お久しぶりです。
――ワアアアアアアアアアアア…
人の雪崩が起きる。
それは対武神用に使われた技があっさり突破されたことを意味した。
「凄いけど、お姉さまには無意味よねー」
「確かに妙技ではあるけど作戦ミスだ。正直に隊を組んで攻めたほうが質で勝ってたぶんいい勝負はできた」
―――実際作戦ともいえないけどね。
技を突破された天神館の生徒はまともな反撃もできずに討ち取られいく。突破された場合の対処もおざなりで望んだらしい。統率の取れない中で機転の利く者や腕利きが暴れてはいるが数で押しやられていく。
そう時間もかからずこの試合はこちらの勝ちだろう。
自棄になったのか観戦していた百代に突っ込む者までいた。
当然一撃の下に沈められ敵陣に投げ込まれたが……。
それが燃料となったのだろう、百代は敵陣へと突っ込んだ。混乱が強まり敵味の方区別つかなくなってきている相手側を好き勝手に荒らしていく。
「うーん、隙が多い。防御を無視した戦法…といえば格好付くが本人は楽だから、恐れるに足らずって考えだね」
実際彼女にとって彼らの攻撃はいくら喰らおうと問題ない。最低限攻撃をかわし後は喰らいつつ敵を屠っている。
ただ動きに流れがないのだ。
「流れがないってことですよね? あ、今の部分とかかしら」
貫き手を放った後の脇腹に回し蹴りが入る。
それは放った者にとっても確かな手応えを感じたであろう……だが相手は武神だ。怯んだ様子もなくその足を掴むと叩きつけた。
「うーん…流れどころかただの隙だよ。普通なら体力を奪われたうえに勝負付ける一撃だ。壁越えといわれる達人級と相手取るときの動きには目を見張るものがあるけど、それ以外では大雑把に対処が多い」
「えーと…。
「それもそうだね」
みるみる抵抗の弱まっていく天神館側、一時間とかからず三年はこちらの勝利で終わった。
「明日はアタシら二年生の番か……」
「無理はせず指示に従って動くように気をつけてれば大丈夫さ。がんばってね」
「ハイッ!!」
やってやるぞー。と一子が意気込む。
怪我人の回収が始まり工場内を生徒達が慌ただしく駆けていく。
「お師匠? どうかしましたか」
「……いや。帰ろうか、一子ちゃん」
■◆■
次の夜、問題の二年生対決。
「作戦は以上だけど、なにか質問ある?」
大和は先程Sクラスでまとめた作戦内容を簡単に砕いてクラスの面々に説明していた。
すでに交流戦も最終日となり自分達の結果次第で勝敗が決まる。
「とくにないようだな。じゃあ各自持ち場についてくれ」
ここからは時間との勝負となる。
今回の作戦で大和達Fクラスは不測の事態に備えた遊撃部隊として役割になった。意外性を持ったクラスであることからその力を発揮させやすいだろう、との事から与えられたものだ。
「実際はSクラスの固い連中が面白くなかったからなんだけど…」
「でも事実俺達Fにはもってこいの役だな!」
「ああ、ガクトの言うように俺達にはもってこいな役割だ。まぁその辺はSの主将さんたちもわかってたみたいでデキレースのようなもんだったがな」
あーだこうだとどうやってでも自分達に活躍させたくないようで予想はできていたとはいえ頭が痛くなったのは事実だ。
即興とはいえこちらの考えに乗ってくれた葵達によって下手に出てればいいように動いてくれた。
思いだしてニヤつきそうになるのを必死に堪えている大和を余所にクリス達が準備運動を始めていた。
「ふふーん……ふふ」
「ん? なんだか機嫌がいいなワン子。なにかあったのか」
各自無言で武器を構え、振るう。
しばらくしてじっとりと汗を搔いたクリスが妙に機嫌のいい一子にが気づいた。
今にも尻尾が出てきてそれは喜びを表現するだろう。
「うん! 実はお師匠から仮免許皆伝もらったんだ。だから今日の交流戦で真剣にやれるってわけ……はぁっ!!」
「ほう、それは面白いはな―――っ!」
音も立てない綺麗な振り下ろしが行われた。
遠目に見ていた大和は何も感じなかったが傍で見ていたクリス、そしていつの間にやら大和の隣にいた京が思わずといった表情で武器を構える。
二人だけではない。ある一定の腕を持つ者たちが同じように武器を構え周囲を驚かしていた。
「な…今のは……」
「よっし! 気合も十分。タッちゃんのところにでも行ってお菓子もらってこようかしら」
あまりの衝撃にクリスが声をかける間もなく一子は班編成をしている忠勝も元へと走り寄った。
「今のはいったい…」
身近に壁越えといわれる者がいるが故に、一子の放った一撃がどれほどのものか…。残されたクリスはただ呆然と先程振るわれた光景を思い出していた。
◆●◆
交流戦の結果だが。以外にも川神学園が押され、不利な状態となっていたところに強力な助っ人の登場で逆転勝ち。勝敗は1対2で川神学園が勝利となった。
これにて天神間との交流戦は終わり。明日から数日はこの話で持ちきり、だと思ってたがその勝利を深く味わう間もなく翌日。九鬼財閥から武士道プランなるものが発表された。
当然ながら過去の英雄がクローンとして蘇ったことのほうが盛り上がる。特にその英雄が川神学院に来るとなると昨日の疲れなど措いてきたかのように朝早くから生徒が登校していた。
そしてそれは風間ファミリーも同じであった。
起床時間は変わらなかったが出る時間を早めたので三十分ほどは早く着く予定だ。
「いやー。過去の英雄とか燃えるなぁ…。朝から冒険心が昂ってるぜ!」
「ニュースや新聞、ネットも殆どその話で持ちきりだね」
「そりゃぁ、あんな可愛い英雄だからな。モモ先輩もそう思いません?」
「ああっ! 確かに可愛い…それに強そうだったしな!」
今にも羽ばたき、飛び立ちそうな様子で百代が頷く。
「それと今朝じじいに教えられたんだが、ワン子の師匠も三年に編入してくるらしい」
「ワン子の師匠が? 何歳だよ」
「詳しくは聞けなかったがその師匠を監視するよう言われたんだ」
途中まで武士道プランで盛り上がってた会話は一子の師匠話に変わる。
「監視って……。仮にもワン子の師匠でしょ?」
「だから詳しくは知らないって言ったろー? それにそういったのは大和、お前の役割だろうに…」
「うーん。その師匠については過去に何度も調べようとしたけど何一つ掴めず今は打ち切りだよ」
ファミリーの仲間が師匠と尊敬し世話になっているのだ。当然、大和は気になって調べたりはしたが、結果は芳しくない。
大和が苦い顔をして首を横に振った。
実際、その件は今でも悔しく心に残ってるのだ。
「てことはあれか、ワン子の師匠はモモ先輩のクラスに入るってことすか」
「ああ。私も今まで見たことなかったから楽しみだ」
一瞬会話が途絶えたのを見計らってクリスが疑問を口にした。
「なぁ大和、犬の師匠はルー師範代ではないのか?」
「ああ、そういやクリスと……まゆっちには言ってなかったっけ。ワン子の師匠は別にいるんだ」
「お話を聞いてる限りでは皆さんもあまりお詳しくないようですね」
「それは……まぁ。昔色々あってな。しばらく川神院が動けなかったときワン子を預かってた人になるんだが…」
言葉を濁しながら大和は百代に一瞬目をやる。
「なんだ?」
百代には珍しい、感情のない顔がそこにあった。
触れてはいけない何か。
それを敏感に察知した真由美がオロオロしだす、前に大和が気を利かせて話を進める。
「ワン子だけじゃなくS組の榊原小雪、源さんもその人に師事してもらってるんだ。どういう繋がりかは不明だけどね」
「榊原…。ああ、あのマシュマロくれる奴か! それに源さんもその師匠に習ってたとは…」
「英雄と同じ日に来るとなると実はその師匠とやらもどこぞの英雄かもよ……勿論! 女なら大歓迎!!」
岳人は自身に香水を降りかけ、筋肉を見せびらかす。
「英雄かどうかおいといて自分もその師匠と手合わせをしてみたいな!」
「残念だがクリス、手合わせはできん。じじいが禁止してるからな」
「なにっ!? それは本当か」
騒がしく歩く風間ファミリー。
すっかり元の雰囲気に戻った中で今まで黙ってた京が大和に近づいた。
「大和。大丈夫、どうかした?」
「いや、武士道プランそれにワン子の師匠…なんか気になってな」
「だから大和! 英雄だってそれもナイスバディーな女さ」
黙ってろ、と岳人を無視してぶつぶつと大和が呟きだす。
……再発か?
いや、まだそう決め付けるのは。
私が面倒見るから大丈夫。
なんだ? 大和は重病持ちだったのか。
いやあれは…
「聞こえてるからな!」
大きな笑いが起こり、大和も気には留めておくことにして一旦思考を切り上げた。
●○●
「―――随分と成長したようだ。ますます完璧に近づいている」
百代たちがいた場所から十数キロほど離れたビルの屋上。そこには双眼鏡片手にタバコを吹かした白衣姿の人物がいた。
「……然様でございますか」
どこからかそんな声が聞こえた。
周りに白衣の人物以外の人影はおろか気配すら感じないのに。
「どうやら抑え込んでるらしいがそれも長くないだろう。彼女の強固な檻は一度歪んでる…。その上から金槌で叩いて適当な形を作っただけだ。抑えるべき形が変形しているんだよ…!」
「………」
「キミには解らないだろうね、つまり彼女は蛹………いや。檻という殻を抜け出す鳥のようなものだ。気侭に羽ばたくだけで国が傾くがな」
「では、斬りますか?」
冗談じゃないと首を振る。せっかくここまで成長したのだから。
「それで……車椅子の人物についてなにか情報は?」
「今のところ何も。住居の特定は済んでいますが念のためそこで打ち切っています」
「そうか…星のババァも厄介だな。上手いこと牽制してくる。こっちの目的や正体さえ掴んでやしないのに……。
ひと瞬きほどの時間もかけず姿が消える。
それとほぼ同時に執事服の男性が一人。地団駄踏むように現れた。すぐに意識を絞って全方向に向けたが先程までいた気配を掴むことはできない。
彼自身がそこまで探索が得意でない部類ということもあるがそれでも逃げた気配を掴むことのできる人物は限られる。
つまり、それほどの強さなのだ。
「今回も、逃げられましたか」
毎回気配を感じて向かうと逃げられる。ただ今回は収穫もあった。
「これは…双眼鏡? 随分と特殊なものですね」
九鬼の執事としてそれなりの教養を受けている彼でも始めてみる形だった。
今まで何一つ残さなかったというのに急にこのようなものを残していくとは…。どうも違和感を拭えないが双眼鏡を回収して懐にしまうと彼も去る。
誰もいなくなった屋上の上から視られていた百代は勿論、大和たちもその存在に気づくことなく学校へと向かう。誰もが今までと同じ平和な毎日が続くことを疑っていなかった。
お読みいただきありがとうございます。