛み入ります」

 

 そう言って綺麗に一礼すると、ベルファストさんは医務室に置いてあったメモ用紙を取り近くにあったボールペンでさらさらと何かを書いていく。

 そして書き終わったメモ用紙をボクに差し出した。

 

 

「アスカ様、こちらがアスカ様の個室になる部屋の場所となります。詳細は明日説明致しますが、勤務関連の資料やこの母港のルールをまとめた物は夕方には届くので時間があるときにお読みください」

「ありがとうございます、ベルファストさん」

 

 

 メモ用紙を受け取ったボクは彼女にお礼を言う。どこまでも丁寧に仕事をする人だと思いながら彼女のその姿勢を尊敬する。

 

 

「この方は私が見ておきますわ」

 

 

 ニコニコしながら言うイラストリアスさんにベルファストさんは少し意外そうに目を開いたが、すぐにいつもの表情に戻った。

 何だったんだろうと疑問に思うが、あまり深くは聞かないことにした。

 

 

「感謝致します、イラストリアス様。では、行って参ります」

 

 

 そう言うとメモ用紙とボールペンを机に戻してから彼女は再び音もなくこの部屋から退室した。

 二度目の謎技術を見てメイドってそういうものなのかなと思い始めた自分がいた。

 イラストリアスさんは慣れている……というか、そもそも気にしていないようだった。強くないかな、色んな意味で。

 

 

「彼女はいつもあんな感じなんですか?」

「ええ。彼女は心優しい、私達ロイヤル自慢のメイドですわ」

 

 

 優しげな瞳でベルファストさんを称賛するイラストリアスさん。ちょっと求めていた答えと微妙にズレていたけどボクはそれを指摘することなく「そうなんですか」と感心しながら返事をした。

 

 

(あ、そう言えば診察はいつになるんだろう……)

 

 

 今更ではあるが、そんなことを思い出した。委託組の子達がセイレーンに襲撃されたという情報のインパクトが強くて忘れていたのだ。

 

 

(まぁ、どうせ明日くらいにはされるんだろうなぁ)

 

 

 やっぱり気は進まないけど今日じゃなくなったのは幸いだ。明日ならなんとかなるかもしれないし。

 内心でこの幸運のありがたさを噛み締めているとイラストリアスさんがこちらをじっと見ているのに気付いた。

 不思議に思って首を傾げると彼女は微笑ましいものを見るような目になった。

 

 

「そう言えば、ちゃんとした自己紹介がまだでしたね」

 

 

 彼女に言われて気付く。確かに、ちゃんとした自己紹介をしていない。話が重要なものだっちめ仕方ないかもしれないが、良好な関係性を築くために重要かつ基本的な自己紹介を忘れるなんて……どうやらボクは300年眠っている間にコミュ障になったようだ。いや、そもそも軍にいた頃の方がもっと酷かったかな。

 自分の落ち度に恥じているとイラストリアスさんは椅子から立ち上がって自己紹介をした。

 

 

「では改めまして、装甲空母━━イラストリアスですわ。好きなものは洋菓子と演劇で、よく午後に陛下や他の子達とお茶会をしています」

 

 

 イラストリアスさんの自己紹介を聞いて思ったけどこの人コミュ力がかなり高い。というか、陛下とお茶会って……あれ、確かに見た目は清楚なお嬢様だと思ったけどもしかして本物の貴族……? しかも先程言った事が本当ならかなり地位の高い貴族になるんだけど……。

 そんな事を考えてしまったせいか、背中に冷や汗が流れ落ちた。

 

 

「えと、ボクはアスカと申します。好きなものは……桜です。趣味はお手伝いで、昔はよく知り合いの人のお手伝いをしていました」

 

 

 無事に自己紹介を終えたボクは内心でほっと安堵する。もしかしたら緊張で声がちょっと震えていたかもしれないけど我ながら無難な自己紹介ができたと思う。

 正直好きなものなんてなかったし取り敢えず咄嗟に思い浮かんだものを言った。

 相手の自己紹介に合わせるのは楽でいいけどその分、こちらに合ってないものだと苦労することを思い知った。

 

 

「まぁ、立派な趣味をお持ちなのですね」

 

 

 目を丸くしながら褒めるイラストリアスさん。

 

 

「え、いえ……褒められるようなことは何も……」

 

 

 そんな事で褒められるとは思っていなかったので、なんだか急に気恥ずかしくなって思わず目を逸らした。

 大して凄いことでもないのに褒められると気恥ずかしくなるからできればやめて欲しい。こうやって不意討ちみたいにやられると心臓に悪いから。

 

 

「あら、照れていらっしゃるのですか? ふふ、とても可愛らしいですね」

 

 

(お願いイラストリアスさん、これ以上は羞恥心で死んでしまうからもうその辺にしてくれると助かる……)

 

 

 もしかしてこれが新手の暗殺術か……などとアホな事を考えながら顔が赤くなるのを必死に抑えようとするが無理だったので諦めた。

 彼女はこちらの心境を欠片も知らないようでニコニコしている。その自然な態度を見ていれば誰だって彼女が演技ではなく天然でやっているのだと気付くだろう。その純粋さがボクには眩しく見えた。

 

 

「イラストリアスさん、からかうのはよして下さいよ……」

「あらあら、それは失礼しましたわ」

 

 

 肩を竦めて呟くボクに、悪びれもなく笑顔で謝るイラストリアスさん。その光景は客観的に見ると仲の良い友人同士のやり取りのように見えるかもしれないが、現実はまだ出会って数分の関係である。

 

 

(初対面なのにここまで話しやすいなんて……やっぱり貴族だと自然とこういう能力が高くなるのかな)

 

 

 何か違和感のようなものがある……気がするけどボクは首を捻ったままで答えは出なかった。

 それに、彼女のからかいが不快だった訳じゃない。知らない場所、知らない人達という不安要素があったため、ボクは自覚もなく緊張していたと思う。きっと彼女はそれを見抜いてわざとからかったのだろう。ちょっと恥ずかしくはあったものの、お陰で先程よりも気が楽になった。彼女の気遣いにボクは内心で感謝した。

 一方で、イラストリアスさんは何かを思い出したようにどこからか手のひらサイズの小袋を取り出すとボクに差し出した。

 

 

「そういえば……これは貴方の着ていた上着のポケットに入っていた物ですからお渡ししておきますね」

「ッ! それは……ありがとうございます、イラストリアスさん!」

 

 

 そう言って差し出された小袋を見て確かに自分の物だと確信した。ちょっと(すす)けており、所々布が破けそうになっている。長い年月、使われ続けた証を見ながらボクは括られた紐をほどいて中身を確認する。

 中に入っていたのはライターのような形状をしたガラス容器。そしてその中に保存されていた物は青黒い色と白色に分かれた不気味なカプセル型の錠剤。

 見た目は人が飲んだら体に悪そうなものだけど、ボクはそれを見て心底安堵した。

 

 

(これさえあれば……多分、なんとかなりそう)

 

 

 容器に入っているカプセル錠剤の残量も少なくなってはいたが、まだもうしばらくは持つ。

 他にも小袋には赤色の液体の入ったプラスチック製の試験管が数本とカナル型イヤホンの形状と酷似した小型デバイスとその予備がいくつか入っていた。

 これらはボクにとって必要不可欠な代物だ。無くしてなかったことに胸を撫で下ろす。

 イラストリアスさんは小袋の中身を確認していなかったのか、中から出てきた錠剤などを見て何か物言いたそうにしていたけど結局何も言わなかった。

 

 

(あっ、しまった……)

 

 

 冷静になってよくよく考えてみると誰かの目の前で中身を出すのはよろしくない事に今更気が付いた。少しばかり気分が高まっていたとはいえ自分の迂闊さを呪いたい。もし聞かれたら誤魔化すことはできるだろうけど確実にややこしくなる。

 

 

(中身のものについては何も言ってこない……か。気付いてない……ことはないだろうけど、もしかして見逃された? いや、ただ単に興味がないだけかな)

 

 

 とにかくこの事について追及されないのはこちらとしては助かる。今のうちに袋に全部片付けておこう。

 

 

「あっ、そういえばイラストリアスさん。ボクが着ていたコートってどこにあるかわかりますか? 起きた時に見当たらなかったんですけど」

 

 

 ここで目を覚ます前……セイレーンとの戦闘していた時は着ていたはず。あの後、どうなったのかは知らないが、もしコートがあるなら回収しておきたい。それに、あのコートは所属していた部隊の正装なのでバレることはないだろうが、万が一のためできれば処分したい。

 

 

「今、私の妹のフォーミダブルが修繕してますわ。かなりボロボロだったのでそれなりに時間はかかると思いますが……」

 

 

 当然のように答えるイラストリアスさんにボクは言葉に詰まった。

 

 

(ヤバいどうしよう……コートは捨てたいけど彼女の妹さんがせっかく修繕してくれているらしいのに捨てなきゃいけないの? いや、そんな事したら罪悪感で死にそうなんだけど。ボク自身はアレだけどさすがに人を捨てた訳じゃないし……いや、でももしバレたらそれこそ……)

 

 

 目覚めたばっかなのになんでこんな悩んでるんだろ……なんて思わなくもないしむしろ現実逃避したい気分であるのだが……イラストリアスさんの悪意のない表情を見ていると段々とコートを処分する気はなくなってきた。ボクは心(性格)でも丸くなったのだろうか。

 

 

「そうなのですか……すみません、わざわざ修繕までして下さるなんて」                    「彼女にお礼を言ってあげるときっと喜びますわ」

「ええ、そうですね。フォーミダブルさんとお会いした時に伝えますよ」

 

 

 イラストリアスさんと会話をしていたその時、ボクは誰かが近づいてくる気配を感じて反射的に感覚を研ぎ澄ませた。

 

 

「失礼する。イラストリアス、今度のお茶会なんだが……」

 

 

 そう言って医務室に入室してきたのは真っ赤な制服とマントを羽織った金髪の女性。雰囲気からしてとても真面目そうだ。

 そしてどうやらこの金髪の女性はイラストリアスさんとお茶会について話があるようだ。しかし彼女はボクの方を見て言葉を止め、少し困惑した様子で言った。

 

 

「すまない、邪魔だったか?」

「いえ、ボクはそろそろ戻るつもりだったので……失礼します」

 

 

 少々、強引ではあるがボクはここから退室することにした。素早く持っていた小袋をポケットに無理やり突っ込んで金髪の女性の横を通りすぎる。そしてそのまま部屋から出ようとして、ボクは足を止めた。

 

 

「イラストリアスさん、助けてくれてありがとうございました。このご恩は決して忘れません」

 

 

 イラストリアスさんの方へ振り返ったボクは深々と頭を下げる。

 本当なら"ボクに出来ることなら何でも言ってください"くらい言おうと思ってたけど、それは後々彼女を苦しめることになるかもしれないので言えなかった。まぁ、何事もない限りは彼女に全面的に協力するつもりなのであまり変わらないとは思うが。

 少しだけ申し訳なさを感じつつ、ボクはこの部屋からそそくさと退室した。

 

 

(せめてお礼に今度、菓子折りでも持っていこう。イラストリアスさんってお茶会をよくやるって言ってたし、好物の洋菓子なら喜んでもらえないことはないと思う……よし、そうと決まれば明石さんと指揮官さんに日給を現金手渡しにするよう頭を下げて頼み込むか。まぁ、彼女は相当に地位が高い貴族みたいだし、それ相応の菓子折りが買えるかどうかが不安なんだけどね……)

 

 

 少し弱音を吐きそうになったボクは、はぁ……とため息をついてベルファストさんから渡されたメモ用紙を持って目的地へと向かった。

 

 

 




誤字ったりちょっと文章とかおかしいかもしれないけど許して(泣)
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