オトモの枠にウマ娘があるとしたら[凍結]   作:つヴぁるnet

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第20話

 

晴天の空。

 

雨雲の名を持つハンターが崖から見下ろす。

 

その大地に一つの恐怖が踏み締めていた。

 

 

 

「グルルル…」

 

 

 

ウマ娘が生まれ育つ秘境は山に囲われている。

 

その秘境まで続く抜け道は特定のウマ娘にしか知らない。 複雑な地形をしているため部外者は秘境まで辿り着くことは非常に困難である。 仮に秘境への道を見つけたとしてもキリンの姿に変えたやよいが雷を落として侵入者を追い払うだろう。

 

しかしテリトリーを作らず、日々満たされないハラペコを満たすために食べ歩くモンスターがこの近くに彷徨いていた。

 

恐暴竜イビルジョー、誰もが名を聞いたことある非常に恐られているモンスターだ。 もしこのモンスターと出会った場合、戦闘を行わずに即撤退が鉄則とされている。

 

 

 

「まさか討伐のために乗り出すなんてな…」

 

 

危険すぎる大型モンスターだと言うことはアマグモも承知している。 しかしこのモンスターはこの場から動かない。 過去にタマモクロスが秘境から離そうと誘導したが…

 

 

「ほんま……っ、ほんまあの怪物は! 許さへん! 同胞の命を許さへんからな!」

 

 

上手くいかなかった。

 

奴は秘境の近くに居座っていた。

 

だからタマモクロスは歯軋りを行う。

 

それは同胞の怒り。

 

そして何もできなかつた自身の怒り。

 

 

 

「此奴が来てもう1週間か…」

 

 

やよいは思い出す。

 

ある日のことだ。

 

秘境に戻ろうとしたウマ娘はいつものルートを走っていた。 しかしそのウマ娘は大きな足跡を見つけてしまう。 この一帯はあまりモンスターが寄り付かない場所であるが、大きな足跡を見つけてしまった。

 

秘境の外に出ていたウマ娘は急いで戻ろうとした…が、空から大岩が落ちてきた。 大岩を回避できずに直撃したウマ娘は脚を折ってしまう。 痛みに堪えながらけたたましい声を聞いた。

 

それは秘境にまで届いた。

 

この日、イビルジョーの存在を知ってしまう。

 

イビルジョーに見下ろされるウマ娘は恐怖に突き立てられて悲鳴すらあげることを忘れた。

 

動かない足。

 

恐怖心が支配する。

 

……あとは言わずともわかるだろう。

 

その一帯は血飛沫を広めて食いちぎった。

 

 

 

タマモクロスが駆けつけた頃には血の痕しか残らず悲惨な光景がそれを物語っていた。

 

それからウマ娘代表の"やよい"と言われる秘境の長がキリンの姿にとなってイビルジョーと戦った。 しかしやよいは力不足だった。 弱点である雷属性に関わらずイビルジョーを退けることは出来なかった。 しかしそれはイビルジョーが強いからではない。

 

やよいはキリンに変身したとしても純粋なキリンの力は1割ほどの力しかない。

 

ごく普通の人間を殺す程度には力があっても大型モンスターを殺すほどの力はなかった。 それもイビルジョーとなると雷を落としても倒すことは不可能だ。 むしろ逆鱗に触れてしまい何かの拍子で秘境への道を発いてしまう恐れの方が大きく、やよいは手出しは難しかった。

 

そのうち何処かに消え去ってくれるだろうと希望的観測だったが、イビルジョーはこの場を引かない。 人間よりも強大な力を持つウマ娘は栄養値が高く、引き締まったその肉は暴飲暴食のモンスターすらも舌鼓させてしまう。 テリトリーを気にしないモンスターがこの場から脚を動かさないほどそれは美味しかったのだろう。

 

そうして空腹にも関わらず味のしめた美しい女子を探し続けていた。

 

それを証明する様にイビルジョーはセイウンスカイ目掛けて大地を揺らしながら向かってきた。

 

 

「こっちだよ〜! こっちこっち!」

 

 

 

イビルジョーの狂気を交えた目は悦ぶように見開く。

 

いただきますの咆哮をあげながら真っ先にセイウンスカイを狙った。

 

 

「うわっ、でかっ!」

 

 

その大足は青雲の色が似合うウマ娘を胃袋に収めようと大口を開けて狙う。

 

セイウンスカイは噛みつきを回避しながら音爆弾を投げてイビルジョーの気を引き続ける。

 

 

イビルジョーの周りを駆けながら注意を引いていると…

 

 

 

「俺の愛バに手を出すなァ!」

 

 

翔蟲を使ってイビルジョーに飛びつく上位ハンターの影。

 

刃の先からタマミツネから採取した"泡立つ滑液"が垂れ落ちるオデッセイブレイドを逆手持て背中に飛びかかり真っ直ぐ突き刺す。

 

皮膚と肉を刺された痛みにイビルジョーはターゲットをアマグモに変えた。

 

イビルジョーは食事に割り込んで背中に乗っかってきた邪魔者を食いちぎろうとするが、絶妙に届かない位置にいた。

 

アマグモは叫ぶ。

 

 

 

「クリーク!」

 

「アマグモちゃーん!」

 

 

スーパークリークはアマグモの声を聞いてとあるものを投げる。 紫色の生肉だ。

 

アマグモに投げ込まれた、普通じゃない色の生肉を受け止めると、イビルジョーの口に投げ込んだ。 喉を通ってイビルジョーの胃袋に収まる。 暴走する生き物に餌を与えてる光景に見えるが、次にその巨体はよろけた。

 

 

「グル、ルル??」

 

 

イビルジョーは毒状態に侵された。 原因は紫色の生肉に仕込まれていた毒テングダケだ。 即効性の毒にてイビルジョーは紫色と黄色を混ぜた様な唾液を垂らしながらヨレつく。 セイウンスカイはその機を逃さずに爆破投げクナイを顔に投げてイビルジョーの左目を破壊した。

 

 

「グルルオオオ!?」

 

 

その隙にアマグモは翔蟲を使ってイビルジョーの背中から降りると翔蟲を足元に伸ばして絡め取る。 力が抜け落ちながら歩くイビルジョーを転ばせるには充分だった。

 

更にオデッセイブレイドからは泡まみれの液体が垂れ落ちている。 マガイマガドすら転ばせたタマミツネの"泡立つ滑液"は巨大なモンスターほど効果を発揮しやすい。 その液体が背中から足元に届くとイビルジョーは滑らせた。

 

顎から地面に転倒して顎の棘と牙が折れる。

 

 

 

「戦慄ッ! す、すごいのだ!」

 

 

やよいの驚く声と共にアマグモは怪力の種を齧りながら駆け出す。

 

盾を強く握りしめるとイビルジョーの首元を高台に高く飛び跳ねる。

 

落下する勢いをその腕に乗せてその頭を狙った。

 

__バキッッ!!

 

骨が砕ける音が響き渡る。

 

どんなに硬い頭でも身体の中心を狙えば関係ない。

 

怪力の種で増された筋力と盾で殴りなれた技術を持ってイビルジョーの頭骨を砕いた。

 

 

「アマグモちゃんすごいわ!」

 

 

高台から見守っていたスーパークリークはアマグモの活躍に驚く。

 

それとは別に…

 

 

「あのセイウンスカイはどう言うことや?」

 

「きょ、驚愕ッ! あんなに強いウマ娘では無かった筈だ。 秘境を出たウマ娘の中で継承が一番薄かったはず…だが! これは!」

 

 

 

セイウンスカイは"逃げ"が得意ウマである。

 

差し や 追い込みじゃない限り戦いに参加するなどあり得ない。

 

その脚は駆けるだけに特化していた。

 

だが音爆弾による撹乱と爆破投げクナイの一連はまるでハンターの様だ。

タマモクロスはセイウンスカイが本当にウマ娘なのかも疑う。

 

だが揺れる尻尾とアマグモの声を逃さず拾おうとピクピク動く耳はウマ娘の証拠。

 

またその眼は"応えたい"生き物ならではの色に染まり、ウマ娘としてのセイウンスカイはアマグモに寄り添う。 人間とウマ娘が強く強く信頼してある証だった。

 

 

「グォォォオオオ…!」

 

 

セイウンスカイは次の仕込みに入り、アマグモは滑液に満たされた瓶の蓋を開けてオデッセイブレイドの刃に垂らしながらイビルジョーの攻撃を見切る。

 

太刀使いとしての眼は巨体を使っただけの大ぶり程度の攻撃を難なく凌ぐ。 アマグモは最小限に回避しながらイビルジョーの体を撫でる様に斬りつける。

 

タマミツネから採取した泡立つ滑液に塗れるイビルジョーはアマグモに攻撃をしてもその小さな盾で滑る様に受け流される。 捻り潰すことできないストレスにイビルジョーは大口を開けてアマグモにくらいついた。

 

セイウンスカイに合図を出すと次はスーパークリークから受け止めた黄色の生肉をビルジョーの口の中に放り込む。 ハンターを超えるウマ娘の腕力で投げられた黄色の生肉はイビルジョーの中にダイレクトだった。

 

アマグモは翔蟲で真上に飛ぶとイビルジョーの顎下を狙ってカチあげる。 下からから殴られたイビルジョーは黄色の生肉を飲み込んだ。

 

すると体の神経が麻痺した。

 

 

「グ、ォォ、オゥ!?」

 

 

苦しそうに息をするイビルジョーは目の焦点が合わない。

 

麻痺状態に苦しんでいた。

 

 

「お前は"ヌシ・タマミツネ"を知ってるか?」

 

 

アマグモは"紅蓮石"を取り出す。

 

 

「その凶暴性と比例する様に泡は燃えるんだぞ」

 

 

紅蓮石を砥石代わりに刃に鋭く研いだ。

 

 

_カチン!!

_ゴォォォォォ!!!

 

火打ち石の様に鉄と鉄が打ち付けられる。

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

高台から見ていたタマモクロスとスーパークリークとやよいは目を見開いた。 オデッセイブレイドの刃と同じ葵色の炎に燃えあがっているではないか。 まるでチャージアックスのように属性を付与した現象に眺めていた者達は目を見開く。

 

アマグモは次の攻撃に移ろうと翔蟲を取り出そうとした…が、まだ翔蟲はエネルギー充電を終えていない。

 

少々使い過ぎたかと諦めているとセイウンスカイがアマグモの進行方向に飛び出す。

 

 

「アマグモ、翔んでよ!」

 

 

両手を腰の位置に重ねて声をかける。

 

アマグモは走り出した。

 

 

「じゃあ、跳ぶぞ!」

 

 

オデッセイブレイドを構えて彼女の目の前に一歩踏み込む。

 

アマグモの足はセイウンスカイの手に収まるとそれを一気に上へと打ち上げた。

 

ウマ娘の腕力に改めて感心しながらイビルジョーの背中よりも高く飛び跳ねるアマグモは葵色に燃えるオデッセイブレイドでイビルジョーの背中を斬りつける。 すると背中から垂れ落ちる滑液は油が着火した如く一気に燃え上がり、イビルジョーの背中を始めとして腕、脚、首、頭は妖しい色の炎に燃やされてしまう。

 

 

 

「グォォォオオオ!!!」

 

 

 

 

_ " 鬼火まとい状態 ” _

 

 

マガイマガドの討伐から手に入れた"怨虎龍の魂結晶"と言われる素材を使った新たな攻撃手段。

 

まずタマミツネから採取した泡立つ滑液を空き瓶に注ぎ込んだ"滑液瓶"と名付けられたアイテム。

 

その滑液瓶に怨虎龍の魂結晶を混ぜる。

そして" 滑液鬼瓶 "を作り上げた。

(火ン)だけに洒落た名のアイテムだ。

 

 

使い方は単純だ。

 

最初にモンスターを泡まみれ状態にする。

 

次に滑液鬼瓶でオデッセイブレイドに付与してから、紅蓮石を火打ち石の様に打ちつけて熱を与える。

 

すると刃は一気に燃え上がる。

 

その状態で泡まみれ状態のモンスターに斬りつけると泡が一気に鬼火へと変化して、モンスターを鬼火やられ状態にする事が可能だ。

 

 

アマグモは一度だけ"ヌシ・タマミツネ"を見た事があり、鬼火の様に青い泡を纏うタマミツネの姿を見て…

 

その時、アマグモは閃いた!

これは戦いに使えるかもしれない!!

 

 

片手剣に酷似しているチャージアックスの性質を利用する。

またタマミツネの素材の泡立つ滑液で強化したオデッセイブレイドならそれは大いに可能だと考えた。

"大空(レウス)"の"大地(レイア)"の紅玉に備わるエネルギーが加速させる。

 

努力と知識の結果により…

 

イビルジョーは鬼火に苦しめられていた。

 

 

 

「タマモクロス!」

 

 

「準備は既に済んでるで!!」

 

 

後方で落とし穴を仕掛け終えていたタマモクロスはエピタフプレートを持って指定された崖のところまで移動していた。

 

彼女がとても優秀なウマ娘である事と"差し"の適性があるからこそ行動は早かった。

 

アマグモはタマモクロスの位置まで移動するとエピタフプレートを受け取る。 アマグモはセイウンスカイとアイコンタクトを取ると彼女は角笛を吹く。

 

イビルジョーは鬼火に苦しめられながらも角笛の音に起き上がり、アマグモを見る。 ここから先の出番は無くなったセイウンスカイはそそくさと退散して、タマモクロスは姿を隠す。

 

イビルジョーはアマグモを睨む。

 

今は空腹よりも怒りが勝っていた。

 

 

「グォォォオオオ!!!」

 

 

 

撤退するウマ娘二人よりも食事の邪魔をするハンターに咆哮する。

 

アマグモは翔蟲を真上に伸ばしてエピタフプレートを構え、イビルジョーは鬼火に焼かれながらもアマグモを食いちぎろうと迫る。

 

怒りに周りが見えないイビルジョーはあからさまに仕掛けられた落とし穴に気づかず、足を踏み外してその巨体は穴の中に埋もれる。

 

 

「グゥ!??」

 

 

 

「すぅぅぅぅゥゥ…」

 

 

大剣は使わないアマグモだが、単純かつ破壊力のあるこの武器に理解はあった。

 

両手に持つ太刀としての経験も豊富なので大剣は使えない武器ではない。

 

片手剣の盾をハンマーのような鈍器にしてしまう程の腕力が備わっている彼は大剣に対しての力の入れ具合は手に取って理解していた。

 

大剣にエネルギーを溜める。

 

 

「頼むのじゃ!!」

 

 

やよいは扇子を開いて雷を放つ。

 

その雷はエピタフプレートに刻まれた古代文字に向けられた。

 

古代文字は(イカズチ)に染まって黄色に輝く。

 

 

 

「鉄蟲…!!」

 

 

地上を翔んで翔蟲に空高く引き寄せられる。

 

真下を見れば鬼火に焼かれながら落とし穴に苦しむイビルジョーの姿。

 

 

 

「消し飛べぇぇ!」

 

 

 

「!? グォォォオオオ"オ"!!」

 

 

 

落とし穴に落ちながらもイビルジョーは咆哮する。

 

破れかぶれな咆哮なため普段よりも弱々しい声だった。

 

だがその威嚇は並のハンターを怯ませるに充分な威力だった。

 

巨体に備わる圧力感に押し退かれてしまうこともあり得ただろう。

 

しかしアマグモは、何かに護られるように一切怯むことはなかった。

 

 

イビルジョーは不運である。

 

何故ならアマグモは"とある護石"を装備していたからだ。

 

 

レア度は高いが使い道がわからない、護石。

 

そもそも使う必要があるのか怪しい、護石。

 

利用価値が問われながらも使ってみた、護石。

 

 

 

しかし、今回はこの護石があるからこそイビルジョー最後の抵抗に打ち勝つことができた。

 

 

 

 

 

それは『ジャンプ鉄人』と言われるスキル。

 

 

恐暴竜を討つまで漕ぎ着けた、この瞬間だけは神スキルのような護石だった。

 

 

 

「気炎万丈ォォォォ!!!」

 

 

 

古龍の力を備えた 雷属性 が裁きを下す。

 

古来の力を秘める 龍属性 が怒りを叩く。

 

弱点の雷属性と龍属性を同時に受けたイビルジョー、元から砕かれていた頭骨は大剣のエピタフプレートにてそれは容易く斬り砕かれた。

 

左右に一刀両断。

 

さらにイビルジョーの体中を纏う鬼火はアマグモの攻撃に反応して大爆発を起こした。

 

その爆発により巨体の血肉が一帯に弾け飛び…

 

 

「ガ…ァ………ァ………__」

 

 

 

 

恐暴竜は絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イビルジョーを無事に倒せたのは良いが少しだけ損傷してしまった。

 

ひとつまみする程度の範囲だが後ろ髪がイビルジョーの唾液で溶けてしまった。

 

ほんの少しだけ触れてしまったらしいが、髪の毛程度容易く溶かしてしまうイビルジョーの唾液には参ってしまう。 常に腹ペコだったから唾液が止まらなかったのだろう。 そのかわり水分も無くなって動きは鈍かったし、力が入らなくてよく転んでくれた。

 

ワナ肉も躊躇いなく飲み込んでくれて常に主導権を握れて討伐まで漕ぎつけた。

 

代わりにギルドに登録されてる俺の名前にイビルジョーの討伐はカウントされてないだろう。 クエストの依頼もなく非公式で倒したからだ。 当然ながら討伐時の報酬も無く、ギルドポイントも加算されない。 フクズクを飛ばせばギルドに知らせる事はできるが、秘境は知られてはならない場所なのでそんな事もできない。

 

そもそも今現在フクズクはいないのでノーカンである。 致し方ない。

 

死体となったイビルジョーはウマ娘達が開けたところに運んでから燃やしている。 証拠も残らないので今回の討伐はタダ働きである。 てか恐暴竜相手にタダ働きってとんでもないな。 普通なら命が幾つあっても足りないし、ハンター業界ではイビルジョーと出会ったら即撤退する事が鉄則と言われている。 倒すなんて普通は考えない相手だ。

 

しかし、秘境に住まうウマ娘達はこの脅威から救われた。

 

だから沢山感謝された。

 

 

 

「どのくらい切る? 半分くらい切ってしまう?」

 

「半分くらいでお願いします」

 

 

 

とりあえずイビルジョーの討伐で溶けた後ろ髪を切ってもらうことにした。

 

燃えたじゃなくて溶けた、だ。

 

やよいの紹介で散髪の得意なウマ娘にお任せしてるところだ。

 

 

 

「少しお洒落な感じにする?」

 

「遠慮しておくよ。 変に弄ってしまうと狩で何が起こるか分からないから、切るだけで頼む」

 

「そうね、あなたはハンターだからね。 それならベッドマッサージとかはどうかしら?」

 

「ベッドマッサージ?」

 

「簡単に言えば頭の疲れを取る施術、スッキリするわよ? 秘境を守ってくれたお礼にどう? アマグモ」

 

「それならお願いしようかな、ゴールドシチー」

 

「了解」

 

 

 

別に頑張ってお礼する必要は無いのだがベッドマッサージってやらは気になるので散髪後にお願いした。

 

 

「しかし男性の散髪なんて初めてね。 昔は人間の男性も住んでた人も居たらしいけど」

 

「俺とかやよいの一族のことか。 今はこの秘境に人間もいないんだよな?」

 

「いない。 他所から来ることも無くなった」

 

「…他所から?」

 

「人間の男性が、種馬としてね」

 

「あ……なるほど」

 

 

 

種馬……別に珍しい話でもない。

 

人間社会にもそう言った話はある。

 

子孫を作るため、強い種族を産むため。

 

それは昔から生物として起こりうる話しだ。

 

しかしこの秘境では種馬を使っていたのか。

 

 

 

「なあ、もしかしてそこらの人間から獲って来た…とか?」

 

「いえ、それは無いわ。 とある一族が10年周期でこの秘境に来てたのよ。 その一族は血統の高い貴族達で唯一秘境の存在を知る者達。 その当時の長が決まって数人ほど連れて来てたの。 ハンター稼業も盛んだから強い男が多かったと聞いた。 でも10年前に滅んだ知らせを聞いたわ」

 

「滅んだ?」

 

「…これは、内緒話なんだけどわたしは長の命令を受けてその場所に向かったことあるのよ。 ひどい有様だった。 同行してたタマやクリークも言葉を失っていたわね。 全て倒壊して建物には、雷が落ちて焼け焦げたような跡、嵐が通り過ぎたような惨状、貴族が全滅したことは想像するに容易だった。 でもイナリワンとオグリが耳を立てて一人だけ見つけた。 でも赤子だったけど」

 

「その後はどうなったんだ?」

 

「わからない。 一応保護はしたけど次の日に長とオグリが赤子を抱えて秘境を出た。 同行したオグリの話ではとある商人の竜人族に引き渡したらしい。 そこから先はわたしも知らない」

 

「そうか。 しかし繁栄のための種馬が無いとしたらどうするんだ? またどこからか引っ掛けてくるのか?」

 

「知らない。 でも長は焦らなかった。 何か考えているんだと思う。 わたしとしてはなんとなく予想はついてるけど確信には至らないからまだ言わない。 でも、凡ゆる事でタイミングが良すぎたと思ってる」

 

 

 

彼女は話しかけながらも手際良く散髪を続ける。

 

俺は彼女の言葉を考えながらじっとしていた。

 

しかし種馬か。

 

納得はするけどあまり聞きたい話でも無い。

 

でもその種馬となった貴族が無くなった今どうするのか? 残された赤子に任せる? いや、もしその子が女性だとしたら終わりだ。

 

それで種を残せるわけもない。

 

 

 

それなら外に出て……

 

 

……ああ、だからか。

 

 

 

「やよいは考えたな。 百竜夜行にてウマ娘の存在が知られるなら、むしろそれで良いんだと」

 

「かもね。 わたしはそう思う」

 

「しかしそうなると秘境はどうなるんだ?」

 

「わからない。でもこの世代は確実にこれまでとは違う。 ウマ娘が左右される大事な世代よ」

 

「なるほど。 だからトレーナー(隣人)なのか。 そう言うことなのか。 ふーん、まるで"婚期"のようだな。 外部からは殺伐と迫っているが…」

 

「外部って百竜夜行の事ね。 でも、わたし意味が分からないの」

 

「と、言うと?」

 

「なんでウマ娘は秘境に住んでいるのか? もし百竜夜行に立ち向かうカムラの里にウマ娘が力を貸すと言うのなら、カムラの里に住んだ方が効率が良くないかしら?」

 

「ああ、それ俺も思った。 でも三女神の絶対主義がウマ娘を縛っているんだろ? あとはあまり世間に知られてはならないとか、デリケートな部分があるんじゃないのか? 全てはウマ娘のために…とかそんな感じでは?」

 

「つまらないわね」

 

「なら秘境の外に出たりしないのか?」

 

「出たかった。 でも長とはそこそこな付き合いだから頼りにされていて出なかったの。 他にもオグリキャップを除いてタマモクロスやスーパークリーク、イナリワンと言った決まっているメンバーは秘境に残って長をバックアップしている。 わたしも一応その枠らしい」

 

「でもいずれ出るんだろ? トレーナーを求めに…」

 

「最初はあまりそんなつもりなかったけど、でもあなたのセイウンスカイを見てその意識は少なからず高まった。 あなたってすごいよね? あのセイウンスカイをあそこまで立ち上げたんだから」

 

「?」

 

「あ、その感じだとわからない? まあ、知らないなら知らなくて良いかもね。 セイウンスカイもその方が幸せだろうから。 はい、髪の毛切り終わったよ」

 

 

 

どこか意味深な言葉を残してくれたゴールドシチーだが散髪は終わった。

 

切って貰った後ろ髪に触れてみるとイビルジョーに溶かされた部分は綺麗に切り落とされていた。

 

お陰で頭が軽くなった気分だ。

 

それからベッドマッサージも受けてみた。

 

疲れが取れたのか更に頭が軽くなった気分だ。

 

ちなみ彼女の趣味で香水も軽く振り撒かれた。 ほんのりと甘い香りを漂わせながらゴールドシチーにお礼を言って外を出る。

 

そのまま使わせて貰っている個室に戻るとセイウンスカイが待っていたがスンスンと香りを嗅いだ後「なんか嫌だ」と言われた。 香水のことを話すとブスっと不機嫌になり、彼女から頭をグリグリと胸元に押し付けられる。 青雲の香りに変えられた。

 

 

マーキングかな?

 

彼女は満足そうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、夜になった。

 

俺としては早くギルドに生存報告したいとこほだが、やよいの要望により宴に参加して欲しいと言われた。

 

あと1日ならと、了承して参加している。

 

宴は至って普通なのだが困り事が一つ。

 

ウマ娘って、その…あれだ。

 

人でもあるけど馬でもある。

 

 

こんな言い方良くないが メス の表現が近い生き物だ。

 

"メス"の役割は子を作る事。

 

そして馬となるとそりゃ激しい。

 

それ以前に彼女たちは人と同じように女性だから、そりゃ魅力的でカッコいい男が好きである。 それが普通。

 

 

もちろん男性だって同じ。

 

美しい女性、可愛い女性、異性として惹かれるお相手が良いだろう。 それと同じ。

 

 

え?

何が言いたいかって??

 

馬としてのメスっ気。

 

女性としての要求。

 

 

ああ、彼女らは、つまり。

 

純粋に"強い男"が好きだと言うこと。

 

 

 

 

「いででで、首が閉まる!!」

 

「アマグモはわたしのだから、ユザラナイ」

 

 

「良いなぁ…」

「羨ましい! 羨ましいぃよ!」

「うー!! その人の子供欲しい!」

「先ぴょい! 先ぴょいだけで良いから!」

 

 

「だめだよ、それにうまぴょいはわたしがしてるから。 君達ではもう遅いよ」

 

 

こちらの首に抱きつき、尻尾は腰を巻きつく様にピタリと絡まり、ギリッと他のウマ娘を睨んで牽制するセイウンスカイ。

その眼は天候の悪い雲の様に濁っているようにみえる。

耳も感情の激しさに比例して鋭くピーンとなって、首を絞める腕がめちゃくちゃ痛い。

 

 

「なんや、兄ちゃんも随分とモテモテやな」

 

「モテモテのモテモテや」

 

 

「そう思うなら助けろタマモクロス、イナリワン」

 

 

「「ええ、どないしようかな〜」」

 

 

「お前ら絶対楽しんで…がああ!痛い!痛い!痛い!!」

 

 

手加減してくれてない痛みを感じながら周りを見渡す。

 

ウマ娘の宴だから基本的ににんじんパーティーだ。

 

スーパークリークが美味しい料理に腕を振るう。

 

あとやよいがイビルジョー討伐に大層喜び「恐暴竜を倒した英雄だ!」と集められたウマ娘達に紹介したがご覧の有様である。

 

セイウンスカイがイビルジョーに負けないだろう威圧感と共に独占欲を発揮しながら抱きしめ…つけている。

 

苦じい。

 

助げで。

 

 

 

「はいはい注目、新しいにんじんシチューだよ、暑いうちに召し上がれって」

 

 

「あ! ゴールドシチー!」

「わーい! シチーのシチューだ!」

「美味っ…ぴょい!!」

 

 

新しい料理が持ち込まれる。

 

するとゴールドシチーから「今のうちに」と目で合図してくれたのでここは甘えて撤退することにした。俺は抱きついているセイウンスカイを持ち上げてそのままお姫様抱っこして駆け出すと彼女からは「うひゃ!」と驚きを交えて嬉しそうな声が漏れていた。

 

それをみて茶化してくるタマモクロスとイナリワンを横切り、しばし宴から姿を消すことにした。

 

 

 

「にゃはは、惚れ惚れする逃げ適正ですねぇ」

 

「やかましい」

 

 

揶揄われながらもある程度足を進めると三女神の近くまでやってきた。

 

月明かりに染まる泉が綺麗だ。

 

その近くでセイウンスカイを下ろした。

 

 

 

「やれやれ、首が痛いぞ」

 

「にゃはは、ごめんごめん。 ちょっと油断ならなすぎてね」

 

「それにしてはやり過ぎだ」

 

「でもでもアマグモ考えてみてよ。 ウマ娘は基本的に人間よりも力が強いんだよ? いくらハンターでも複数のウマ娘を相手にどうにか出来る??」

 

「それは無理だな」

 

「でしょ? そこらの娘に取られないようわたしがアマグモの全てを占領するんだよ。 わたしはアマグモが他のウマ娘に取られるの嫌だよ? アマグモの愛バはわたしだけなんだよ。 わたしだけがアマグモの側に居ればいいんだから。 わたしのアマグモ。 君の雨雲はわたしだけが潤う。 この空は他の誰にも譲らない、絶対に…ー

 

 

 

眼を濁しながら両肩を掴んで握力を上げる。

 

眼を濁している事については確信犯だと分かるくらいに表情を見え隠れさせているので、暴走している訳では無いだろうが、俺をそのまま草原に押し倒すとセイウンスカイはこちらよ胸元に顔を擦り付けて喉を鳴らす。

 

マーキングされている気分だが、空色のその頭に手を乗せてセイウンスカイを撫でる。

 

彼女は耳をピクピク動かすと満足げな声を漏らし、全身の力を抜いて全てをこちらに預けながら、ふにゃふにゃと耳は垂れ落ちて「くふぅぅ…」と幸せそうに息を吐く。

 

セイウンスカイがリラックスしているときの声だ。 思わず笑みが溢れてしまう。

 

 

 

「………女神像、だね」

 

「え? ああ…」

 

「わたし、アレ、嫌いなんだ」

 

 

 

彼女は胸元に擦り寄りながら横を向く。

 

耳は半折のままだがこれは嫌悪感を抱いた時の表現だ。 証拠に掴まれている肩が震える。

 

無意識だろうか、彼女の手に力が入っていた…

 

 

 

「アマグモは"因子継承"って聞いたことあるかな?」

 

「因子継承?」

 

「成長期が終えたウマ娘はこれまで高めてきた能力を因子に変えて三女神に一度預ける。 するとその因子は次世代に託される事になる。 これが因子継承だよ。 それを何度も重ねて優秀な因子を増やし、三女神は来る時のために沢山の因子を蓄えた」

 

 

なるほど。

 

三女神はそのために存在しているのか。

 

百竜夜行に向けて強い戦士を作るために。

 

また器となるウマ娘も管理するために言伝を与えて、従わせて、秘境とウマ娘を護る。

 

そこに危険異分子が存在するなら、それも排除する事に躊躇いは無いほどだ。 俺の父親もそうだったのだろう。

 

 

 

「私たちは"最後の世代"と言われている。 百竜夜行に立ち向かう世代だから、優秀な因子が必要になる。 その中でシンボリルドルフが最高傑作だった。 もちろん他の皆んなも優れたウマ娘になり三女神の計画は完璧…の、はずだった」

 

 

 

彼女は自分の世代を誇らない。

 

 

 

「ほんの少しズレが起きて一人分だけ足りなかった。 だから貧乏くじを引いたウマ娘がね、一人現れたんだよ、にゃはは…」

 

 

彼女は力なく笑う。

 

怒りよりも悲しみが勝る。

 

その表情が答えだった。

 

 

 

「もしかして…」

 

「うん、アマグモの予想通り。 貧乏くじを引いたウマ娘はわたし。 秘境を出るウマ娘の中でわたしが1番の最弱になった」

 

「…」

 

「ハズレを引いた…いや、ハズレを引かされたんだと理解した。 三女神はこのウマ娘なら良いかと思ってそうしたんだ。 でも理解したところでどうにもならないと悟ってカムラの里に向かったよ、脆い虚栄心を張って」

 

 

 

 

 

 

 

__おや〜? もしかしてこの私を選ぶのかな?

 

__逃げる事だけに脚が馴れてあまりご期待に添えれないかもよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしは三女神が嫌いだ。 三女神の所業も嫌いだ。 三女神の全てが嫌いだ」

 

「…」

 

「弱くてもトレーナー(指導者)がいたらウマ娘は変わるなんて聞いたけど、カムラの里ではトレーナー(となりびと)で意味は違った。 長からそう教えられたから。 未来のわたしに、わたしは期待もできなかった。 百竜夜行に蹂躙されてしまうウマ娘なんだと諦めそうになった。 でも、アマグモが現れた」

 

 

 

 

 

 

 

 

__だからこそだよ。

 

__今の俺にはお前が必要だと感じてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「運命ってあるんだな…と、思った。 餌をつけて糸を垂らした訳じゃないのに大物がやってきた。 いや、むしろアマグモがわたしを釣り上げたんだよね。 ふふっ、浜に打ち上げられた小魚のスカイさんを獲ってくれたんだよね、にゃはは」

 

「まあ、当時のセイウンスカイは小魚みたいな感じだったな。 浜に打ち上げられたのにちっともピチピチしない感じ。 でも君の鱗模様()は俺の琴線に触れた。 俺にはお前なんだ…と、感じた」

 

「それから始まる成り上がりですかねぇ、にゃはは。 前までラージャンとリオレウスの縄張り争いを目の当たりにして怯えて竦んでたのに、今はイビルジョーに爆破投げナイフを投げている。 昔のわたしでは考えられなかったよ」

 

「たしかに因子継承によってセイウンスカイのスタートラインは遠かった。 でもそれだけで、君は誰よりも前に駆け抜ける力があった」

 

「違うよ。 アマグモがわたしの手綱を握ってくれたからだよ。 走る方角も、道も、芝も、違えなかったのは全てアマグモのお陰だ」

 

 

 

彼女は三女神の像から目を離してこちらを見下ろす。

 

その目は濁るように。

 

でも縋るように染まらせ…

 

 

 

「だからお願い。 その手綱は絶対に離さないで。 わたしは一人で走れないから」

 

 

 

三女神から視線を外した彼女は「んっ…」と声をこぼしてその頭を差し出す。

 

撫でてと言わんばかりに耳がテシテシと体を叩いて訴えるから、俺は撫でて答える。

 

櫛のように立てた指で髪を梳かせば、指と指の間に空色が柔らかく流れ落ちる。

 

ひと撫でする毎に身を震わせて反応する彼女の名前を耳元で囁いてあげれば、彼女も答えるように抱きしめ返して甘えてくる。 尻尾は腰に巻きついて自分のモノだと主張して、耳はテシテシと、さわさわとこちらの頭に触れる。 そのままゆっくりと横に倒れて互いに目が合わさる。

 

 

「…」

 

「…」

 

 

 

それから自然と互いの唇が触れ合った。

 

 

彼女はやや強引に啜る。

 

 

拒まずに受け止めて、優しく頭を撫で続ける。

 

 

しばらくして解放された。

 

 

 

「俺はセイウンスカイだけを見る。 因子とかそんなのどうでも良い。 セイウンスカイってウマ娘が俺のために走れ。 …いいな?」

 

「うん、良いよ。 いくらでもあなたに委ねる。 わたしは君の愛バだから、どこまでも走るよ。 そのかわりあなたの空をわたしに頂戴。 沢山、潤して…」

 

 

 

これは何度もやっている問答。

 

 

でも何度だって伝えてやる。

 

 

君を愛バに出来るのは俺だけなんだと。

 

 

君の愛バに染まるのは私だけなんだと。

 

 

 

 

 

ぐぅぅ〜

 

 

 

「……お腹すいた。 アマグモ成分だけじゃ満たされないのかな? にゃは」

 

「ウマ娘は良く腹が減るよな。 ハンターもだけど」

 

「にゃはは、どちらもたくさんエネルギー使うからね。 わたしは戻ってなんか食べてくるよ。 アマグモは?」

 

「もうしばらく泉を眺めてるよ。 宴が落ち着いたら食べる」

 

「わかった」

 

 

 

セイウンスカイは体を起こすと尻尾を揺らして宴のところまで足を進める。

 

俺は寝転びながら彼女を見送って、三女神の方に視線を向けた。

 

像だからなにも動きやしない。

 

上半身だけ起こしてあぐらをかき、睨むように三女神を眺める。

 

 

 

「俺も…お前が嫌いだよ三女神。 あんなに美しくも可愛い女子(おなご)達を何故闘わせるような事をしている? 駆けるだけの足ならば百竜夜行のためではない、自由な芝の上で走らせろよ。 そうすれば普通に生きることだって…」

 

 

 

 

 

 

 

「そうだな、それが普通だろう」

 

 

 

 

横から声が聞こえた。

 

その声はここに来て何度も聞いた。

 

その人物を予想しつつ横を見る。

 

扇子を持ったやよいが立っていた。

 

 

 

「たしかにウマ娘は何故、百竜夜行に立ち向かっているか知らぬ。 それがウマ娘の使命だと聞かされ、皆は育つ。 だから来る日のために築き上げてきた。 さて…お主はゴールドシチーから聞いたな? 種馬のことなど」

 

 

「聞いた。 なんで知ってる?」

 

 

「一族としての生まれなのか、そう言った類はどんなに離れてもよく聞こえるのでな。 だから秘境の存在について口外しようものなら雷で天罰を落として黙らせることもできる。 あまりこんな事はやりたくはないが、秘境は知られぬから秘境であり、ウマ娘を知られる訳にはいかないのは私も三女神に同調しておる」

 

 

「でも不自由な生き方だな。 三女神の管理下の元で産まれ、育ち、成熟したら好きでも無いだろう人間の種を受けて子を産むんだから」

 

 

「そして、早死にするだろうな」

 

 

「……え?」

 

 

「ウマ娘は寿命が短い。 人間の何倍もエネルギーを働かせることで人間の身体能力を凌駕するが、代わりに命も激しく消耗する。 そこで子を産めば更に命の半分が取られるだろう。 でもそうしなければ強い子を産めぬのだ。 だから秘境で生きてきたウマ娘は三十代まで届かず、早死にする」

 

 

「!?」

 

 

「だからトレーナー(指導者)が必要だ。 早死にせぬよう少しでも寿命を長く伸ばし、その足と伸び代を高め、強いウマ娘を育てる。 ウマ娘は自分が思ってる以上に力の加減が下手なんじゃ。 誰かが手綱を握らねば無駄に命を消耗してしまう脆い生き物。 強いが、弱いのじゃ」

 

 

「……」

 

 

「お主の母も、子のお主を産んで死んだ。 働かせ過ぎた体は出産に耐えれず、心臓麻痺で命を絶った。 でもお主の母は産むまでは長生きだった。 何故ならトレーナーである父が居たからな」

 

 

「だとしたら三女神は愚かだな。 ウマ娘を活かし生かすためのトレーナーとして使えたはずの俺を秘境から追い出したんだ。 ウマ娘の事を第一に考えてると言うのなら、俺を秘境の外に追放する事は愚策だろうに。 怒りに任せたのは父だけではなく、三女神も変わらなかったと言う事か」

 

 

「三女神も完璧では無い。 これもまた望むだけに過ぎぬ」

 

 

 

だとしたら"女神"なんて言葉は烏滸がましい。

 

ただの指導者に過ぎない存在だ。

 

それでも三女神の働きがあったからウマ娘は増え、強い個体も現れて、その結果としてカムラの里は百竜夜行から生き延びている。

 

ウマ娘がいなかったら蹂躙される未来を想像するのはそう難しく無い。

 

 

 

「わたしはいずれ、全てのウマ娘がこの秘境を発ち、人間社会に生きていけるようにする。 秘境の中で三女神に頼らずともそれぞれが道を選べるように。 だからやよいの名を騙り、カムラの里に『オトモダービー』の名を広めた。 そしてまもなくじゃ。 皆で百竜夜行を乗り越えたその時は…」

 

 

「…」

 

 

「オトモじゃなく、お供(おとも)として、女性として生きていられる事を望むのじゃ」

 

 

 

彼女達は三女神に頼らない時代が来ている。

 

やよいがその先行を走り皆を率いる。

 

そうだ。

 

一つだけ、気になる事ができた。

 

 

 

「やよいは、ウマ娘なのか?」

 

 

「…やはりそう思うか?」

 

 

「ああ、思う。 あと…たづな、って女性もだ。 この秘境にはウマ娘しかいない。 だからウマ娘としての名を捨てた二人が気になる。 おそらく秘境の外に出て、人間と交流を作る必要が出てきたからウマ娘である事を隠さなければならない。 秘密主義を通すために…だろ?」

 

 

「正解じゃ。 たづなは秘境の外で活動するにあたって必要な名前。 わたしも必要だったからやよいの名前を騙る。 お陰でオトモダービーの名を広める事ができた。 たづなも秘密主義を守り、うまく外交を行って秘境を豊かにした。 それに不思議だったな」

 

 

「?」

 

 

「人の名前を騙ると長生きする。 たづなはウマ娘だったが誰よりも長く生きていた。 最後に赤子だったお主の面倒を見て、お主をまたこの秘境に戻って来れるように自身を犠牲に秘境から追放されてこの場所で骨を埋める事を諦めた。 しかしたづなにとってそれは些細な問題で、お主を連れて秘境の外に消え去った」

 

 

「…死んだ訳じゃ無いんだよな? なら…」

 

 

「生きてる…なんて、可能性は考えられるかもしれぬがたづなはウマ娘だ。 それにいまだに生きてるとしたらたづなは『70年』近く生きてることになる」

 

 

「!」

 

 

「人間ならともかくウマ娘でそれはあり得ぬ。 名を騙れば長生きできる精神論がそこにあったとしても流石にもう生きておらぬだろう…」

 

 

「そっか…」

 

 

 

人間でも100歳まで生きるのはごく僅か。

 

70歳でも死ぬ人は珍しい無い。

 

ハンターとして肉体が強い人間は長生きするだろうが、ウマ娘の場合は逆だろう。

 

力を使い過ぎて命を枯らす。

 

たづながそうだとしたら、70年は希望を持ちすぎなのかもしれない。

 

生きてたら、会ってみたかったな…

 

 

 

「ノーザンテースト」

 

 

「え?」

 

 

「わたしは"ノーザンテースト"と言う名のウマ娘だった。 ほれ、耳あるじゃろ?」

 

 

 

帽子を外すと小さな耳が付いている。 やよいは小さく笑いながら耳をピクピク動かす。 俺は目を見開き、やよいはコロコロと笑いながら扇子を広げてパタパタと仰ぐ。 やはり彼女もウマ娘だったか。

 

 

 

「ま、貰い物の名前じゃがな」

 

 

「貰い物?」

 

 

「この秘境を作ったウマ娘の名前がノーザンテーストだ。 わたしにもこの秘境を支える責務を背負わせるため、この名が与えられた…長になって直ぐにやよいを名乗ったがな。 しかも産まれたお主が男だったから私が即選ばれただけの話だ」

 

 

「…なら、たづなは」

 

 

「それは言えぬ」

 

 

「何でさ?」

 

 

「お主が女として産まれたのなら、たづながウマ娘だった時の名を貰う事になっていた。 しかしお主は男で既に人としての名を持っておる。 それを聞かせる必要は無い。 早死にして欲しくない…」

 

 

「俺は人間だよ? そもそもハンター業は死にやすい。 3日前だってオオナズチに殺されそうになっていた。 ウマ娘の名を知ったところで変わりない。 それに俺はウマ娘じゃないから、寿命が短い訳あるか」

 

 

「……なら、約束してくれ。 どんなに過酷でも生き続けると」

 

 

「する。 早々に死んでたまるか」

 

 

 

座っていた草原から立ち上がる。

 

芝の葉を振り払ってノーザンテーストだったやよいと向き合う。

 

力なく折れていた耳はピンと張られ、やよいは口を開いた。

 

 

 

 

「トキノミノル__お主がウマ娘として産まれたら付けられるはずの名前だった」

 

 

 

 

 

素敵な名前だった。

 

 

 

 

 

 

つづく





ユクモ村のハンターとして、ジンオウガみたいな大地を踏みしめる四足歩行の大型モンスターと良く戦うアマグモだからこそタマミツネの戦法を思いつき、さりげなくヌシ・タマミツネの戦術を繰り広げるアマグモの応用力と適応力の高さに脱帽。
これは間違いなくカムラの里で戦えてるハンターの姿。

しかし!
イビルジョー討伐のMVPは『ジャンプ鉄人』だった!
やはり神スキルでしたね!!!


ゴールドシチーって案外古い世代の馬なんやね。 この小説書いてて初めて知ったので、タマモやクリークのいる秘境にスポット当てた感じです。 クリークに負けず普通に美人さん。

あといつもお団子屋でお団子を食べるオグリは…
…まあ、そういうことだよ。
ちなみにオグリにトレーナーはいない。
バサル装備の狩猟笛の女性ハンターはソロ好きで、オグリはその人と臨時で組んでるだけです。
どちらも強い…てか、オグリがウマ娘の中で頭ひとつ抜けてる。


重責を与えるためにノーザンテーストの名を背負わされたやよいだが、一族としての役目を果たせばウマ娘は安泰だとわかってるので三女神の言伝は受けてるけど、そこから脱してウマ娘に自由を与えたいと思っている。 致し方ないとしても、三女神による因子継承などに嫌悪感を抱いたりしているが、そこに背いてウマ娘を苦しめる事ができないので、外にいるアマグモに希望を持っている。 非常にしんどい立ち位置にいる辺り、ある意味アプリと似てるね、この苦労は。


ではまた

ところで【モンハンストーリーズ2】はどうですか?

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