オトモの枠にウマ娘があるとしたら[凍結] 作:つヴぁるnet
エンエンクって環境生物はご存知だろうか?
俺たちハンターでは『地獄への切符』と言われている。
エンエンクの振り撒くフェロモンは惹きつける効果がある。 例えばハンターがエンエンクのフェロモンを纏い、その状態でモンスターに接敵などを起こしてエンエンクのフェロモンを擦り付ける。 そうなるとモンスターは一目散にそのハンター目掛けて追いかけるようになるので、これを利用して別のエリアなどに誘き寄せて移動させるのだ。 もしうまくいけば他のモンスターと衝突させて戦わせることも可能である。
しかし人間の何倍も早いモンスターだ。
ただの脚では簡単に追いつかれてしまう。 その場合は翔蟲またはガルクを使って移動力を増やすのだが、追われてしまう立場ってのはそう甘く無い。 アオアシラやクルルヤックのような中型サイズのモンスターならともかく、ボルボロスよりも大きなモンスター相手に背中を向けて追いかけっこなど自殺行為も良いところだ。
そもそも大型モンスターと戦う時は基本的に重装備であり、突然ながら強固な鱗を貫くために大剣やランス、ヘヴィボウガンの様な重たいものを頼りにする事が多い。 しかしそのような重量でガルクに乗ったとしても疾走できるだろうか? むしろ失踪してしまい、共にモンスターの餌食となってしまう。
歴戦練磨を乗り越えて鍛え抜かれたガルクなら背に乗せるハンターが重装備だろうと逃げ延びるくらいは可能だろが、そもそもエンエンクを使ってまでモンスターに小細工を仕掛けるハンターなどあまりいない。 万が一追いつかれてその背中を食いちぎられてしまいなど、モンスターに対して背を向けて死んだハンターは死後も恥だ。 このようなリスクを負ってまでハンターはエンエンクを使うことはない。 だからエンエンクを好んで使うハンターはモンスターと闘争を描きたい狂人くらいだろう。
しかし意図的じゃ無いにしろエンエンクでの事故も存在する。 例えば足元にいたエンエンクに気づかず、誤って刺激してフェロモンを纏い、モンスターに狙われて殺されてしまったハンターが存在する。 だからエンエンクの生息範囲を理解してクエストを熟すならばその事故は防げるだろう…が、その事を気にしてまでクエストを果たすハンターは居ない。 大型モンスターに喰われぬよう必死なのだから、例えそこにエンエンクがいたとしてもそれは不運または事故でしか無い。
可愛らしい顔に見合わず、その真っ白な毛並みは血染めとなってしまう地獄の切符である。
だからエンエンクはハンターの中で一番恐れられている環境生物だ。
しかし、それを使う事で輝く存在がいる。
それは…
「スカイ! 気をつけろよ!」
「にゃはは〜、大丈夫だよ!このニャンコは任せて!」
ウマ娘の脚はモンスターに引けを取らない。
追いかけても、追いつかない。
逃げが得意ウマ娘なら飛竜すらも逃げれる。
その力があるならばエンエンクが誘う地獄のキップも関係ないだろう。
だからここ最近のエンエンクの評価はウマ娘がいることで変わった。
特に"逃げ"や"先行"が得意なウマ娘がパートナーならばこれほど頼もしいことはあるだろうか?
むしろモンスターを惹きつけるための脚を使い、逃げることで輝くウマ娘にはエンエンクが必要不可欠である。 そう言わせるくらいにウマ娘と環境生物のエンエンクは相性が非常に高かった。 同じ速さで駆けるだろうガルクでもエンエンクを使った誘導や囮は可能であるが、やはり言葉を交わして意識を伝え合い、状況判断を任せる事が可能なウマ娘は違う。
「ニャンコとは言うけどナルガから背を向けて逃げるなんて正気の沙汰では無い。 ウマ娘だから出来るけど…いや、理解してても見慣れないなありゃ」
ナルガクルガはモンスターだけど、ハンターのハンターでもある。 そのしなやかさは迅竜と言われる程に早い。 そして影の暗殺者とも言われている。 その眼はギラギラと鋭くて獲物を逃がさない。 耳はキリキリと動いて微かな音も拾う。 尻尾はギザギザで良く伸びて敵を轢き潰す。 翼はザクザクと大木すら切り裂いてしまう暗殺のブレード。 そんな暗殺者と夜のフィールドで戦ってみろ。 並程度のハンターなら1分も保たずに殺されてしまうぞ。
「逃げに徹するセイウンスカイは速いけど、ナルガ相手は流石に心配だ。 けれど信じよう。 ウマ娘である彼女の足を。 それに……」
__アオォォォン!!!
「今日はジンオウガが彷徨いている。 ソイツにぶつけてしまえばいい話だ」
俺は回収班の一人としていつも通り、クエストリタイアしたハンターの紛失物を探す。 エリア8で手際良く武器が隠れやすそうなポイントを光蟲で照らして不自然な茂みなどをかき分ける。 ナルガクルガが去った事で出てきたジャグラスが俺を見て威嚇するが構ってあげるつもりはない。 投げナイフで追い払い、最後のポイントを探すと…
「うわ…!? ガ、ガンランスが真っ二つじゃ無いか……さすがナルガクルガだな。 これすら簡単に刻んでしまうのかあのモンスター」
「おー、すごいねー」
「ふぁ!? …え? セ、セイウンスカイ? 早いな…」
「にゃはは、驚いた〜? あのワンワンもニャンコの気配を感じたのか彼方からやってきてね。 私も閃光玉でくらませてから離脱して押し付けてきた。 今頃暴れてるよ」
「そうか。 しかし手際良くなった? 頼もしいよ」
「アマグモの真似をしただけだよ〜? でも危険極まりないよね。 だからもうアマグモがそんな危険を背負わないように私が助けないとダメだよね? だから、また任せてよ」
「ああ、頼りにしてる」
「むふふ〜ん」
怪我も何もなくて安心した。 俺は火薬の詰まった方のガンランスを持ち上げ、セイウンスカイは刃が付いてる方を持ち上げる。 それをベースキャンプに運ぶためエリア6に進むと…
「あら?」
「!」
「にゃぁ?」
「ガルル…」
「おやおや、これは〜」
「!」
白色と薄い緑色に塗装されたタマミツネの素材を使った装衣を着こなす赤毛のウマ娘と、そのトレーナーであるカムラの里一番と言われた太刀使いのハンター。 あとオトモアイルーとオトモガルクを率いたカムラの里を代表する御一行様。
「サイレンススズカと"ケシキ"か」
「先輩、久しぶりです」
「ケシキ、俺のことは先輩と言わなくて良い。 先輩だったのは最初の1週間でもうお前は一人前だ。 今はカムラの里の為に肩を並べるハンター同士なんだ。 その太刀と共に里の命運を背負え」
「はい」
「私も一緒に背負います」
「そうか! とても頼もしいよスズカ!」
「い、いえ…! そ、それほどでも…」
「おお〜、これは熱いお二人だね〜」
「ス、スカイさん!? べ、別にそんなことは…ないですから!」
「え? 熱い? いや、今日は涼しいと思うが…スズカ、熱いのか? あ、もしかして風邪か!?」
「ふぇ!? い、いえ、大丈夫ですよ! わ、わたしは元気です! ええと…ケ、ケシキさん、行きましょう! モンスターを見失う前に!」
「おお! そうだな! では先輩、また! 行くぞみんな! 気炎万丈ォォ!」
「やれやれ、旦那さんも相変わらずだニャ…」
「わん? …わん!!」
ケシキはガルクに乗って走り出し、スズカとアイルーも併走する。
またたくまに消え去った。
…
いや、待て…
「まさかジンオウガとナルガクルガを同時に狩猟するのかアイツ?」
「片方が狩猟対象だけど、恐らく同時にやりそうだね。 あと一般ではああ言うのを化け物って言うんだよね?」
「そうだな。 それを証拠に装備や武器を外して本気出して走ればハルウララすら追い抜いてしまい、エルコンドルパサーとの
「にゃはは〜、他にあげるなら福引ではあのマチカネフクキタルよりも引き運が良くて、マヤノよりも感が鋭く、あのナリタブライアンには腕相撲で勝ってしまう。 あとシンボリルドルフやエアグルーヴの威圧感すら物ともしない。 もう、あげるとキリがないあの人はぶっちゃけ化け物だよね」
「うん、間違いないな。 だからケシキに先輩って呼ばれるのもなんかこう怖い気がする」
「でもアマグモが色々教えたんだよね?」
「ウツシ教官の代わりを務めるときに太刀の使い方を教えた程度だ。 あと利用価値の高い環境生物の使い方。 関わりとしては役1週間程度で、そこから先はオトモを雇用するともうメキメキと伸びて、スズカのトレーナーになると更に伸び始めた。 もう百竜夜行と戦う為に生まれたカムラのハンターだ。 まるで物語に出てくる主人公の様な奴だよ」
「ふーん……アマグモはそんな彼が羨ましい?」
「いや別に? まぁ、あの強さは羨ましいけど、その分色々と強いられるだろ? 水中に直接潜って魚を捕まえるより、釣り糸垂らして捕まえる程度が俺は好き」
「うんうん! それだよね! やはり釣りは良いよ。 時の流れに任せて自由に釣りをする方が良い。 いや〜、アマグモは良くわかってるな」
>気炎万丈ォォォォオオ!!!
「あ、勝ったな」
「うん、これは勝ったね〜」
この声が聞こえたらもう気にすることもない。
ケシキをサポートするオトモのアイルーとガルクも強くて、何よりサイレンススズカが付いている。
それこそナルガクルガやジンオウガはニャンコやワンワンにされてしまうだろう。
心配することもなくベースキャンプに到着した。
クエストクリアしたがまだ時間はお昼頃。
朝早くからクエストに出たのでお日さまは真上でお元気だ。
♢
「来たな、ハンター?」
「はい、来ました」
クエストの報告を終えると先に帰ったセイウンスカイと別れて俺は加工屋のハモンさんの元までやってきた。 ハンターが加工屋を尋ねたら目的は一つだ。 そしてハモンさんもその日店を開けた1番目の客である俺の武器の加工依頼を昼過ぎ頃に終えていた。 相変わらずの予定通りの腕前に感心しつつ、ハモンさんから新たな武器が受け取る。
「タマミツネから採取した"泡立つ滑液"を強化素材として闘士の剣から鍛えて上げた『オデッセイブレイド』の片手剣だ。 一度握って確かめてみろ」
ハモンさんからオデッセイブレイドを授かる。
青色に鮮やかな刃は闘士の剣の面影を見せる。
しかしグラシスメタルで更に鋭さと切れ味を高めた逸品は、水属性の斬撃を持ち合わせており、硬い肉質を持つモンスターを簡単に斬り裂いてしまうだろう。 盾もグラシスメタルの素材が使われていて、かなり頑丈だ。 闘士の剣よりも圧倒的に使い勝手と性能が高くなっている。
「重さも前と同じだ。 ありがとうございます」
「うむ、問題ないな。 しかし定期的な手入れの際はタマミツネの滑液で剣の汚れを洗い落とす様にするんだ。 滑液で少量でかまわぬからそこは覚えておけ。 わかってると思うが武具の手入れは怠るな」
「わかりました、では」
「ああ、里を頼んだぞ。 ……まもなくだからな」
「!?」
そうか、もう間も無くなんだ。
たしかに周りを見たら店仕舞いを始めているところもある。
俺も一度帰って準備をしておこう。
「セイウンスカイ」
「うん、わかってるよ。 周りも騒がしいからね。 そうなると、今日の可能性も高いね」
「遅くても明日の夜中だが、それでも確実に始まる。 里のフクズクも騒がしいし、さっきシンボリルドルフもフゲンさんと忙しそうに走っていた。 仮に今日じゃなくても明日の昼頃からはもう百竜夜行に向けて始まるだろう。 ……だから、招集がかかる前に寝るか」
「おっと?」
「少しだけ眠い。 寝よう」
装備を置いて水で汗を流す。
軽く昼食を取ってからお茶を飲み、茶の間に座布団を敷いて寝転がった。
セイウンスカイも隣に転がり、ボーッと外を眺めながら仮眠に入る。
そのかわり俺もセイウンスカイも窓を開けて耳は立てる。
半分眠って半分起きている状態。
午前中の疲れを少しでも取れる様に心がけながらも、程よく緊張感を持って体を休める。
背筋に誰かの額がぶつかる。
「わたしが、あなたの青雲だ、から……スゥ…」
「………」
彼女の眠る速さには慣れたものだが、寝言が首筋をくすぐって仕方ない。 けど背中に感じる温度はたしかに一人じゃない。 今は彼女がいる。 だから百竜夜行が悪夢となって襲いかかっても青雲が晴らしてくれるだろう。
その頼もしさを感じながら眠り付き…
その数時間後……けたたましい鐘の音が里中に鳴り響く。
「!」
「!?」
目を覚ますと背中と首元の圧から解放された感覚と共を覚ました。
鐘の音がソレである事を確認すると意識が完全に覚める。
セイウンスカイも残りのお茶を飲み切ってしっかり目を覚ますと俺見てこう言った。
「アマグモ、始まるよ」
「ああ、行こうか、セイウンスカイ」
カムラの里に襲う悪夢のような宴。
百竜夜行の始まりだ。
つづく
夕方まで眠るくらいに余裕ある二人だが、もし互いに一人だけだったら眠らずに起きて奮わせていたと思うと、二人が共にいることで出来たお昼寝ですね。 あとオデッセイブレイドがどこまで振るうかな?
ではまた