さて諸君、開発だ。未来ある子供達に大いなる希望のあらん事を。
今もなお、初めて制作した宝珠型の女児向けおもちゃは改修が進んでいる。周囲に飛散する残存魔力を有効に使えれば、もっと派手な技が使えるのではないかと、新たな干渉式を模索中だ。
取り敢えずはその研究を続けていたのだが、今回は同業者から仕事の依頼が入った。女児向けを作ったのなら、男児向けも作るべきだと。
それはまさにその通りであるので、女児向けおもちゃで使った技術をベースに、新たなる分野へ挑戦しようと思う。
同業者から受け取ったのは、相変わらず趣味が多分に発揮されたスーツであった。
それは……前回以上に形容しがたい何かだった。ベースはよく伸びるゴムのような布。腕を通してみれば、ピッチリと肌に張り付く。
肩や肘の関節部にはプロテクターが付属しており、胸や背中などの急所にはよりゴツい装甲が貼ってあった。それは見ようによれば騎士の甲冑に見えなくもないが、より機動力を重視して作られているように思える。
相変わらず斬新であるものの、何か心の奥底を擽ってやまない魅力がある。乙女心があるなら男心もある、そんな男心を刺激する魅力的なデザインだった。
俺が小さい頃にこれに出会っていたのなら、これを着て無敵感に酔い痴れ、悪党どもを討伐しなければならない使命に駆られていただろう。このフルフェイスのヘルメットが、その衝動に拍車をかける。正体不明の秘密のヒーロー。なるほど、これは良いかもしれない。
早速このスーツをフルに活かす宝珠を作った。
この見た目にはベルトしかあり得ない。なのでベルト型の補助具をベースに、組み込むべき干渉式を選定する。
このスーツは見るからに空中にあるべきではない、地上において堂々と敵を討つべく存在するのが道理だろう。よしよし、良い感じにテンションが上がってきた。
装甲、プロテクター、呼び名は何でも良いが、これを軸に干渉式を組めば中々凝った作りになると思う。防殻はルキフゲ系統のビナー色を強めれば良いので、光や音を入れる干渉式との相性は保たれるだろう。
この防殻は、いわゆる紙風船だ。衝撃を受ければ光と音を伴って割れる。男児たるもの遊びも戦いなのだ、こうして勝敗が決まる要素も必要に違いない。
少し干渉式の相性は悪いが、身体強化術式と爆裂術式を彫り込んだ宝珠も用意する。これは俺の開発した新要素であり、他には類を見ない機構であると断言できる。なにせ元いた工房で密かに温め続けていたアイデアなのだから。
突然だが、宝珠をパワーアップするにあたって必要な要素は何か分かるだろうか。
干渉式のロスを少なくする、強大な魔力に耐えられる回路を作る、必要に応じた機能を取り付ける……そのどれもが正解であるし、あるとしても答えは無いのかもしれない。
だが馬鹿でも出来るパワーアップの方法がひとつだけある。それは宝珠を複数同時に使用する事だ。
これはもう、本当に誰でも思いつく理論だ。銃を2丁構えれば二倍の火力、人が2人いれば二倍の戦力、当たり前のようだが真理に近い答えだ。一つよりも二つの方がデカくて大きい。
だがそれが何にでも当て嵌まる訳では無い。むしろ当て嵌まらない事の方が多い。
銃を2丁構えれば装填や狙いが甘くなるし、2人いたとしても連携出来なければ個人と変わらない。一人で二つのと言うのは、いつの世も挫折と失敗を経験した要素なのだ。
ではそれを使うには、それらの要素をクリアしなければならないのだ。そして実用性に足るだけの理由が無ければならない。
二つの演算宝珠……これを同時に使うなどとても出来はしない。出来たとしても不安定過ぎて使える代物では無いだろう。ならば、その二つの演算宝珠を『連結』させるならどうだろうか。
同発で使おうとするから問題なのだ。二つ目の演算宝珠を一つ目の演算宝珠の後付けとして使用する。そうする事で一つのものに特化した演算宝珠がその場で出来上がると言う寸法だ。
このスーツに合わせて言うなら、モードチェンジが正しい言い方だろうか。身体強化に優れた起動型と、爆裂術式をそれぞれ使い分ける……。通常状態で普段の魔力を抑え、有事の時のみ全力で戦う。これがこのベルトのコンセプトだ。
同発ではなく連結というのは、かなり苦労した。そもそも魔法の核となる力の中心を二つ繋げるというのだから、その苦労は押して図るべし。相当な年数を費やしたものだ。
結果として行き着いたのは、魔法の核を半々に分けて入れ替える事。そうする事で核同士で一つの塊と魔法陣が誤認する。大昔のご先祖が悪魔同士を融合させるという、どう考えても馬鹿の発想が元だ。ちなみに融合召喚は成功したらしい。でなければこんな事をしないが。
ちなみに同発もこの方式で試したが、正直連結の方が遥かに効率がいい。同発は核同士を連結出来ず、外周同士を繋ぐ事しか出来ないのだが、それだと概算の30%ほど出力が落ちるのだ。
さて、この通常形態のベルトの宝珠は、三つの核に分けてある。それぞれの形態に変化する為だ。
そして他二つの宝珠はカード式にした。これをベルトに設けた挿入口に差し込んで横に回す事で、宝珠同士の連結が完了する。魔力の消費は上がるがその出力は端数を除いて約三倍だ。
これは子供達の魔力の暴走を防ぐ目的もある。まだ魔法に慣れないうちは通常形態で使用し、いざ暴走が起きた時は追加のカードを指して宝珠の容量を増やす。強制魔力排出が追いつかなかった時の為の安全機構だ。
逆にカードを指して暴走した場合は、カードに過剰な魔力を送って強制排出する。これなら暴走が起こっても、子供の近くで爆発する事も無いだろう。
更に今回は誓約を設けていない。子供が使うのもアリだが、個人的には世のお父さんが使って貰いたい一品だ。親から子へ、意思を受け継ぐ感じで渡すと尚良し。それを考慮して、どちらかというと大人向けに宝珠を組んである。
今回のは中々に大作であり、音や光などのノウハウは前回の宝珠で学んだ為に何とかなったが、この連結式はかなり手を焼いた。完成するのに一月半かかった。だからこそ感動もひとしおなのだが。
早速同業者に完成品を持って行く。試験者は引き続き元魔導師の男だった。
試験は……動作、機能共に問題なし。暴走状態でも問題なくセーフティーが作動し、使いやすさも前作と同じだった。
試験者の男は、これを大はしゃぎで使用。一作目より遥かに効率良く試験を終える事が出来た。やはりそうだろう、これは男を魅了してやまない何かがある。
そして勝手に決めポーズなどを決めて、格好付けた変身なんて物をやっていた。最初は痛々しいと苦笑いしていたのだが、その動作にキレと慣れが出てきた所でその考えを打ち切った。
これは使える。絶対に使える。
そうだな、この決めポーズを宝珠に保存しよう。いや、いっそ姿が変わる瞬間も何かしらの工夫を入れよう。一作目も同じような改良が可能だ。やらない道理はない。
カッコいい、そしてカワイイは永久不変の真理に相違ない。この胸の高鳴りと燻りは、きっと遥か未来の世界でも通用するだろう。あぁ、この感情はなんだろうか。あるいはこれを浪漫と言うのかもしれない。
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その日、俺は宝珠の試験場でとある話を耳にした。それはとある少尉の話。
曰く、その少尉は誰よりも幼く、まだ10にも満たない年齢でありながら軍に志願し、桁外れの戦績を上げているとかなんとか。
……そんな子供まで駆り出されるほど帝国は逼迫していたのかと愕然とする。戦争……賛否あるとはいえ、人が人である以上仕方なのない結末なのかもしれない。しかし子供が戦争に出た時点でその国はお終いだ。もう後が無いと叫んでいるようなものなのだから。
もう俺も、おもちゃだのなんだのと言えなくなっているのかもしれないな。せめて子供が戦線に出ても、死なないような宝珠を作れればいいのだが……。
いや、そうだな。作ってみるか。
まだまだ構想の段階だったけれども、丁度いい物が一つある。軍機に抵触してしまいそうな所は、おもちゃだと言い張ってしまえば何とかなるのでは? ……作る事自体は別に違法でも何でも無いからな。許可証持ってるし。
さっそく俺は宝珠の製作に取り掛かった。綿密な干渉式、完璧な効率、淀みなき魔力の流れ。今までの技術を結集した至高の宝珠……その試作品を。
俺は前回、連結式という新型宝珠の製作に成功した。それはそれで良いのだが、軍事に使うのであれば少し物足りないのでは無いだろうか。ならばやる事は一つ。出力を更に跳ね上げる事である。
連結式と言うのは、横に幅を持たせた宝珠になる。出力は宝珠二個分で、出来ることはカード式の宝珠の分広げることが出来る。例えばの話だが、戦闘用と日用品用のカードを作っておけば、宝珠の容量を気にすることなく増やすことが出来るのだ。
前回はそれをモードチェンジという形で実用化した。汎用性ならば連結式に軍配が上がるが、更なる出力となると直列式だろうか。……お父さんには有事の時以外は絶対に世に出すなと口酸っぱく言われた代物だが……。
昔は4連直列しか無理だったが、今なら6連は行ける。出力は……どうだろう? 単純に6乗になるのだろうか。4連の時は4乗だったが。
同発とも連結とも違う考え方……。それが直列式。同発と連結が『横』なら、これは『縦』に繋げる物。ざっくり言えば、宝珠の核の外を更に別の核で覆い、それを6層重ねるという事。
言われてみれば簡単な理屈だが、実際のところは様々な障害がある。そもそも宝珠は重ねるように出来ておらず、外周を接触させるだけでもかなり面倒な干渉式が必要だ。
ましてやそれで覆いつつ、外側の宝珠と接触させるなど考えられない事なのだ。それはお父さんもそう言っていたし、連結式の時ですら時代が変わるだなんて大袈裟な事を言っていた。
まぁだからなんだという話なのだが。つまり接触させずに宝珠を繋げればいい。それだけの話なのだ。
専門的な言葉を使うと面倒な説明になるので、ざっくり言ってしまうと、重ねた宝珠を一つの宝珠として仕立て上げたのだ。……これから細かく説明するが、概要はそんな感じである。面倒なら聞き流して貰って構わない。
話を簡単にする為に、宝珠Aと宝珠Bを用意しよう。宝珠Aには通常の干渉式を、宝珠Bには出力を増大させる干渉式を掘った物とする。そして宝珠Bの中に宝珠Aを埋め込むと、これが直列式の宝珠となるのだ。
こうすると宝珠Aに魔力が流れた後、宝珠Bに魔力が流れず、やがては爆発四散してしまう。かと言って宝珠Bに魔力を流しても、宝珠Bの出力しか得られない。
そこで宝珠Aの干渉式が、宝珠Bにも投射されるようにし、かつ魔力を別口で宝珠Bに行き渡るようにしたのだ。
わかりやすい例えだと……。そうだな、電球に模様のある布を被せると、その光は布の模様となって周囲に照らし出される。大体そんな感じだと思ってくれていい。
こうすると電球の光+影の模様というのが、電球の光だけで実現できる。今までは影の模様と電球の光を別々に作っていたような感じだ。
必要な魔力量は宝珠二個分……ではなく、一個分で済むのも魅力。この宝珠を外側から見た時、これは『一つの宝珠』でしかなく、宝珠Bに行き渡る魔力は宝珠Aを行き渡った後の魔力になるからだ。……多少の伝達ロスがあるので、厳密には一個分では無いかもしれないが、それでも大幅な改善になると思う。
つまり完成すればどれ程の演算能力になるか計り知れない。その分魔力を食う事になるだろうが、それでも通常の1.5倍程度で済むのでは無いだろうか。
攻撃系統の物を入れてしまうと軍機違反になりそうなので、単純に干渉波だけを放出する物にする。こっちの方が限界が分かりやすいというのもあるが。
頭の中に設計図は入っていたとは言え、今回はどれ程かかるだろうか……。まぁ、気長にやっていこう。焦ってもいい物は作れないのだし。