オトモの枠にウマ娘があるとしたら[凍結]   作:つヴぁるnet

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第15話

外は少し明るい。

 

あと数刻ほどで大社跡は朝になるだろう。

 

 

 

「……すぅぅぅぅ…」

 

 

息を鋭く吸って、目の前の獲物を見据える。

 

エリア12で深く眠りつくリオレイア。

 

その顔の前にカクサデメキンで強化した大タル爆弾Gを置いて睡眠爆破を行う数秒前。

 

チリチリと音を立てる小タル爆弾とタイミングを測る。

 

俺は疾風刀・裏月影を引き抜いて、翔蟲で真上に伸ばしたまま構える。

 

 

「!」

 

 

 

子タル爆弾が爆破した。

 

その連鎖爆撃で、大タル爆弾Gが大爆発を起こす。

 

まだ朝日は出ていない。 起こすにはあまりにも早い時間帯で、優しさなんて微塵もない過激的なモーニングコールにリオレイアは目を見開きながら悲鳴を上げて爆炎に苦しむ。 無防備な顔が焼け焦げてのたうち回るが、目の前に一人だけ誰かいることに気づいた。 空色の髪の毛と白い衣装で飾る女性がそこに立っている。 リオレイアの目にセイウンスカイが映っていた。 彼女はエンエンクを逃す。 フェロモンを纏ってリオレイアを挑発した。

 

リオレイアはセイウンスカイに吠える。

 

だが叫ぶその瞬間……声が上手く出なかった。

 

 

 

「ガァ…ゥ……??」

 

 

 

何が起きた?

 

 

 

リオレイアの視界に血飛沫が広がる。

 

 

 

首を斬られた。

 

 

 

 

「俺のセイウンスカイに手を出すな」

 

 

 

爆発する瞬間に翔蟲で真上に飛んで視界から大きく外れ、そのまま重力を活かした一刀両断はリオレイアの首半分を切り裂いた。

 

 

「グォ……! ガゥ……グァ…!」

 

 

原種のナルガクルガよりも切れ味のある刀から放たれた渾身の一撃は、油断していたリオレイアの肉を簡単に裂いてしまった。 俺はすかさずその足を斬り、もう一度斬り上げてリオレイアを転倒させると、翔蟲でその首を巻きつけて飛び込み、更に首に斬撃を叩き込んでリオレイアの出血量を早めた。

 

 

 

「セイウンスカイ、退くぞ」

 

「にゃは! 了解だよ!」

 

 

 

太刀を納刀しながら蔦を走って登りリオレイアから走って逃げる。

 

喉を切られたリオレイアは声を上手く出せないが精一杯の威嚇で追いかけて来る。

 

セイウンスカイが纏うエンエンクのフェロモンを追いかけてリオレイアはエリア12までやってきた。

 

 

「こっちだ! こっちきに来なよ、化け物!」

 

 

セイウンスカイの言葉を理解してるとは思わない。 しかしその背を追いかけて食い殺そうと眼に怒りを染めるリオレイア。 しかし冷静さを失っていたリオレイアは一歩踏み込んで、視界がガクンとズレる。 どうやら落とし穴に落ちたようだ。 それを理解するには遅く、セイウンスカイは引っかかった事を確認して閃光玉を投げ入れて更にリオレイアの視点状況を悪化させる。

 

リオレイアは暴れる。

 

大地の女王がこの様な有様で良いのか?

 

良くない。 だが動けない。

 

 

「気炎万丈ォォ!」

 

 

完全な不意打ちの罠に冷静さを欠いてるもがくリオレイアも真上から響く声を聞いて動きが止まる。 一瞬だけ暴れる事を止めてその声の意味を理解しようとした。 知能の高いモンスターはこうして良く考える事が多い。 突撃するしか脳の無いブルファンゴと違って、脳ある大形モンスターはそれが何なのかを理解して対策を立てるのだから。

 

 

だからそれがいけなかった。

 

 

俺はもう一度渾身を込めた斬撃を丸出しの首に目掛けて振り下ろす。 動きが一瞬でも止まってくれたおかげで更に首を斬りつける事ができた。 原種の太刀よりも鋭い亜種の太刀はリオレイアの首元を簡単に斬り開き、またたくまに視界全てを埋めつく様な血飛沫で大地とその緑の体を赤く染める。 血風を浴びながらもう一度翔蟲で首を巻きつけて太刀を構えて、一気に踏み込んだ。

 

 

次の瞬間…

 

 

リオレイアの胴体から、顔が跳ね飛ばされた。

 

頸を落とされて機能が停止したリオレイアの胴体は落とし穴の中でズシンと音を立てて動かなくなり、足元に転がる大地の女王の顔は俺と眼が合う。

 

 

「…」

 

「…」

 

 

静かにその瞼は閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

討伐班として戦うのも慣れたこの日、いつも通りにヨモギちゃんからうさ団子を購入して帰ろうと寄り道する。

 

 

 

「もぐもぐもぐ…むっ? お帰り」

 

 

「相変わらずだな、オグリキャップ。 そんなにヨモギちゃんの気に入ったのか」

 

 

「予想以上だった」

 

 

「…予想? まぁ、俺も美味しいと思っていた団子だったが初めて食べた時は驚いたな」

 

 

「そう言うわけでは…いや、なんでもない。 ともかく美味しいのは間違いない。 ヨモギちゃん、お代わりあるか?」

 

 

「はいはーい! ありますよ! あとアマグモさんのも急いで作るね!」

 

 

「ありがとう」

 

 

 

ケシキがユクモ村に向かってから早くも2週間が経過した。

 

俺はオデッセイブレイドの片手剣よりも、疾風刀・裏月影の太刀を背負ってクエストに向かう回数が多くなった。 この武器は討伐向けと言うべきか、こちらの方が破壊力はあるからな。 中型レベルなら小回り重視でオデッセイブレイドを持ち込むが、最近はほぼ大型モンスターの討伐ばかりだが、ユクモ村にいた頃の感覚は完全に取り戻したから今更レイア程度じゃ遅れ取らない。 何よりユクモ村から持ち込んだこの太刀の強さが後押しする。 そもそも武器が上位クラスであり、まだ下位だった当時の俺からしたら過剰すぎる武器なので使うことにやや抵抗はあったが、乗り越えるために使う必要があったから握りしめ続けた。 今では手に馴染んでいる様なものだからすぐに討伐班としてカムラの里に貢献している。

 

しかし、なんというか、ここ最近ハンターの視線がやや冷たい。 でも理由はわかる。 てか経験したことある眼差し。 それは太刀に対してだ。 下位程度のハンターがそんな豪華なモノを使うのか?と意味深な視線である。 主に嫉妬の感情であろう。 だがその視線はまもなく意味が無くなる。 何故なら俺は上位ハンターになるための試験中だから。

 

今現在クエストを熟すのと同時にギルドから指定されたモンスターを討伐しているところだ。 それが今日討伐したリオレイアと、後日にクエストとして出されるだろう"リオレウス'である。 この飛竜夫婦を討伐することでギルドからアマグモは上位ハンターと認められることになる。 この太刀を使ってそれを証明しよう。

 

そもそも…下位のハンターが上位の武器を使ってはならないルールは無いが、素材の関係で下位程度のハンターでは入手不可能なので低いハンターランクで上位武器を使えるパターンはほぼあり得ない。 俺の場合はあの時のナルガクルガ亜種を素材にしたから入手できた様な物だが、かと言ってそのために命なんて賭けたくはない。 強い武器欲しさに欲張って死んだハンターは何人か見てきた。 身の丈にあった歩み方がプロハンの秘訣である。

 

 

 

ポツ、ポツ、ポツ

 

 

 

「なんか雨降ってきたな」

 

「!」

 

 

「うそ! お団子作るの急ぐね!」

 

 

 

うさ団子のお店は屋根がないから雨降ると大変なんだよな。 あと夏はすごく大変。 冬は焼き餅に火を使うから暖かい。 でもヨモギちゃんは季節問わず元気なのでこのお店に来れば絶対元気になれるだろう。

 

 

 

「ごちそうさま。 店仕舞い、よければ手伝う」

 

「オグリキャップさん!? いや、でも」

 

「いつも沢山のお団子にお世話なっている。 それと思ったより雨が激しくなるだろう。 急いだほうがいい」

 

「あ、う、うん!」

 

 

オグリキャップはお団子のお皿を下げると洗い始めた。

 

俺も手伝いたいところだがクエストで汚れているので邪魔するのはよそう。

 

 

「大きな雨雲だね」

 

「黒いし雷雲かもしれないな」

 

「でも、雨は嫌いじゃないかな」

 

「そうなのか?」

 

「うん。 なんかさ、いつも青雲に澄んだ空に身を任せてるとそのまま透き通ってしまいそうで、ちょっとだけそれが怖い気がするんだけど、雨水がわたしに降り注いで雫がぶつかるとそこにいる気がする。 そうなると青雲に浮いてるだけのわたしじゃない気がしてね、雨は嫌いじゃないんだ」

 

「そうなのか。 そういや前にわざと濡れて帰ってきた事あったな。 風邪引くんじゃないかと心配した」

 

「にゃはは、うん、そうだったね。 でもそのくらいに雨って良いんだ。 だから…青雲だけじゃなく、心も体も潤してくれる雨雲(アマグモ)って、わたしは好きだなって思ったりしてね」

 

「お、おう。 なんか、こそばゆいな…」

 

「………そりゃあなたに言ったからね

 

「え?」

 

「ううん、何でもない。 ほら、帰ろう。 濡れるのは好きだけどお団子は濡らしたくないでしょ?」

 

「そうだな」

 

 

 

セイウンスカイを連れて帰宅する。

 

あと、その時の彼女はわからないけど…

 

なんだが少しだけ、直視し辛いのは気のせいだろうか?

 

何故だか、そんな感じだ。

 

 

 

「「ただいまー」」

 

 

 

誰もいない家に二人でただいまの挨拶。

 

俺は武器を外し、お土産のお団子をテーブルに置く。

 

セイウンスカイはズボンを捲るとお風呂のお湯を沸かし始めた。

 

俺はお湯が沸くまでユクモ装備を外しながら樽に洗剤を投入してかき混ぜる。

 

樽の中に衣類をぶち込んでぐちゃぐちゃにかき混ぜたあとしばらくつけておけば綺麗になる。 タマミツネから採取できる滑らかな滑液をほんの数滴入れればけっこう泡立つ。 オデッセイブレイドの強化素材を集めるときに余分に取ってきて正解だった。 ちなみにタマミツネの素材を使った洗剤は高級品として売られている。 あと精算アイテムのサボテンの液体と混ぜれば超高級品になる。 貴族はこれを欲しがるのでサボテンの精算時のポイントが高いわけ。 食べるだけではないのだよ。

 

 

 

「アマグモ、お湯沸いたよ」

 

 

「先に入っていいぞ」

 

 

「…ええと、今日はアマグモが先に入っていいよ。 わたしは少しやりたい事があるから」

 

 

「? …じゃあお言葉に甘えるぞ」

 

 

「どうぞ」

 

 

 

しかしやりたいことってなんだ?

 

 

まぁいいや。

 

 

衣類を脱いで樽にぶち込み、風呂場に踏み込む。

 

掛け湯で汚れを落としてお湯に浸かる。

 

 

 

「ああー、疲れたぁぁ……いい湯」

 

 

お風呂は檜風呂だが座って膝を抱える形に入らないと狭い。

 

それでもあと一人分入れるくらいには余裕ある。

 

 

それでも狭いことには変わりない。

 

 

…具体的なサイズを述べるとしたらどのくらいだろうか?

 

 

とりあえず俺が入り、それでサイズ的に許容するならば…

 

 

 

「入るよー」

 

 

 

 

そうそう彼女だ。

 

 

セイウンスカ__

 

 

 

「イーィィィ!!? …え!? 待て!? えええ!?」

 

 

「ッ!……さ、騒ぎすぎだよ?」

 

 

 

男の俺が入る風呂場にタオルを巻いた姿の彼女が現れた。

 

え? 疲れて幻覚を…って、訳じゃないな。

 

たしかにそこにいる。

 

 

 

「いや、でも、え、何してんの??」

 

 

「その、い、一緒に入ろうかな、って思った」

 

 

 

一緒にか。

 

 

……いっしょにね。

 

 

……いや、待て待て。

 

 

落ち着け。

 

 

 

「…ええと、俺は上がるから、ゆっくり浸かってくれ」

 

 

「だめ、逃がさないよ」

 

 

 

そうすると肩を押さえつけられる。

 

行動も早かった。

 

あと当然ながらウマ娘の力に勝てない。

 

ウマ娘じゃなくても肩を抑えられると人は立ち上がれないが。

 

 

「前にユクモ温泉で一緒に肩並べて入ったんだから別に初めてじゃないで…しょ?」

 

 

「どうした急に」

 

 

「……何というか、アマグモと入りたい」

 

 

「どうした急に」

 

 

「2回も言わないでよ」

 

 

 

俺はセイウンスカイに振り向く。

 

 

ああ、たしかにそこにいる。

 

 

……鍛えられて締まっている体だ。

 

足のラインから肩まで無駄がない。

 

やや小柄とは言え、綺麗なボディーラインを作ってある。

 

ふくよかに膨らむ二つの小山は、体の細い彼女の魅力を自重して、タオルからはみ出す肩はとても綺麗で、清楚に気を使うそこら辺の女子と変わらない。

 

デリケートに大事な部分はちゃんとタオルで隠れているが、尻尾が体を包むタオルを巻き上げてるからかなりギリギリだ。

 

でも彼女のその足はこれまで俺のために駆けてくれた証で、強くて逞しく、でも両手で握れば折れてしまいそうで、まるで雲のような脆さを見え隠れする。 心臓の鼓動の様に動く尻尾も綺麗で、空色に染められたそれはセイウンスカイだと思わせる。

 

 

ああ、とても綺麗なウマ娘だ。

 

 

 

「!!………たらし、アマグモはセコイ、いや卑怯だよ」

 

 

「え?」

 

 

「もう、無自覚は罪だよ。 ……もういい、なんでもない。 ほら、詰めてよ、わたしも入るから」

 

 

「!」

 

 

そう言うとタオルを脱いだセイウンスカイに俺は急いで視界を外す。 すると風呂場へ強引に入り込みそのまま俺の隣に並ぶ。 お湯は二人分の密度に押し出されて檜風呂から溢れる。 ユクモ温泉の時よりも彼女との距離は近くて、どこか折れそうな程に可憐なその肩が触れ合う。 狭い檜風呂の中だから湯船の温度と同時に彼女の温度すらもよく伝わる。

 

 

 

「セイウンスカイ、恥ずかしくないのか?」

 

 

「そりゃ、恥ずかしくよ。 でもアマグモだからこの恥ずかしさは別に嫌な気持ちにならなくて、嬉しいと言うか、うん。 またアマグモと入れて嬉しいって気持ちの方が強いかな」

 

 

そう言って彼女はこちらの肩に体を寄せて触れてきた。

 

視線を落とせば彼女の色々が見えるだろう。

 

正直、困る……

 

 

「にゃは? もしかして恥ずかしい? へー、アマグモって案外ウブなんだね? まぁウマ娘ってみんな綺麗だからね。 わたしはその中で上位とは言わないけど、アマグモがドギマギしてくれるならわたしもなんだか自信が付くよね。 でもそうかそうか、わたしのトレーナーは湯船を一緒にして恥ずかしいのか」

 

 

 

なんか、すごい調子に乗られている。

 

へー、そうかい、そうかい。

 

 

なら、こちらも遠慮しない。

 

ちょっとわからせてやろう。

 

 

 

「ああ、恥ずかしよ。 だってセイウンスカイが一緒だからな」

 

 

「ふふふーん、案外白状したね」

 

 

「だって気持ちに偽りはないからな。 セイウンスカイとお風呂にすごくドキドキして仕方ない。 だって俺と共に命を賭けてくれるウマ娘がこんなにも可愛くて、それで愛らしくて、もっとその走る姿を見たくて、これからも共に過ごしたくて仕方ない。 俺は君にすごく夢中なんだよ」

 

 

「へ…?」

 

 

「俺は思う。 セイウンスカイはすごく良いウマ娘だよ。 だからケシキとサイレンススズカの二人を見てなんだかすごく悔しくなる。 だって俺もセイウンスカイと幾度なくクエストを乗り越えて来た。 互いに出来ることは違う。 でも同じ時間と空間で、俺がこの腕で戦い、君がその足で駆け、共に息を合わせて、肺に込める空気すら同じで、セイウンスカイが俺と一緒なんだ」

 

 

「ア、アマグモ?」

 

 

「俺はどうして、こんなに良いウマ娘を…いや、こんなに素晴らしく、そして愛おしくも感じれる隣人(となりびと)を与えてくれたんだと思う。 君が来るまでの時間は一人で、けど慣れたつもりだった。 それでも不安はあったし限界もあった。 過去の痛みも苦行も乗り越えようしたけど何かが足りなかった。 でもセイウンスカイが来てくれたことで色んなことが豊かになった。 生きているけどそれ以上に、生きていると思える様になった。 君と戦う事であの太刀を背負える。 とても軽いんだ。 苦難に立ち向かう足取りは青雲の様に軽やかで澄んでいる。 今日倒した大地の女王なんか苦でも無かった。 何故なら俺にはセイウンスカイがいる。 そのくらいセイウンスカイは大きな存在だ。 俺にとって不可欠だ。 大丈夫な隣人なんだ」

 

 

「ぁ、ぁ、わ、わかったから、そのくらいで…」

 

 

「空を見てる君も良い。 今みたいに少し生意気な君も良い。 気持ちよく寝ている君が良い。 眠そうに起きている君も良い。 俺の作るニンジンを美味しそうに食べる君が良い。 何かを会話するときの楽しそうな君も良い。 冗談を言い合って笑う君も良い。 空を眺めて楽しそうにする君が良い。 その足で幾度なく駆ける君が良い。 少しロマンチックに語る君は良い。 眠気に堪えようとする君も良い。 真面目な性格を隠そうとする君が良い。 ゆるりとした君を良いと思う」

 

 

「ぅぅ…」

 

 

「実は感情を隠すことが下手な君が良い。 隠してるつもりだけど負けず辛いな君は良い。 自分の弱さに許せなくて涙を流す君が素敵。 色んなことを良く考える君も素敵。 それでいて努力家な君は素敵。 応えようと頑張って奮闘する君が素敵。 案外泣き虫なところがある君が素敵。 不安な気持ちに素直な君が素敵。 心豊かに反応した耳や尻尾や瞳を揺らす君が好き。 名前を呼んだと時に笑みを浮かべる君が好き。 俺の名を呼ぶ時の声が好き。 俺はセイウンスカイのあらゆる事が良いんだ。 素敵なんだ。 ああ、そうともっ、素敵で好きで仕方ないんだよ!」

 

 

「ひゃ!」

 

 

 

隣に座っていたセイウンスカイの脇に手を通してヒョイとその軽い体を持ち上げて膝の上に収める。 尻尾をピーンとさせながら湯船を揺らす彼女を俺はその両腕で抱きしめる。 耳が行きどころが分からず伸びたり縮んだりをする。 ああ、この耳も好きだな。

 

 

 

「俺はセイウンスカイって全てに感謝と愛おしさが混ざり合う。 こんなに小柄だけど、でも俺よりも力は強くて、けど俺より脆くて、だから大事にしたくて、そして知りたくて仕方ない。 ああ、本当に思うよ。 百竜夜行なんか関係無くセイウンスカイに出会えたらって思ったりもする。 なんならハンターじゃなくて、モンスターもいなくて、ただ走る君をサポートする本当のトレーナーになって、平和な世界で二人三脚ができる、そんな関係にも憧れる。 けどそれはできない。 命を賭ける世界に生まれたから。 だからその命を繋ぎあってセイウンスカイを大事にしたい」

 

 

「アマグモ…」

 

 

 

抱きしめる。

 

空の様に青く、雲の様に澄んで、可憐な体は脆くても、彼女を後ろから抱きしめる。

 

その後頭部に額をコツンと触れて、彼女の温度が良く伝わる。

 

セイウンスカイはそこにいる。

 

だから今こんなにも弾け飛びそうなんだ。

 

 

 

「恥ずかしいを抱えても嬉しいが勝る。 今は互いに布を包まない素体で触れてるけど、俺はこの状態が幸福にも思うんだ。 …それとも嫌いかな? そんな俺のことは」

 

 

「…………やっぱり」

 

 

「…」

 

 

「アマグモってセコイよね。 何も言えなくしてしまうんだもん。 本当にセコイよ。 それにアマグモも人のこと言えないよ。 唐突な独白だって、私を揶揄ったけど、ア、アマグモも大概だよぉ……尻尾が、心臓が、煩いよ。 耳が落ち着かないよぉ、もう…ばか、ばか、アマグモのばか。 そんなに言われたら、わたし、湯船で熱いのか分からない。 ぅぅ、もう、あたまがふっとうしそうだよぉ…どうしてくれるのよ…」

 

 

 

ああ、可愛いな。

 

セイウンスカイが愛おしくて仕方ない。

 

どうしてこんなにも夢中になるんだ。

 

そこに、ウマ娘だからとか、関係ない。

 

セイウンスカイだから、仕方なくなる。

 

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

 

 

羞恥心も何も通り越したのか、俺もセイウンスカイも、何も言葉を発することはない。

 

ただ湯船を静かに揺らして、水面に波紋を作り、誤魔化せない息遣いと心臓の音が、静かな檜風呂に浸透する。

 

でも互いにこれ以上を求めない。

 

これが今、幸福なんだと直ぐに理解したから、許される限りを共有する。

 

肌と肌を触れ合い、ふさふさなその耳に腕を擦らせながらその頭を撫でる。

 

大雨が降る外の音と共に、セイウンスカイは力を抜いて全てを預ける。

 

俺よりも一回り小さな体だから、彼女の頭がこちらの肩を背もたれにして、トロンとした目が壁と窓辺を見つめる。

 

湯煙に合わせたら息遣いが、胸にいっぱいなこの時間の幸せを吐息としてもらす。

 

もっと彼女を感じたい。

 

その頭に頬を傾けて、彼女頭を撫でながら、余る片腕で彼女を抱きしめる。

 

彼女もこちらの腕に手のひらを添えて、離さないように、動かさないように、キュと抱きしめる。

 

綺麗な空色の髪の毛から雫が落ちて、湯船に音を立てた。

 

耳をすませば聞こえる彼女の全て。

 

 

 

「このまま…」

 

 

彼女は虚な目で、呟く。

 

 

 

「時間も空も止まれば良いのに…」

 

 

偽りなく吐き出される彼女の本心。

 

得意としてある取り繕う姿をやめた彼女から深く吐き出された声。

 

 

 

「ああ、本当に…」

 

 

ハンターも、果たす役目も、背負った使命も、何もかもを、彼女のために捨てれば、それは叶えられる。

 

 

そうしたとしてもおそらく誰も止めないと思う。

 

 

こんなにも満たされているのだから、誰もそれを阻害しないさ。

 

 

 

 

 

でも…

 

 

 

 

「でも、俺はモンスターハンターだから、死ぬまでこの命を戦いに持ち込まないとならない」

 

 

 

俺はハンターだ。

 

 

弱き人のために奮う存在。

 

 

 

「だから、時間も、空も、俺は止められない。 セイウンスカイのために止めることは出来ない」

 

 

「うん、知ってるよ。 ならば、流れる雲の下を走れば、止まったように見えるはず…」

 

 

「そうだな。 なら、その足に置いて行かれぬように、俺は戦うよ」

 

 

「そうだね。 なら、アマグモを置いて行かないように、私は駆けるよ」

 

 

 

二人でクスクスと笑う。

 

相変わらず、言葉にすると恥ずかい事ばかり俺たちは掛け合う。

 

でも、それでも良い。

 

彼女だから、心地よいのだ。

 

 

 

「…セイウンスカイ」

 

 

「んー」

 

 

「ありがとう、俺のウマ娘になってくれて」

 

 

「わたしこそ、トレーナーになってくれてありがとう、アマグモ」

 

 

 

 

長風呂は危ないけど、もうしばらく彼女と湯船の中で肌を重ね合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃはは、アマグモも今日からここで寝るからね」

 

 

「自室に敷布団が無いと思った、こう言うことだったのか」

 

 

 

一応、この家にも2階部屋がある。

 

6畳程度の小さすぎる部屋がひとつだけ。

 

それでもアイテムを整理したりするには充分だが、そのかわり寝るには少し狭い程度だ。

 

本当はセイウンスカイが来るまで俺が茶の間で敷布団を伸ばして寝ていたのだが、ウマ娘ってことなので寝床を共にするのは好ましくないという事で、俺は2階部屋に寝床を移した。

 

まぁ、ウマ娘だけあって鼻もそこそこ効くみたいだからセイウンスカイは俺に隠れて茶の間でスンスンと空気を確かめていた時は俺も察したし、少し恥ずかったけど追及はされずに彼女は茶の間で眠ることになった。

 

こんな感じに、俺は自室の2階部屋で、彼女は茶の間の一階部屋だった。

 

 

でも彼女が自室から俺の敷布団を持ち込み、そしてくっつけて並べた。

 

 

昼寝の時は座布団を並べて彼女とお隣で寝息を立てていたが、こうして一緒に寝ることになるのはユクモ村の宿屋以来であり、我が家で夜を過ごすのは初めてだ。

 

 

「明日はオフなんだよね? ならゆっくり寝ても大丈夫だけど…互いに疲れてるし、もう寝る?」

 

 

「そうだな。 もう寝るか」

 

 

「ん」

 

 

 

今更、恥ずかしがる事もない…と、思うけどやはり恥ずかしさは隠せない。

 

湯船で一緒に入るのとはまた違う感じだ。

 

 

 

「ふふっ、アマグモが近くにいる」

 

「これがそんなに特別か?」

 

「うん。 寝るってさ、眠ると違って、わざと無防備になって晒すでしょ? 眠らされる睡眠状態とは訳が違う。 不可抗力かどうかの話なんだよね。 でも夜を過ごすために一緒に寝る行為は、その人に許されてないと成立しないかつ、特別な関係じゃないとそれは起きない話。 ならアマグモとわたしってそれだけ特別なんだよね? だからすごく嬉しいな〜、って思ってるよ」

 

「そうか。 俺は特別か」

 

「うん。 アマグモだけだから」

 

 

布団に寝転び、彼女と向き合う。

 

月明かりに照らされる彼女の微笑みに魅入られる。

 

心臓が騒がしい。

 

ああ、ウマ娘は耳も良いから悟られてるな。

 

でもセイウンスカイだから良いかな、別に。

 

 

俺も特別だから、君が。

 

 

 

「ねぇ…」

 

 

「?」

 

 

「湯船で、私を『良い』とか『素敵』とか言って、最後ら辺で、その、す…『好き』って、言ったよね?」

 

 

「…言ったな、覚えてる」

 

 

「本当なんだ?」

 

 

「……早まってしまうこの心臓の音が聞こえてるなら、本当だよ」

 

 

「…ぁ……………えへへ、そうなんだ、そっか。 アマグモは、わたしが……にゃは、は、もう、眠気がどこかに飛んじゃうなぁ。 アマグモって、やはりセコいトレーナーだな。 ウマ娘を困らせるダメなトレーナーだ。 ウマ娘のトレーナー失格だよ」

 

 

「別にトレーナーってつもりは無いけどな。 俺はハンターで、君はウマ娘で、隣に居てもらって、隣に居させてもらってる状態だ」

 

 

「でもトレーナーって名称はウマ娘にとって特別だよ。 アマグモにとっての隣人(となりびと)に非常に近い表現だよ」

 

 

「そうなのか? 重バも良いところだな」

 

 

「ウマ娘は応えたい生き物。 それは応えたいと思わせてくれる存在に惹かれて、そこに随従したくて、隣のゲートを譲れないくらいに重い(重バ)。 それを踏み慣れた時、その人のためにどこまでも走って応えれるんだ。 セイウンスカイにとってのアマグモはそのくらいある」

 

 

「…」

 

 

「アマグモ、わたしもあなたが好きだよ。 好きで収めれるかわからない」

 

 

セイウンスカイは布団を掻い潜るとこちらの敷布団に体半分を乗せて、より一層その表情がうかがえる。 月明かりを吸収するその眼は吸い込まれそうだ。 大空に全て預けてた蠱惑が背筋を撫でる。 心臓が煩い。 でも彼女の早い鼓動も聞こえる。

 

 

「アマグモ、ここからはわたしの番だよ。 湯船で言われるだけ言われて、満たされたつもりだけどわたしもあなたを満たす」

 

 

「俺は満たされてる」

 

 

「嫌だ、あなたから受けとってばかりなんて嫌だ」

 

 

セイウンスカイは自分の敷布団から脱して、こちらの敷布団に全てが収まる。

 

 

「わたしはあなたが良い。 あなたの雨雲が良い。 あなたの優しさが良い。 武器を握れば強いあなたも良い。 どこでも名前を呼んでくれるあなたが良い。 楽しいあなたが良い。 楽しさをくれるあなたが良い。 優しくあたまを撫でてくれるあなたが良い。 意地悪に耳を触れるあなたが良い」

 

 

 

セイウンスカイは止まらない。

 

 

 

「あなたが素敵。 過去を乗り越えるあなたが素敵。 生きるための眼を持つあなたが素敵。 ウマ娘を大事にするあなたが素敵。 青雲に向けて深呼吸するあなたが素敵。 絶やす事なく語りかけるあなたが素敵。 太刀で気炎万丈に奮うあなたが素敵。 時折り鋭く見据えるあなたが素敵。 雨雲って名前のあなたが素敵だ」

 

 

 

セイウンスカイは収まらない。

 

 

 

「あなたが好きだよ。 わたしはあなたが好きなんだよ。 あなたのことが好きで仕方ないんだよ。 あなたの雨粒が好きなんだよ。 青雲を好いてくれるあなたが好きなんだよ。 涙を与えて心を潤すあなたが好きなんだ。 枯らさずに雨水を注ぐあなたが好きなんだよ。 乾かない大雨に沈ませてくれるあなたが好なんだよ。 わたしは、あなたが、あなたの雨雲が、アマグモのあなたが大好き。 大好きなんだよ。 青雲と雨雲の二つが大好きて、大好きで、大好きで…」

 

 

 

そして、セイウンスカイは止まった。

 

布団の中で顔を下から覗かざる。

 

耳が沈み、頬は熱に染まり、眼が透いてる。

 

 

 

ああ…

 

 

ダメだ…

 

 

これは…

 

 

次は…

 

俺が止められなくなるじゃないか…

 

 

 

「セイウンスカイ」

 

 

「ん…」

 

 

 

その頬に触れて顔を引き寄せる。

 

 

彼女は眼を瞑り、吐息が交わる。

 

 

心臓は押さえる事を忘れた。

 

 

一人分の布団の中で二つの 雲 が重なり合う。

 

 

 

「ん、んんっ…ちゅ…」

 

 

 

その肩を…

 

抱き寄せて、抱きしめて、抱き締める。

 

 

「ぁ、あま、ぐ、も…」

 

 

恍惚に染まる彼女は名前を呼ぶ。

 

愛おしい。

 

愛おしくて仕方ない。

 

セイウンスカイが愛おしくて堪らない。

 

雨雲が、外の大雨よりも激しくなる。

 

雨風凌ぐとを忘れたように、降水で溢れる。

 

 

 

 

 

「……アマグモ」

 

 

 

 

 

いま名前を呼ぶなセイウンスカイ。

 

 

 

 

「……わたしの、アマグモ」

 

 

 

 

 

愛惜しく名前を語らないでセイウンスカイ。

 

 

 

 

 

「……わたしだけの、アマグモ(雨雲)

 

 

 

 

 

 

「____ セイウンスカイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はどうやら

 

青雲の空を吸いすぎたらしい。

 

 

 

 

そして、雨雲は大雨と変わる。

 

彼女の青雲を、雨で沈めた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「命懸けで守る者が出来た、そんな顔をしてるな」

 

 

「…ハモンさん?」

 

 

「何、老人の戯言だ、気にするな」

 

 

 

ジョリ、ジョリ、鉄が擦り合う。

 

朝早い仕事の鉄の音が響き渡る。

 

 

 

「……ハモンさん、少し違いますよ」

 

 

「?」

 

 

 

鉄の音と、その手が止まる。

 

 

 

 

「一緒に守り、支え合う、そんなんだと思います」

 

 

「……ふっ、そうか」

 

 

「はい」

 

 

「……だが」

 

 

 

と、ハモンさんは砥石を続ける。

 

 

 

「それはハンターとして永遠と続く致命傷だ、アマグモ」

 

 

「…」

 

 

 

砥石の音が収まる。

 

水で濡らされ、布で拭き取り。

 

そして、新たなる武器の刃が朝の日に光る。

 

 

 

「致命傷だからこそ必死になれ。 気炎万丈に、その命を絶やすな」

 

 

 

ハモンさんから強化された武器…

 

片手剣の オデッセイブレイド|| を受け取る。

 

 

 

「アマグモ、これは"火竜の紅玉'と"雌火竜の紅玉"を使って強化した武器だ。 空の王者を討ち取り、上位ハンターとして認められたアマグモに相応しい片手剣だろう。 だから…」

 

 

「…」

 

 

「死んではならない。 ……良いな?」

 

 

「はい」

 

 

 

 

 

受け取ったその刃は…

 

彼女のような 空の色 をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 




こいつら うまぴょい したんだ!!




って、セリフを言わせるためにハッピーミークを出そうか迷った。

多分これで良い。

ちなみにうまぴょいしたかは今日の青雲と雨雲を見て判断してください。

あとしっとりスカイ好き。



あとオデッセイブレイドは基本的に青色。
ハモンさんはそれを知っていましたが…
"勝手に"色を薄めて空のように薄く染めた。
さらに握る取手の部分を"葵色"にしてます。
『葵』の花言葉は【豊か】【将来】【実り】
紅玉と共に手に入れた上位ハンターの証です。
若き芽を祝福する様にオーダーメイドしました。

ハモンさんかっこよすぎ。



作業BGM【 月光 】

ではまた
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