ぶっ飛んだヤンデレウマ娘たちが見たくて書き起こした物体 作:妖魔夜行@
休日。ウマ娘に休日があるようにトレーナーにも休日はある。中々に福利厚生が整っている職業だと鳥恵はタバコを吹かしながら思った。
現在鳥恵は最近見つけた洒落た喫茶店のオープンテラスでモーニングコーヒーを味わっている。最近見つけた、というのも行きつけの店にはどういう訳かウマ娘たちが屯しており、見つかってしまえば一日を棒に振ることになるからだ。
「だからって車出してまで遠出する程で無かったかな。流石に片道30分はやりすぎたか」
「あ、お兄さま。偶然だね!」
「おっとどうやら甘すぎたみたいだ」
鳥恵が丁度軽食を頼んだ直後、ライスシャワーが入店した。あちらは偶然と言っているが車で片道30分のまだ誰にも教えてない喫茶店で自分が担当するウマ娘と偶然会うなんてことはあるのだろうか。当然のようにライスシャワーが鳥恵の隣りに座り、微笑み話しかける。
「えへへ。ライスも甘いコーヒーは好きだよ」
「そうかい。俺は今コーヒーを口に着けてないのに無性に苦い思いをしているよ」
「ホントだ、お兄さまが飲んでるコーヒー苦いね……」
「勝手に人が飲んでたもの飲まないで貰えません?」
「あっ……間接キスしちゃった……!」
「しちゃったと言うよりはしてやったの方が表現として正しいと思いますよ」
鳥恵が口をつけたコーヒーに手を伸ばすまでの時間は凡そ3秒、迷いがなかった。そもそもライスシャワーはまだ何も注文していないので迷う訳がなかった。頼んだサンドイッチが届いたのでライスシャワーが手を伸ばす前に、彼女の手の届かない位置へバケットを移動させる。
これは意地悪でではなく、ライスシャワーに「あ〜ん」をさせないためにした適切な処置である。
「あのさ、聞きたいことが山ほどあるんだけどいいか?」
「式の日取りとか?」
「なんの式だよ俺の葬式か?」
「ライス、結婚式は洋式がいいなぁ……真っ白なウエディングドレス着てみたいなって……!」
「おっと無視ですかそうですかそうですか。着たけりゃ勝手に着てこい」
「鳥恵ライスシャワーかぁ……」
「勝手に人の苗字奪うの辞めてくれません? 湯婆婆かお前は。てか語呂悪いな」
どうやらちょっと掛かりみ気味のようですね〜、落ち着けるといいんですけど。と、鳥恵の脳内でアナウンサーが実況している。
スペシャルウィークといいライスシャワーといい何故こうも自分のプライベートタイムを奪ってくるのか、軽食を摂ったらいつものようにあのポニーテールメガネの先輩女性トレーナー*1に相談しようと鳥恵は心に決めた。自室で担当ウマ娘の練習メニューを組んでいた先輩女性トレーナーは急に胃が痛んだ。
「なあライスシャワー。お前どうやってここまで来た? あ、偶然とか運命とかクソみたいな言い訳はいいからな?」
「朝お兄さまが出かけるみたいだったからついてきたの」
「ほーん。当然のように俺の動向を確認しているのね」
「どこまでも着いていけってお兄さまが言ってくれたから……」
「あくまでレースの話ね? 俺には着いてこなくていいのよ。ん? もしかしてお前いつも俺に着いてきてる?」
諦めずに目の前のやつに着いていけ、とは言ったが鳥恵自身に着いてこいとは誰も言っていない。むしろ着いてこないで欲しいと言っているのだが、どうやらライスシャワーの耳には念仏だったようだ。
鳥恵がライスシャワーに詳細を求めると彼女はあどけなさが残る少女の微笑みを浮かべながら口を開いた。
「安心して、お兄さま。ライス、いつも半径50m以内から離れてないよ」
「どこも安心する要素がないんだわ。堂々とストーカー行為を暴露する精神どうなってんの? 一度頭の中見てみたいわ」
「ふふっお兄さまなら、いいよ。ライスがどれだけお兄さまのことを愛しているのか……知って欲しいから」
「知りたくないから先程の発言は撤回しますね」
どれだけ狂愛に満ち溢れているか分からない脳内など誰が好き好んで覗くと思うのだろうか。鳥恵が全力で拒否するとライスシャワーは困ったように笑った。
「遠慮しないでいいのに」
「お前はもっと俺に配慮してくれ。感情の制御をするとかさ」
「お兄さまに対する愛情はいつもフルスロットルだよ」
「そうか、イカれてるな*2」
話している最中にサンドイッチを食べ終わり、コーヒーを飲み終わり、バケットもカップも中身が空になっていた。伝票を持って会計に向かう。ライスシャワーも当然のように鳥恵の背中に着いてくる。
「会計お願いします。はい。カードで」
「お兄さま、この後どうするの? ライス、新しい服とか見てみたいなぁ」
「あ、レシートはいいです。ご馳走様でしたー」
「たまにはゆるふわ〜っとした物も着てみたいなって思ってるんだけど、似合うかな?」
「知らね。あと俺行くとこあるから、じゃあな。待って車に乗ろうとしないで?」
視線を向けず、相槌も打たず、必死にライスシャワーから意識を逸らしていたのだが愛車の助手席に乗り込もうとする姿を見て流石に無視できなくなった。
「一緒にショッピングいこ? それか婚姻届出しに行こ?」
「ショッピングは行かないし婚姻を迫られる日常とかショッキングで仕方ないわ。つか俺の欄なんで埋められてんだよ」
「お兄さまの部屋にあった印鑑を借りて、ね?」
「勝手に人の部屋ピッキングしないで貰えます?」
いつの間にか鳥恵の部屋から防犯という2文字は無くなっていたようだ。ピッキング技術を持つ高等部女子とは一体なんなのだろうか。
ウマ娘に腕力で敵うはずもなく、鳥恵の抵抗虚しくライスシャワーは助手席にどっしりと腰を下ろした。
「ねえお兄さま、なんか他の女の匂いがするんだけど……なんで?」
「あ? ああ、この前たづなさんと買い物に行ったからな」
「……ライスがいるのに他の女と、デートしたの? ねえ、なんで? ライスを差し置いて……?」
「もしかして今取り憑かれた?」
ライスシャワーから禍々しいオーラが醸し出される。ウマ娘は耳も良ければ鼻もいい。次からは誰か乗せたあとは消臭スプレーを使おうと思った鳥恵だったが、良く考えれば自分から進んで乗せた事など一度も無かったので『別にいいか』と思い直した。無理やり乗ってくるウマ娘たちが悪い。
「ライスを差し置いてってなんか他に飯あるみたいに聞こえるな」
「朝はパン派なんだよね」
「知らねぇよ」
「え? お兄さま、朝パン派だよね? ライス知ってるよ。だって昨日も食べてたもん」
「俺にプライバシーって無いのかな?」
知らぬうちに自分の日常生活を把握される恐怖。そろそろ部屋の引越しも考え始めている。
憂う鳥恵を他所にライスシャワーは妖しく笑い、ブツブツ不穏な言葉を呟いている。
「他の女に取られるくらいなら……ふふふ、恋に障害は付き物だもんね……!」
「お前は俺の憑き物だけどな」
「お兄さまが認めてくれた! これってもう公認って思ってもいいのかな?」
「全くもってよくないですけど。何が悲しくてストーカーの被害者がストーカーを公認しなきゃいけないんだよ」
当初の目的であった図書館に到着し、駐車場に車を停める。ライスシャワーと共に車から降り、借りていた本を返却ボックスに入れて再び二人で車に乗り込む。
「いや自然と乗りこまないで?」
「ついてくついてく……」
「ついてくんなって言ってんだろ。お前の何処が祝福なんだよ。どっちかと言ったらもう呪いの類だろ。呪怨だよ」
「ついてくついてく……」
「あっ、成程。『憑いてく憑いてく』ってことね。アホか除霊されとけ寺行くぞコノヤロウ」
「……なんでそんなに冷たいの? お兄さまはライスのこと、嫌い……なわけないよね? だってお兄さまとライスは運命の赤い糸で結ばれているんだから……!」
「実の兄妹でも無ければ親戚でも無い赤の他人を兄呼びするイカれた高等部女子がなんか言ってら」
「凄い辛辣だ!? ライスそんな認識されてたの!?」
いつもの調子に戻ったライスシャワーを見て内心ほっとする鳥恵。こうしてたまに毒を吐きかけてやらないと延々と虚ろな瞳で話し続けてしまうのだ。
「お兄さまのいじわる……でもそういう所もライス好きだよ」
「ぶっ飛んだ性癖思考をお持ちのようで。ライスじゃなくてライズって改名した方がいいんじゃないか」
「2人の前に立ちはだかる障害を乗り越えろってことだね。大丈夫、ライスは分かってるから……愛に障害は付き物だもんね!」
「何も大丈夫じゃないが? まず俺の障害となってることに気づいてくれ」
「生涯付き添い続けて行くんだから大丈夫だよ」
「俺の人生に対する傷害で訴えるぞ」
折角の休日だと言うのにどうやらリラックス出来る時間は無さそうだ。デート気分でウキウキのライスシャワーを横目にため息を着く鳥恵だった。
ライスシャワー高等部、マックイーン中等部っていう設定だけで白飯5杯行けるマン。