TS転生したらお嬢様でした。
王子との縁談を破談にするために頑張るお話。
※タイトル詐欺です。

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勢いだけで書きました。
大変申し訳ございません。


TS転生したので、高飛車ツンデレツインテールお嬢様ムーブします

「ここって、あれ……?」

 

 アリーシャ・ルードヴェルグはゆっくりとその瞼を開いた。ぼやけた視界が澄んでいくにつれ、自身が天蓋付きのベッドで目を覚ましたことを知覚する。

 

「えっと……嘘……!? マジ!? 異世界、転生……だと……!?」

 

 彼女の発した呟きは、鈴の音が響き渡るように部屋の静寂を塗り潰していく。慌てて上体を起こしたアリーシャは、その白い両手を眺め呆然とする。そしてその両手は、逡巡するように彷徨いながら、微かに膨らみ始めた彼女の胸部に触れた。

 

「あ、やっぱり。女の子になってますね、ええ」

 

 アリーシャは何度も瞬きを繰り返し、意を決して両手で頬を叩くも、現実は変わらなかった。そのまま、枕に乱暴に顔を埋め、布団を深く被ると、思いきり叫んだ。

 

「どうしてこうなったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」

 

 

 

 

 アリーシャ・ルードヴェルグは、辺境伯の長女として生を受けた。透き通るように白い柔肌には傷一つ無く、幼いころより大切に育てられてきたことが伺える。絹のように美しい金髪に、瑞々しく生命力に溢れた桃色の唇。意志の強さがそのまま形を成したような大きな瞳は、蒼穹を浮かべたようと称されていた。

 

 そして、そんな彼女には秘密があった。

 それは一週間ほど前のこと。せっかくの十七歳の誕生日だというのに、高熱にうなされて寝込んでいた時に思い出した、前世の記憶だ。地球という惑星で、男性として生きていた記憶であった。

 

 突如として、彼女の意識を塗り潰した男としての記憶は、彼女に混乱をもたらした。自分は何者なのだと。十七年も女の子として生きてきたというのに、三十年男として生きた記憶が彼女を苛んだ。

 

 アリーシャは、今日も使用人達が喜々としてセットしてくれた、二つ結びの髪を指先で弄る。滑らかな感触を指の腹で感じながら、自室で一人呟く。

 

「クッソ! 何で女なんだよ! アァン!? 童貞が異世界転生したらハーレムって決まってんだろ、普通」

 

 汚い言葉を発しながらも、形の良い唇から紡がれるのは美しい少女の声であった。溜息をつきながらも、アリーシャの独り言は止まらない。

 

「何でスカートなんか……。恥ずかしいし、何か不安になるな、コレ。いや、待て。これはこれで、アリなのか? ――――やっぱりダメだ。そっちに行っては何かが終わる! つってもな……、生かされてる以上、皆が望んでるアリーシャやらないとな」

 

 これまでの十七年、両親には愛情を注がれて育ってきた。それは嫌というほど自覚していた。もし、いきなり男のように振る舞えば、あの優しい母は卒倒するだろう。

 

 

 前世ではずっと孤独だった。どんな理由があったのかは分からないが、折角生まれ変わったのだ。せめて、誰かに必要とされる人間でいたい。

 

 そうしてアリーシャは決意したのだ。

 

「仕方ねぇ……。仕方ねぇ、よな? よし! 俺が、ヒロインになってやる。高飛車ツンデレツインテールお嬢様にな!!」

 

 鏡に映っている自分は、間違いなく絶世の美少女。前世ではうだつの上がらないおっさんだったことを考えれば、少し興奮してくる。昨夜は勢い余って八回も自ら致してしまった。

 

 早速下腹部に伸びようとする右手を意志の力で抑え込むと、アリーシャはボールガウンのスカートの裾を靡かせながら、自室の扉を開いた。

 

 今日からは、前世のエロゲ―で見たような、最高のヒロインになるのだ。出来れば女の子とイチャイチャする方向で。

 

「ごきげんよう世界! (わたくし)こそ、アリーシャ・ルードヴェルグですわ! お嬢様とお呼びッ!!」

 

 こうして頭と胸の足りないTSお嬢様の、苦難の日々が始まった。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

「――――えっと、お父様? 今、なんと?」

「アリーシャ、もう一度言うよ? 第三王子から縁談の話が来ている」

 

 優し気な微笑みをたたえながらも、その瞳には寂しさが浮かんでいる。そんな父親の顔を見ながら、アリーシャの背を滝のように汗が流れる。

 

(いやいやいや。……いやいやいやいや。展開早すぎんだろぉ!? こちとら前世の記憶を思い出して一週間だぞ!? いきなり王子とかマジ無理なんですけど。大体、男に欲情するような精神性は、一週間前に絶滅したんだよぉぉぉぉぉ!)

 

「あの~、お父様? (わたくし)には荷が重いと言いますか……。断るわけには、いきませんの?」

「私とて、可愛い娘を嫁にやるのは心苦しいが……。だが、アリーシャ? 数年前までは王子様と結婚したいとか言っていたではないか」

「それはその……。子供の戯言と言いますか……」

 

 苦しい!

 自分で言ってても苦しい言い訳だ。きっと両親は、この縁談を喜んでくれたのだろう。それでも、どうしても男と結婚などしたくない。

 

 どうやら、縁談は一か月後らしい。アリーシャは、どうにか両親を悲しませず、家名にも傷を付けずに縁談を破談にすることは出来ないかと考えこむ。その様子に、両親からはきっと身分差に緊張しているのだろうと、心配そうな視線を向けられることになるのだが、アリーシャがそれに気付くことは無かった。

 

 

 両親と朝食を済ませたアリーシャは、自室に戻った途端、ドレスに皺が寄ることも厭わずにベッドにダイブした。

 

「とうッ!」

 

 これほど見事なベッドダイブを決められる貴族令嬢など、この世界には自分くらいだろう。前世では、こんなにふかふかなベッドには縁が無かった。自分の体臭だというのに、甘く瑞々しい女の子の匂いが染みついた枕に顔を埋める。途端に色欲の炎が下腹部から湧き上がってくるような感覚を覚え、アリーシャは慌てて顔を上げた。

 

「こんなことしてる場合じゃねーな。どうすっかな……」

 

 アリーシャは美しい精緻な装飾の施された、ベッドの天蓋を見つめながら考える。第三王子と言えば、金髪碧眼の美少年で文武に優れた好青年だと聞き及んでいる。どうして、辺境伯の娘なんかに、とは思わない。前世の記憶を取り戻すまでの記憶もアリーシャは持っている。生まれてから、自分で言うのも恥ずかしいがこの容姿だ。幾度となく求婚されてきたし、大仰な褒め台詞も聞き飽きていた。

 

「つってもな、前世底辺の俺にはいいアイディアなんて……。いや、待てよ? 確か、山田がこう言ってたはずだ。筋肉は全てを解決すると。……すべての困難は筋肉にひれ伏す、と」

 

 ふと思い出したのは、筋トレマニアの前世の親友。アリーシャの頬は思わず緩む。いいアイディアを貰った。この世界に山田が来ていれば、頬にキスくらいしてやってもいいな、と思う。

 

(まぁ、山田はなんだかんだ長生きしそうだし、こっちには来ないだろうな。俺は異世界トラックに撥ね飛ばされたイケメンが放り投げた鞄によってバランスを崩した、歩道を老人用フェラーリでかっ飛ばす婆に轢き殺されたんだっけか……。字面がキッツいな、オイ)

 

「よっしゃ! 筋トレすっぞオラァ!! バッキバキに仕上げて、第三王子にこれは大胸筋ですネタをぶちかましてやる!」

 

 そうしてアリーシャは、バルクアップの為に全てを捧げることにした。

 

 両親は首を傾げていたが、アリーシャは高タンパク低脂質の食事を徹底した。筋肉痛すらも愛おしい。この世界には、どうやら魔法もあるらしいがアリーシャは使えなかった。勿論、貴族令嬢だ。剣すら握ったことも無い。前世の言葉で言えば、所謂クソ雑魚ナメクジというやつだ。

 

「そう、だからこそ、筋肉が必要だ! 拳で全てを粉砕してやる!!」

 

 とはいえ、これまで蝶よ花よと育てられたアリーシャの肉体は貧弱そのものであった。中々増えない筋肉量に頭を抱えながらも、必死にトレーニングに励んだ。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 季節は夏を迎えようとしている、とある日の早朝――――。

 汗ばむ肉体を流れる汗に達成感を覚えながら、アリーシャは鏡で自らの肉体を眺め満足そうに頷いた。初夏の嵐により、第三王子の訪問の日が一月ほど伸びた際には、小躍りしたほどだ。

 

 使用人に頼んで仕入れてもらった、ヤバめの草の効果は抜群だった。所謂、筋肉増強剤というやつだ。おかげでムダ毛処理に悩まされることになったが、結果オーライと言えるだろう。ついでに、ハードなトレーニングを続けたせいか、生理も止まった。

 

 筋肉のカットを眺めながら、アリーシャはうっとりとした顔で溜息を漏らした。だが、いい加減両親にも心配を掛け過ぎている状況だ。英雄譚に憧れてトレーニングを始めたとは伝えているものの、明らかに身体が大きくなりつつあるアリーシャだ。縁談のことも考えろ、と口には出さないものの、両親のそんな気持ちは痛いほどに伝わっていた。

 

(すまねぇ、皆。それでも俺は、男と結婚なんて勘弁なんだ)

 

「よっしゃ! 今日は縁談だ。待ってろよ第三王子! 俺の筋肉に震えるがいいッ!!」

 

 

 

 使用人たちが、全力でアリーシャを着飾ってくれている。だが、バキバキに仕上がった肉体は、先日仕立てたばかりの美しいドレスには収まらなかった。アリーシャは苦笑いで使用人たちに謝りつつ、どうにか別のドレスに肉体を押し込んだ。

 

 完璧なツインテールと、薄く施された化粧。正に、傾国の美女とも称されるであろう美貌だ。だが、肩から下は血管の浮き出る、素晴らしい筋肉に覆われている。これなら王子も、縁談を破談にするはずだ。悪い笑みを浮かべたアリーシャは、自らが定めた戦場たる縁談に向かうのであった。

 

 

 

 ルードヴェルグ邸の中庭には、よく手入れをされた花壇と植木が並んでいる。その中央にあるのは、ひとつの真っ白なテーブルと二脚の椅子である。勿論、今日の縁談の為に用意されたものだ。周囲は、使用人総出で用意された多種多様な食事や酒が並び、すぐに提供が出来るように準備されていた。

 

 

 周囲が騒がしくなったことで、アリーシャは第三王子の到着を把握した。

 正門の前に停められた、豪奢な馬車から降りてきたのは、まさしく白銀であった。煌びやかな服に、白い肌。その顔も、髪も、美しいとしか言いようがない美少年だ。あまりの前世の自分との格差に、思わずアリーシャが心の中で舌打ちをしてしまったのは、仕方が無い事だと言えるだろう。

 

 父親は低い姿勢で美辞麗句を述べている。簡単に紹介を済ませた後、遂にアリーシャと第三王子の縁談が始まった。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

「改めまして、アリーシャさん。僕が第三王子のティリオットだ」

 

 二人は中庭の中央に設えられたテーブルにつき、向かい合っていた。にこやかに微笑む美少年の顔に、思わず拳を叩き込みたくなったアリーシャだったが、どうにかそれを抑え込む。

 

 昼下がり、テーブルを囲むのは、王国一と言っても過言ではない金髪碧眼の美男美女だ。まるで美しい絵画のようだと、誰もが思ったことであろう。肩の空いたドレスから、アリーシャの貴族令嬢らしからぬ二の腕が主張していなければ。

 

「殿下のことは、勿論存じ上げておりますわ。こんな田舎でも、殿下のご高名を聞かない日はありませんもの」

 

 アリーシャは、余所行きの最高の笑顔でティリオットに答えた。

 

「それにしても、なんと美しい――――」

 

 ティリオットが、うっとりとした顔でアリーシャの二の腕に触れた。ぞわぞわとした不快感が沸き上がる。

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

 少しぎこちない笑みになってしまったが、まだ大丈夫なはずだ。嫌われるのは構わないが、両親たちの顔に泥を塗るような真似は出来ない。

 

「素晴らしい筋肉だ、アリーシャさん! 筋肉は好きか!?」

「は、はい?」

 

 恍惚をその顔に浮かべて、ティリオットはそんな言葉を発した。アリーシャは、上手く返すことが出来なかった。

 

(まずい。非常にまずい。こいつ、筋肉フェチなのか!?)

 

 

「知っているか、アリーシャさん! 筋肉は全てを解決する。全ての困難は筋肉の前にひれ伏すのさ!」

 

 だが、ティリオットが発した言葉にアリーシャの時間は止まった。

 

「……あの、違っておりましたら申し訳ございませんが、殿下? もしかして、ダーヤマ?」

「は!? その名で僕を呼ぶとは、まさか……斎藤か!?」

 

 顔を見合わせた二人は同時に叫んだ。

 

 

「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 これは、いつか筋肉で世界を変える二人の物語。

 

 

 

 

【完】


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