オトモの枠にウマ娘があるとしたら[凍結] 作:つヴぁるnet
ではどうぞ
夜ご飯を食べれたと言え、ゆっくり腰を落ち着かせる時間は無く、集まった村人から質問攻めなどで夜遅くなった。 気づいたらお月様は真上まで登っており、宴もピタリと終わって村も静かになっだ。 酔っ払って道端に座り込んでいる大人を除いて各家は戸締りと店仕終い、次の朝までユクモ村は眠りにつく。
そう言えばセイウンスカイが見当たらない。 村の里には出てないと思うが何処かでのんびりしているのだろうか? 少しだけ心配だが宿屋も知っているだろうから勝手に戻ってくるだろう。
あとユクモ村まで来たのに温泉に入ってない事を思い出す。 汗もしっかり流しておくべきだろう。 そう考えると足取りは軽くなる。 やっと温泉好きである事が思い出して集会所まで足を運び、ユクモ温泉に入れるか確認に向かうと、久しぶりにとあるアイルーに出会った。
「アマグモの旦那しゃん!」
「久しぶりだなシュンギク、2代目ドリンク屋として繁盛してるか?」
「お陰様でにゃ。 グイッと飲んでくれるハンターたちを見るのは楽しいにゃよ」
「そうか」
シュンギクの名前を持つ俺の元オトモアイルーだ。
ジエン・モーラン戦を最後にオトモアイルーを引退した。
理由は武器を持てないくらいに全身を粉砕したからだ。
最終決戦のために砂漠へ停留させた迎撃船にジエン・モーランが近寄り、その巨体で船が押しそうと向かってきた。 大銅鑼をならしても引かないジエン・モーランに大樽爆弾Gで特攻したシュンギクがジエンの牙を破壊して止めてくれた。 しかしシュンギクは激痛にのたうち回るジエン・モーランの牙に薙ぎ払われて、そのまま口の中に投げ出されるアクシデントが発生した。
あとこの時のシュンギクは気絶していた。
元々シュンギクも満身創痍で退くことを命令したのに、船が壊されてしまう事態を防ぐため決死の覚悟を込めて大樽爆弾の特攻を行う。 そして大爆発で意識を失って、ジエンの中に脱出できない状態で入り込んでしまう。 あれはかなり焦った。
それで拘束バリスタでジエンを捕まえて、俺も口の中に入り込むと、腰の武器が運良く喉に突っかかっていたシュンギクを見つけて回収する。 ユタカの援護で怯んだジエン・モーランが大口を開けた瞬間にシュンギクを抱えて脱出した。
その後は討伐まで駆けつけたがシュンギクは体がボロボロでオトモとしての復帰も見込めなかった。 武器を無理して振るうと骨が痛むらしい。 やはり大樽爆弾Gを抱えて特攻した代償だった。 それから俺がシュンギクに引退するように勧めた。 これ以上は危うい。 むしろ歩けるまで回復したのだから体を大事にしろと説得した。
それに俺も異動するタイミングが出来たりと、それぞれの分岐点が出来上がったのでシュンギクは戦線を退くことを決めたらしい。 元々温泉やドリンク好きだったアイルー事もあり、今はドリンク屋のアイルーとしてハンターの手助けをしている。 オトモ歴として一年未満だが、ジエンの討伐が認められたため上位クラスのオトモアイルーとしてギルドに登録されている。 引退時にジエン・モーランを討伐した優秀オトモとしてジエンの牙の素材を使った勲章を貰った。
短くも分厚いオトモ生活を送っていた俺の元オトモアイルのシュンギクだ。
「温泉は入って大丈夫か?」
「……本当は水質の点検のため、そろそろ利用は止めないとならない時間だが、特別にアマグモは入れてあげるにゃ。 見てないフリするだけだがにゃ」
「ありがとう。 うまく岩陰に隠れるよ」
「そうしてにゃ。 特別にドリンクも裏に置いとくにゃ。 氷結石も入れておくからいつでも冷たいにゃ。 アマグモだから特別にゃ」
早速脱衣所で衣類を脱いで温泉に入る。
温泉に入るための温泉下着と言われるユアミスガタに着替えて、ユアミタオルを頭に乗せて温泉に浸かった。 そのまま岩陰に隠れながら入るための露天風呂側に泳いでいく。 温泉の一番端側まで向かい、 岩陰に腰掛けて外を眺める。 ユクモ温泉に浸かりながら眺める夜空はめちゃくちゃ綺麗だ。 観光客にも人気のスポットで、またこの場所で外を眺めたくなる程である。
あと、ここから先程トビカガチと戦った場所がギリギリ見える。 それで討伐したトビカガチの搬送も既に終えている様で道も開通していた。 ユタカが帰り道に襲われたと説明していたが、トビカガチがここまで来ていたのは驚いた。 しかし見たところやや痩せている様に見えたので迷ってこの辺りまで来たのかもしれない。 それでも繁殖域がこの辺りまで来ているのならユクモ村も対策を考えるだろう。 でもユクモはナルガの生息域でもあるから素早い敵に対しては滅法強いハンターが多い。 直ぐにトビカガチの戦い方も広まるだろう。
「……」
疾風刀・裏月影の回収目的は終えた。
明日にはユクモ村を出てカムラの里に戻る。
しっかり温泉で疲れを取ろう。
そんな事を考えていると…
「アマグモ?」
「っ、セイウンスカイか!?」
「本当にいた。 ドリンク屋さんのアイルーが言った通りだったね」
「ああシュンギクか、なるほど…」
「それで、一緒に隣…いいかな?」
「あ、ああ、良いよ」
ユアミタオルで巻いてるセイウンスカイ。
彼女はウマ娘だけど、その前に女性でもある。
耳と尻尾が無ければ村娘とはそう変わりない。
だから、タオル越しの膨らみと、湯船にて赤く日出る肌は、異性を揺さぶる。
「……」
「……」
二人揃って湯船に浸かるのは初めてだ。
俺もセイウンスカイもどうしたら良いかわからない。
いつも飄々と雲のように自由な彼女だけどそんなセイウンスカイの姿は今ない。
静かに流れる時間だ。
気まずい。 何か話すべきだろう。
「そういえば、どこか行ってたのか? 部屋にも戻って無かったし」
「ええと…さっきまでユクモ農場に居たんだ。 それでね、わたし聞いたよ」
「?」
「管理人から"あの畑"のことを」
「!」
ユクモ農場の畑にアマグモ専用の畑がある。
あれはただ独占するためではなく、必要だったから作っていた畑。
その理由をセイウンスカイは聞いたようだ。
「アマグモ、すごく大変だったんだね。 それで今も大変なんだよね。 カムラの里でも、私たちの住まう家に小さなお庭に畑を作っていたけど、ただ美味しいニンジンを作るためじゃなくてアマグモは"治療"していたんだ」
確かに聞いたみたいだ。
隠しておきたかったけど…
彼女に隠し事は難しいだろう。
「昔はそうだったけど、今はそんな大袈裟なことじゃないよ。 むしろそろそろ克服しないといけない。 だから趣味を建前にした畑弄りは止めないといけない…」
そうとも、趣味を建前にそろそろ離れないといけない。
もしくは畑に植えるものを変えるまでして、俺は過去から引きずっていることに、踏ん切りをつけるべきだらう。
いつまでも甘えるのではなくて…
「アマグモ」
「なんだ、セイウンスカイ?」
「アマグモがユクモ村でどれだけ大変だったのか。 あの太刀を背負うまでどれだけ大変だったのか。 わたしは知りたい。 ダメ…かな?」
ユクモ村に来た以上は話すべきだろう。
いずれ明かされるだろうから。
「………面白い話じゃないぞ?」
「ううん。 わたしはアマグモを知りたい」
「……そうか」
無意識にユクモ農場へ目を向ける。
畑弄りが…いや、それを使って克服していかなければならない、俺の、酷い足跡を…
…
…
切っ掛けは水没林の採取クエスト。
いや…
あれは"乱入クエスト"と言った方が正しい。
そこから始まる5日間の地獄は今も忘れない。
大嵐の中で現れたのはナルガクルガの亜種。
俺は必死な思いで逃げて、そしてピラミッドに立て篭もりながら戦いを繰り広げた。 ピラミッドの中にはアイルーやケルビなど小動物の怯える鳴き声が聞こえてた。 隠れている奴らは大嵐に怯えているのではなくナルガクルガ亜種から隠れているのだろう。
かなり危険な相手であることを再確認しつつ奴の隙をついてはベースキャンプに向かう。 だが奴は先回りして俺の首を狩ろうとしていた。 少しでも触れると体は真っ二つに裂かれてしまうだろうブレードを死ぬ気で避ける。 背中に一撃を貰ったが、それでも足を止めずに元いた場所まで逃げる。
だんだんと遠ざかるベースキャンプに絶望を感じるが、俺はナルガクルガ亜種にベースキャンプの位置を悟られる事を嫌がった。
いや、ナルガクルガ亜種に限らず大型モンスターには可能な限りベースキャンプの位置は知られてならない。
ギルドからそのようなお達しは無いが暗黙の了解という事であり、皆はそこに注意を払ってベースキャンプを活用していた。
そんなナルガクルガ亜種は俺が向かう先にベースキャンプがあるかどうかは知らないが、逃走経路を理解しているように先回りする。 恐らくナルガクルガ亜種は俺以外とのハンターと交戦経験があり、その経験則からハンターが逃げる方角を理解してるのだろう。
その結果として俺は背中に一撃を切り裂かれた。
なんとも高い授業料だ。
逃げた先で出血は酷く、息がしんどくなる。
だんだんと冷たくなる体に鞭を打って秘薬となる素材をかき集めて、朦朧とする意識の中で調合を進める。
完成させた秘薬を飲んで、塗って、環境生物を集めながら奴に対して対策を立てる。
逃げれない。
逃してもらえない。
死ぬまでこの水没林で奴と追いかけ追われる。
救助も期待できない。
だから運にも見放された大嵐の中で覚悟を決める。
血の色に染まり始めるジャギィ装備を握りしめて恐怖を抑えて水没林を駆け巡る。
凡ゆるものを採取して、必要とあらばモンスターを殺して、俺は体を壊しながら奴に立ち向かう準備を始める。
鬼人薬を沢山飲んだ。
筋肉が活性化するが筋肉が痙攣を起こす。
硬化薬を沢山飲んだ。
痛覚がわからなくなりどこかに激痛が走る。
強走薬を沢山飲んだ。
心臓の音がうるさくいずれ爆発しそうだ。
回復薬を沢山飲んだ。
苦味に慣れて舌が死んだからか味がしない。
解毒薬を沢山飲んだ。
ホルモンバランスが崩壊して脳の震えが酷い。
活力剤を沢山飲んだ。
正常がわからなくなり意識が飛びそうになる。
秘薬を沢山飲んだ。
飲むたびに手が震えて体が拒否反応を起こす。
いにしえの秘薬を沢山飲んだ。
傷を治しながら嘔吐を繰り返して喉が荒れる。
そうやってナルガクルガ亜種と死闘を繰り広げる。
戦って、逃げて、採取して
調合して、摂取して、嘔吐して
戦って、逃げて、採取して
嘔吐して、戦って、逃げて
嘔吐して、戦って、逃げて
採取して、調合して、嘔吐して
調合して、摂取して、逃げて
嘔吐して、摂取して、戦って
採取して、逃げて、嘔吐して
摂取して、戦って、逃げて
戦って、嘔吐して、調合して
逃げて、嘔吐して、嘔吐して
摂取して、嘔吐して、調合して
嘔吐して、摂取して、嘔吐を繰り返して…
気づいたら4日目に入る。
奴の目をくり抜き、突き刺して、毒殺する。
夜が訪れて、とうとう奴は倒れた。
そのタイミングで5日目に入った。
体はボロボロ、血も何もかも足りない。
免疫力なんてないに等しい。
ほんの少し吸った毒ガスがトドメとなる。
俺は死に行く事を悟って倒れた。
それから"ナニカ"に助けられた。
そのナニカはあまり覚えてい無い。
でも何かを飲んで、体が軽くなった。
けど治った訳ではない。
救出はされた。
俺は生きていた。
しかし目を覚まして、薬を欲する。
狂乱して、見つけた薬物を飲む。
頭痛と嘔吐が止まらず、喉を掻きむしる。
精神状態の崩壊一歩手前まで来ていた。
もうハンターの引退すらもあり得た。
過剰摂取による薬物中毒。
または薬物依存症が正しいかもしれない。
まぁどっちでも良い。
酷い有様には変わりない。
ああ、生き残ろうとしただけなのに酷い有様だ。
そのまま液体恐怖症にもなって水分すら取ることも苦労した。
好きだった温泉すらも拒否反応を起こす。
何もかもがダメになり始めた。
もう、死ぬしかないのだろうか?
諦めを感じた。
しかしとある人物が訪れた。
ブカブカな被り物をして素性がわからない。
けれどその人物はとあるものを差し出す。
薬物中毒などの症状を抑えるための薬だ。
近くに医者はいたが、施しようのない状況ゆえに医者も最後の頼みと目をつぶっていたから、その薬は誰も止めない。
俺は薬物中毒だから…
それを疑いもなく喜んで受け取る。
俺は直ぐにそれを飲んだ。
そして体に変化が起こる。
重苦しい気分が引いて行き、震えていた目の焦点も落ち着き、意識ははっきりと取り戻し、荒かった呼吸も喉も収まり、壊れ始めていた俺は元に戻り始める。
気づいたら、水没林から帰って来てから酷かった症状が嘘のように無くなった。
飲み物を見てもそれを手に取って喉を潤せば、温泉の匂いに早く体を癒したい要求に掛けられる。
皆が驚いていた。
俺は正常なのか?
確かめるために一度歩こうとしたが一瞬グラッと来て倒れそうになる。
誰かに柔らかく支えられる。
薬を渡してくれた人だ。
その人は俺をそのまま柔らかく抱きしめると豊満なその胸に深々と沈め込ませて「良い子、良い子」と赤ん坊をあやす様に頭を撫でる。
この時に初めてその人が女性だと知った。
最後は「あの子を助けてくれてありがとう」と言ってその女性は姿を消した。
あの女性も、あの子の意味も、名前もなにも聞けなかった。
でもそれだけの体験をして俺はハンター復帰を目指した。
けど完全に完治したわけでは無い。
あの感覚は体に染み付いている。
まだ体は薬を欲しようと騒がしい。
だから対策を立てた。
俺は怪力の種を齧ることで一時的に症状を落ち着かせる。
効果はある。
しかし鎮静剤として弱過ぎる。
かと言って永続的に効果が出てしまう鬼人薬グレートを飲むわけにもいかない。
怪力の丸薬にしてしまうのも些か抵抗がある。
考える。
一時的に抑える効果を作れる事が好ましい。
そこから少しずつ慣らして克服すれば良い。
考える。
皆も考えてくれた。
ユタカも、雇用したばかりのシュンギクも考えてくれた。
俺はハンターライフ復帰のためにユクモ農場を徘徊していると畑に撒く肥料を見て、何か閃きそうになる。
続けてユクモの温泉卵をグツグツの煮込む湯気を眺める。
その時、閃いた!
このアイディアなら、俺の
症状の緩和に、活かせるかもしれない!
俺は資料を引っ張り出してモンスターの怒りに比例する活性化について調べる。 方法は早く見つかった。 そしてボルボロスの"肥沃なドロ"を求めて狩猟するとそれを持ち帰った。
ユクモ農場に肥沃なドロを持ち込んで土に混ぜた特別な畑を完成させる。 アイルーも協力的だったから俺専用の小さな畑を作り、そこに怪力の種を植えて、特別な怪力の種を作り上げた。
ボルボロスの肥沃なドロで植物類の効果を増幅させた。
例を挙げるなら液体類に対してのアルビノ"エキス"の様なものである。
それを使って怪力の種を育て、強めの鎮静剤として作り上げる。
肥沃なドロお陰で効果は大きいが持続時間はとてつもなく短い。
まるでボルボロスが怒っている僅かな時間みたいに効果時間は短い。
そのかわり怒り状態の如く効果は高まる。
これを使って中毒状態だった余韻を一気に満たしながらクエストに挑む。 そのかわりソレを摂取したら体を動かして活性化させること。 薬物に頼らず自身の体を動かして怒り時のボルボロスのように中毒時の要求と熱量を消費しながら活性化を繰り返して、着々と免疫を付ける。
しかし自分でも克服するのだ。
俺はナルガクルガ亜種の素材を使った疾風刀・裏月影の太刀を握りしめて、あの時を乗り越えようと大型モンスターに挑む。 そうやって太刀を握るたびにあの死闘を思い出すが、メンタル面で克服して乗り越えようと意気込んだ。
あの時、中毒で死ぬしか無かった俺のために、名前の知らない者達が繋いでくれた、この命を生かすために。
中毒も、恐怖も、脆弱も、何もかも、乗り越えようとして、セイウンスカイと出会った今も乗り越えようとしている。
カムラの里でも借りているお家の小さな畑を作って、定期的に肥沃なドロを混ぜては特別な怪力の種を育てる。
ついでにニンジンも育てて彼女を喜ばせることにした。 肥沃なドロを混ぜて作る野菜はなかなかに美味しい。 いまはそのくらいに余裕を持って畑弄りを趣味に怪力の種を齧る。
あれから2年近く経った今、特別な怪力の種を食べる数は少ない。
もうそろそろ食べなくても良いだろう。
だからセイウンスカイと向かったボルボロスの肥沃なドロの採取は最後にしたいところだ。
今はもう食べてない日の方が多い。
いずれ、ただ怪力の種をクエストのために摂取する日が訪れる事を願い、鬼人薬や硬化薬も飲んでモンスターに立ち向かえるその時まで…
だからもう、あのような事は望まない。
…
…
今はセイウンスカイがいるから。
そんな惨めな俺を見せたくないから。
彼女のトレーナーであるから。
綺麗なこの青雲を曇らせたくないから。
もう、いやだから…
「俺は、ここまでそれを続けてきた、そういう話だ。 ……なっ? 面白い話じゃないだろ?」
「っ…ううん、そんな事ないッ、そんな事ないよアマグモ。 あなたは雨雲に負けず凌いで来た。 あなたはとても強い人だよ」
「でも、気持ち悪いだろ? 薬物中毒で、薬の依存症で、どうしようもないハンターだよ」
「違う! 違うよ!」
「!」
セイウンスカイは否定する。
「アマグモは生きるためにそうした。 その地獄を乗り越えるその覚悟だった。 あなたはそうなってまで、生きて、生きて、足を止めないで、生きてくれた。 それのどこが気持ち悪いのよ! っ、わたしは知ってるから。 その太刀を回収するために、普段あまり握らないわたしの手を引いて、奥へ進むごとに、震えそうになるあなたの手を、知ってたよ」
「!」
「でも乗り越えた。 いや、乗り越えていた。 あなたは向き合って太刀を背負った。 その太刀となったモンスターに大きく背中に傷を刻まれたにも関わらず、その痛みも、その恐怖も、その惨さも、背負い切った。 だから本当にかっこよかったんだよ。 アマグモが背負っていたその太刀から引き抜かれた斬撃は、何もかもを斬り払うかのようにすごくかっこよかった。 砂漠のボルボロスの時も同じ。 あなたの背中を見ていた。 あんな大きなモンスターと戦うアマグモは誰よりも強く感じた。 なのに…」
するとセイウンスカイは悲しそうに目を伏せた。
「逃げるためしか取り柄のないこの脚は、モンスターから背中を向けてばかりのわたしは、あなたの傷をこの背中に背負えない。 怖かった。 怖かったんだ。 あの時のラージャンとリオレウスと同じ。 わたしは逃げれる事が取り柄なのに、それを忘れてしまった弱いウマ娘だったんだよ。 あなたに慰められてわたしは惨めだった。 ウマ娘として人を助ける事は出来なかった。 涙を流して、あなたを困らせたセイウンスカイの名前に青雲は無かった」
セイウンスカイは膝を抱きしめて悲しむ。
「極彩色の羽根で青雲に虹をもらって、やっとセイウンスカイの名前を取り戻した。 アマグモに貰わなければ何もわたしは出来なかった。 逃げないで良いところで逃げるしかしてない弱いわたし。 逃げなければならないところで逃げれない弱いわたし…っ! ぁぁ、ウマ娘が人間より強いなんて、嘘だ、嘘つき、わたしだけはウマ娘じゃない嘘つき。 弱い、弱すぎるんだ。 だけど隣のあなたはもう回収班ではなく、モンスターと正面を向いて戦えるアマグモなんだ。 逃げる事をしなくなるアマグモなんだ。 それが今日わかったよ。 わたしは、何も出来なかったもん。 トビカガチに何も出来なかった。 けどゴールドシップは出来た。 完璧だった。 わたしにはできなかった」
セイウンスカイは悔しそうに体を震わせる。
「ああ、嫌だな、こんなの、ダメなのに、収まらないよ。 羨ましいよ。 羨ましい…っ。 佇まいが変わらないグラスワンダーが羨ましい。 真っ直ぐで変わりないスペちゃんが羨ましい。 自分に自信が変わらないエルコンドルパサーが羨ましい。 王者に揺らぎなく変わらないキングヘイローが羨ましい。 皆から好かれるトウカイテイオーが、元気で笑顔にするハルウララが、強さが足に現れるスズカさんやオグリキャップが、皆んなが、皆んなを、皆んなが、逃げるしかない、逃げるだけしか、できない、わたしなんかよりも…!」
セイウンスカイは顔を上げて涙を見せる。
「みんなの方が今のアマグモの脚質に合うんだ。 ねぇ…わたしはアマグモのオトモダービーで良いのかな? わたしはアマグモのパートナーで良いのかな? わたしはアマグモの脚で良いのかな? わたしはアマグモのウマ娘で良いのかな? わたし、わたしは……ッ」
そして彼女は震える声で…
「アマグモの隣にいてもいいのかな?」
どこか濁ったような目に見える。
いや、濁ったように見える悲しい目。
抱えていた感情が弾ける痛々しい眼差し。
何かに期待して、何かに恐怖した、濁り方…
そこに青雲は何も映されていない。
「……」
彼女はずっと考えていたのか。
逃げるウマ娘の脚で、けどそれが今、俺の隣に相応しいのかどうかを。
これまでの事が、アマグモにそぐわないウマ娘じゃないのかと、不安で潰されそうになっている。
そして今日の出来事で、彼女は考えることになった。
けど、なんというか…
「案外めんどくさいんだなセイウンスカイって」
「…………え?」
なんか色々話が飛んでないか?
落ち着こう。
少し整理しながらこめかみを押す。
「あー、なんだ? その、俺が超えてきた過去に同情してくれて、それで強くなったと褒めてくれ…たのか? まぁ、良いや。 それで太刀を握りしめた俺はこれまでよりも強くなる。 けどその隣にいるセイウンスカイは弱くて、逃げるしか取り柄が無くて、もう今のアマグモにはそぐわないウマ娘になるだろうから、不要になってしまうことは決まったようなものが、でも、これまでと変わらず隣にいて良いかな、って事だよな? うん、口に出してやっと追いついた。 それでその質問だけど…」
なんか、急すぎて、その、なんだろう?
こう、あれだ…!
「なんか少しだけイライラしてきたなぁ!っ、セイウンスカイ!」
「え? っ、ひゃん!!? ぁ、ぁっ、ぁぁあ!」
飛び出している尻尾をキュッと握りしめてイタズラする。
それだけじゃない。
怯んだ隙に両耳をワサワサとカサカサと雑に撫でくりまわす。
ウマ娘は耳が高性能な分かなり敏感なので急に触られると身が飛び跳ねてしまうくらいにくすぐったい。
まるで弱点のように感じる。
「てかさー、お前さー、俺が強くなるから隣に不要だとかさー、一体全体何を勝手に決めてんの? 馬鹿なの? 馬なの? ウマ娘なの? 馬だったな」
「ぁ、ぁ! ちょ、ぁあ!ふぁ…んんっ!」
「それで勝手に自己分析始めてたら、わたしは不要になるだろうって回答に行きついて、それで俺に懇願し始めて、そしたらよ、いきなり眼が濁り出してきやがってビックリしたぞテメェ! 聞いてんの? この耳は聞こえてまーすーか?」
「はひゃ、ぁあ、ちょっ、まっ、待って!あん! き、聞こぇ、ひゃぁぁー!」
「で? 何? 隣にいて良いか? それは言わないとわからない事なの? このあたまセイウンスカイがッッ!」
「ぅぁ、痛い!」
最後はデコピンして解放する。
俺は温水をバシャバシャと顔を洗ってから目元を腕で拭く。
その後デカいため息を吐き、その姿を見たセイウンスカイは不安そうに顔を伺う。
そして俺はジロっと彼女を見て、セイウンスカイは耳と尻尾がピーンとなる。
ジト目と言うやつだ。
このまましばらく無言の圧力でセイウンスカイを追い込んだ。
少しずつ萎れていくその耳を見て……俺は笑みが溢れる。
「セイウンスカイ、君は本気で俺がそう思っていると、考えてるのか?」
「え?」
「『アマグモの隣に居ていいのか』ってさ? ……なぁ、セイウンスカイは今日のこと忘れたのかな? 少なからず俺は蔵で言ったぞ?」
「な、何を?」
「『お前が良い』ってさ」
「!!」
「蔵で太刀を回収した後に君は『グラス』とか『テイオー』とか急に比較してきたけど、でも俺は言ったよな? お前が良いってさ」
「ぁ、でも、それは、可愛いとか…」
「皆たしかに可愛いし美人だと思うよ? 何故、ウマの『娘』なのか意味がわからないけど、でも皆とても良い娘だと思う。 健気で、人間を助けるために戦うとても良き女性だと思う。 でもさ、俺が隣で走って欲しいのセイウンスカイしか居ない」
「っ!」
「なので、仕方なーいーのーで、答えてやるよ。 隣に居ても良いかって? ああ、隣にいて良いよ。 今も、この先も、どこまでも、俺の隣にセイウンスカイが居ろ。 オトモダービーだからとか関係ない。 セイウンスカイってウマ娘だから意味がある。 前に雨雲と青雲の二つが大事なんだって話した通りに、アマグモとセイウンスカイだから意味があるんだ」
彼女の頭を撫でる。
「隣で走れ。 雨雲の下を駆けろ。 走る先が青雲であれ。 そうしてくれるセイウンスカイが俺は好きだ。 わかった?」
「ぁ、ぁぁ…」
「だから不安になる必要は無い。 いつも通り雲を眺めて良い。 俺も眺める。 それが青雲だろうが、雨雲だろうが、その空の下で俺がいて、その隣にはセイウンスカイがいる。 だからさ、君の抱える青雲をそう曇らせるな。 仮に雲せても、それは雨雲だけだ。 わかったな?」
「っ…ぐすっ…ぅぅ、ぅ、うん……アマグモ、うん…わかった。 わかったよ! わたし、隣で空を見てるね。 あなたと、一緒に…ぅぅ、ごめんね…アマグモ、ごめんね。 いつも、いつも、泣き虫になってしまって、今日も、変なこと聞いて…」
「気にするな。 雨水は太刀と一緒に背負うよ。 だって
彼女のお天気雨はユクモの温泉の中に沈んでいく。
もし今日の点検で水質に変化が起きていたとしたら彼女の涙のせいだろけど、おそらくそれは起きない。
湯気と共に夜空の青雲へと消えてゆくから。
♢
「にゃはは、変なところ見せちゃったね」
「湯気で見えなかったことにするよ」
「あー! 女の子の涙を無かったことにするんだ! ふーん? ならテイオーに言いつけてやろうかな〜」
「むしろテイオーが『スカイちゃんまた泣いたのー? 君良く泣くんだね!にっしし』って揶揄うと思うけどな」
「ぐっ…なんて卑劣な事をっ!」
宿屋に戻って一緒の部屋で敷布団を伸ばす。
……近くない?
「だって……と、隣に居ろって言ったでしょ?」
「そう言う意味じゃないぞ?」
「……」
「あー、もう、ウマ娘はわかりやすく耳で反応が知れるから困るなぁ。 いいよ、セイウンスカイの好きにしていいよ。 ほら、もっと近づけろ」
「! ち、近すぎる…んじゃない?」
「え? 何? 恥ずかしがってるの? ああ、それなら離すか」
「!! ダメ、これで良いから! このままで良いよ。 ほ、ほら、もう寝よう? ね?」
ろうそくを消して潜り込む。
そして自然と、だけど…セイウンスカイと向き合っていた。
「……えへへ」
「?」
「お昼寝なら一緒にあるけど、アマグモと夜を寝るの初めてだね。 なんかドキドキするな〜」
「俺は、眠り辛い」
「もしかしてお相手が女の子だから?」
「…」
彼女はニヤニヤとにんまりと笑う。
「違うな」
「違うの? ならどうして〜?」
背を向けながら答えを言う。
「相手がセイウンスカイだからだよ」
「…………ふふ、その手には乗らないよ〜」
そう言って彼女も背を向けて眠りつく。
寝息がふたつになった。
だが、その時の彼女は耳がわかりやすいくらいにフニャリと落ちていて、セイウンスカイは感情を抑えるに精一杯だったらしいが、俺はその事を知らない。
つづく
しっとりしてるのはユクモ温泉のせいだから(湯気)
セイウンスカイって結構感情を隠してるタイプで、自分が思ってるよりも感情の処理が苦手で、何処となく怖がりで負けず嫌いで、弱さがある自分が許せなくて、虚栄を張る事で保とうとするけどでも思った以上に脆い、そんな感じのビジョンを浮かべた結果の話。
ここまでの話でそんな伏線あったかもわからないくらいにごちゃごちゃしたけど、ユタカの『特別』って言葉に色々考えさせられたセイウンスカイのつもりだった。
反省してる。 後悔はしてない。
でも本音を言えば一度盛大に曇らせたかったです。
はい(俗物)
そして実装が待てない
はい(白目)
あと水没林でのアマグモと、ジエン戦でのシュンギク、ハンターとオトモ揃ってなかなかに強烈な死線を駆け抜けてますね。
これで生きているとかお前らさては主人公だな?
ではまた