オトモの枠にウマ娘があるとしたら[凍結]   作:つヴぁるnet

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モンハンの小説なのになんでこのタグ入れてなかったんだろう…?



第24話

 

 

__グモ…!

 

 

 

 

 

__マ_グモ…!

 

 

 

 

 

__マグ__モ…!!

 

 

 

 

 

「アマグモ!! しっかりして!!」

 

 

「はっ!!? 」

 

 

 

愛バの声で目覚める。

 

そこには心底心配したような顔でこちらを覗くセイウンスカイと、その他のウマ娘達。

 

 

 

ああ、そうだ。

 

 

俺は今…

 

百竜夜行と戦っている途中だ…!!

 

 

「ぐっ、いまの衝撃はなんだった…! っ、あと焦げ臭い…」

 

 

 

鎮火した後なのか、身につけているバギィ装備から焦げた臭いがする。

 

嫌な目覚めだがそれと共に思い出す。

 

 

俺はリオレウスを操竜していて、落ち着き始めたモンスターの波にトドメを刺そうとした時だ。

 

暴風に巻き込まれて、それで…

 

 

そうだ、真上だ。

 

真上に何か通過したんだ。

 

 

それで上昇気流が発生して、リオレウスが火炎放射を吐き散らしながらバランスを崩して、それで火炎に巻き込まれながら下に墜落したんだった。

 

確か、あのモンスターは…

 

 

 

 

 

禍群の息吹が荒れ狂う時に来たれし古龍_

 

__風神竜イブシマキヒコ

 

 

 

 

「あの古龍、本陣に向かったのか!」

 

「アマグモどうする? 向かうの?」

 

 

 

向かう?

 

いや、駄目だ。

 

俺はこの場のリーダーとして任されている。

 

離れる事は出来ない。

 

それに…

 

 

「もしかしたらまだモンスターが続いて来る可能性がある…っ、皆は警戒体制に入れ! 後続が追ってくるかもしれない!」

 

 

ウマ娘達に緊張が走る。

 

既に第三波を凌いだところであるが、回数重ねられた今回の百竜夜行は油断できない。

 

モンスターの球数的には減ったと思う…それでもやはり油断はできない。

 

それに今本陣にイブシマキヒコがいるとしたら、そこへ更にモンスターを向かわせると大混戦となって一気に崩壊する可能性がある。

 

なら俺たちはここでモンスターを足止めして、それで分断する……?

 

 

いや、違う。

 

 

 

「セイウンスカイ、戦闘用の持ってきて」

 

「!」

 

「後続からモンスターが来る可能性は高い。 だが球数的に考えたらそう多く無いはず。 けれど本陣にモンスターを向かわせる事はできない。 なら…」

 

「後続のモンスターはここで討つ…?」

 

「ああ。 それしか無い」

 

「わかった。 あと…アレも持ってくるから」

 

 

 

それだけ言葉を挟むとセイウンスカイは急ぎ足でベースキャンプに戻る。

 

俺は彼女の後ろ姿を見送りながら現状確認のために周りを見渡した。

 

 

今回参加したウマ娘達と、ハンター達。

 

皆これまでの百竜夜行を凌いできた猛者ばかりだが、最初の頃に比べたら3分の2かそれ以下の数しかいない。

 

怪我を負って離脱したウマ娘、今も生死を彷徨ってカムラの里で倒れているハンターもいる。

 

人的資源は多いとは言えない現状だがこのメンバーでやるしか無い。

 

短距離のウマ娘はしんどいと思うが、中距離と長距離のウマ娘に頼り続けるのも負担が大きすぎる。

 

うまくバランス分けして第四波となって来るだろう新たな夜行を凌がないとならない。

 

来たるモンスターは多く無いと思うがこちらもそれ相応に疲弊している。

 

ここからが正念場だ…

 

 

 

「2人はまだ動けるか?」

 

 

「問題ないぜ! まだ驀進できる…だろ!!」

 

「はぁ…はぁ…と、当然です! はぁ…っ、わ、私も! まだ、まだ! 驀進可能…で、あります! よ!」

 

 

「問題ないよ、まだ行けるね」

 

「お、お兄様、あまり無茶しないで下さい。 そうじゃないとライス…また…ッ」

 

 

 

アケノシルム装備のランスハンターと、フルフル装備の操虫棍ハンターはそれぞれ返事する。

 

この2人は百竜夜行時によく組むメンバーであり、関門を通り抜けさせる前の内周エリアでウマ娘と共にモンスターを引き付ける役割を果たしている。

 

特にこのハンター達は操竜を得意としてくれるハンターであり、なんなら片方の操虫棍ハンターの方は腕自慢が集う砂漠の街バルバレから来たハンターであり、モンスターに乗る事は得意としてるとか。 扱っている操虫棍は元々そのための武器なのでモンスターに乗る事自体は得意としてるようだ。

 

あとランスハンターも化け物じみた肺活量で、足の速さを除けばサクラバクシンオーと同じ距離を装備したまま全力で走れるとか。 かと言って分断するための内周コースをランスハンターが走る訳じゃ無いが持続性の高いそのフィジカル性はこのエリアを担当するに適任と言える。

 

どちらもこのエリアを任せれる能力を持った頼もしいハンターだ。

 

 

 

「っ! 見てください! フクズクが!」

 

「なに!? 警戒状態!まさかモンスターが!?」

 

 

 

空を見る。

 

赤い粉を振りまきながら右回りで飛ぶフクズクだ。

 

モンスターが現れるサインであり、場の緊張感が一気に走る。

 

俺はウマ娘達に指示を出してその場から動かすと、操虫棍ハンターは千里眼の薬を飲んで猟虫を空に羽ばたかせる。

 

すると羽ばたいた猟虫はフラフラとして、とある方向に向かおうとしていた。

 

まるで、何かに、惹かれるように…

 

 

 

「?………っ、まさか!!」

 

 

 

操虫棍ハンターは叫ぶ。

 

そして俺もなんとなく理解した。

 

虫が惹かれる要素はまずフェロモン。

 

だが狩猟のために飼いなされた猟虫は違う。

 

操虫棍のフェロモンを宿主として覚えているため離れることは無い。

 

 

だが、虫としての性質は誤魔化せない。

 

その性質を強引に狂わせるような物は何か?

 

それはフェロモンでは無い。

 

 

あるとしたら、それは…

 

 

 

「ジンオウガが来ます!!」

 

 

 

フルフルのフードをガバッと脱いで空高く大きく警告する。

 

それを聞いて場の緊張感が一気に走った。

 

 

 

「「!」」

 

 

 

奥から地面を踏みしめる足音。

 

並ではない強烈な威圧感。

 

 

そして、ジンオウガを象徴する光…

 

だが、その色は 白 ではなく 金色 だった。

 

なにより猟虫すら引き寄せてしまう光の強さ。

 

 

この時点で原種じゃないことを理解する。

 

夜闇の奥から目を金色に輝かせた獣がいる。

 

その姿を晒した。

 

 

 

「ゴオオォォオオオンンッッ!!」

 

 

 

毛は濁ったように汚れており、胴体は真っ黒に染められ、眼光は幾たびの激戦を超えた眼差しを備える。

 

咆哮と共にあたり一面に雷が走った。

 

 

原種でも無く、まだ見たことない亜種でも無く、また希少種でもなく、名だけ聞いたことある二つ名のモンスターでは無い。

 

 

どのジンオウガよりも君臨しようとする姿。

 

 

俺は知っている。

 

 

 

あれは ____ ヌシ だ。

 

 

 

 

「ヌシ・ジンオウガ…!!」

 

 

 

 

 

セイウンスカイと出会う前の事だ。

 

俺はカムラの里に来たばかりの頃に大社跡でヌシ・タマミツネを見たことがある。

 

最初はそれを『ヌシ』とは思わなかったし、そもそもユクモ村でタマミツネ自体あまり見たことなかったのでソレが亜種なのか?

それとも禍々しいその姿で原種なのか?

 

その判断に困っていた。

 

だが観察しているともう一体乱入してきたタマミツネが現れてからそれはハッキリと分かった。

 

乱入したタマミツネの方が原種であり、それはまだ可愛い位だと…

 

縄張り争いはヌシが圧倒的であり、その戦い方や性質は明らかに原種を超えていた。

 

のちにフゲンさんから数ある激闘を超えてきたモンスターの中にヌシと言われる存在がいることを知った。

 

それがヌシ・タマミツネと知った日であり、ヌシと評されるモンスターは原種や亜種または希少種よりも異質な存在であり、危険性はソレとは別物だと知った。

 

 

なら、目の前にいるヌシ・ジンオウガは…?

 

元から高い危険度に、ヌシだと言えるなら…

 

 

 

アオオオオオオン!!

 

 

 

原種を超えたようなけたたましいバウンドボイス。

 

まだ耳を塞いで俺たちは防げるが、耳の良すぎるウマ娘にとってそれは致命的だ。

 

 

 

「ぁ、ぁぁ、ぁぁ…」

 

 

 

そして、それだけ膝を崩す者がいた。

 

 

 

「バクシンオー!」

 

 

 

いつもこの内周コースを先陣として走るサクラバクシンオーはそれを目の当たりにしてしまった。

 

作戦の『逃げ』を得意とするウマ娘はモンスターのプレッシャーを背中に感じることで恐怖心を強走心に変えて駆ける力に変える。

 

特に独走心の高い性格やその個性を持つウマ娘がこの能力を抱える。

 

なのでこの場合でもバウンドボイスからも『逃げ』ることが出来るので耳を塞いで縮こまるような事はない。

 

しかし、そのプレッシャーや咆哮を背中から感じず、それを真正面から受け止めた場合どうなるのか?

 

 

差し馬に刺されたように独走心は決壊する。

 

逃げれなくなったサクラバクシンオーは膝から崩れ、恐怖で硬直して、ヌシ・ジンオウガから視線が外せない。

 

その恐怖を永遠と眺めていた。

 

 

 

ああ、思い出すとも。

 

セイウンスカイだって同じ事が起きた。

 

あの大社跡でラージャンとリオレウスの縄張り争いを目の当たりにして恐怖で硬直したんだ。 自分の役割を忘れ、逃げることも出来なくなり、涙すら流して崩れ落ちそうになった。 その脚は速く、心は激しく、しかしそれらは脆く、崩れるに容易い。

 

逃げ馬は力を発揮する時、それはどのウマ娘よりも驀進的だが、デリケートである。

 

 

では、そのウマ娘が崩れたとしたら支えるべきトレーナーとしてどうするべきか?

 

いや、俺たちはハンターだから、こうする。

 

 

 

「閃光玉、行くぞ!!」

 

 

まだバウンドボイスによる耳鳴りが治らないが閃光玉を高く掲げて周りに知らせると投げる。

 

ランスハンターは閃光を理解したのか盾を構えてサクラバクシンオーの視界を守り、またヌシ・ジンオウガから視界を遮った。

 

なるほど、よくわかるっている。

 

真正面から受けるプレッシャーは視覚認識から始まる。

 

伝わる威圧感は仕方ないにしろ、それは仲間が共にいる心強さで打ち消せば良い。

 

ランスハンターはしっかりサクラバクシンオーを愛バにしてるわけだ。

 

 

「しっかりしろ! おれが付いているぞ! バクシンオー!!」

 

「ぁ…はっ、はい…」

 

「大丈夫だ! お前はおれと同じ優秀! そして優秀はウマ娘! 立て! その背中を仲間達に示すんだろ!」

 

「ッッ、バ、バクッ…シン…!」

 

「驀進だ! 驀進だ! 大驀進だ!!」

 

「ゥ、ゥゥ! ッ、バ、バクシーィィン!!」

 

 

 

立ち直りが早い。

 

彼は間違いなくサクラバクシンオーのトレーナーであることを今の一連で知らせてくれる。

 

そしてサクラバクシンオーは喝を入れながら立ち上がりポケットに手を入れる。 まだ恐怖心が残り震えが治らないバクシンオーだがその眼は『応える』で沢山だった。 短くも疾く駆ける意志の強さを瞳に変えて、ポケットからエンエンクのフェロモンを取り出すとそれを自分に振り撒く。

 

その間に俺と操虫棍ハンターは閃光玉で目が眩んでいるヌシ・ジンオウガに攻撃を加えるが…

 

 

「コイツ! 普通の肉質じゃ無いな!」

 

「くっ、操虫の消耗が激しいか! っ、エキスが上手く取れません! 自分では難しそうです!」

 

 

オデッセイブレイドは切れ味が良い方なのでヌシ・ジンオウガに斬撃は通せたが、それでもあまり手応えを感じない。

 

操虫棍ハンターの操虫もエキスの回収がうまく出来ないようで戦闘力の強化が見込めなかった。

 

それでもまだ手段はある。

 

 

 

「あんた確かフルフルの操虫棍だったな! だったら雷属性だろ! ならこれを使え!」

 

「!?」

 

 

とある砥石を投げ渡した。

 

 

「俺の元相棒から貰った砥石型の電気石だ! それを打ちつけるように砥げ! 属性が大幅に解放されるはず!」

 

「しかし奴は雷の弱点では…ッ、いや、エキスさえ抽出できれば…! これはありがたく頂きます!」

 

 

 

操虫棍ハンターは一度宙に舞うと壁に張り付いてもう一度飛翔、身を隠すに充分な崖に隠れて研ぎ始める。

 

ヌシ・ジンオウガは目眩し状態から立ち直ると俺よりもサクラバクシンオーに注目した。

 

エンエンクのフェロモンに引き寄せられたようだ。

 

 

「このわたくし! 膝は垂れても(こうべ)は垂れません! 常に前を行き! 皆の模範となるのですから!! さぁ!来なさい!モンスター!! バッックシィィィン!!」

 

 

「ゴオオォォオン!!!」

 

 

 

サクラバクシンオーは地面を蹴る。

 

体が一瞬だけブレて、風を置き去りにする様に走り出す。

 

 

 

「はやッ!?」

 

「それでこそおれの驀進だ!! 行け! バクシンオー!!頼んだぞ!!」

 

 

「バクシン!!バクシィィィン!!!」

 

 

 

ヌシ・ジンオウガはその姿を逃すまいと追いかけるがあのサクラバクシンオーの足を捕まえる事はできないだろう。

 

だがサクラバクシンオーも疲弊してる状態で正直心配なのだが、ここまでやり遂げてきたウマ娘だ。 上手いこと別のウマ娘にバトンタッチするだろう。

 

だがヌシ・ジンオウガのその脚力を見て冷や汗が流れる。

 

 

原種以上の筋力を感じる。

 

あの体格と運動性から放たれる攻撃は真正面から受けることができない。

 

また皮膚の硬さは原種より少し硬いくらいで別に斬り込めない事はない。

 

しかし激戦を超えてきたことで培ってきた勘の良さ、純粋な戦闘能力の高さとジンオウガってモンスターであることがマッチして凶悪だ。

 

 

だが、それでも"ジンオウガ"だ。

 

四足歩行だ。

 

やりようはある筈だ。

 

 

 

「さて、どうする?」

 

 

倒すか? それとも凌ぐか?

 

空のフクズクを見る。

 

今のところ追群はアレ以外無いみたいだ。

 

そしてサクラバクシンオーを始めとしてウマ娘達が体制を整えるために時間を稼いでいる。

 

このまま夜行が終わる夜明けを待つか?

 

いや、本陣で今戦っているだろうイブシマキヒコを討伐したとしても、ヌシ・ジンオウガがここから退く補償は無い。

 

それにアレはヌシと言うくらいだ。

 

理性を失ったように夜行を組むモンスター達とは訳が違うに決まってる。

 

なら倒すしか無いのか…

 

 

 

「セイウンスカイがヌシを倒すための武器を持ってくれる。 うまくアイツを足止めしてソレを叩き込めば戦況は変わる」

 

「待て、それはどれほどの武器だ?」

 

「イビルジョーの頭骨を両断できると言ったらどうする?」

 

「大剣か!それは頼もしい! だがそのためにはどうする?」

 

「関門前のバリスタのエリアを使う。 まだ拘束弾がまだあった筈だ。 ソレを使う」

 

「罠は使うか?」

 

「ヌシは戦闘経験盛んだから罠に対して強い。 だが拘束弾の経験は無い筈だ。 なんなら徹甲榴弾で目眩を誘ってもいい。 とりあえずほんの数秒でも良い、足止めさえすれば好機は見える」

 

 

 

大翔蟲を使って関門前に移動する。

 

バリスタで身構えている里人に作戦を伝えた。

 

 

 

「こ、拘束弾ですね。 はい、丁度この場にあります。 しかしそうなると、あのジンオウガの足止めは…」

 

「もちろん俺たちハンターがやる。 君たち里人は拘束弾でジンオウガを束縛して、もしダメだったら場合のことを考えて徹甲榴弾も備えろ。 それでもダメなら銅羅で合図してペイントの実の煙幕弾で視界を奪え。 その時は次を考える」

 

「わ、わかりました! 早速準備を! …ウイニングチケット! 徹甲榴弾だけは奥だ! 持ってきてくれ!」

 

「うぉぉぉおん! わがだぁよぉぉお! ぜっだいに皆んなでがどうねぇぇぇえ!!」

 

 

何故か泣き喚きながら走り出す彼女を見送りながらその場を降りる。

 

関門近くで控えていたウマ娘2人を見つけて指示を出す。

 

マヤノトップガンとトウカイテイオー、2人もこの百竜夜行を乗り越えてきた猛者達だ。

 

しかし既に走っている2人であり、トウカイテイオーに関しては息が上がっている。

 

マヤノトップガンに頼るべきか…

 

 

「ボ、ボクも行けるよ!」

 

「無茶はダメだ」

 

「いや! ボクは分かるよ! あのモンスターはすごく早かった! なら特段足の速いウマ娘で無ければ危険だってことも! だったら足ならボクが誰よりも速い! ボクは行ける大丈夫だから走らせて! トレーナー達のために!」

 

 

 

たしかにトウカイテイオーは速い。 カムラの里にいるウマ娘の中で上位クラスだろう。 その脚は頼りになるが、もう一走させて良いのか?

 

しかし、ヌシ・ジンオウガを考える。

 

アレは間違い無く強い。 だがそこに耐えれるプレッシャーと走力は今ここにいるトウカイテイオーであり、その上バリスタの射程圏内に入るまでのラストスパートでヌシ・ジンオウガの追走から一気に切り離せる脚はこのトウカイテイオーくらいだろう。 これほどの大事な役割を背負わせれるのはこのウマ娘くらいだ。

 

 

「なら、ここからショートカットして第3コーナで待機して、関門からスタートするマヤノトップガンからバトンタッチを受けてここまで戻ってくるんだ。 誤射を避けるためにもバリスタの射程圏内から8馬身以上は切り離すんだ」

 

「まかせてよ! ボクは無敵のテイオーだぞ!」

 

 

頼もしい限りだ。

 

トウカイテイオーに頷いて作戦を決行する。

 

 

 

「マヤノ、また後でね!」

 

「わかった! テイオーちゃん、また後で!」

 

 

トウカイテイオーは床扉を開けて潜るとその地下を使って第3コーナまでショートカットする。

 

マヤノトップガンもトウカイテイオーを見送ると足首を捻りながらヌシ・ジンオウガを待ち構えて…

 

奥から来た。

 

 

 

「アグネスタキオン! マヤノトップガンと交代だ!」

 

 

「!? …ふゥん、そういうことか! これは興味深いねェ!」

 

 

バリスタに装填する拘束弾の姿と、崖上で待ち構える操虫棍ハンターとランスハンター、何より開く気のない関門を見て理解したようだ。

 

残った脚を使ってアグネスタキオンは一気にラストスパートを掛ける。

 

マヤノトップガンもアグネスタキオンに並走してエンエンクのフェロモンが混ぜられた護石を引き継ぐとアグネスタキオンは横に切り返して姿を隠す。

 

ヌシ・ジンオウガはエンエンクのフェロモンに夢中なのかマヤノトップガンの追走を開始。

 

 

「言っとくけど! マヤに夢中になっていいのは私のトレーナーちゃんだけだからね!」

 

 

緊張感を交えながらも余裕の表情で走るマヤノトップガン。

 

それにしても、まだ息切れしないのかあのジンオウガは…恐ろしい。

 

 

「……ウマ娘、様様だな」

 

 

この内周コースはモンスターの波を分断するために使われているが、そこにウマ娘が居なかったと思うと…いや、考えたく無いな。

 

もちろんガルクを使う手もあるが人間並みに言葉を交わさて意思疎通できる彼女達はとても貴重だ。

 

お陰で作戦を編み出しやすい。

 

 

ああ、本当に…助かるよ。 ウマ娘!!

 

 

「アマグモ!!」

 

「来たか! セイウンスカイ!」

 

 

大剣のエピタフプレートと太刀の裏月影を持ってきてくれたセイウンスカイだが、何故かニシノフラワーも隣にいて、その両手に何かを持っていた。

 

 

「あの、アマグモさん、コレを」

 

「!」

 

「この太刀を使うならこの装備だとセイウンスカイさんが言ってたので。 あとこの護石も」

 

「そうか、ありがとう。 すぐに着替える」

 

「いえ。 よろしくおねが……きゃ!」

「ちょっと、アマグモ〜??」

 

 

リオレウスの操竜から落下時に軽く燃えてしまったバギィ装備をその場で外す。

 

するとニシノフラワーは赤くなる顔を両手で隠して後ろを振り向いてしまう。

 

少しやらかしたか…

 

見慣れているセイウンスカイはややジト目でこちらを見て俺は申し訳なさそうにニシノフラワーに一言謝罪して武具を受け取り、急いで装備する。

 

帯の腰を締め終えるとオデッセイブレイドをニシノフラワーに渡して、壁に立てかけていた太刀を背負い、最後に大きめの三度傘の帽子を被って顎紐を引っ張った。

 

 

「ひィィィ! だ、だだ、大凶が来ました! それも超が付く、大大大凶が来ましたよ!!」

 

「!」

 

 

"差し"としてアイテム補充に回っていたマチカネフクキタルもやってきたが、いつも通り情けない声を上げながら耳をピーンと立てて怯え始める。

 

俺は震えるマチカネフクキタルから閃光玉を貰い、この場が激戦区になることを告げる。

ニシノフラワーとマチカネフクキタルに撤収するように告げると2人は急いで走り去った。

 

セイウンスカイとアイコンタクトを取り合うと彼女はエピタフプレートを背負いながら外層の石階段を駆け上がり、俺は鬼人薬と硬化薬を飲み干す。

 

鞘に手をかけて息を吸って集中力を高めた。

 

薬のお陰で心臓が強く鼓動して、体に血が良く流れる。

 

頭も冴え渡り、剣崎まで意識が届くようだ。

 

 

「!」

 

 

遠くからはトウカイテイオーの姿だ。

 

走る距離が半周分とは言え第三波も乗り越えて疲労はある。

 

だが彼女は全力だ。

 

 

 

「ッッ、ぉぉぉおッッ!!」

 

 

 

早い。

 

疾いッ。

 

速いではないか。

 

第四コーナーから 帝王 が駆ける。

 

貯めた脚爆発させたような速さ。

 

まるで飛ぶように駆けるその足捌き。

 

ヌシ・ジンオウガを10馬身と切り離していた。

 

 

背に感じるプレッシャーは半端ないはず。

 

しかしあのジンオウガに対して小さな子供がその足で置いていく。

 

やはりウマ娘はすごい。

 

 

「来る!」

「来たぞ!」

「狙いを定めろッッ!」

「気炎万丈ッ!」

 

 

それぞれが覚悟を決める。

 

 

武器を構え、バリスタを握り、皆が見据える。

 

 

余裕をもって拘束弾を狙える現状下、あと数メートルで拘束弾の射程圏内に入る。

 

 

そこからヌシ・ジンオウガを討つために最後の全身全霊が始まる…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______ え …」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞こえてしまう。

 

 

小さな歪みが大きく割れる音。

 

 

帝王の足からそれは__響いた。

 

 

 

 

 

「ぁ……」

 

 

 

 

溢れ落ちるように声をこぼし…

 

その脚は走りを拒むように減速する。

 

 

 

「「「「「!!!??」」」」」

 

 

皆が見て理解した。

 

トウカイテイオーは故障が発生した。

 

速い脚を代償に、それは訪れてしまった。

 

 

「拘束弾を放てェェ!!」

 

「は、放ちます!」

 

 

苦渋の決断だが里人は拘束弾を放つ。

 

しかし普通のバリスタ砲と違く、拘束弾は普段よりも射程が短い。

 

射程圏内に入ってないがトウカイテイオーを助けるためにトリガー引き、向かい側の里人もトリガーを引いた。

 

威力や効果は半減するが当たればある程度の拘束は見込める。

 

その間にトウカイテイオーを援護しようとした、が…しかし。

 

勢いを無くした拘束弾に気づいたヌシ・ジンオウガはそれを回避すると、尻尾で振り払い、しかも雷がその場に走り、トウカイテイオーの右足を掠めた。

 

 

 

「ぐぅぁぁぁッ…!!」

 

 

 

「「「テイオー!!!」」」

 

 

追い討ちをかけるように脚を痛めたテイオーはその場で崩れるように転がる。

 

しかしその柔軟性な体でなんとか受け身を取り、即座に腰から閃光玉を取り出してヌシ・ジンオウガを見据える。

 

 

「まだだ、ボクは…っ!!」

 

 

 

額から流れ始める血。

 

痛みで震える脚。

 

荒い呼吸。

 

しかし、その眼は諦めを知らない。

 

 

 

 

 

 

だが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グ ゥ ゥ ゥ ゥ ウ ア オ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ン ン ン ! ! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ぁ… 」

 

 

 

 

 

 

 

 

その闘争心すら掻き消すような咆哮がトウカイテイオーを塗りつぶした。

 

 

金色に輝く雷獣竜(らいろうりゅう)は走る脚を止めてしまったウマ娘を狙う。

 

 

無敵の筈だったウマ娘はその咆哮を聞いて悟った。

 

 

 

 

 

「ボク、は__」

 

 

 

 

 

無敵の帝王伝説は終わるんだと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やらせない…ッッ!」

 

 

「!!」

 

 

刹那__眼を蒼く妖しく光らせるウマ娘が飛び出す。

 

黒く塗装されているヤツカタギの素材を使われた装備を身につけたそのウマ娘は刃の青い短剣をヌシ・ジンオウガの首へねじ込むように突き刺し、その勢いで壁に殴り飛ばした。

 

 

「ガァァァ!?」

 

 

 

ヌシ・ジンオウガは壁に打ち付けられて悲鳴をあげる。

 

反応はできなかった。

 

 

 

「まさか!」

 

 

長い追走ゆえに集中力が切れていたのだろうが、飛び出したウマ娘のソレは極限的に済まされた太刀使いハンターと同等かそれ以上の突破力で、ヌシ・ジンオウガは反応出来なかった。

 

プレッシャーはプレッシャーで塗りつぶし、柔よく剛を制する如く、しなやかに力でねじ伏せるような鋭さ、その完璧な間合いは"先行"作を使う者に相応しく、全身が洗礼に編み出されている様は、見惚れるほどに理想的である。

 

 

そして…過去の産物が、血筋が、真実が、それを手助けしたことも俺は理解する。

 

 

 

 

「この百竜夜行が終わったらね、皆が幸せになるの。 だから皆を祝福する幸せの花として…」

 

 

 

 

__ライスは届けるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

強者であるほどに、強者に成り得る素質を持つ者たしかにいる。

 

そこに全霊を注げる者のみが許された領域。

 

武器を握りしめた彼女は間違いなくソレだ。

 

 

 

「あぁ…ウマ娘はやはり、そうなるの、か」

 

 

不幸も、幸運も、色々が重なり合う。

 

 

ウマ娘は戦いの中で駆け過ぎたんだ。

 

そして思い出すようにその力を見せた。

 

皆は強くて戦ったウマ娘として映るだろう。

 

 

 

でも俺は違う。

 

今の俺の眼に映るのはウマ娘ではない。

 

 

あれは__馬人族 だ。

 

戦い知っている 強い生き物 だ。

 

 

 

 

「怪我人、もとい怪我馬の救出モードに入ります。 脇を失礼します」

 

「うわっ!」

「あ、ミホノブルボンさん!」

 

「逃走形態に移行、バリスタ発射距離まで8馬身、97%の安全性を持って直損加速、行きます」

 

「うわわわわ!!」

「あ! わ、わたしも!」

 

 

いつの間にかトウカイテイオーの救出に割り込んだミホノブルボンと、その姿を見ていつもの表情に戻ったライスシャワーは「ついてくついてく」して、バリスタの射程圏内から逃れる。

 

ヌシ・ジンオウガはよろけながらも追いかけ始める。

 

 

 

「ッ、小細工なしの激闘か! やってやる!」

 

「行け! 猟虫!」

 

 

こうなった以上は関係ない。

 

持てる力で倒すまで。

 

ランスハンターと操虫棍ハンターはヌシ・ジンオウガに飛びかかり、ミホノブルボンの追跡を遮らせようと武器を振るう。

 

俺も三度傘を被り直しながら背中の太刀に手を添えて駆け出した。

 

 

その時にライスシャワー、ミホノブルボンとすれ違い、両手に抱えられていたトウカイテイオーと目が合う。

 

その眼は悔しさと、情けなさ。

 

なにより申し訳なさが物語っていた。

 

 

 

 

__ごめんなさい…

 

 

 

 

消えるように吐き出された気がした。

 

 

でも、それを責めるつもりもない。

 

人間のために命を()けてくれたその脚に敬意があるから、俺は彼女の頑張りを否定しない。

 

 

だから…

 

 

 

 

「ありがとう、テイオー」

 

 

 

 

それだけを残して裏月影を抜刀する。

 

 

若葉の香り漂わせる ユクモ装備 と共にヌシ・ジンオウガに向けて…

 

俺も…

 

 

__命を()けることにした。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 




作者的にヌシ系はジンオウガが一番難しいイメージ。
マルチすると大体事故る。


ちなみにライスシャワーだけじゃなく、本陣(翡葉の砦)ではナリタブライアンやグラスワンダー、キングヘイローも何かしら起こしてます。

本当は怖いウマ娘…


ではまた

単体で戦うヌシ系の中で特に辛かったのは?

  • アオアシラ
  • タマミツネ
  • ジンオウガ
  • リオレイア
  • リオレウス
  • ディアブロス
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