アズールレーン ━深海の瞳━   作:空白部屋

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アズレンのゲーム(スマホ版)、エイプリルフールに一部のKAN-SENと結婚すると手じゃなくて足とか胸が出るって知って驚愕した……( ゚д゚)ポカーン


第八話 オフニャ

 

 

 あれから数十分。ボクはベルファストさんから渡されたメモ用紙を見ながら無事、自身の部屋になるであろう場所に辿り着いた。

 

 辿り着いた……のだが。

 

 

「部屋というより、小屋……」

 

 

 目の前にある建造物を見てボクは思わず呟いた。

 赤茶色のレンガでできた小屋だ。丈夫そうな印象を受けるけどちょっとボロい。メモ用紙に書いてある文を読んでみれば、どうやらこの小屋はもともと一部の倉庫として使われていた場所で、現在はドッグや別の倉庫が拡張されたことによって長年使われていなかったらしい。

 

 

(これなら少し掃除すればどうとでもなるかな……)

 

 

 鍵は掛かっておらず、ボクは扉を開けて中を見る。屋内は少し埃が残っている程度で、中には埃一つないベッド、机、椅子の三つが揃っていた。恐らくボクがここに住むことになったから急いで用意されたものだろう。その証拠に屋内を軽く掃除した痕跡があるし。

 

 

「まずは掃除して……それから━━━っとと」

 

 

 幸い掃除道具は屋内の隅にあるロッカーの中にしまってあったのでそれを取り出して掃除を開始しようとした。しかし、急に眩暈(めまい)がしてボクは体のバランスを崩す。そのまま倒れそうになったが、壁に寄りかかる事でなんとか踏みとどまる。

 

 

「げほっ、けほ……」

 

 

 口に手を押さえて(せき)をする。その際、手のひらに温かい感触がしたので目を向けると手は真っ赤な血で染まっていた。吐血したようだ。口の端からも少しだけ血が垂れている。

 

 

(……薬が切れてたのはわかってたけど、この様子だと切れてから一週間以上は確実に経過してる。コールドスリープの時は薬を投与されていたはずだから逆算してコールドスリープが解除されたのが約一週間前か。それにしても、気にしないようにしてたけど目が覚めた時から幻聴と幻覚が酷いな……)

 

 

 さっきからずっと怨嗟の声が聞こえ、人とセイレーンの積み重なった死体の山がぼんやりと見える。辺り一面、血まみれで地獄絵図のような光景だけど、これは現実じゃない。

 ボクは血が付着していない左手で自分の額に触れる。

 

 

「……だいたい38.2℃くらいかな」

 

 

 確実に高熱だ。表面上は気付かれないよう全力で隠し通していたので自分以外の人に露見していないが、今日する予定だった診察が後回しになって本当に助かった。

 もしベルファストさんにバレていたら安静にして下さいと言われてベッドに縛り付けられていたかもしれない。

 ただ、不安があるとすればプリンツさんだろうか。他の人達とは怪しまれない程度に距離を取っていたけど彼女だけはかなり近くでボクを見ていたし……

 

 

「それよりも、早く薬を呑まなきゃ」

 

 

 小袋から青と白のカプセル型の錠剤を一つ取り出してさっさと呑み込む。それから何をする訳でもなく十分ほど経過すると幻聴と幻覚は完全に消え、38.2℃くらいだった体温は35.5℃くらいまで下がった。

 

 

「これなら診察しても大丈夫か」

 

 

 とは言え特効薬の数には限りがある。今はまだ余裕があるけど早めにこれを作ってくれそうな人物を見つけるしかない。

 

 

「それに、まずはこれをどうにかしないと」

 

 

 何をするにしても血まみれの手じゃ何もできない。むしろ誰かに見られる訳にもいかず。

 

 

(……うん、周囲には誰もいないな)

 

 

 この小屋はそれぞれの寮からある程度離れているので人気が少ない。ボクは更に周囲をこっそり確認したので誰かに見られる心配をする必要はないだろう。

 この近くにはたしか小さな手洗い場があったはず。メモ用紙に書いてあった事を思い出しながら小屋の裏に回ってみると探していた手洗い場を見つけた。

 

 

(セイレーン……やはりまだ争いは続いているのか)

 

 

 蛇口を捻って水を出す。そして血まみれの手と血の跡がついた口を洗いながら、ボクは医務室での会話の一部を思い返した。

 

 

(早急に今の時代の現状と300年の間に何があったのかを調べないと……)

 

 

 本を借りるなら図書館だろうか。そうでなくとも歴史の本があるなら図書館でなくとも構わないが……そう言えば医務室に向かう途中でいくつか本が保管されている場所を見かけたからまずはあそこに行ってみるといいかもしれない。

 そんな事を考えながら手を洗っていると、突然背後からガタッと物音がした。

 即座に逃げられるよう警戒しながら音のした方へと視線を向ける。

 そこには金髪の女性が立っていた。黒を基準とした軍服とコバルトブルーの瞳。顔立ちが幼く、そのせいで軍服を着ている姿だと背伸びしているようにしか見えない。全体的な印象は可愛らしい少女というべきか。

 

 

 まぁ、その少女が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()があるんだけど。

 

 

(…………なにこれ。新種の猫かな? いや、でもいくら新種と言っても人型はありえないでしょ。もしかして人工的に作られた生物……?)

 

 

 もし自分の仮説が本当なら人類の科学力は人造人間(ホムンクルス)を作り出すまでになったというのかと驚愕する。

 ん? 実験体のボクに世話を焼いてくれた星宮博士? いやいや、あの人は別だから。300年前の時代なのにボクの艤装やコールドスリープなんていうとんでもない代物を作る反則級の実力を持った何でもありの博士なんだぞ。もはや人類とは別枠でしょアレは。

 

 

(……いや、そんなことよりも今はこの珍妙な生物に注視するべきか)

 

 

 猫と小人を掛け合わせたようなこの謎生物━━名前が判明するまでは猫少女と呼ぶ━━は何か物欲しそうな目でこちらをジーっと見てくる。生憎と食べられるような物は何も持っていないが、なんとなくしゃがんで手を出してみた。

 すると猫少女はちょこちょこ歩いて近づき、出された手を揉んだり甘噛みしたりと警戒することなくボクの手で遊び始めた。微笑ましいのでしばらく放置していると猫少女は腕をよじ登ってボクの右肩に乗った。そしてその位置が気に入ったのか、そこから動こうという気配が感じられない。

 

 

「可愛い……」

 

 

 素直な感想を呟きながら人差し指でふにふにと猫少女の頬を触って頭を撫でる。猫少女は気持ち良さそうにされるがままだ。試しにパッと撫でるのを止めればボクの頬に頭をグリグリと押し付けてくる。どうやら随分とお気に召したらしい。しばらく撫で続けていると猫少女は船を漕ぎはじめ、やがてスー、スーと寝息を立てた。

 

 

(印象としてはかなり人懐っこい猫……かな)

 

 

 アニマル(?)セラピーの効果を実感しながらボクは小さく笑う。

 動物はボクの知る人間と違って素直だし接しやすい。なにより一緒にいることでとても心が癒される。

 ボクは肩で寝ている猫少女を時たま指でつついて構っていると、クイクイとズボンを軽く引っ張られた。

 なんだろう……と不思議に思って視線を下に向けるとそこには猫少女がいた。しかも一人(または一匹?)ではなく、間違いなく二桁ほどいる。それぞれ服装や髪色は違えどほとんどが猫少女だ。だが中には猫少女のような人型ではなく、まん丸とした猫のような動物までいる始末。いくつもの視線が肩で寝ている猫少女に突き刺さっている。心なしかその視線にはどこか羨望のようなものが感じられた。

 複数の視線が突き刺さっているのがさすがに鬱陶しかったのか、肩で寝ていた猫少女は目を覚ますと不機嫌そうな顔をして猫少女達を見下ろした。

 一触即発のような、なんとも言えない空気の中、ボクは表情がひきつるのを自覚しながら(かなり抵抗されたけど)肩に乗っていた猫少女をそっと地面に降ろした。

 そして猫少女達の視線は肩にいた猫少女からボクへと移る。

 

 

「それじゃあ、ボクは用事があ━━━」

 

 

 その瞬間、一斉に猫少女に飛び掛かられたのは言うまでもない。

 

 

 

 


 

 

 

 

「明石さん助けてください……」

 

 

 大量の猫少女に(まと)わり付かれたボクはそのまま明石さんの経営するショップへと向かって助けを求めた。

 

 

「あ、ありのまま今起こったことを説明するにゃ……ッ!? いつも通り明石ショップを営業していたらSSRオフニャに全身を纏わり付かれた人間が目の前までやって来たにゃッ!? 何を言ってるのかわからにゃいと思うが、明石も何を言っているのかわからにゃい……!? 催眠術とか、動物に好かれやすい体質とかそんなチャチなもんじゃねぇ……ッ! もっと恐ろしいものの片鱗を見たにゃ……ッ!!」

 

 

 なんか明石さんが物凄い動揺しながらブツブツと独り言を言ってるけど、一刻も早くこの状態をなんとかして欲しい。暑い……ことはないが呼吸がしづらい。しかも毛が色んな所に付着して痒い。そのうち猫アレルギーとかにならないか心配だ。

 

 

「( ゚д゚)ハッ!! 明石としたことがあり得なさ過ぎる現実についネタに走ってしまったにゃ……!?」

 

 

 我に返った明石さん。ボクはボクでなんか鼻がムズムズしたり目から涙出そうになってるけどこれ大丈夫なのだろうか。

 

 

「色々と聞きたいことがあるけどせっかく手に入れた従業員をここで失う訳には……! 今すぐ助けるからじっとしているにゃッ!」

 

 

 ボクに纏わり付いた猫少女を剥がすため、決死の表情で飛び掛かった明石さんによりなんとか救出された。明石さんVS猫少女軍団みたいな構図になってて激戦を繰り広げていたけど、ボク的にはキャットファイトを見ているようでちょっと和んだ。

 救出途中、猫少女を剥がしている明石さんにやたらと触られたり匂いを嗅がれたりされたけどあれはなんだったんだろうか。もしかしてこの歳で体臭が……? いや、これ以上考えるのはやめよう。心に無駄な傷を負うだけだ。

 

 

「……で、住み込み用となった小屋の近くで手を洗っていたらオフニャに襲われてこうなったと」

 

 

 助けてもらった後、明石さんにこうなった経緯を説明したらジト目&ため息という反応が返ってきた。なんか対応が冷たく感じるのは気のせいですか?

 ちなみに猫少女の名称はオフニャというらしい。このオフニャはKAN-SEN達の戦闘を補助する役割を持っている生き物なのだとか。そしてR(レア)、SR(スーパーレア)、SSR(ダブルスーパーレア)とレア度があり、SSRオフニャに至っては大規模な演習以外では滅多に見られないんだとか。

 

 

「滅多に姿を現さないSSRオフニャを引き連れて来るなんて予想外もいいところにゃ」

 

 

 呆れたように言う明石さん。その視線の先━━━ボクの足元にわらわらと群がっているSSRオフニャが映る。体に纏わり付くことは無くなったけど、こんなに群がられては思うように動けない。現在はやることもないので明石さんから渡されたオフニャ用の猫じゃらしを使ってオフニャと戯れている。

 ちょくちょく明石さんも猫じゃらしに視線を向けている。分かってやっているのか、それとも無意識なのかはわからないけどどうも猫じゃらしに反応してしまうようだ。

 

 

「明石さん、先程は助けてくれてありがとうございました」

「明石に向かって猫じゃらしを揺らしながら言う台詞(セリフ)じゃないにゃ」

 

 

 不満気に呟く明石さんだけど言葉とは裏腹に視線は全力で猫じゃらしを追っている。やっぱり猫じゃらしに反応してしまうのは彼女に猫耳と尻尾があるからだろうか。

 

 

「すみません、つい……それで、このオフニャ達はどうすればいいんでしょうか?」

「明石のショップにはオフニャ専用の部屋があるからそこで預かるにゃ」

「餌とかは何を買えばいいでしょうか……ボクはあまりこういうことに疎くて……」

なんで飼う気満々にゃ……餌や世話はこっちでやるからそこは気にしなくていいにゃ。こっちから要求するのはたまにオフニャと遊んであげて欲しいくらいだにゃ……」

「……ですが」

「そもそもオフニャは普通の猫よりとってもデリケートにゃ。それがSSRともなれば尚更にゃ。ここはプロの明石に任せて素人は引っ込んでるにゃ! まぁ、アスカならむしろオフニャ達が大喜びしそうだけどそう易々と金儲けのチャンスを手放すなんてあり得ないにゃ…!

 

 

 ……たしかに、ボクは動物なんて飼ったことないし素人よりもプロに任せた方がいい。もし何かあった時に責任も取れないし明石さんの言っていることは正しい…………のだけど、なんか明石さんが悪徳商人のような顔で独り言を呟いている姿を見ていると不安しかない。本当に大丈夫かなこれ。

 ……と、心配ではあるけど結局明石さんに任せることにした。そう悪いことにはならないと思うし……多分……きっと。

 

 

「そういえば明石さん、シフトはどういう感じですか?」

「んにゃ、予定では三日後に仕事に入ってもらうにゃ。当日は明石が仕事内容の説明をしながら指示を出すから安心するといいにゃ」

「そうですか……わかりました」

 

 

 ……三日後か。それまでには必要最低限の知識は詰め込んでおかないとボロが出るかもしれない。

 

 

「あ、そうそう。明日は手の空いたKAN-SENがこの母港を案内する事になったから大人しく小屋で待ってるにゃ。午前8時くらいにKAN-SENを向かわせるって指揮官から連絡が来てたにゃ」

「了解です。他に何か伝えることとかありますか?」

「んー。色々と書いて欲しい書類はあるけどまぁ、それは後回しにするにゃ。取り合えずこれだけ書いて欲しいにゃ」

 

 

 そういって明石さんが渡してきた書類を受け取る。内容はポロシャツやズボンなど、仕事中に着ると思われる服装の写真が載っていた。多分、サイズを記入して購入するものだろう。写真にあるポロシャツの左胸辺りに『明石ショップ』の刺繍がされているのが印象的だ。

 ボクは明石さんからボールペンを借りて書類にサイズを記入した。

 

 

「はい、これでいいですか?」

「ん、問題ないにゃ。あ、ところで今からちょっといいかにゃ? 昼過ぎだしせっかくだから明石が何かご飯を奢ってやるにゃ」

「いえ、さすがにそれは……」

「遠慮することないにゃ。入社祝いみたいなものと思っておけばいいにゃ」

 

 

 明石さんの気遣いに遠慮しようとしたけど押しきられた。こちらとしては非常にありがたい提案だけど、少し申し訳なさも感じてしまう。早く稼いで一人で生活できるようにはしたい。

 

 

「ありがとうございます。あの、お昼ご飯なんですけどアレでは駄目ですか?」

 

 

 明石ショップの商品棚に置かれている栄養バーを指して聞いてみる。明石さんはなんとも言えない微妙な表情でしばらく沈黙した後、やがて呆れたようにため息をついた。

 

 

「本当にそれでいいのかにゃ? あの栄養バーは一番安いけど正直あんまり美味しくないし食感もモサモサしてるからオススメしないにゃ」

 

 

 ……本人がこう言ってるのになんで商品棚に置いてあるんだろうか。いや、売れてるから置いてあるとは思うんだけど、物好きな人なのかな。それとも自分と同じように栄養バーを愛用していた人か。

 

 

「……こういうのばかり食べてたので、つい食べたくなるんです」

 

 

 軍に所属していた頃は休日なんてほとんどないし、ご飯を食べる時間も惜しかったからすぐに食べれて腹持ちがいい栄養バーを毎日食べていた。

 ちょっと懐かしいなと思いつつ、商品棚から栄養バーを三本取り出した。

 

 

「では、お言葉に甘えて栄養バー貰っていきますね」

「合計で150円にゃ」

「奢りじゃなかった!?」

「冗談にゃ」

 

 

 悪戯に成功したような笑みを浮かべる明石さん。金銭とか生活に重要な物での冗談は心臓に悪いので是非ともやめて頂きたいです。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 あれからボクは大量のオフニャと数時間ほど戯れた後、猫ハウスに(またかなり抵抗されたが)なんとか放り込んで帰路へとついていた。おかげでもうすっかり茜色の空が綺麗な時間帯だ。

 ちなみに明石さんに日給を現金で手渡しして欲しいと申請しておいた。承諾されるかは別として明石さん的には全然OKらしい。

 

 

「うわ、服が猫の毛だらけ……」

 

 

 改めて服を見たら猫の毛だらけだった。正直言って全部取れる気がしないくらい服に付着している。これは後で明石さんからガムテープを借りなきゃいけないかな。この服は借り物だしちゃんと綺麗にしておかないと。

 

 

「……こうして考えてみるとボクって予備の服がないんだっけ。どこかで新しいのを買うしかないかな」

 

 

 大抵の物はなんでも揃っている明石ショップならば私服も購入できるだろう。給料を貰ったらすぐに日曜必需品を揃えた方がよさそうだ…………お金、足りるかな……。

 色々と増えていく心配事にボクは頭を抱えて項垂(うなだ)れる。

 そして歩き続けること数分。小屋に着いたボクはドアノブを回して中へと入る。

 

 

「ただいま……」

 

 

 ちょっと言葉に違和感を覚えながら呟く。誰にも聞かれず返事も返ってこないと自覚しているけど、長年の風習がなかなか抜けてくれず、つい言葉を漏らしてしまう。

 ……いや、もしかしたら無意識で風習が消えてしまうことを拒んでいるのかもしれない。平和だったあの日々を忘れるのは楽だけど、それだときっと悲しくなってしまうから。

 

 

「……変わらないな、本当に」

「あら、お帰りないアスカさん」

 

 

 ……変な所で感傷的になっていたらどこからともなく声が聞こえた。というか、今日聞いたばかりの声にボクは思考が停止した。

 視線を動かして声のした方へ向けると、椅子に座っているイラストリアスさんがいた。机にはビニール袋に入れられた本が何冊か置かれている。多分だけどあの本はベルファストさんが言っていたものだろう。

 

 

「えと……何故ここに」

 

 

 頭に疑問符を浮かべるボクに対してイラストリアスさんは優雅に微笑むと、ビニール袋から一冊だけ本を取り出した。

 

 

「ベルファストが言っていた資料を届けに来ましたわ。それと、陛下からの伝言で食事会をするから貴方も出来れば出席するように、と」

 

 

 なんか後半とんでもない事を言われた。陛下ってまさか女王陛下? いや、でもなんでそんな人物がボクを食事会に誘うのだろうか……そもそもボクは一度もその陛下と会ったことがない。ほぼ接点がないと言ってもいいのに何故……?

 というか参加するにしてもテーブルマナーとかほとんど知らない。海外なら尚更だ。何か失礼な事をしてしまうかもしれないし、正直に言ってしまうとあまり行きたくない。

 

 

「そんなに気負ったお顔をなされなくとも、普通の食事会ですよ」

「そ、そうなんですか……」

 

 

 ニコニコと微笑んで言うイラストリアスさんだけど、彼女はかなり高位の貴族と思われる。つまり普通の食事会と彼女は言っているけど、それは貴族にとっての普通で一般市民の普通とは異なるのではないだろうか。

 ……あれ、そう考えると余計に気が重くなった。うぅ……無性に胃が痛い気がする。もともとボクは小市民なんだぞー。こういうのって絶対向いてないって。

 

 

「まぁ、参加不参加は本人の自由だと陛下は仰っていましたからアスカさん次第ですわ」

「あ、じゃあ食事会の参加はお断━━━」

 

 

 断ろうとしたけど最後まで言葉が紡がれることはなかった。何故ならイラストリアスさんが今にも泣きそうな表情をしていたからだ。手で口元を押さえてかなりショックを受けたような表情で瞳をうるうると潤せている。もうこれ泣く五秒前くらいだよ。貴族の女性を泣かせるとか処罰ものでは? というかそれ以前に男としてどうなのか。

 

 

「━━━喜んで参加させて頂きますね!」

「ふふ、それはなによりですわ」

 

 

 ちょっと待って。さっきまでの泣きそうな表情はどこへ行ったんですか。参加すると言った瞬間に満面の笑みに変わったんですが。もしかしてこれボク上手いこと乗せられた? ヒエッ……貴族の女性怖い。

 まぁ冗談はさておき。自業自得とはいえ貴族が行う食事会に参加することになった。しかし、今のボクの服装は大手運搬企業の作業服(猫の毛付き)だ。とてもではないが貴族の食事会になんて参加できる服装ではない。

 

 

「あの、服装はどうすればいいですか?」

 

 

 もし予備とか何もなかったら心苦しいけど断ろう。この姿で参加するのはさすがに精神ダメージがデカ過ぎる。

 そんな事を考えながら聞いてみたけど、イラストリアスさんはお見通しだと言わんばかりに微笑む。

 

 

「そこもちゃんと考えてありますわ」

「あ、そうなのですね。よ、良かったぁ……

「パーティードレスとメイド服、アスカさんはどちらにしますか?」

「勘弁して下さい……」

 

 

 よりにもよってなんでその二択なのッ!? なんて本物の貴族相手にツッコミを入れる訳にもいかず、出かけた言葉をなんとか呑み込んで項垂れながら呟いた。

 

 

 

 なお、先程のは冗談でちゃんとした服を貸してくれるとのこと。それを聞いて今日一番、安堵したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 





【一方その頃】

クイーン・エリザベス「これなんてどうかしら?」

ウォースパイト「陛下、何をなさっているのですか?」

クイーン(以下略「例の少年の服装が少ないみたいだから食事会ついでにせっかくだから私が直々に見繕ってあげようと思ったのよ!」

ウォース(以下略「ですがそれ、パーティードレスとメイド服ですよね……?」

クイー……(ひんぬー陛下「写真を見た限りだときっと似合うと思うわ!」

ウォー……(たぬき「そういう問題ではないかと……」
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