オトモの枠にウマ娘があるとしたら[凍結]   作:つヴぁるnet

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公式だと百竜夜行って数百年続いてる設定で、その中で50年前に大打撃を受けたと言う流れです。
作者はそれを忘れてました(賢さG)

し、仕方ないよね。
モンハンって基本的に設定とかふんわりしてるんだもん。




第23話

_マァァーーべラァァアス!!

 

 

 

_マーベラァァアス…

 

 

 

_マーベラァース…

 

 

 

_べラース…

 

 

 

_ラース…

 

 

 

 

 

「………ぷっ、今は…」

 

「くくっ、唐突過ぎる…」

 

 

カラクリで動くヨツミワドウ(サンドバッグ)の音を交えながら突如、真上から女の子の声が響き渡った。

 

ナイスネイチャ曰く非常に独特な叫び声と言ってたが、たしかにそうだと思う。

 

彼女にとって、朝起きる時、挨拶する時、ご飯を食べる時、走る時、話す時、歩く時、寝る時、どんな時にも使われる万能な言葉。

 

故に、不意打ち気味なこの叫び声に思わず吹き出してしまい、武器を握る力が緩んでしまった。 負けた。

 

 

 

 

「にゃはは、今日もあの上にいるみたいだね」

 

「古代遺跡の資料とかを目に通す事を趣味とするあの子なら、この訓練所の真上にある石碑に興味深々だろう。50年前の騒動が深く刻まれてるからな」

 

「オフ中は大体そこに居るみたいだね」

 

「俺も結構前に見に行った事あるけど、百竜夜行の騒動以外何も書かれてなかったぞ。 あとガルクの像がいくつか置いてたくらいだ。 よく見飽きないよな」

 

 

苦しい歴史と戦いが石壁に刻まれているが、百竜夜行と戦う里人やハンター、ガルクにアイルー、今と変わらない光景が石壁に映し出されている。

 

唯一違うのは翡葉の砦が無いことだ。

 

昔もある程度の防衛線はあったが今よりも盛大じゃない。 撃龍槍もなければバリスタなんて今の10分の1しか設置されて無かったらしい。 ガルクに乗って弓を射ることが一番強かった。

 

あとウマ娘……じゃなくて、当時まだ生きていた男性の"馬人族"が槍を持って戦う姿もチラホラ書かれている。 ガルクの速度と並走して駆け回るのだから相当頼りになったんだろうけど、その者達も過去の百竜夜行にて皆死んだ。 一人も残ってない辺りどれだけ悲惨な戦いだったのか想像に容易い。 もしくは想像に収まらない惨劇だったのかもしれない。

 

しかしそれを言ったら人間だって同じだ。

 

フゲンさんとハモンさん。 当時はまだ俺よりも幼い子供だったろうが、この辺りの人間は百竜夜行の戦いを見て来た者達だ。 もちろん他にもこの二人のように長生きしている老人もいるが片手で数える程度しかもういない。 老衰したか、罪の意識に潰されたか、ただ単に百竜夜行が怖くて逃げたか、どれかしらだろう。

 

そうして人間も沢山が死んだ。 後方で釜を炊いていた女子達はそこそこ生きてたらしいがどれだけが残っていたとかは分からない。 多分フゲンさん達は知っているだろうがそれを聞こうとは思わない。 聞いたところで意味はないからだ。

 

過去は過去として、今を考える。

 

百竜夜行は回数を重ねるごとに険しくなる。

 

次の百竜夜行はどこまで凌げるか?

 

最近はヒノエが調子を崩していたりとカムラの里の疲弊を感じる。

 

あまり楽観的にいられないところまで来ているのだ。

 

 

 

「よいっ……しょぉぉお!」

 

 

セイウンスカイが大きな武器を振り下ろす。

 

やはりウマ娘(馬人族)だからか馬力が違う。

 

 

 

「やはりウマ娘パワーは凄いな。 そんな簡単に大剣振りまわされたらハンターの立場ないぞ」

 

「いやいや、重たくは感じるよ? セイちゃんは体が小さい方なので振りまわされないようにするのは難しい限りですよ」

 

「でもセイウンスカイはこれまでの経験を積んで体幹はしっかり鍛えられて来たから、大剣のようにシンプルな武器なら使えるよ」

 

「それにしては何故だかこの大剣はセイちゃんの手に良く馴染むのですよね。 でも握るなら釣竿の方が握るの好きですけど」

 

 

 

そう言って片手で振り回すセイウンスカイ。

 

古代文字が刻まれた深い緑色と黒色の大剣。

 

あの緊急クエストから回収した大型の武器。

 

恐暴竜の頭骨を真っ二つにした龍属性の刃。

 

 

 

「でもこのエピタフプレート、本当に良かったの?」

 

「それの持ち主はもうこの世に居なくて、その人のオトモアイルーも前線を降りたことで完全に所有者が消えたんだ。 普通ならギルドが預かる流れになるが、ギルドマネージャーが俺に受け取らないか?と提案して来たので、疾く二つの返事で了承した」

 

 

 

クエストに出たハンターが先で殺されて、そのハンターの武器や武具だけが残り、所持者が無くなる話は珍しく別に無い。

 

前回の緊急クエストがまさにそれであり、回収したエピタフプレートの行方はギルドに委ねられたが、ギルドマネージャーは俺に譲ると提案した。

 

正直これには驚いた。

 

俺としてはエピタフプレートは緊急クエストとして張り出すレベルでギルドが回収したい最重要候補の認識だったので、回収後は誰かに譲るなんて考えはまず無かった。

 

しかしギルドマネージャーは回収"だけ"は完了したので、回収物のそれ以降の扱いに対して特に判断は無かったらしい。

 

ただ"緊急クエスト"として出したのは古龍のオオナズチが出たからと、不届き者がエピタフプレートに手を出させないようにするため、緊急クエストと言う形で警告を出して一時的にギルドの管理下に置いた。 そうすれば誰も手を出さないだろうから。

 

そもそもギルドからしたら水没林からエピタフプレートが無くなればギルドは万歳だった話で、エピタフプレートの行方は二の次だった。

 

その後はカムラの里にエピタフプレートは委ねられて、カムラの里のギルドマネージャーは俺に「受け取るならコレは譲るゲコ」と話が舞い込んだ。

 

何故俺に? そう尋ねたらまず俺が上位ハンターなので信用できる人物として託せる判断。

 

あと俺はユクモ村からカムラの里に異動した事で下位ハンターの状態が長く続き、上位の昇格が先延ばしにされてしまった話はギルドマネージャーも知っていた。

 

評価されるべき人物が評価されない事は大変よろしく無いと言う事でギルドマネージャーは俺のHRを繰り上げて、昇格報酬としてエピタフプレートを渡された流れだ。

 

しかしまさか自分で回収した武器が自分のモノになるなんて考えもしなかった。

 

それでも回収ハンターしていると、ごく稀に自分で回収した武具などをそのまま貰い受ける話はある。

 

俺も一度だけその経験はある。 過去に回収したガンランスをそのまま貰うハメになったが、断った。 俺としてはまずガンランスをうまく扱うこが出来ないし、普通に回収ハンターとして担ぐには不適合だった。 そもそも武器自体は既に間に合ってた。 貰ったところで腐ってしまうため、それを嫌がって受け取りを拒否した経験がある。

 

 

では今回受け取った大剣はどうだろうか?

 

 

ぶっちゃけると微妙なところだ。

 

大剣に関しては戦闘スタイルは大きく変わるが、扱えないことは無いない。

 

しかし回収ハンターしてる以上は大剣のような重たい武器は持ち運びたく無い。

 

片手剣か双剣、またはライトボウガン程度の身軽な武装にしたいところだ。

 

仮にモンスターを討伐するにも俺は太刀を使うので武器の火力に困っていない。 そもそもナルガクルガ亜種の太刀が非常に強いので、この太刀の代えとなる代物はそうそう無いと思ってる。 あと手に馴染んでることを考えたらコレを手放すことは無い。

 

そうなると俺に大剣は必要としない回答になる。

 

 

 

そう、俺には…だ。

 

 

 

「すぅぅ……うりゃぁぁあ!!」

 

 

 

セイウンスカイは力一杯溜めて振り下ろし、ドスンと音が響き渡る。

 

大男に負けないような大ぶりから放たれた大剣を見て、少しだけ冷や汗を感じる。

 

振り下ろした大剣を握りながら腰に力を入れて、体を捻りながらその場で回転斬りを行う。

 

遠心力を利用してそのまま背中に納刀すると、その場から即座に駆け出して、ウマ娘の脚で回り込むと再び抜刀斬りを行う。

 

 

「器用だな」

 

「で、しょ…っ!!」

 

 

基本的な大剣の使い方。

 

ウマ娘の馬力で行なっているセイウンスカイのことを大剣使いのハンターだと周りに言っても騙せるかもしれない。

 

 

 

「武器、振れてるじゃないか」

 

「不思議と…ね」

 

 

 

ウマ娘は戦えない生き物だと言う。

 

 

その認識は間違っていない。

 

 

半分ほどは。

 

 

馬は戦わずに駆ける生き物であり、武器を持って命のやり取りを行わない。

 

しかし彼女は馬でもある以前に人でもあるため、戦うための知識と能力は備わっている。

 

料理包丁は料理のための包丁だが、生き物の首を掻っ切ることは可能だと考えれるほどに、ウマ娘にも人と同じ脳がある。 だからその気になれば彼女達は武器を振るうことも可能だろう。

 

 

しかしそこに馬としての性質が邪魔する。

 

理性が闘争に対して拒否反応を起こすのだ。

 

 

武器を握ると手が震えたり、頭痛を起こしたりするようで、たとえ武器を握れたとしても命を刈り取る動作に吐き気を催すなど精神的に苦しみ出してしまう。

 

 

だからウマ娘は戦える生き物ではない。

 

そう言われている。

 

 

けれど勘違いをしてはならない。

 

彼女達は戦う能力が皆無ではない。

 

 

そもそも逆だ。

 

 

俺は三女神から見せられた。

 

 

馬人族としての(たが)が外れた場合、理性を失った野生の如く、振るう手や足は人間の如く、その力は殺戮を繰り広げれるほどに恐ろしい生き物なんだと理解した。 なんなら子供の馬人族ですら人間の大人の腑を素手で引き摺り出して殺す様を見た。 彼女達はそのくらいの力を持っている。

 

 

馬としての(こわ)さ。

人としての(つよ)さ。

 

 

両立された高等な生き物。

 

 

でも恐れるな。

 

 

恐れを第一とするな。

 

 

馬人族は……いや、女性の馬人族(ウマ娘)は基本的に穏やかだ。

とても健気で温厚で、献身的な力添えは頼もしいに尽きるだろう。

 

馬として脚で助け、人として寄り添う。

 

身も心も美しい生き物だ。

 

無意味に手のひらを血で染めない。

 

欲に溺れるだけの人とは違う。

 

 

だから見誤るな。

 

彼女達はただの馬ではない。

 

馬のように強い、人なんだと。

 

愚かな人間よりも、己を理解してる高貴な生き物なんだと、俺たち人間は認識しなければならない。

 

俺たちは、俺たちよりも強い彼女達に助けられている側なのだから。

 

 

 

「その大剣は切り札だ。 イビルジョーの頭すら一撃で破壊してしまう高い龍属性の能力を秘めた大型の刃だ。 俺も使うし、セイウンスカイも使う。 良いね?」

 

「ほーい、しっかり手に馴染ませておくね。 何せ…手札は多い方が良いからね」

 

「そうだ。 その時のウマ娘パワーは頼りにしてる」

 

「でも、そうなったとしても出来るかな? セイちゃん、いざその時が来たら震えて何も出来ないかもよ? そうなると賭けに近いでしょ? ウマ娘パワーに感心してくれるのは正直嬉しいけど、でもウマ娘にその方面を求めるのはハイリスクだよ」

 

「でも今の君は爆破投げクナイで攻撃してるだろ? その時点で期待値は高い方だから、その心配事はもう遅いと思うよ」

 

「うっ……た、たしかに…」

 

「君は攻撃を覚えた。 立ち回りを覚えた。 戦いを覚えた。 ハンター視点からしたら生存力の中に戦闘力も注げた者として立派に思うよ。 しかも俺の愛バはそれを両立できるスペックを持ち合わせているんだと思うと、とても誇らしい」

 

「!!…… ピ、ピロ、ピロリン! セイちゃんに対する好感度が上がりました…が、既に限界まで満たしてました。 …てへ!」

 

「なに言ってんだ、このウマ娘」

 

「ブー!ブー! 今のでセイちゃんの好感度が一つ下がりました…が、アマグモ補正で下がりませんでした! ピロピロリーン! やったね!」

 

「なーに言ってだこのウマ娘は!」

 

「ゃ、ぁ、い、いきなり撫でないでよぉ」

 

 

__マーベラスァァァス!!

 

 

 

再び真上から聞こえる奇声と共に尻尾ブンブンのセイウンスカイと戯れながらも俺は考える。

 

 

いきなりだがこんな話を一つ。

 

これはどうしようもない噂程度だが、とある地方には悪魔のように強いアイルーが存在するとか、なんとか。

 

通称、悪魔猫なんて言われるオトモアイルーなのだが、仮に存在してそいつは戦闘能力が桁外れに高く、古龍するも凌駕するその強さはベテランハンターも腰を抜かすレベルらしい。 まぁ、神の悪戯で無ければそんなアイルーは存在しない笑えない夢物語なのだが、ウマ娘はそれに近い存在と化すだろう。

 

 

人間と同等の知識を持ち、人間よりも力のあるウマ娘に武器を握らせ、戦いの知識を注ぎ込む。

 

ハンターのお株を奪うような強さを得らせるソレは正気の沙汰で無い、そう思うだろう。

 

力のない人間からしたらそう思う。

 

俺なら彼女達をそう見てしまう。

 

その矛先を間違えれば人間は50年前のように容易く葬られてしまう。

 

 

 

だが、実のところ、その認識はもう手遅れに近い。

 

その風潮は最初の頃だけであり、ウマ娘が現れて一年以上が経った今、その環境が変わっている。

 

 

 

何せ…

 

このカムラの里にソレは存在する。

 

闘争的に戦えるウマ娘は既にいた。

 

 

 

例えば、ナリタブライアンと言うウマ娘だ。

 

怪我が原因でライトボウガンに切り替えたナルガ装備の女性ハンターに付き添うウマ娘なのだが、作戦の"先行"中に現れたバギィを殴り倒して活路を開いた話は聞いたことある。 やってること勇ましいがウマ娘としては話を疑ったらしいが彼女にはそれが出来る力はあった。 性格が関係してるのか、馬としての性質より人としての意識が強いのだろう。 珍しいタイプだ。

 

 

しかしそれを言うならユクモ村にいるゴールドシップも怪しいところだ。

 

事故に近いが岩を落としてティガレックス亜種を倒した話を聞いた。 でも岩で押しつぶした程度でティガレックス亜種を倒せるだろうか? 俺は原種の討伐経験はあるが、亜種の討伐経験は無い。 正直に言えば何か隠してるとしか思えない。 なんだかんだで賢いアイツの事だ。 落石も計算の上で、何かを施したとしたらゴールドシップはティガレックス亜種を倒す手段を持ち合わせていたと言うことだ。 もしかしたらウマ娘の力を持って己の手でトドメを差した可能だってある。 しかし本人はそれを語らない。 真実は中村さんが一部管理しているゴルシ星の中だろう。

 

 

 

あと他にも グラスワンダー の事も聞いた。

 

しかし彼女の場合は相当無理したらしい。

 

仲の良いロンディーネから薙刀を貰ってアオアシラの片眼を切ったらしい。 彼女はウマ娘の中で特にハンター(トレーナー)の役に立ちたい思いがとても強く、戦闘面でも支えたい彼女だから思い切って薙刀でやったらしい。

しかし己で払った血飛沫を見て身が固まり、怒り狂って咆哮するアオアシラに対して脚がすくみ上がり、ハンターに助けられた話を聞いた。

口元を押さえて震えていたグラスワンダーの姿はとても痛々しかったと、直接グラスワンダーのハンターから聞いた。

想いの強さと、心の強さが釣り合わなかったグラスワンダーだが、彼女は間違いなく武器を握りしめて戦ったウマ娘だ。

 

 

 

 

あともう1人。

 

これは予想外と言うか、意外だった。

 

あの ライスシャワー もその一人。

 

マガイマガドが現れた百竜夜行の時にライスシャワーのハンターが怪我を負ってしまい、ライスシャワーは相当落ち込んだ。

仲間から励まされたのち自分を変えようと鬼神の如く意識は変わり「精神は肉体を超越する…」と呟きながら翡葉の砦の周回コースを何時間も走り込み、ハンターの怪我が治るまで何日も続けて、そのハンターが復帰してからは時折眼の色を青炎に変えて腰の短剣で小型モンスターを切り裂いてたらしい。

今はハンターから止められてライスシャワーは落ち着いたようだが、想いの強さは相当なものだ。

応える生き物の意味を間違えたようにライスシャワーは他のウマ娘よりも狩りの中でハンターに応えたウマ娘だ。

 

 

 

あと実際に目の当たりにしたウマ娘もいる。

 

3日前の事だ。 それはツインターボ。

 

ユタカのウマ娘でありネコ・パンチの片手剣を装備していた。 盾が無いので装備してるのは剣だけだろうがアレで斬りつけて麻痺状態で支援してたことを考えると相当無茶させる。

見たところツインターボは"逃げ"を得意とする馬なのに武器を持たせている辺りユタカはうまいこと叩き込んだようだ。 でもツインターボを見るとすごく健気でユタカに寄り添っていた。

彼女も応えたい生き物としてなのかユタカのオーダーを熟そうとギラギラしている。 ユタカ好みなウマ娘だ。 優秀なメジロ家のウマ娘を差し置いてツインターボが選ばれた理由がわかった気がする。

 

 

 

そして、もう1人。

 

俺の愛バであるセイウンスカイ。

 

ツインターボのそれが最後の引き金になったのかセイウンスカイまでもが今日、武器を握り始めた。 今日この訓練所で大剣を振るっているのは俺の提案なのだが、セイウンスカイの希望もあった。 でも歯切れ悪く言うものだからこちらから「使ってみよう」と提案してセイウンスカイに大剣を握らせた。

尻尾を見たら元気になったから、彼女が望んでいた状態に恵まれて張り切っている。 俺としてはほんの少し複雑だけど、でも彼女の力は必要だ。

 

 

ウマ娘としての強さ。

 

セイウンスカイとしての能力。

 

厳しくなる現状を打破するための手段はいくらでも作り上げる。

 

大剣エピタフプレートもその一つだ。

 

 

 

 

「セイウンスカイ、練習は終わりにしよう」

 

「まって、もう少し、握らせて…!」

 

「いや、それ以上は危ない」

 

「っ…嫌だ、もう少しだけ…!」

 

 

 

ただ、ほんの少しだけムキになって(掛かって)いる。

 

 

いや、焦るようにも見える。

 

でもこれ以上は意味がない。

 

 

 

「セイウンスカイ、俺はしばらくクエストが降りてこない。 ギルドマネージャーからそう言われてる。 だから明日もやろう」

 

「……」

 

 

頭をポンポンと叩いて落ち着かせる。

 

少し必死過ぎたことを理解したのか彼女は呼吸して「わかった」と頷いた。

 

これ以上握らせないようにエピタフプレートを代わりに背負って訓練所を後にする。

 

 

 

「ごめんね。 セイちゃん、柄になく少しだけ必死になりました…」

 

「別に良いよ。 応えようとしてくれたんだろ? 俺はすごく嬉しいよ。 でも今日は終わりにして、あとは夜ご飯までゆっくりしよう。 セイウンスカイと一緒にお昼寝したいし」

 

「!! …にゃはは、ではでは、そうしますか! ふむふむ、なるほど…では! アマグモにはこのもふもふの尻尾を抱き枕にする権利をこのスカイがあげましょう」

 

 

「もう!何真似してるのよ!」

 

 

 

入れ違うように訓練所に入ってきたキングヘイローに文句を言われて一足先に船に走り去るセイウンスカイを追いかけた。

 

フンと呆れたように鼻息を立てて奥に進むキングヘイローだが…

 

彼女のその腰には…

 

 

 

「カムラの剣か」

 

 

 

大きめの片手剣を持っていた。

 

彼女もまた、環境と共に変わり始めている。

 

 

 

 

「やよい、変わっちまうかもな…」

 

 

 

ウマ娘は駆けるだけの存在…と、言うのは時代遅れが来ているのだろうか?

 

 

それとも彼女たちは自然と過去に戻りつつあるのだろうか?

 

 

本当の名に戻ろうとしてるのか?

 

ウマ娘ではない、馬人族として。

 

寄り添う事は無い、強い生き物として。

 

 

けれど…

 

 

 

「俺に止める権利は無いよな…」

 

「?」

 

「何でもないキングヘイロー、怪我すんなよ」

 

「あら、私は一流よ。 この程度どうってことないわ」

 

 

 

また一人変わりつつある、その背中を見送る。

 

相手がキングヘイローだからでは無い。

 

 

人間に、それを止める権利は元からない。

 

選ぶのは彼女達で…

 

 

受け止めるのは俺たち、人間なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人分の小さな檜風呂。

 

それを二人で入ると溜めた湯が溢れる。

 

可憐な彼女の体がより密着する時間だ。

 

 

 

「慣れないことをすると疲れるですなぁ」

 

「普段使わない筋力を使ってるからな」

 

「ならばしっかりセイちゃんのことを労わってもらいましょう」

 

「よーし、よーし、セイウンスカイちゃんは、良い仔、良い仔、ですよ〜」

 

「ちょわ!? なんか危険な香りがする!」

 

「ワタクシ、優等生ですから」

 

「バクシン的な回答で誤魔化されないセイちゃんですよ」

 

 

 

ちゃぷちゃぷ、と動き出すセイウンスカイを押さえつけながら訓練所のことを振り返る。

 

やはりウマ娘パワーはすごかった。

 

大タル爆弾を軽々と持ち上げてしまうほどだから大剣くらい容易く持ち上げるとは前から思っていたけど、大剣を握らせて、扱い方を教えればもう既に板につくような出来栄え。

 

 

大剣はそう難しい武器じゃ無いがセイウンスカイの技術力が高いためそこまで教えることはなかった。

 

なんだかんだで俺の難しいオーダーによく応えてくれるウマ娘に育ったから大剣程度彼女にしては棒を振り回す感じだろうか?

 

少し気張り過ぎていたので頭撫でくりまわして戯れたりしつつコントロールしたが、それでもうちに秘めた想いと必死さは大きかった。

 

でもそこをコントロールするのがトレーナーの役割であり、武器に心身を振り回されぬようよ扱いを教えるのはハンターの役割だ。

 

 

「キングヘイローもだけど、ウマ娘たちは武器を手に取り始めていたね」

 

「気づいてたか」

 

「まぁね。 でもスズカさんやスペちゃんのような基本的に穏やかな子は無いと思うかな」

 

 

あ げ ま せ ん ! ! は、空想の中だけなのでたしかにスペシャルウィークは武器を握るような子ではないだろう。 ニンジンを握りしめながらランニングする少し変わった子だが。

 

 

「でもそれ以外は武器を握ると思うよ。 多分それも大勢。 元ある闘争心が戦いに向くか、駆けることに向くかのどちらか。 そして種族が存在意義を超えた時かな…」

 

「『応えたい』って事か」

 

「うん。 わたしも最弱だったから武器は握るつもりは無かった。 一生走るだけだと思ってた。 でも、アマグモの役に立ちたい気持ちがね、何よりも勝る。 そうしていればこの劣等感だって拭える気がするから」

 

「それは”最初”だけだろ? 今は違う」

 

「最初…? 今? ……ふーん、それってつまり知ってたんだ、アマグモは」

 

「??………あ、そう言うことか」

 

「わたしの因子継承、知ってたんだね?」

 

「まぁ…ウマ娘の秘境に居たらな? 俺が一族である事と、連れてきた愛バがセイウンスカイだと言う事と、やよいとは従姉弟である事が合わさったら、そりゃもう色々と聞いてないことまで聞いてしまったよ」

 

「なら、そんな私をどう思ってる?」

 

「どうも思ってない。 なんなら今のセイウンスカイはシンボリルドルフを超えたと思ってる。 流石に統率力の高さはシンボリルドルフの最大の武器で、コレに関しては誰も真似できないと思うけど、それ以外は君に勝るウマ娘は居ないと思ってる」

 

「それは言い過ぎじゃないかな? 比較対象が大きいと求められる量が多くなるからセイちゃん的にはやや控えめでも良いんですけどね」

 

「負けず嫌いが何を言うか」

 

「自分に言い訳をして負けたくないだけ。 別に何かで劣ることも、それは良いと思ってる。 なんだったら全てが凌駕していることを良いとは思わない。 でも存在意義だけは手放したくない。 全てで負けたら、何に頑張れば良いのか分からないから…」

 

「…」

 

「アマグモがわたしのターフ(存在意義)を作ってくれたからわたしは困らないんだよ。 今はもう因子継承の劣等感は無くて、わたしはアマグモの愛バとして作り上げられた。 わたしは強くなれたよ」

 

 

 

彼女は湯気を眺める。

 

消える湯気と違ってあの頃の絶望感は無いから。

 

彼女は安心したように全て預けて湯船の中で息を吐く。

 

 

 

 

「大剣、軽かったよ…」

 

「?」

 

 

 

声の色が、一段階だけ変わる。

 

 

 

「あなたに比べたら、軽いよ」

 

「それは、物理的な話?」

 

「それだったら大剣の方が重たい。 わたしが言いたいのは貴方に【応える】ことが出来ると思うとこの脚は軽い。 でもそれは脚だけじゃない。 腕もなんだ。 不思議と力が漲ってしまう。 なんでも出来てしまいそうで、少し怖いくらい…」

 

 

 

何度だって言う。

 

ウマ娘は応える生き物…

 

または【応えたい生き物】だ。

 

セイウンスカイはその生き物として、誰よりも先を走っているから、他の誰にも出来ないことをやってしまう。

 

 

俺が、そうしてしまった。

 

 

 

「すごく嬉しいよ、アマグモ。 わたしはね? すごく嬉しくてたまらないんだよ。 またナニカであなたの役に立てる。 弱かったわたしがここまで出来る。 溺れないで済むんだよ。 でも溺れるよ。 アマグモで満たされてしまうから」

 

 

 

まるで恍惚に染められた吐息の如く、彼女は今日を述べる。

 

湯船に反射するセイウンスカイの目が一瞬だけ濁ったような気がした。

 

気づけば耳が、てしてし、さわさわ、つんつん、頬を叩いたり、撫でたり、突いたり、一人分の檜風呂の中で彼女の独占欲が始まる。

 

すると彼女のお腹に回していたこちらの手を掴み取ると、少しずつ上に持ち上げられる。

 

 

 

「ふふっ、アマグモの手、大きいなぁ…」

 

 

 

彼女はこちらの手を取って確かめる。

 

その指先を口元に持ち込み……口に加える。

 

 

 

「んー、ちゅぱっ…」

 

「!」

 

 

 

くすぐったくて思わず身を震わしてしまう。

 

 

人差し指と中指が唇に触れ、舌で舐められ、湯船の中の体温がさらに高まる感覚。

 

 

しばらく耐えていると指先を啜るの止めた彼女はその手を下に持っていく。

 

彼女の胸元辺りで静止して…

 

 

 

「んっ…」

 

 

 

心臓の音が良く伝わる部分に触れた。

 

 

手のひらに柔らかな感触が広がる。

 

 

膨らみかけの彼女の胸の手のひらに収まった。

 

 

 

「んっ、ぁは……はんっ……あはっ…」

 

 

 

幸福感と共に漏れ出す恍惚とした吐息。

 

こちらの手の甲に、彼女の手が重なり、指の間に隙間なく彼女の指で埋もれる。

 

彼女はしっかりこちらの手を胸に押し付けることで、その心臓の高鳴りと、異性として(さが)を擽らせようとする悪戯心、この体を貪らせようと誘い、貪りたくて収まらないその独占欲は、触れている彼女の胸の奥で弾ける鼓動がよく伝わる。

 

 

 

「んんッ、ぁ…私は、アマグモを独占する、からぁ、アマグモもぉ、私を独占してよぉ、してぇ、よ…」

 

 

 

力強いようで、甘く溶かすような蠱惑な声。

 

痺れを切らしたように彼女は湯船の中で体の向きを変えて、互いに見合う。

 

頬を両手で支えられて、強引に瞳の奥を見せつけさせる。

 

青雲が情欲に濁った色だ。

 

 

 

「はぁ…はぁ……この脚も、体も、存在も、全部あなたにあげるから、ここまで私を作り上げたのはアマグモだよ。 もう全部君のなんだよ。 でも染めた責任は取らせるから、わたしがあなたに」

 

 

 

彼女は重なり合う手に頬擦りする。

 

その度に湯船が揺れて、彼女は()れる。

 

 

 

「あなたの雨雲は私のもの、私だけがそれを独占する。 私だけを潤して…」

 

 

 

 

青雲と言えども。

 

曇る時は曇り。

 

濁るときは濁る。

 

 

晴れてるからこそ悪天候に染まる前触れの天気。

 

 

 

晴れのち雨。

 

 

お互いにそうやって、何度もお互いを染めてきた。

 

 

だから別に珍しい事ではなかった。

 

 

 

情欲も…

 

肉欲も…

 

独占欲も…

 

 

青雲広がる全てを、受け止めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うまぴょいしたんですね?」

 

 

「ミークは黙っとれ」

 

 

 

早起きしてしまった。

 

朝チュンってこういう事なんだろうか?

 

と、言うか、うまぴょいってやはりこの意味なんだろうか? もっと健全な言葉だと思っていたんだけど、実際どんな意味なんだろうか?

 

絶対この意味に限ってる話ではないと思うが、最近そんな風潮で反応に困る始末だ。 まだうさ団子食べてるオグリの「美味ぴょい」の意味の方が宜しい。

 

 

 

「とりあえずおはよう、ハッピーミーク」

 

「…」

 

「………ハッピーミーク?」

 

「……黙っとれ、と、言われたので」

 

「お前良い性格してんなぁ」

 

「それほどでも。 何せ全てに適正ありますから」

 

「この場面だと必要な情報なのか判断に困るなオイ」

 

 

 

ブイっと指でどこか満足そうに返された。

 

実はこの子大人しそうに見えて意地悪な性格なのでは?

 

 

 

「それより早起きだなハッピーミーク。 それと君のトレーナーの名は確か…アオイだっけ? まだ寝てるのか?」

 

「ぐっすり寝てます。 まだまだひよっこの新人ハンターさんなので毎日が大変みたいです。 あと、極度の人見知りさんなのでいずれ訪れる婚期を逃さないかと心配です」

 

「いやまだ早いからな? 心配には早いからな?ミーク?」

 

「時期的にはまだ、逃げ馬」

 

「……いや、待て、それ意味履き違えると終わってるからな?」

 

「では、先行」

 

「新人故にまだ最前線(先行)は早いかな、と」

 

「なら、差しで…いや、わたしがトレーナーを追い込みます」

 

「実はアオイの事嫌いだろ?」

 

「そんな事は無いです。 ウマ娘のことをいつも考えてくれるトレーナーには感謝してます。 しかしそれとは別としてトレーナーは元々争いに向かない人です。 だから百竜夜行を終わらせたらトレーナーにはハンターを辞めて貰おうと考えてます」

 

「そうなのか?」

 

「はい。 だからアマグモさん、あなたの力で百竜夜行の収束に向かいましょう。 そのためにわたしも力を惜しみませんから」

 

「ああ、もちろんだ。 ハッピーミークだけじゃない、皆の力を頼りにしている」

 

「ブイ」

 

 

 

 

 

今日は晴れ。

 

朝日が綺麗な晴れ。

 

 

だからこそ、恐ろしい。

 

嵐の前の静けさだろうか…?

 

もっと穏やかに過ごせる筈なのに…

 

ざわつきが止まらない。

 

 

 

 

「あれはヒノエ…か?」

 

「??」

 

 

彼女も早起きしたのだろうか?

 

しかし、どこか足つきがおかしい。

 

 

 

「__」

 

 

 

何かブツブツと述べながら、フラフラと川に向かう。

 

ヒノエの後をつけた俺とハッピーミーク。

 

その後ろ姿はどこか普通じゃない。

 

すると空を見上げて、何かを語る。

 

 

 

「__対よ、対よ」

 

 

 

「う、浮いた…!?」

 

「おお」

 

 

不思議な人だと思ってたけどあんな能力を持っていた…なんて事はない。

 

あれは異常だ。

 

様子がおかしすぎる。

 

止めようと駆け出そうした時だ。

 

ヒノエは力なく落ちて地面に倒れた。

 

 

 

「ヒノエ!」

 

「っ、わたし、人を呼んできます」

 

 

俺はヒノエの元に駆け出し、ハッピーミークは人を呼びに戻る。

 

彼女の肩を揺らして声をかける。

 

しばらくすると目を覚ました…が、何かに怯えるようにヒノエは口を開いた。

 

 

 

「何かが、まもなく、何かが…」

 

 

 

 

 

尋常じゃない緊張感に包まれる。

 

それは間違いなく百竜夜行だと理解する。

 

 

何せここはカムラの里。

 

業を背負わされた残酷な宴の会場だから。

 

 

 

つづく




気分が乗りすぎて1万文字超えとかこの作者頭がうまぴょいですよ。
しっとりするとなかなか天候晴れないんだもん。
ちかたないね。
「浴場で欲情する……フフッ…」
(エアグルーヴのやる気が下がった▽)


さて、ウマ娘は"戦えない生き物"と設定で薄ら引きずってきましたが、厳密には戦えない(事はない)生き物ってだけで、武器を握らせれば馬人族としてその力は絶大です。
でもそうするきっかけは命を『賭ける』ハンターがいる事であり、命を駆けるウマ娘の『駆ける』対象が変わり、トレーナー(ハンター)に影響されることでウマ娘は命の賭け合いに変わります……的な感じ。
ウマ娘の『応える生き物』はここまで大きく揺れ動く。
過去に人間が馬人族を怒らせて殲滅されたように、ウマ娘は人間次第でなんとでも『応えて』しまうからね。

本当は怖い、ウマ娘。


ではまた

ところで【モンハンストーリーズ2】はどうですか?

  • 購入した(逃げ)
  • 購入予定(先行)
  • 買わない(差し)
  • お金ない(追い)
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