オトモの枠にウマ娘があるとしたら[凍結] 作:つヴぁるnet
「アマグモさん、美味しかったですか?」
「はい美味しかったですよ、スーパークリークさん」
「あらあら、わたしはクリークでいいよ〜」
「わかりました。 そして、この状況は?」
「2日ほど眠って体が少しお辛いですよね? なのでこのまま座っていただけましたら良い子良い子してあげますので、アマグモさんはこの状態で落ち着いてください。 ほらほら〜、アマグモさんは良い子良い子ですよ〜」
「…俺は今から赤ちゃんにされてしまうのか?」
「なに冷静に分析してんねん」
夜になりお腹が空くとスーパークリークがシチューを振る舞ってくれた。 タマモクロスも一緒に夜ご飯を囲いお腹は満たされる。 ウマ娘の好物であるニンジンが沢山入っている優しい味だった。 ごちそうさまです。
あとセイウンスカイはまだ寝ている。 タマモクロス曰く俺が目を覚ますまで二徹で起きてたらしい。 それで死ぬかもしれないと目を赤くして俺から離れなかったとか。 落ち着かせるに少し大変だけどスーパークリークの母性が優ってセイウンスカイを落ち着かせれたらしい。 文字だけに表すと意味は分からないだろうが、実際にその母性を味わった理解した。
この「良い子良い子」かなり強力である。
そんな俺はいま床に座っていて、後ろからスーパークリークがギュと柔らかくこちらを抱きしめている。 背中を無理やり預けさせると頭をいつまでも撫でている。 かれこれ10分以上は「いい子いい子」されていた。 すごく落ち着く。
タマモクロスに代わるか?と目で訴えたら耳が恐怖に萎れていた。
なんか色々と察した。
「二人は何処かで会ったことあるか?」
「なんや? 口説かれてんのか?」
「あらあら、わたしもご一緒で良いですか?」
「いや、かなり真面目な話なんだが、俺は二人とは初めてな気がしないんだよ。 記憶に薄いが出会いは衝撃であり、とても重要なタイミングで出会った…なんか、そんな感じだ」
「…」
「…」
俺の言葉を聞いて二人は真面目な雰囲気になる。
それでも相変わらず俺は良い子良い子されているがタマモクロスは本題に入るように雰囲気が変わった。
「兄ちゃんは覚えてるんやな。 ウチとしては忘れられても仕方なかったかもしれんけど、兄ちゃんの記憶には残ってたんやな」
「まぁ、最近思い出す様にはっきりして来た記憶なんだけどな」
「そっか。 ああ、兄ちゃんの記憶どおりやで。 数年前にウチと出会ってるわ」
「わたしも同じですね。 数年前にアマグモちゃんと出会ってますね」
「…」
俺はセイウンスカイと共にする時間が長い。
言い方を変えればウマ娘との触れ合いが多い。
故に…ウマ娘がよくわかる。
耳が、尻尾が、目の動きが、微々たる動作でそれがなんなのかよくわかる。
二人は、まだ何か隠している。
「ならその時、俺は死にそうになってたか?」
「「!!」」
耳が動いた。
俺の頭を撫でてくるスーパークリークの手から動揺が感じ取れた。
「やはり、そうか…」
予想通り内容で、穏やかでは無かった。
そして『死』に関する事だったと理解できた。
それなら記憶に強く残っている。
あやふやな部分も多いが、ウマ娘の存在が現れてからはその記憶が鮮明になってくる。
特に百竜夜行で現れたマガイマガドの時が引き金だ。
走馬灯で見た。
あれは、水没林の…
「ナルガクルガ亜種か」
「!!」
タマモクロスは目を見開いた。
隠すこともやめた様にわかりやすく反応する。
そして…
タマモクロスから目を逸らされてしまう。
「タマちゃん、言った方が良いのでは?」
「それは………いや、せやな。 言わんとならんよな。 ウチも前に出れへん…」
「?」
一体なにを言わないとならないのか?
彼女の持ち前の雰囲気で「助けたのはウチでした!」では終わらない事なのか?
しかしタマモクロスの耳を見る。
不安を抱えている時の耳の動きだ。
または何かを負い目に感じた時の萎れ方。
「たしかにウチは兄ちゃんを助けたウマ娘や。 ナルガクルガ亜種と死闘を演じて、傷だらけになり、中毒に侵されては死にそうになったところを助けた」
「っ、やはりそうなのか! やはりあの時に君が! ああ…だとしたら俺は君にありが_」
「ッ、待て! 待つんや! 違うんや! 違うんやアマグモ! あれは、ウチが…ウチが悪い事をしたんや!」
「……え?」
タマモクロスはお礼を受け取らない。
いや、お礼を受け止める事が出来なかった。
耳や目の揺れ動き方が負い目を持つ時の感情。
バツが悪そうに目を逸らしていた。
「アレは、ナルガクルガ亜種は…」
震えながらも、意を決した様に言い放った。
「ウチが招いた結果なんや!!」
「……え?」
話ではこうだ。
タマモクロスは秘境の外に出ていた。
目的があったから。
しかし道中でナルガクルガ亜種と出会ってしまい、狩る側と、狩られる側の競争が始まる。
タマモクロスは必死になってナルガクルガ亜種から逃げた。
ウマ娘の脚で必死に駆けた。
しかし深淵の暗殺者から逃げることは困難であり、嵐の中で足に攻撃を掠めて倒れそうにもなった。 けれど必死になって逃げた。
そして水没林のピラミッドの中に逃げ込んでナルガクルガ亜種から追跡を遮ろうとする。
しかしナルガクルガ亜種はピラミッドの近くに隠れてタマモクロスが出てくるのを待っていた。 待ち伏せされていることに絶望しそうになるが持ち前のハングリー精神でなんとか耐えていた。
嵐も吹き荒れ始め、ナルガクルガ亜種から逃げてきたケルビやアイルー達と情けなく怯えながらピラミッドの中で震えていると…
水没林に俺が現れた。
採取クエストのつもりの俺にナルガクルガ亜種が襲いかかりそこから俺にとっての地獄の5日間がそこで始まる。
その間もタマモクロスはピラミッドの中で隠れていた。 足に傷で動けないこと、それからウマ娘は人間に姿を見せてはならない事。
まだこの頃はウマ娘が人間に姿を晒すことは許されてなかった。 なので俺がピラミッドで隠れながらナルガクルガ亜種と死闘を演じていたこともあり、出会してしまう危険性があったため下手に動けなかった。
せめて足がまともならと隙をついて一気に駆けて逃げることもできた。 しかしそれが出来ずにタマモクロスはピラミッドの中で耐えていた。
だがしばらくして見たことない蛇っぽい謎の生き物が傷を治してくれたらしく、足は駆ける事ができるくらいに治った。
しかしタマモクロスはナルガクルガ亜種をこの場所に招いてしまった事で、死にかけそうになる俺に負い目を持って逃げる事が出来なかった。
だがここに居たところでなにもできない。
この嵐の中でウマ娘に何か出来ることはあるのか?
惹きつけて、囮になって、逃げる?
無理だ、不可能だ。
その時の彼女にそんな力は無かった。
外の過酷さを理解したタマモクロスは本当に絶望した。
そして死闘から5日目に到達するあたりでとうとう決着がつきそうになる。
そのタイミングで"長"が現れた。
タマモクロスを探しにやってきた。
_ウチが殺しそうになってしまう!!
_頼むからあの人を助けて欲しいんや!!
長は…
また" 幻獣 "はウマ娘のために存在する。
タマモクロスの願いを聞き届けた幻獣はナルガクルガ亜種の横で死にゆく俺の元まで近づくと、タマモクロスは幻獣の角を削ってそれを飲ませて俺は一命を取り留めた。
しかし俺は薬物依存症で苦しんでいた。
するとブカブカのフードを被った人物が一人現れる。
その人物とは" スーパークリーク "だった。
いま思い出せば「良い子良い子」と撫でるこの手つきはたしかに彼女だったと思い出す。
ブカブカのフードで姿を隠したスーパークリークはより強い薬を飲ませて俺の状態を治した。
つまり二人の出会いはこの時だったようだ。
「あのナルガクルガ亜種はタマモクロスのせいだと言いたい訳なのか?」
「ああ、せやで。 ウチが招いて兄ちゃんを追い込んだんや。 だから…っ、本当にすまんかった!」
「いや、良いよ、別に」
「早っ!? てか許すんか!?」
「タマモクロスが招いたにしろそれが自然の流だろ?」
「!? い、いや、でも、死にそうになったんやで? 兄ちゃんは殺されて、それで終わるところやったんやで?? なんでや…? なんで許せんの…??」
「……」
俺は考える素振りをしてからスーパークリークに預けていた体を起こしてタマモクロスの元に近づいた。 身長差で俺に見下ろされるタマモクロスは少しずつ震え出していた。 タマモクロスに手を伸ばすとビクッと反応して、耳は恐怖によって後ろにたたまれて、尻尾は引っ込む。
「一つだけタマモクロスに教えてやろう」
頭をポンポンと叩いて落ち着かせる。
「ふぇ……?」
タマモクロスは目をパチクリとした。
「誰でも自然界に一歩出てしまえば、そこにハンターやウマ娘にモンスターなんて関係ない。 在るのは二つ。 狩るか、狩られるか。 死ぬか、生きるか。 強者か、弱者。 それだけなんだ。 自然界はいつもそれで揺れ動いている」
俺は笑みながら二回り以上小さな彼女の頭を撫でる。
「タマモクロスがナルガクルガ亜種を引き連れてしまったと言うけど、でも外はそれで普通なんだ。 君が獲物になってしまい、大型モンスターは獲物を狩ろうと動き出す。 逃げたその先に何者かが居て、そこから衝突するのはごく自然の事なんだ。 中には野良のアイルーが大型モンスターから逃げて、その先にハンターが居て、不幸ながらもそのハンターはモンスターに轢き殺された…なんて話もあるんだよ」
「け、けど…」
「ナルガクルガ亜種は不幸な事故だ。 更に言えば嵐も訪れていた。 これらは誰も意図しない不幸な悲劇である。 無慈悲かもしれない。 けどそれすらも込みで俺たちはハンターを全うする。 命の削り合いの世界で生きようとハンターは覚悟している。 だから今頃引き金がウマ娘だとかで騒ぐ話でもない。 常に強者と弱者が生き残ろうとしている。 その枠に責任など持ち込むのは愚かだ。 それを君がやらかしたんだと気に病む話ではないよ」
足を折り曲げて腰を少し落として視線を合わせる。
目に涙を溜めそうになる彼女に気にするなど語りかける。
「タマモクロス、もう気にしないで。 終わった事だ。 それに君は死にかけた俺を助けてくれた。 それで充分だ。 その後が大変だったにせよ俺はタマモクロスを責めようとは全く思わない。 死線を身をもって知り、過酷な世界を再確認した。 それは俺の成長にもなったから全てに増悪は無い。 もう後悔を抱えないで」
「ぁ、ぁ、ウチは…」
「それにさ、君はナルガクルガ亜種を相手によく頑張ったな。 あれから逃げ切ったなんてすごいウマ娘だよ。 なかなか出来ないさ」
「ぅ、ぅぁぁあ…!」
しばらくしてポロポロと涙を落とした。
俺は彼女の頭を撫でて落ち着かせる。
スーパークリークもほんの少し泣きそうになりながらタマモクロスをあやした。
…
…
「情け無いとこ見せたわ、もう大丈夫やで…」
「タマモクロスは強い子だな。 俺なら罪の意識に苦しんでたよ」
「そんな事ないで。 ウチもたまに泣きそうになったわ。 けど泣いてばかりは嫌やから我慢したんや…」
「そうか。 でも大丈夫だ。 もしまだ泣きたかったら後はスーパークリークが受け止めてくれる」
「ええもちろんです。 たっくさん受け止めますよ〜」
「チョチョチョイ! やめいや! あんたのはあまりにも沼やからやめい!…まったく、乙女の涙を見た代償はデカいで兄ちゃん?」
タマモクロスは流した分の水分を取り戻そうと飲み物をゴクゴクと飲んで「プハー!」と気持ちを取り戻した。
「しかしナルガクルガ亜種は互いに不幸だったとして、タマモクロスはなんで秘境の外に出ていたんだ?」
「あ…せや、それがまさに本題や。 しかもこれも兄ちゃんが深く関わってんで」
「と、言いますと?」
「当時はウチの他にもウマ娘が秘境の外に出てたんや。 それは何故かと言うとな? 兄ちゃんを探してたからや」
「俺を…??」
「せやで。 兄ちゃんを見つけてこの秘境に招こうと思ったんや。 女神の言伝でな? …ウチとしてはあまり女神は好きや無いけどな。 なんか変や、色々とな…」
「そうね…」
二人からしたら女神はあまり好意的では無いのだろうか? 耳や尻尾の動き具合からして嫌悪感が伺える。
「まあええわ、そこは。 それで兄ちゃん探した理由なんやけど、もちろんそれは来たる
「!」
「急にスケールデカい話なったやろ? けどこれは事実や。それは兄ちゃんがとある一族の子やからな」
「一族の子…??」
「細かくは、とある幻獣の子孫が作り上げた一族や。 その一族とやらが兄ちゃんの事やで」
「幻獣……?? それは__」
後ろから強い威圧感が襲いかかる。
ハンターとしての生存本能が騒ぎだす。
その威圧感に振り向くと、そこには…
「うそ…だろ?」
白銀に輝く体毛。
額から伸びる角。
雷が走れば神々しく光る体。
ハンター業界では"古龍種"と認定された…
目撃が少なすぎる神出鬼没の幻の生き物。
それは…
「もしかして"キリン"なの、か?」
『肯定ッ! その通りだ!』
「ふぁ!?」
活発そうな声が聞こえる。
キリンは光瞬いた。
姿形が変わり、タマモクロスと同じくらいの身長の人間に姿になった。
「うむ! この姿がやはり良い!」
「なっ、なっ…!?」
少し大きな白い帽子をキュキュと被り直すと扇子をバッと広げて満足そうに仰ぎ始める。
見た目は少し幼いが精神面はどこか成熟した様な雰囲気と姿を兼ね備えている。
また、数多を束ねているその威光を密かに見え隠れしていた。 只者では無い。
しかしニコニコとしながら人の形に満足していた。 一体なんなのだ??
「ええと……キリン、なのか?」
「肯定ッ! しかし否でもある! そう! わたしはキリンでありキリンでは無い! キリンの形が許された子だ!」
「キ、キリンの形が、許され……た?? いや、待てよ? キリンで、ひと? っ、ま、まさか! あの逸話の…!?」
とある逸話では野生のキリンが人間の子供を育てていた事例がある。
それは本当に人間の子なのか? または本当にキリンの子なのか? 真実はわからない。
しかし後者がそうだとしたらキリンは人間にもなれるのでは?と話も出る。
そうなると古龍は人の姿になる事も可能では?
こんな話も広がり、この逸話は今もいろんな研究と解釈が続いている。
そして目の前にいる彼女がもしその逸話の人物だとしたら…なんと言うことだ。
龍暦院達が聞いたら白目剥くだろう。
「はっはっは! 残念だがわたしは逸話の人物ではないぞ? 正しくはその逸話に出てくる人間の血筋を引いた一族だ! そして従姉弟のお主もそれに当確する人間……そう! お主もまた栄光ある血筋の持ち主である!」
「…………うそやろ?」
「本当だ!!」
「………」
しばらく空いた口が閉じなかった。
♢
やよいはこちらの手を握るとタマモクロスとスーパークリークを残して外に招かれた。
「やよい…さん? 俺をどこに?」
「頼み事のためだ。 それとわたしはやよいで構わぬぞ? 年は10歳ほど離れておるが従姉弟同士だ。 堅苦しさは抜きにしよう」
「わかった。 ちなみに俺はアマグモ。 あと…」
「セイウンスカイのトレーナーだな? 知っておるぞ。 彼女をお主の愛バにしてくれて感謝だ。 あの子はお主で良かった。 一つわたしの願いが果たされたと思うと感謝しかない」
「?」
感謝しかない? それは長として見守っていたかでた発言なのか? 我が子のように思っていたもかならわかるが、何か意味深な事だろう。
「やよい、俺が従姉弟というのは本当なのか?」
「本当だ。 お主はこの秘境に産まれた子だ。 母はウマ娘。 父はわたし達一族の血筋を引いた人間だ。 ここで指導者をしていた。 時にはキリンの姿に変えて芝の上をウマ娘と駆け、この秘境で数少ない人間と共にウマ娘を見守っておった」
「……なら、俺の親はどこに?」
「どちらも亡くなったのだ。 母はお主を産んで間も無く亡くなり、父は三女神の怒りに触れて秘境の外に追い出された」
「!?」
「望んで種馬となって男達とは違い、お主の父は愛妻家でその女性一人を愛した。 だが妻を失い、悲しみ、そして怒り狂った。 キリンの姿に変えると三女神に雷を落としたが、三女神はお主の父に罰を下した。 人の理性を奪い、獣に堕とし、秘境の外へ追放した。 後にハンターに討たれ、獣の如く死んだ」
山の麓まで到着すると深林の中に入り込む。
複雑な道だ。 夜だから余計に暗い。
まるで迷路のようだ。
彼女を見失わぬようついて行き、質問を続ける。
「やよい、そうなると残された俺はどうなった?」
「だが三女神の怒りは鎮まらず次はお主にも罰を下した。 秘境から永久追放を言い渡し、赤子のお主は外に追い出された。 お主が行き着いた先は後にユクモ村と知った。 たづなはそこに託したのだな…」
「たづな?」
「お主の育て親…と、言うにはとても短い期間だが、親を失ったお主の代わりにしばらく親をしていた。 そうしたのは親友の約束だからと言っておったが、そこには確かに愛情はあった。 そしてお主を手放す時に、ひどく悲しんだ。 その上、お主は永久追放で故郷に帰れない状態だった。 たづなは三女神と交渉した。 代わりにたづなは永久追放になり、お主は20年間の追放に緩和された」
「……彼女は今どこに?」
「わからぬ。 わたしも捜索した。 しかし三女神は教えてくれぬ。 関わることも許されなかった。 だからお主の血縁は従姉弟であるわたし一人だ」
従姉弟か。
嬉しいとは思うけど、困惑が勝る。
やよいもそれは理解しているだろう。
だが…
「何故この話をしてくれた?」
「何故って…嫌じゃ無いか?? 産まれも親も、知らないまま生きていくのは」
「いや、考えた事なかった。 俺は産まれをユクモ村と思っていたし、ユクモ村の皆が親だった。 もちろん孤児である事は聞いた。 でもそこに寂しさは無かった。 別に孤児自体は珍しく無かったから俺もその一人なんだろうと思うだけで、気にはしなかった」
「そうか…」
「同情してくれたのか?」
「………」
やよいは一瞬立ち止まる。
握る扇子が少し震えていたが、また歩き出す。
声は少し落ちていた。
「正直…お主を憐んでいた。 20年もの間、本当の親を伝えることもできず、産まれを伝えることもできず、一族を追い出されて故郷も知らない。 わたしが長になってからもお主は追放された状態だった。 だが20年が経過して三女神はお主を探すように言った。 ウマ娘の指導者として使うために。 だが予想外な事にお主はハンター業に就いていた。 しかも死に体で彷徨っていた。 だから断念した事を伝えた」
それにしては随分と身勝手な女神だな?
ひどい仕打ちをしておいて、指導者をして欲しいから探せだと?
別に俺じゃない一族に任せれば良いだろうに。
それとも居なかったのか? やよい以外が。
どこか計画性が無くて頭悪いし、腹立たしくも思う。
そもそも20年縛りに緩和したと言うがたづなって方が罪を被っただけで、罪自体は消えていない。
三女神は何を思ってこんな事をした?
本当に中は女神なのか??
「とりあえず家族事情はわかったよ。 俺はどうしようもなく可哀想だったと言うことが。 でもまたこうして秘境に連れてこられたのは指導者として使いたいからか?」
「指導者はもう必要としておらぬ。 今後一切な。 それで今回お主を呼んだのはハンターとしてじゃ。 …アレじゃ」
秘境の外に出た。
身を隠しながら崖の上から見下ろすと…
「グルルルル……グルルルル……」
「!?」
「アレを討伐してほしい。 わたしの力では倒せぬ」
そこには戸愚呂を巻くように道端で眠るモンスターが一体。
恐暴竜"イビルジョー"がいびきをかいて寝ていた。
「ずっとここに居座っておるのだ」
「はぁ!? テリトリーを作らないモンスターだぞ? どう言う事だ…」
「味を占めた、と言うしか…無いッ!!」
やよいは扇子を強く握りしめる。
見下ろすとその顔は怒りだ。
腕を震わせて、無力に震えていた。
それが落ち着くとこちらを振り向き…
「っ…アマグモ、頼む! どうか頼むのだ!」
彼女は勢いよく頭を下げた。
「お主を身勝手に振り回した! 三女神を通して秘境に嫌悪感を持ったかもしれぬ! だが彼奴を"問題無く"倒せるのはハンターしかおらぬ! 秘境は知られてはならぬのだ! 故に他の者に頼めない! アマグモ、だから__」
「!?」
俺はやよいを抱きしめて一気に後ろに飛んだ。
「なっ!?」
「静かにしろ」
「グルルルル?? グルル…?」
イビルジョーが目を覚まして周りを見渡していた。
俺はシーと指を口元に伸ばして教える。
驚いたようにするも理解したのかコクコクと顔を赤く頷く。
あと……
やよいから良い香りがする。
それはつまり…
「っ、持ってきて良かった!」
俺はフルスイングで音爆弾を適当に投げる。
すると音爆弾は地面に当たって爆ぜる。
「グォォォオオオ!!!!!」
「ひっ…!?」
「落ち着け、違うところを見ている。 今のうちに秘境に戻るぞ」
「ぁ、ぁ、ま、まて、足が…」
「わかってる。 大丈夫だ」
イビルジョーが弾けた音の方角を見ているうちにやよいを背負って離脱した。
再びイビルジョーが叫んでは匂いを嗅ぎ分けて獲物を探す。
もしあのまま崖上に隠れていたらやよいの香りを嗅ぎつけて居場所がバレていたのかもしれ無い。
いや、普通に危なかった。
「まったく、イビルジョーが寝ているとは言え近くで大声出しやがって?」
「す、すまないのじゃ…ぅ」
切り株に座らせて落ち着かせる。
「とりあえずイビルジョーの事はわかった。 アレはたしかに厄介だな。 まさかテリトリーを作って居座るなんて初めてだが、なるほどだとも言えた」
「…」
「良いよ。 あのイビルジョーは倒してやる」
「!?」
「俺は指導者じゃ無いが狩人だ。 モンスターの討伐依頼があるならそれを受けるのはハンターの役目だ。 だからやよい、その依頼は受けよう」
「本当か!?」
「本当だ。 もし三女神直々にお願いしてきたら断るつもりだったが、長のあんたが頭下げて頼んできたんだ。 なら受ける」
「だ、だが、今回もお主を探したのは三女神の
「違う、三女神なんざ俺にとってはどうでも良いんだよ。 俺はやよいのお願いを聞いたんだ。 あんなに声を荒げて、お願いしてきて、アレは間違いなくやよいの言葉から、本心だ。 なら聞き届ける意味は充分にある。 その依頼、ユクモ村ハンターのアマグモが受けよう」
「っ!!」
「オオナズチから助けてくれたお礼を返す。 でもその代わり強力してくれ。 俺一人では少々手に余るからな」
「ッッ…感謝!! 依頼の受注、大変助かる! わたしにできることなら何でもしよう! あのモンスターを退くために協力しよう! アマグモの従姉弟して!」
本当はまだ聞きたいことがある。
でも今はここまでにして狩人を果たそう。
元気を取り戻したやよいと共に秘境に戻った。
♢
_この場所に決めよう。
数少ない馬人族の引き連れてたどり着いた。
疲弊しきった皆を見て心が痛む。
でもあの里と約束したから。
誤ちを引きずりながらもそう決めたのだから。
_あなたは何者ですか?
とある人間がこの場所にやって来た。
幻獣の片手剣を持つ彼はとある貴族だと言う。
先祖は幻獣に育てられた特別な一族だと胸に誇る。
ハンターを家業として世界の恵みを得てきた。
_どうか私たちを助けてくれないか?
貴族は"馬人族"のために力を貸してくれた。
雨風を凌ぐ屋根を、農作物の育て方を教えた。
また選りすぐりの男を秘境に引っ張ってきた。
種を増やすために貴族は己の血筋を連れてきた。
生きていくために凡ゆる面で力を貸した。
_私たちの名を【ウマ娘】にしよう。
その貴族と馬人族は恋に落ちると子を成した。
そうして特別な混成の二人の子供が産まれた。
人間とウマ娘、それぞれが生まれ落ちた。
_片手剣となったこの角を削って飲ませる。
赤子に飲ませてウマ娘を束ねる一族を作った。
ウマ娘は安定したが、人間は不安定だった。
それでも二人は一族の責務を果たそうとした。
女は長として、男は指導者として。
_幻獣から授かりし、剣と、盾と、血を…
三つの像を作り上げるとそれを埋め込んだ。
馬人族を管理するための三女神を作り上げた。
ウマ娘ためだけの神として作り上げた。
それが邪神だろうが、女神だろうが構わない。
背負ってきたこの業を拭えるのなら…
なんだって手に染めよう。
それが非道だって構わない…
人間が私たちにして来たように染まろう…
…
…
また夢を見せられた。
しかしとても鮮明な夢だった。
本当にあった事なんだろうか?
しかし判断材料が足りない。
どこまでが真実で、どこまで嘘なのか。
そして何故、俺にこんなのを見せたのか?
それは俺がその一族だからか?
意図がわからない。
女神が意図的に見せたとしたら俺に何かを求めているからだろう。
気まぐれで見せているとしたら三女神は身勝手すぎる。
いや、三女神からしたら俺なんかただの歯車だ。
求められるのは一族としての責務と、その力だけ。
そこに人権なんかありゃしない。
追い出されたけど…
だが20年の追放期間を終えて秘境に戻って来たからには果たせと?
バカバカしい……やってられるか。
だが今回、ここに手を貸すのはやよいが頭を下げてまで頼んできたから。
あとセイウンスカイの故郷だから…と言うのは建前にする。
あとハンターとして頼られたから、ハンターの俺が動いたまで。
さぁ、気が抜けない討伐依頼だ。
オオナズチに引けを取らないモンスターだけど扱いやすい部類だ。
切り替えていこう。
大丈夫だ、討伐じゃないが撃退した経験は……在るッ!
「あ、そういやセイウンスカイって俺がこの秘境で生まれた事を知ってたのか?」
「いや、知らなかったよ? だからアマグモとはとても近い場所に居たんだねって、スカイちゃんは驚きなんだよね」
「しかしそうなるとアレだな。 俺に対しては秘境のことを隠す必要無かったのでは?」
「それ言っちゃう? お昼寝好きのスカイちゃんは寝言で滑らせてしまわないかドキドキしてたんだけどね」
「うん。 だから色々ご苦労様」
「…なんか腹立つ」
この秘境に住んでいた頃のセイウンスカイは俺のことについて何も聞かされていなかった。
外部からの指導者の噂は聞いていたがシンボリルドルフが現れてからはその意味も無くなり、噂は噂で終えてしまう。
ちなみに指導者としての役割は純粋な纏め役であり、皆の成長を見届けて助ける存在の事だ。
いるのと居ないとではかなり違うらしい。
「よし、準備完了。 あとは腹ペコにボディーブローだな」
「ちなみに早食いレースしたらオグリキャップと良い勝負するかな?」
「いや、どう考えてもイビルジョーが圧勝だろう。 オグリも中々だけどアイツは地面ごと食うからな? 唾液が地面すら溶かしてしまう程なので、間違っても口の下に移動するなよ?」
イビルジョーの存在は実のところそこそこ詳しい。
え?
何故かって?
おう、お前だよ、クルペッコ亜種。
自分で呼んでおいて食われやがって。
当時、相方で組んでたユタカと唖然だったぞありゃ。
「二人とも待たせたなぁ!」
「アマグモちゃん、お待たせしました〜」
「到着…ッ! 来たのだ!」
三人が後ろから走ってきた。
クリークは対イビルジョーのアイテム。
そしてタマモはエピタフプレート持って。
「しかし人間には重たそうやなコレ。 ほんまに使うんか?」
「ああ、これから倒すモンスターにかなり有効だ。 大剣は不慣れだけど扱いが複雑なスラッシュアックスよりはマシだ。 さて…」
奴の姿は寝床のところにいない。
なのでペイントボールを雑に投げる。
しばらくする…
「グゴゴオオオオオ!!!!」
「「「!!!」」」
匂いを嗅ぎつけて奴は現れた。
「っ、ほんまにあんのモンスターこの辺りを動かんなぁ!? 食べ歩きが好きじゃ無いんか!!」
「腹ぺこな事はわかるけどあのモンスターは正直何考えてるかわかんないよ。 …さて! 作戦通りに頼んだぞ!」
「今日はゆるりと行かなそうだねぇ…!」
「頼むのじゃ!! アマグモ!!」
やよいの声援を背中に崖を飛び降りる。
オデッセイブレイド構えると目があった。
暴飲暴食の怪物。
イビルジョーの狩りが始まった。
つづく
頭痛くなって来た。
なんでこの小説にこんな複雑な設定で挑もうと思ったのか…
数ヶ月前の自分を問いただしたいくらいだ本当に。
作者の力不足故にしばらくご都合主義マシマシなので、よろしくお願いします。
ではまた
ところで【モンハンストーリーズ2】はどうですか?
-
購入した(逃げ)
-
購入予定(先行)
-
買わない(差し)
-
お金ない(追い)