オトモの枠にウマ娘があるとしたら[凍結]   作:つヴぁるnet

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第14話

 

 

 

マガイマガドと戦ったケシキが戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイレンススズカを両手に抱えて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告だと、エリア10でこの辺りだな」

 

「泥水の底に隠れて見つからないかもしれないね」

 

「とりあえず探す。 セイウンスカイは陸地を探して。 俺は泥水を探る」

 

「別にわたしは泥水に汚れても気にしないよ?」

 

「エルコンドルパサーのような子を除いてウマ娘はあまり足場の悪いところに足を突っ込まないで欲しい」

 

「もう、心配しすぎだよ? 別に走らなければ足を突っ込む分は大丈夫だから。 わたしも探すよ」

 

「…わかった。 じゃあそっち側を頼む」

 

「にゃは、了解したよー」

 

 

 

 

ケシキはマガイマガドの討伐に失敗した。

 

 

あと一歩のところで彼は敗走した。

 

 

しかし生きて帰ってきた。

 

 

それだけが何よりも大きいだろう

 

 

 

しかし、その代償は大きかった。

 

ケシキに随従するサイレンススズカが目を覚さない。

 

それと彼女は死んではいない。

 

だが、折れてしまったその片脚はとてもじゃないけど、痛々しい光景だった。

 

 

ケシキは彼女の事をこう語る。

 

サイレンススズカは、マガイマガドに追い込まれたケシキを助けるために飛び出した。 ケシキは瀕死のマガイマガド最後の猛攻を凌げず、泥水の中に投げ出されてしまい、マガイマガドはその前足でケシキを泥水の中に押し込んで溺れ殺そうとしていた。 ケシキはその大足を退くことはできず、泥水の中でもがき苦しむ。 そんな彼を助ける存在はいなかった。 ケシキのオトモ達も3日以上の戦いによって怪我を負い、疲弊して、戦線を離脱していた。 そして残るは陰で見守るサイレンススズカただ一人だけ。 しかし彼女も長い時間の中で走る力を使い果たしていた。

 

彼女は短い時間帯でどのウマ娘よりも鋭い健脚で駆けることはできるが、長期的なクエスト向きの脚ではなかった。

 

ウマ娘にも"適正距離"ってものがある。

 

言い方を変えれば遂行可能なクエスト時間の事であろうか。 例えばサクラバクシンオーは短い時間内でとんでもない爆発力を発揮し、その脚を使って駆け巡る。 限られた時間内なら難しいオーダーをいくつも熟してくれる辺り、短期決戦に向いた能力である事が伺える。 この時のサクラバクシンオーはガルクよりも驀進的であるが、長期的なクエストには不向きだ。

 

それと相対するようにセイウンスカイは脚こそ他のウマ娘よりも劣るかもしれないが長期的なクエストに対して強い。 長時間のクエストだろうといつでも自身のポテンシャルを最大限に発揮してくれる。 常に雲のように緩やかな彼女だからこその脚質だろう。

 

しかしサイレンススズカはそうではない。 サクラバクシンオーよりもやや長い時間のクエストが遂行可能であるが3日も走れる力があるかと言うとそうで無い。 むしろ1日中走れたらそれは上出来な方である。

 

しかしだ、普段なら2日も掛からずにモンスターを討伐まで漕ぎ着けるケシキであるが、百竜夜行で一太刀だけ牽制した以来マガイマガドとはほぼ初見での討伐だ。 故に時間がかかった。 そんなサイレンススズカもその時間分を駆ける足は無いに等しかった。 むしろ1日中で充分なのに3日は本当に良く保った方である。 それだけケシキに応えたくて脚を動かしだろう。

 

 

だがそこから先は自殺行為であった。

 

 

俺は前に少しだけ砂漠における適正と、そして何がなんでもオーダーに応えようとするウマ娘の話をしたことを覚えているだろうか?

 

ウマ娘がトレーナーと認め、または慕う存在に対して何がなんでも応えたい生き物である話をした。 ウマ娘はトレーナーのオーダーに応えたいために持ち合わせる脚で駆けようとする。 人間を助けるための使命を掲げ、ウマ娘としての存在意義がそうである。 それが走り慣れない砂漠の上だとしてもウマ娘はトレーナーに応えようと全身全霊で走る。

 

それが人の期待を乗せて走る馬でもあるから。

 

もちろん性格上の個人差はある。 ゴールドシップの様なウマ娘は流石に特殊すぎるが、スペシャルウィークやグラスワンダーのようなウマ娘は健気で真面目である。 それはサイレンススズカも同じ。 だがサイレンススズカはやや行き過ぎた部分がある。 ケシキとはただの信頼関係では収まらないほどだった。

 

 

ではこれが一体なんだと言うのか?

 

 

サイレンススズカはケシキを想うあまり応えるの意味を通り越してしまった。 ウマ娘はモンスターの前に躍り出て戦ってはならない。 いくら普通の人間よりも身体能力が高かろうと、武器を扱えない身としてその命を曝け出す事は許されない。 そう言われている。

 

サイレンススズカもそれは承知の上でいつもケシキを見守っていた。 どんなに危険だろうとウマ娘は戦わず、トレーナー(ハンター)を信じる。 だが彼女はケシキを助けようとするために彼が手放した太刀を持ってマガイマガドに斬りかかった。 いくら身体能力が高いウマ娘でも武器を扱う能力は無いに等しい。 だからモンスターに勝てる力は無い。 閃光玉や環境生物以上のモノを扱ったことない彼女が太刀を握ったところでマガイマガドには通用せず、その尻尾で打ち払われてしまい、壁に打ち付けられた。

 

壁の瓦を壊しながら横たわる彼女の姿が、泥水の中から解放されたケシキはそんなサイレンススズカを見て、感じた事ない感情が弾け飛ぶ。

 

 

 

……そこから彼は記憶がないと言う。

 

 

 

気づいた時には脚を引きずって逃げるマガイマガドを他所にケシキは折れてしまった太刀を手放して、モンスターを討伐する使命を忘れると、サイレンススズカを抱えてカムラの里に戻ってきたらしい。

 

 

初めてクエストリタイアの形で終えたケシキだった。

 

 

 

 

 

さて、まだマガイマガドは生きている。

 

だが今のところマガイマガドの報告は無い。

 

どこかに隠れているのだろうか。

 

油断はできない。

 

 

それと彼が使っていた太刀は大社跡で紛失した。 ギルドからもその話がすぐに出て、俺宛に依頼が飛んできた。 フクズクから伝票を受け取り、中身を確認すると"環境不安定"の文字が警告として書かれていた。 随分と穏やかなじゃ無い内容だがケシキのリタイアからそう掛からないで俺のところに話が舞い込んできたと言うのは、環境不安定の中でクエストを遂行できるハンターはアマグモだと言う事だろう。 評価されてると言えば響きは良いが、扱いは俺に対しての特務…言わば"緊急クエスト"の様な扱いだろう。

 

里のために命を賭けて来い、その意味だろうか。

 

 

 

まぁ、いつも命懸けであるのは変わりないが。

 

 

 

「アマグモ! 見つけたよ!」

 

 

 

セイウンスカイは泥水の中からケシキが使っていた太刀を引き摺り出して、俺に見せる。

 

思ったより早く見つかった。

 

 

 

「わかった。 回収して早めに戻__」

 

 

 

俺はオデッセイブレイドを腰に手をかけてセイウンスカイに目掛けて投げる。

 

紫色の煙を切り払った。

 

 

「!?」

 

 

セイウンスカイも耳が立っているあたり、今何が起きたか気づいたようだが、泥水の音に運悪く遮られて大型モンスターの接近に気を許していた。 しかも漂う煙は音もない。 この初見殺しは俺も百竜夜行で味わった。

 

 

「っ」

 

 

そして彼女は泥水の中に足が囚われている。

 

すぐに走れない。

 

 

 

「グルルル!」

 

 

 

静かに接近してきた大型モンスター。

 

マガイマガドが現れる。

 

投げたオデッセイブレイドを翔蟲で引き寄せて、そのままもう一度投擲する。

 

その片手剣を尻尾弾こうとするが、その尻尾にオデッセイブレイドが突き刺さり、血飛沫をあげるとマガイマガドは目を見開く。

 

なるほど肉質の関係で水属性の武器に弱いのか。

 

あとマガイマガドは投擲物を尻尾で弾き返すことに慣れ過ぎている。

 

その結果として今なのだろう。

 

 

「セイウンスカイ」

 

「!」

 

 

逃げ馬の性質上セイウンスカイは驚きすくみ上がり、その足を硬直させそうになっていたが、俺が声をかけるとスッと冷静さを取り戻す。

 

そしてセイウンスカイ自ら腰にしまっていた閃光玉をマガイマガドに投げつけて離脱する。

 

 

「ブゴゥ!」

「ブヒィィ!!」

 

 

ブルファンゴが閃光玉で目を覚まし、そしてマガイマガドの存在に気がつくと逃げるどころか突進した。

 

いまがチャンスだな。

 

 

「セイウンスカイ、その太刀を持ってベースキャンプに走れ。 それでケシキの太刀の納品を終えたら次は…俺の太刀を持ってきてエリア7まで持ってきてくれ」

 

 

「!?」

 

 

「アイツをこの場で倒す」

 

 

「いや、でも…っ………わかった! 私が来るまで死なないで!」

 

 

 

セイウンスカイは一度その作戦に反論しようとしたが、それを飲み込んで耐えると太刀を背負って直ぐに走り出す。 俺は音爆弾を投げて目が眩むマガイマガドを撹乱しながら近くにいた環境生物を回収して足場の悪いエリア9から離脱する。 マガイマガドはブルファンゴの攻撃を蹴散らしながら俺を探していた。

 

 

 

「こっちだモンスター」

 

 

「グルルル!」

 

 

 

翔蟲を使って一気に移動する。

 

その派手な動きにマガイマガドは俺の存在を視界に捕らえて走り出す。

 

しかし細い関門に撒いたマキムシを踏んでマガイマガドは怯んだ。

 

 

 

「何やってる間抜けが、さっさと来いよ」

 

 

「グルルアアア!!」

 

 

 

投げナイフを顔にぶつけて挑発する。

 

マガイマガドも完全に敵と見做したのか起き上がって、追いかけてきた。

 

ジンオウガと同じくらいの迫力か、強者であることがよく分かる。

 

そしてエリア7までマガイマガドと連れてやってきたことでブンブジナがキョェ!と驚いて逃げ出す。

 

 

 

「…」

 

 

「グルルル…」

 

 

 

互いに見合って牽制する。

 

そしてマガイマガドが動き出した。

 

ジンオウガの様に大腕を奮って叩きつぶしてきたが、思ったよりも動きが鈍い。 ケシキがかなり弱らせていたのだろう。 よく見たら至る所に刻まれた跡があり、ケシキとの激闘から命からがら逃げ延びたのだろう。 耳をすませばフー、フーと、息をしているあたり余裕ではないらしい。

 

 

「なんだ、随分と死にそうじゃないか。 どうした? 尻尾巻いて逃げるか? ジンオウガのメスならまだ勇猛だぞ?」

 

 

「グルルアアア!!」

 

 

 

言葉を理解してるのか分からないがマガイマガドは俺が挑発してることはよく分かるらしい。 紫色の煙を纏うとそれを放ってきた。 爆発するやつか。 翔蟲で一気にマガイマガドに詰め寄って盾でその顔を殴る。 ガツンと音を立ててマガイマガドの角をへし折り紫色の煙は消え失せる。 どうやらあの煙は意識を集中して使わないとダメらしい。

 

これは大きなスキだな。

 

なんとか使わせてもう一度……いや、基本的に四足歩行のモンスターのパターンを思い出せ。 アレは自分を強化するための技術でもある。 体内のエネルギーを爆発させる"玉"が体の中にある。 これは牙獣種の特徴とも言えるな。 環境に適応しようと変化したモンスターとは違う。 基本的に奴らは口から放出するための"袋"を生成する。 ロアルロドスやフルフルのようなやつだ。

 

そして牙獣種の四足歩行は体内に玉を持ち、それエネルギーに変えて戦える能力を高める。 そのため攻撃はむしろ副産物に等しい。 そうなるとまだ隠し球がある事を前提にして、体力的に恐らくあと一度だけ強化状態に入るだろう。 マガイマガドの強化状態は紫色の炎、または鬼火を纏う報告を受けている。 牙獣種と言えども"怨虎竜"の別名で通っているあたりなるほどと言える。 鬼火は触れると不味いが理解していれば問題ない。

 

わかることは尻尾の扱いに長けている。

 

また強化状態がある。

 

鬼火は触れると危うい。

 

ジンオウガ並みの機動力を持つ。

 

知能は高い方。

 

 

 

「これだけわかっていれば充分だな」

 

 

それでも弱っていることに変わりはない。

 

勝機は充分だ。

 

 

「蟲車!」

 

 

オデッセイブレイドの盾を翔蟲に引っ掛けてぐるぐる回す。 鬼火を払いながら盾で顔を殴りマガイマガドの目眩を誘う。 マガイマガドの破れかぶれな反撃に対しての遠心力を使って大きく回避して、先程回収した雷毛コロガシの環境生物を投げつけて雷やられ状態を誘う。 俺は遠心力で大きく退いた反動を活かして後方の壁を蹴り、マガイマガドに飛び付くと再びその盾でその顔を殴る。 マガイマガドは強烈なスタン攻撃に足を崩して地面に倒れる。

 

おぼつかなく暴れるマガイマガドに回り込んでオデッセイブレイド引き抜き、付着した血を洗い流すために液体を根本から流す。 オデッセイブレイドに翔蟲を引っ掛けてその場で回転させて液体に包まれた血を払う。 そのままオデッセイブレイドを真上に放ち、その勢いを利用して高く飛脚するとマガイマガドの真上を取ったのに、丸見えの脇腹に目掛けて突き刺した。

 

 

「グァァア!??」

 

 

四足歩行のモンスターは基本的に腹は柔らかい。 たった一撃とは言えそれは深い傷となった。 そしてあわよくば体内の玉にダメージを与えて一気に追い込む。 マガイマガドは尻尾を使って俺を振り払おう伸ばしてきたので盾で弾きながら前足を撫でるように切り上げて、そのまま流れるように後ろ足にも攻撃を入れる。 一気に距離を取って離れると盾を横にバッと伸ばしてマガイマガドを待ち構える。

 

 

「来いよ、哀れな亡霊武者」

 

 

マガイマガドは「言わずもがな!」とばかりに冷静さを欠いて距離を詰める。

 

 

攻撃手段である尻尾か?

 

大腕のスタンプか?

 

また鬼火か?

 

 

いや…

 

 

 

「そんなのは関係ないな」

 

 

 

盾を持つその手には小型のハンターナイフを逆手に持ちで構え、盾で見えなくしていた雷光虫をスッと動かしてマガイマガドに晒し出し、ハンターナイフで雷光虫に刺激を与える。 盾の内側から一気に放たれる閃光にマガイマガドは不意を食らって再び目が眩む。 驚きのあまりに一度体を硬直させてしまうが、マガイマガドからしては今更閃光による目眩し程度でその歩みを止めない。 俺が立っている場所を把握しつつ広範囲に攻撃を切り替えて、今一度踏み込もうとして……転倒した。

 

 

「グゥ!?!?」

 

 

足を斬られた!?

 

顔を殴られた!?

 

しかし接触を受けた気配はない!

 

なら一体何が!?

 

そんな感情がよく伝わる声。

 

 

 

「効果的面だな」

 

 

 

マガイマガドの足がひどく滑る。

 

巨体を支えきれない。

 

中途半端に踏み込んでしまった石階段から足が滑り落ち、ぐしゃっと顎から地面に落ちるその姿はあまりにも間抜けだ。

 

 

「タマミツネの潤滑剤はジンオウガすら転ばせる。 縄張り争いでタマミツネがジンオウガに引けを取らないのはこういうことだ」

 

 

オデッセイブレイドに流した液体はただの液体ではない。

 

タマミツネの素材の一つである"滑らかな滑液"と言われる潤滑剤だ。

 

ハモンさんからオデッセイブレイドの汚れを落とす時はタマミツネの滑らかな滑液を使うように言われている。 普段なら少量で刃に垂らして布を擦って血肉などを洗い落とす。 しかしそれを多量に使うことで刃にタマミツネの潤滑剤を纏わせることが可能であり、出来上がるのは泡立つ剣。 それをマガイマガドの4本足にバターを塗るような感覚で撫で切った。 今のマガイマガドの足裏は沢山の泡に包まれて上手く動けないだろう。

 

しかしこれは普通の武器では出来ない技である。

 

だがオデッセイブレイドの元となった素材は大地の結晶よりもツルツルとしたグラシスメタルと、タマミツネの滑らかな滑液によって属性を高めた片手剣だ。

 

非現実的であるが、敢えて説明するならタマミツネの泡となる液体で作った片手剣と言うことだ。 強化手段が泡立ちやすい素材なのだから、そこにタマミツネの滑らかな滑液を使えばその効果はタマミツネが使う"泡やられ状態"の攻撃に発展させることが可能だ。 これはチャージアックスと似た理論である。 俺はオデッセイブレイドに泡の属性を付与した。 そして水属性に弱いマガイマガドだからこそ簡単に泡やられ状態に堕とすことが出来た。

 

故に今のオデッセイブレイドはマガイマガドを殺すためだけにある。

 

 

けれど、この武器で倒すつもりはない。

 

 

 

「アマグモ! 受け取って!」

 

 

「待ってたよ」

 

 

 

セイウンスカイの声が聞こえる。

 

オデッセイブレイドを手放し、セイウンスカイから投げられた太刀を受け止めると水平をなぞる様に腰に押して「すぅぅぅぅ」と鋭く息を吸って構える。

 

 

 

カチン__太刀が鞘に収まる音が静かに響く。

 

 

 

疾風刀・裏月影…

 

環境不安定の情報があるからこそ今回のクエストに持ち込む事を決意して今この手に収まっている。

 

 

 

「…」

 

 

 

ギラリと見せるその刀は深淵の暗殺者が首を狙おうと覗かせている。

 

この間合いに一歩そこに踏み込めば、次はマガイマガドの頸が地面に落ちるだろう。

 

そのマガイマガドは泡やられ状態でまともに立ち上がることはできず、その坂道を滑らせながらこちらに迫ってくる

 

 

 

「グルルル!??」

 

 

 

俺は静かに眼を見開く。

 

 

 

 

 

「ああ、よく見える…」

 

 

 

 

疾風刀・裏月影を握りながら深く構える。

 

 

マガイマガドの斬るべきところが露わになった。

 

 

あとは……斬るだけ。

 

 

 

 

「グァァァァァァア!!?」

 

 

 

 

 

止まらない巨体に恐怖の一閃が頸を狙う。

 

 

刀はただしなやかに剣戟を描くだけで。

 

 

ゴトリと、落ちる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、怨念を纏う亡霊武者が葬られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マガイマガドを討ってから次の日のこと。

 

少しばかり不本意であるが俺は英雄として帰還を受けて宴が始まった。

 

正直に言えばケシキがマガイマガドを9割ほど追い込んだのだから俺はそこに漁夫の利した形になって討伐成功は些か受け入れ難い。

 

それでもカムラの里に一つ平穏が齎されたのだから里人達は大いに喜んでいた。

 

そして宴が終わった翌日にサイレンススズカは目を覚ました。 片足は完全に折れていて治るのに時間がかかるらしい。 命に別状は無く、サイレンススズカも「ケシキさんの命が助かって良かったです」と微笑んでいた。 だがケシキはそのスズカの姿に自分の弱さが許せなくなったのか、地面に頭を砕く勢いで土下座して謝っていた。 なんども打ち付けるものだから流石に止めた。

 

さてウマ娘の医師らしい医師はいないがとりあえずアグネスタキオンがサイレンススズカの状態を見て診断する。 安静にしていれば足は自然と治るらしい。 ただし、いにしえの秘薬など使って強引に治すことはオススメされなかった。 ウマ娘の人体構造はやや特殊であり、筋肉の関係上、薬で治癒するのはこれまでの力が出せなくなるらしい。 ウマ娘の中の細胞がウマ娘を治させ、必要な組織を再構築させる。 それでも治癒を早めたいのならニンジンを食べるとか、体の健康状態を高めるための運動など、俗に言うリハビリをするまでだと。 そして無理のない程度に体を追い込む。

 

そうすればウマ娘の体内の細胞が治そうと活性化するのでわずかに治癒が早くなるだろうと言っていた。

 

 

なので…

 

 

 

「ユクモ村の温泉行って来いよ」

 

 

「「ユクモ村?」」

 

 

「俺の生まれ故郷だ。 あそこは温泉地だけあって"秘湯"とかもあるからな。 モンスターが住う自然の中に入らないとソレは見つからないが、俺の元相棒がモンスターが少なくて入りやすい秘湯に詳しい。 だから…」

 

 

 

懐から紙を取り出す。

 

 

 

「これを元相棒のユタカって奴に渡せばアマグモの知人だと認識してくれる。 それで秘湯を利用できるはず……てか、隠れてるシンボリルドルフとエアグルーヴ、そこにいるんだろ?」

 

 

 

「おや、見つかったか」

 

「アマグモ、貴様のその言い分、どうやら知っているようだな」

 

 

ケシキの家の入り口から二人のウマ娘が姿を現す。

 

 

「シンボリルドルフ、ユクモ村にウマ娘を置いてる理由ってこのためだろ? ウマ娘の怪我を治療するための秘湯を管理するために。 それを"とある家系"に任している、違うか?」

 

 

「やはり知ってたか。 いや、ユクモ村出身だからこそか。 うまく隠してつもりだが、君には無駄だったな」

 

「だが勘違いないで頂きたい。 貴殿に負い目があるから隠していたわけじゃない。 その必要があるからな」

 

 

「そこは大丈夫だエアグルーヴ、そこは俺もわかってる。 むしろユクモ村には貢献してる形だからウマ娘には感謝している」

 

 

 

何故カムラの里以外にも少数ながらユクモ村にウマ娘がいるのか? それはウマ娘の治療のために秘湯を管理する必要があるから。 まずウマ娘は強いが、その分非常に脆い生き物だ。 そして大怪我を負いやすい。 更にその怪我から死に直面するケースが非常に高い。 しかも不自由なことに怪我を治す方法も限られており、先程のスズカの説明通りに秘薬などで強引に治すことはウマ娘の力を失わせてしまう事になる。

 

ハンターは強くないし、脆いけど、薬で体を治すことができる。 回復薬を使えば切り傷は瞬く間に消え失せ、秘薬を使えば致命傷から瞬く間に回復する。 いにしえの秘薬なら骨折すら数分で治ってしまうだろう。 そのかわり綺麗に骨をつなげて治さないと複雑な治り方をするが、それでも其処さえ守ってしまえば強力な薬を摂取して即座にハンターとして舞い戻る事ができる。 これが人間の強みだろう。

 

でもウマ娘に関してはそうはいかない。

 

自然治癒で治さないと本来の力を取り戻すことはできない。 だからこの常態からサイレンススズカを薬で治すのはリスクが高すぎる。 二度とあの速さは手に入らない。 それがウマ娘との意味を無くしてしまうだろう。 だが自然治癒を手助けする事は全然アリな話で、回復を早めることにリスクは無い。 その手段として秘湯が一番有効である。 ウマ娘にとっての秘薬みたいなものだ。

 

その秘湯を管理しているのがユクモ村に居るウマ娘であり、そして"とある家系"である。

 

 

「ユクモ村の秘湯についてだが、サイレンススズカの足を治すために是非利用して頂きたい。 この手紙を渡せば秘湯を管理してる"メジロ家"が案内してくれるだろう」

 

 

「あ、メジロ家の事は言ってしまうのか」

 

 

「私とエアグルーヴは知っていて、ユクモ村で生まれたアマグモも理解している。 そしてこれからユクモ村に向かう二人も接触してもらうからな。 ならばここにいる者たちで隠す必要はあるまい」

 

 

「たしかに」

 

 

 

疾風刀・裏月影の回収をメインとしてたから、其処ら辺はあまり触れなかったが現在のユクモ村にはメジロ家が存在する。 そしてユクモ村に滞在するウマ娘はメジロマックイーン、メジロパーマ、メジロライアン、メジロドーベル、他にもウマ娘で無かろうともメジロの関係者が何人かいるらしい。 それでメジロ家が現れたタイミング的については、ユクモ村には俺が出た直前だったとか。 あの頃から動き出してたのかと少し驚いた。 それで少しずつメジロ家の関係者が現れて、今はウマ娘に効く秘湯の管理を勤めている。

 

ただメジロ家に関してはどこから現れたのかは全く知らない。 でも中心となるウマ娘自体が皆揃ってその出所を黙秘してるようにメジロ家もおそらくそうなのだろう。 だとしても申し訳ないが突然現れた辺り怪しさ満点である。

 

でも村長がすぐに受け入れた辺り、ユクモ村とメジロ家には何か繋がりと歴史があるのだろうと考えている。 そもそもカムラの里にウマ娘がどんどん現れて、フゲンさんもギルドマスターも受け入れてる辺りやはり何かあるとしか思えない。 オトモダービーと直ぐに名付けた辺り随分と手慣れていると言うか…まぁ、カムラの里を助けるために現れたのは真実なのでそれ以上は模索するつもりは今のところない。

 

いずれ明かされるだろう。

 

だからそれに伴って俺はメジロ家の話を初めて聞いたとき、どこかの外交官かと最初は思ってたけど、まさかウマ娘関連の関係者である事は寝耳に水だった。 でもメジロマックイーンの話はトウカイテイオーから聞かされてたので、そこからメジロ家に関しては何となく予想はついていた。 さりげなく情報がしっとりとダダ漏れであるからテイオーにあまり内部の話は喋らないよう言い聞かせた方が良いのでは?

 

もちろんメジロ家に関しては秘密なのであまり広めてはならないと言われている。 ユクモ村に滞在するウマ娘に『メジロ』の名前は多いけど、村人も「へー」の程度であまり気にして無いらしい。 だからメジロの意味を知ってるのは村長とユクモ村のギルドマスター、あと受付嬢だけである。 一応ユタカも知ってるがあの性格だと気にしないだろう。 多分何処かのお偉いさん程度の認識だと思う。 これに関しては間違い無いな。

 

ちなみに俺の場合だとユクモ村出身だけあって遅かれ早かれ知られるだろうとシンボリルドルフは諦めていた。 案の定村を出る時、カムラの里に居る時、前に帰ってきた時、その三つの情報を答え合わせをして納得したまでである。 まぁ、その真実を知ったところで別に何かしたいわけも無く、メジロ家には何も触れやしない。 てかゴールドシップの存在が強くてメジロ家どころじゃなかったが。 あとセイウンスカイの独白もインパクト強くてユクモ村に帰ってきたのか少し疑いそうになったのは秘密。

 

ちなみにメジロ家とは関係ない"ツインターボ"

ってウマ娘に関しては間違えてユクモ村に向かってしまったらしい。 確信犯のゴールドシップとは逆のパターン…てか、アレはゴルシがおかしいだけなので。 そしてツインターボはユタカに気に入られて、ツインターボもユタカを気に入って、それで互いに波長が合い、今ではユクモ村の名物コンビだとか。 ギザギザの歯が二つユクモ村を賑わせる。

 

あと、あの時ツインターボが泣き喚きながらユタカを助けて欲しいと叫んでいたが、実はユタカはあの日メジロ家からクエストを受けて秘湯まで向かっていたらしい。 秘湯もついでに入って腕の悪い調子を治したとか。 それでユクモ村に帰還する途中にカガチが現れた流れらしい。 そして腕を折った。 治して折って器用だなオイ。

 

 

 

「そうなると、モンスターの討伐ハンターは一人減ってしまうことになるんですか?」

 

 

「ケシキレベルのハンターが一時的にいなくなるは痛いけど、マガイマガドの狩猟からしばらく落ち着くと思うから大丈夫だろう。 百竜夜行もウマ娘がいるから心配無い。 それに…」

 

 

「?」

 

 

「ケシキの穴埋めは俺がやる」

 

 

「アマグモ先輩が!?」

 

 

「今日の朝、フゲンさんとギルドマスターからそのお達しが来た。 スズカもだけどケシキも怪我して本調子じゃない。 だからその穴埋めにアマグモが動いて欲しいと。 回収班から討伐班にスライドして、ケシキとスズカが戻るまでアマグモがモンスターの狩猟に赴く様にとね」

 

 

「……申し訳ないです」

 

 

「謝るな。 ハンターやっていればこう言うこともある。 俺も怪我して、病気になって、誰かが代わりにそこを頑張っていた。 次は俺が代わりとなろう」

 

 

「先輩…」

 

 

「それにさ、マガイマガドの討伐まで漕ぎ着けれたのはケシキが命懸けで闘ってくれたから。 俺はお陰で奴を倒せた。 漁夫の利な形で申し訳無いけど、マガイマガドに立ち向かったケシキに敬意を表するよ。 ありがとう、カムラの里のために」

 

 

「……いえ、仇を討ってもらった。 礼を言うのはこちらです」

 

 

「そうかい。 まぁともかく、さっさと準備してユクモ村まで旅立て。 二人とも早く怪我をカムラの里に戻って来てくれよな」

 

 

「わかりました。 すぐに治して戻ってきます」

 

 

 

「うむ、どうやら話は決まった様だな。 私たちが来るまでもなかったか。 エアグルーヴ」

 

「はい」

 

 

 

二人はケシキの家を出ながら打ち合わせを始める。

 

 

俺も「ユクモ村を楽しんで来いよ」と言って家を出た。

 

 

 

 

「スズカ、早速準備して明日には向かおう」

 

「……その、ケシキさん。 ご迷惑をおかけして申し訳ありません。 わたしは…」

 

「もう良いんだスズカ。 自分は君のおかげで助かったんだ。 でも…約束して欲しい。 もう二度とあんな事はしないと。 そのかわり自分も約束する。 君があんなことをしないで良いようにもっと強くなってみせるから。 だから近くで見ていてくれ。 君の景色(ケシキ)となるから」

 

「っ、はい。わたしだけの景色(ケシキ)を、あなたに求めます」

 

 

 

トレーナーと慕う彼の肩を借りて立ち上がるサイレンススズカ。

 

そして話合いが終わったことでオトモたちがタイミング見て家の中に戻り、二人を支えてユクモ村に向かう支度を手伝う。

 

 

 

そして、次の日。

 

朝早くから二人はカムラの里を出てユクモ村に向かった。

 

新婚旅行のように見えたの気のせいだろうか?

 

 

 

 

そして、俺はケシキが帰ってくるまで討伐班としてモンスターと戦うことになる。

 

本来のモンスターハンターとして。

 

 

 

「セイウンスカイ、このクエストの討伐対象はジンオウガだ。 北にクルルヤックが放浪してるようだからうまくぶつけて少しでも消耗させよう」

 

 

「わかった…けど、アマグモ、大丈夫だよね? 本格的な討伐って久しぶりなんだよね?」

 

 

「そうだな。 基本的に加入したり、漁夫の利だったりと、仮にモンスターと戦っても必要な素材だけ頂いてオサラバが多かった。 クルペッコ亜種も、ボルボロスも、タマミツネも、倒すことなんてしなかった。 でも今日からは違う。 1から終わりまで大型モンスターと付き合うのはおおよそ1年ぶりで、最初から太刀を背負って大地を踏み締めるのはジエン・モーラン以来だからな」

 

 

「ならジンオウガはステップアップとして大き過ぎるんじゃないかな…?」

 

 

「いや、案外そうでもないかな。 まだクルルヤックの方が大変かも」

 

 

「どうして?」

 

 

 

高台からジンオウガを見下ろしながらニヤリと笑う。

 

 

 

「ユクモ村のハンターはな、四足歩行のモンスターに滅法強いんだよ。 そうでなければマガイマガドなんか倒せなかった…さ!」

 

 

 

高台から飛び降りてジンオウガに太刀を振り下ろす。

 

ジンオウガは気づいたのか回避して数歩の間合いをとって威嚇する。

 

しかし威嚇した場所に小樽爆弾が落ちてきて、ジンオウガの顔に直撃すると爆発する。

 

 

 

「ガァウ!?」

 

 

「いちいち敵を威嚇するあたり所詮牙獣種だな。 そんなことしてるくらいなら俺に攻撃してこないと…」

 

 

 

怪力の種を飲み込んで一気に踏み込む。

 

 

 

「一方的にやってしまうぞ」

 

 

 

久しぶりに着こなすユクモ装備が落ち葉を纏いながら裏月影を輝かせる。

 

 

場所はカムラであるが…

 

 

気分はユクモ村のハンター。

 

 

でも、今だけは…

 

 

 

「気炎万丈ォォ!」

 

 

 

カムラの里のためにこの腕を奮おう。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 





村クエのストーリーは終了です。
RISE主人公のケシキは一旦離脱しました。

アマグモは一時的に討伐班として活躍することになるでしょう。
でも戦闘描写苦手だからあまり描きたく無いので討伐班設定は飾りになるかもですね。
そもそもセイウンスカイとイチャイチャを書きたいのだ。
それでもっと雨雲の様にしっとりするべきだろうか?
あと実装はよ(俗物トレーナー)


さて、次回から集会所ストーリーとして始まります…が、原作ゲームのアップデートが無いと原作沿いとして話が進まないので、それに合わせて更新も止まるかもしれない。 あ、もちろん玉球抱えた姫さんまでは頑張ります。 よろしくお願いします。

それとUAが一万超えてびっくりしました。
人気コンテンツの効果ってやっぱりすごいですね。


ではまた
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