「船長!雨風酷くなってきやがった!このままじゃ波に飲まれちまう!」
出航からおおよそ一時間。操舵室にどたどたと騒ぎ立てながら船員が押しかけてきた。
「うるせぇ!雑魚虫が!せっかく面白くなってきたところじゃねぇか!」
舵を握っている船長と呼ばれた小太りの男が船員の方を向き怒鳴り散らす。
「せ、船長!前!前!前!!!」
天まで聳え立つ巨大な風の柱が近づいてくるのを操舵室のガラス越しに目の当たりにした船員がたじろいだ様子で騒ぎ立てる。
「来やがったな!さぁ荒れるぜお前らぁぁあ!ガハハハハ!」
こう言うと船長は片手に持っていたウィスキー瓶をどこかに放り投げ、豪快に舵を切り始めた。
「おい!お前!そこでビクビクしてねぇでとっとと野郎共の様子でも見てこい!」
「イ、イエッサー!」
「さぁ、最初の試練の始まりだぜ、おめぇら」
船員が慌てて出て行ったのを尻目に船長がにやりと笑った。
同じ頃、客室内ではあまりの揺れに船酔いを起こした受験者達によって凄惨とした状況に陥っていた。ある者はその場に項垂れ、ある者は揺れの衝撃で頭を打ち青ざめたまま気絶し、またある者は「帰してくれ」と叫び続けていた。
先程までウィルにハンター試験について力説していた男もすでに黙りこくってしまっていた。
「お、おい、大丈夫かよ。」
ウィルが心配そうに隣の男に話しかける。
「う、うるせぇ…だ、大丈夫だっつってんだろ…」
「はぁ…ったくしょうがねぇな…今、水持ってきてやっから」
「うるせぇ!こ、ここまできたんだ!い、今更、こ、こんなところで諦めてたまっかよ…!!大丈夫っつってんだから、大丈夫なんだよ。」
「じゃあ、なおさら誰かの助けが必要だろ。すぐに水持ってきてやるよ。」
男が震えるような声で言ったのを聞いて、ウィルは内心こいつはたいした奴だと思いながら応えた。
更にここから10分程の時間が過ぎ、隣に座っていた男がとうとう黙りこくってしまったかと思えば急に立ちだし、「トイレに行ってくる」とだけ言い残してその場を去った。
「おう、スッキリしてこい」
男が部屋から出て行った後、入れ替わるようにして船員らしき男が入ってきた。船員が部屋を見渡し、一人はウィルより二回り程小さい小太りのワシャワシャとした胸毛が見える膝丈の短い着物を着た、いかにも気性が荒そうな髭面の親父。もう一人は、ウィルよりもきちんとスーツを着こなしているウィルと同じくらい高身で細身のメガネを掛けた知的な男。そして最後にウィルの三人を指さしで指名し、
「船長がお呼びだ。ついてこい。」
と言い放った。三人は立ち上がり黙って船員の後を追った。