真剣に武神に恋をした   作:シスター

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 帰り道。だいぶ暮れた道を帰っていると、遠くに見知った背中を見かけた。
 きょろきょろと周囲を確認しては頭を小さく振りかぶって進んでいる。

「あれは…ジークルーン? なんでまた親不孝通りに向かってるんだ?」

 周囲に気を巡らせてみたが他の猟犬部隊の気や九鬼家といった治安部隊の存在は視られなかった。
 つまり、彼女は1人で親不孝通りに向かっていることになる。
 衛生兵の彼女が動くとなれば、怪我の治療が主だが…。

「近くに乱れた気もなければ、血の臭い、怪我の予感はしないが…。今は休暇中だし任務でもない、か」

 どんな怪我であっても病気等でなければ彼女の治療能力は活かせる。
 その能力の一端に該者の怪我を見抜く力があるが、偶に第6感的な役割として怪我をした生物を遠くで感じとる事があるのだ。
 さすがにそれは技術とか経験じゃないのでまず自分では無理だ。

 ではどこか怪我をした生物でもいるのだろうか。

 しかし、それにしたって1人なのはおかしい。
 緊急任務…九鬼家の足元で? 機密の情報交換…今確かめて部隊がないのは確認済みだ。
 見間違い? ありえないな。気で確認したし。

「……。っと、今は別に部隊を率いてたり、傭兵でもないんだった。もっと簡単に考えてみよう。………迷子かな?」

 少し気を開放してもう一度、周囲を視ていく。
 やはり、他の猟犬部隊達はバラけているし、九鬼の監視も通常通りだ。

 気の開放をやめて、車椅子を進める。

 遠くではジーくルーンが気を当てられたことなど気づきもせず、また引き返すこともなく角を曲がって奥に進むところだった。

「面倒になってないといいんだけど」

 とにかく、非戦闘職で気の弱い。相手を傷つけることが苦手な彼女では親不孝通りは最悪な場所だ。
 もちろん。一通りの護身術は習っているので腕っぷしだけの者達が束になろうと勝てないだろうが、ここにいたっては他と違いくずれ者が多い。
 多少の怪我じゃ止まらない奴らと怪我をほおって措けない彼女では相性が悪いのだ。

 角を曲がり、彼女を探すと案の状囲まれていた。
 当然助けに入る。

 それが更なる運命のうねりになろうとも。


―――少し前。

「ふふ、ふふふ。やった♪」

 川神院で思いがけない技を教えてもらったジークルーンはホクホクとした足取りで道を歩いていた。
 自身の能力の幅が広がる…。もう二度とそんな事など無いと思っていただけに、今回教えてもらった技は嘗て見たことがある。憧れた技だったのだ。

 気水圏と宣誓宣言。
 気水圏は自らの気をまるで水のように、清らかで透き通ったものとして周りに出し、防御と回復として扱う技だ。

 宣誓宣言は自分の力量によって対象人数が変わる技で、効果は対象の受けた影響を肩代わりするという自己投身技である。

 気水圏はともかく、宣誓宣言はかなり扱いが難しく文字通り覚悟を決めたときに使う業だ。
 しかし、彼女にとってはそうではない。
 能力とされる治癒を使うことで強力かつ凶悪な身代わり人形と化すのだ。
 ジークに意識がある限り味方は怪我を負わない、敵は相手を倒せないといえば、どれほど厄介かわかるだろう。
 もちろんジークがのされてしまうような、治療しきれない怪我や異常攻撃には気をつけないといけないが、それも気水圏を同時に使えばかなり緩和される。

 今日はまだ触りの部分だったが確かな手応えを感じていた。

「隊長。褒めてくれるかなぁ…」

 ふと、思いつく前に口からこぼれた。
 それと同時に途轍もない感情の乱れと損失感が襲いかかる。

「っうぅ。くぅ…う……!」

 蹲りそうになる体を何とか立たせ、涙も一番星が出た空を見上げることで落ちるとこはなかった。
 握り締めた手も握力が強くないため白くなっただけで済む。

「……フゥ。泣くのは、まだはやいよね」

 これは皆で決めたことだ。
 いつか彼の元に辿り着けた時に…その時に流すのだと。

「スゥ…。ふぅ…あ、あれ? あれれ?」

 深く深呼吸して落ち着いてから気づいた。

 薄暗くなった人通りのない道。
 川神院へと向かうときに通った道とは違い、またここに着て見たことのない道。

「……迷っちゃった?」

 親しい者がいたら絶対に何かしら言われるであろう事態に顔を青ざめる。

「こ、ここどこだろう? えーと来た道戻ればいいのかな。でも、もう少し進んでみたほうがいい? でもでも…」

 うろうろしている内に日はどんどん暗くなる。
 とりあえず、先にある角を曲がってみて進むか戻るか決めよう。支給された携帯を使うという事など微塵もよぎらなった。

 そして。その行動が今後の運命に大きく影響する。
 もし、この時進まず引き返していたら。
 もし、携帯で連絡したり周辺の地図を調べたりしていたら。
 もし、もう五分ほどその場にいたのなら。

 彼女は無事に引き返せたし、連絡を受けたコジマが駆けつけて一緒に帰れた。そもそも五分後には九鬼家の定時偵察が行われこの先にいるくずれ者は去っていた。彼女はそのまま探しに来た大和と竜兵が回収していたのだ。

 ではこの運命ではどうなるのか。

「お嬢さん、一人かい? 危ないなぁ。付いておいで」
「でけぇけどいい体してんじゃねぇか、おい」

 少し進んだところで左右の壁を乗り越えて前と後ろ、二人に囲まれた。

「えと、え? どちらさまでしょう…きゃッ!」

 三人目、四人目が左右の壁を乗り越えて上から襲い掛かってくる。
 一人がロープ、もう一人はガムテープを持っていた。

 対応の遅れたジークルーンはそのまま組み伏せられるかと思われたが――。

「周囲の警戒を怠るな、ルル」
「ふぇ…」

弾き飛ばされる形で再度左右の壁の向こうへと二人が飛ばされ、


思わず目を閉じたジークルーンは耳元で聞こえた声に困惑した。



「たい、ちょう…?」
「久しぶりだな。ルル」














第3話

 外が薄明るい中、いつものように瞑想を終えた後準備をする。

 

「さてと……。よし、必要なものは全部揃ってるかな」

 

昨晩のうちに一度点検はしているが念のためだ。さっと目を通す。

 

「お師匠様、瞑想は終わりましたか?」

「うん、終わったよ。後は荷物のチェックをして……」

 

 先に瞑想を終え制服に着替えた一子が車椅子を押してきた。

 今日から学園に行くということもあり、少し頑丈に作られた特注品だ。いつもと感触が違うようでよろよろと押している。

 

「よっとと…これ何キロくらいあるんですか」

「いつものやつより軽くなって70キロくらいかな。もっと重いのがあったんだけどオプションを付けてこれが一番安かったからね」

「うーん。そんなに重くないわね」

「ん? ああ、たぶんうまく押せないのはわざと重心がずれるように設計してあるからだよ」

 

 一子ちゃんに抱えてもらい車椅子に乗せてもらう。

 足を固定して動かしてみると注文した通りの出来だった。

 

「さて、バックの中身も確認し終えたしそろそろ行きますか」

 

 今日から川神学園……それも武神と同じクラスとなるために準備を怠るわけににはいかない。

 昨晩のうちに想定される限りの事態を考え一通りモノは揃えておいた。

 

 失礼します。と一子ちゃんが合計100キロを越える車椅子と自分を軽々と持ち上げて外へと向かう。

 

「師匠。おはようございます」

 

 外にでると忠勝くんが前に修理した部位の確認を行っていた。

 

 

「おはよう忠勝くん。朝早から疲れてるだろうけど…昨日はお疲れ様。どうだった?」

「いつもの練習に比べればそんなに疲れてません。それに十分に休んだんで大丈夫です。それと昨日の交流戦、師匠の言われたようにやってみたんですが……いくつか感覚が掴めたんで今日にでも相手をしてもらって確かめてもいいですか?」

「いいよ。ただ右肩痛めてるね? 見せてごらん」

 

 重心の微妙な傾きからそれくらいはわかる。

 本人も隠すつもりは無いようで素直にしゃがむと背を向けてきた。

 車椅子である自分を思っての行動だ。

 

 気で痛めた筋を治療する。

 

「タっちゃん大丈夫?」

「別にたいした怪我じゃねぇよ。一子も疲れや怪我は大丈夫なのか?」

「うーん。大丈夫! あまり疲れてなかったし火薬も危ないのは薙刀で落として……掠り傷は気で治しちゃったしね!」

「ならいいが…。ありがとうございます」

「気は掴んだかい? そのまま流していれば昼頃には治ってるはずだよ」

 

 こういった治療は急ぐ理由のない場合気の流れを正してゆっくりと治したほうがいい。武の世界では万全な状態での戦いなど無いも等しい。どこかしら負傷するし、気だって消費している。

 実戦経験が少ない以上、体捌きに気の温存の仕方などを教えるにはこういった機会が後々大事になってくるのだ。

 

 門の鍵を閉めて明るくなってきた道を進む。

 

「それにしてもホント、よく気づかれずに手続きできましたね」

 

 忠勝くんがどこか感心したようにこちらも見てくる。

 

「たしかに…。ルー師範代はともかくおじいちゃんまで気づかなかったのよね」

「あの二人を出し抜くにはあれくらいしないと無理だからね」

 

 そう、川神鉄心やルーといった実力者の目を盗んで川神学園に入学したのだ。

 

 

―――もちろん、普通の方法ではないが。

 

 

「顔の骨格から声まで別人だったもの…うぅ……あの光景は何度見ても不気味だわ」

「あまり知られていないものだからね。実際あれを使い続ければいつしか自分の顔と声を忘れてしまう…欠落した技だよ」

「骨格から声帯まで変えれるんでしたっけ」

「それだけじゃないさ。目の色から鼻筋に髪の長さも変えれる。とある達人はこれを究めに窮めて最後には細胞すら変えていたよ」

 

 人間じゃなくなってたけどね。

 

 一子が怯えるようにこの技を使用する際顔は波打ち骨が軋む音と同時に水っぽい音などがして非常に不気味なものとなるのだ。だがそうまでしないと相手は僅かな癖でも見抜けるほどに実力者だし、さらに手を打っていた。

 

「気のほうはいつものを使ったんですか」

「うん、気は似たものはあっても同じものは存在しないからね。複数人の気を纏って誤魔化したわけ」

「それも危険じゃ… 」

 

 実際暗殺者やそれに近い者は相手に気を合わせたり気を溶け込ませたりなど似たような技は使っている。ただ今回使ったものはまったく持ってそれとは別物である。

 いくつか他人の気を取り込み、それを混ぜ合わせて一つの気を作ったのだ。

 

 この世界で気とは人にとって遺伝子的な役割に近い面もある。

 そんな気を似せて拒絶反応を少なくするのではなく、そのまま取り入れ強引につなぎ合わせたのだ。

 O型にB型を与えられないように細心の注意をはらわなければ合わせた気の分解が始まり、内部で爆発するか気の溶解が始まる……即死もありえる危険な技である。

 

 相性のいいもの同士でない限り失敗すれば即廃人か狂人になるかの二択である。

 

 重くなった雰囲気を飛ばすように一子が大きめに声をだした。

 

「まぁ難しいことはいいじゃない! それよりお師匠のクラスはどこになったんですか?」

「言ってなかったか…。連絡があってね。Fクラス…彼女と同じクラスになった。まぁこんな時期だし理由もいくつかはぐらかしてたから監視の意味もあるんだろう」

 

 ある程度予想はしてたから問題はない。

 

「なんて言ったんです?」

「んー…一子ちゃんの学園がみたいと思ってー。どうせなら実力者を視て自分を見直したいとか……?」

「……。怪しいっすね」

 

 自分でもそう思うよ。

 

「しかし、九鬼関連の面々と同時にだなんて…。師匠狙ったんですか?」

「いや。偶々だね、ある程度情報は掴んでいたけど」

 

 武士道プラン、過去の英雄のクローン。

 クローンだなんて今の時代非難が大きいだろうが、世界の九鬼と称される今、その反動すら活かして更なる飛躍をするだろう。

 すでに医療関連では相当な動きが興っている。

 

「ただ、あまり好くないな」

「……。師匠、オレはどこまでも付いていきますよ」

「あ、あたしも! お師匠様にどこまでだって付いていきます」

 

 まっすぐで曇りのない言葉に少し照れる。

 

「ああ、こちらこそ頼む。こんな不甲斐ない師匠だけどね」

 

 日もだいぶ昇り、明るくなった道の先に学園が見えてきた。

 さすがに朝早いため、誰も居ないと思われたが…。

 

「あら? アナタ達は…おはようございます」

「おはようございます! えーと」

「議長、おはようございます。朝早いんですね」

「えぇ。少し立て込んでてね。そちらの方は、今日入学する永日彼方さん…。だったかしら、よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

 

 手を伸ばして握手する。

 

 

 

 

 

 

 

 

■●■

 

 

 

 

 朝のHRにて転校生が紹介される。

 

「さて、いよいよ話題の転校生の紹介じゃ。この川神学園に7人入ることになったぞい」

 

 7人。武士道プランの3人だけと思っていた皆がざわついた。

 

「ワン子の師匠入れて4人じゃなかったのかよ。これは俺さま春な予感!」

「馬鹿言ってないで静かに聞いとけ」

 

 説明が進んでいく。

 

「武士道プランの申し子達は、全部で4人じゃ。そして2人が関係者で残り1人はまぁ、普通じゃな。まずは注目の4人の1人からじゃ。3-Sに入るぞい」

 

 3-S 葉桜清楚。

 

 名前通りの清楚な女性が紹介される。

 おぉっ!と特に男子が喜びの声を上げた。

 

「次に二年。それから一年じゃ」

 

 2-S 源義経 武蔵坊弁慶 那須与一

 1-S 九鬼紋白 ヒューム・ヘルシング

 

「うっわ…。すごいメンバーが転校してきたね。ワン子のお師匠様が普通の人ならかわいそうに思えてきたよ」

「さすがにこの後の紹介は難易度が高すぎるだろ。クソゲーもいいとこだぞ」

 

 モロとスグルが同情の念をまだみぬ最後の1人へと送った。

 

 相次ぐ美少女。大物の登場に交流戦の疲れなど措いて朝から活気付く生徒達に最後の転校生が紹介される。

 

 3-F 行方彼方

 

「最後の人はうちのクラスで候(イケメンだと嬉しいな)」

「なぜ3年なのに最後なのか。気になるな」

 

 同情の念や期待感で注目される中、壇上に最後の1人が現れた。

 

 壇上に現れた人物の姿は前の者達をおいて皆の印象に深く残った。

 一子によって車椅子ごと上へと上がり、すこし時間をかけて足の拘束を解くと体を支えられながらマイクの前に立つ。

 その姿に、ざわついていた周囲が静かになる。

 

「えー、皆さん。先の方々が大物過ぎてがっかりさせてしまいますがとりあえず、おはようございます」

 

 とても落ち着いた声音で聞いていると安心感を与えるほどの声だったがやはり、場の雰囲気は下がる一方だった。

 

「ほ、包帯で候?(足も不自由なのかな)」

「フードでわかりにくいがよく見ると所々血が滲んでるみたいだ。ここに来る途中事故にあったか…なにか訳ありなようだな。川神は何か聞いてないのか?」

「私だって始めてみたさ…ワン子の師匠なのは聞いてる」

「ほう…」

 

 マイクを手にした手や黒いフードからこちらを覗く顔には器用に目と口以外に包帯が巻かれている。その下には学園の制服を着ているがよく見ると不自然な影や皺が入っていた。

 困惑や驚きで注目されるなか淡々と紹介は続いた。

 

「このような姿で朝から驚かせてしまって申し訳ありません。今日から3-Fの一員になりました行方彼方といいます」

 

 次第にざわつきが戻り大きくなってくる。

 

「えーと、まぁ格好が全身包帯で見たように足が不自由ですが。でも一応に武人ですので大抵の事はできます。それに川神学園には彼女を始め教え子もいますから……」

「はぁーい! お師匠おはよー」

 

 シュタッ、と効果音の付きそうな着地で壇上に女子生徒が現れる。

 

「おはよう小雪ちゃん。彼女が教え子の一人で困った事が起これば基本彼女達に頼みますので…。一年間よろしくお願いします」

 

 

 

 

「これこれ、静かにせい。彼はみたように怪我がひどくてな。一年間学園で過ごすことで体を治すことももちろんじゃが自分探しも兼ねているそうじゃ。近寄りがたいじゃろうがその腕前はわしも認めておる。彼に教えを乞うのもいいぞ? 以上で転校生の紹介は終わりじゃ。次に……」

 

 さらりとことを進めていく鉄心を措いて各自が包帯人間について思想しだした。

 

 話は前日行われた交流戦での表彰に移る。

 次第に生徒達も落ち着いて転校生については一旦隅に追いやった。

 

 

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