おもちゃ戦記   作:ひなあられ

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おもちゃ戦記6

「では新主任技師として、ハッター君を紹介しよう。彼の功績は皆知っての通りだ。今回、シューゲル元主任技師の位置に、彼を据え置く事となった」

「……あー……はい。紹介に与りました、ハッターという者です。よろしくお願いします」

「以降の指示は追って連絡する。では解散」

 

 

 どうしてこうなった……。

 

 俺はただ宝珠を作れてればそれで良いんだよ。メインストリートの外れにちっぽけな店。そこでちまちま宝珠を作ってる方がお似合いだ。

 

 それが今や研究者達と肩を並べて共同開発だって? 冗談も程々にしてほしい。絶対この人らの方が頭良いに決まってるでしょ……。何の嫌がらせなんですかねぇ……。

 

 まぁいいや。帝国の干渉式について、色々聞きたい事もあったし……。

 

 

「えーっと、早速ですが自己紹介も含めて、帝国の使う干渉式について質問させて貰っても良いですか?」

「構いませんとも。……あぁ、私はこのたび副主任となりました、ハインリッヒと申します」

「あぁ、貴方が副主任なんですね……。では私の職業なども理解されていると考えても?」

「ここにいる皆が貴方の事を知っておりますよ、三月うさぎ店の主人殿」

「そうだったんですか……。であればいくらか話しやすいですね……。なにぶん、産まれてこのかた、おもちゃの宝珠しか作った事がありませんから。戦争用の宝珠なんて、仕組みや用途が分からないのも多々あって混乱していたんですよ……」

「それはそれは……。であればお任せ下さい。至らぬ所もありますが、全力でサポート致します」

「ありがとうございます。では早速なのですが……」

 

 

 光学干渉式についてです。

 

 

「はぁ……。光学干渉式……ですか?」

「何と言いますか……何故こんなにも非効率な事をしているのか、本当に理解が出来なかったんですよ。少尉に頼まれて、最低限の戦闘用宝珠を作った時にも同じ事を思いましたね」

「ひ、非効率、ですか?」

「……そもそも、なぜ光学干渉式なのに光を使おうとしているんです? そこから理解出来なかったのですが……」

「……は?」

「いえ、ですから、何故光を使おうとしているのか、と」

「……それは……光学干渉式だから、ですよ。自然にある光を収束し、魔導師の持つ宝珠で演算を経て攻撃やデコイに使う。そういう干渉式だからです」

「本気で言ってます?」

「本気ですが?」

 

 

 ………………? …………。

 

 あ、あぁ〜〜。成る程……。そういう事か……。いやでもいくら文献が消失したとはいえ、こんな基礎的な事に引っかかるか? 普通……。

 

 大体、何で誰も疑問に思わなかったんだ……。自然科学が聞いて呆れるわ。

 

 

「……副主任、正直に答えてくださいね?」

「は、はぁ。何でしょう?」

「魔力とは何ですか? それがどこから生み出される物か分かりますか?」

「魔力は人間だけが使える力で、体質によって発現したりしなかったりしますね。なのでまぁ……人間の身体から生成されるのでは?」

「爆裂術式はどのようにして発動する物何ですか?」

「空気中や地中にある元素をより強く爆発させられるよう、変換する物ですね。空気中の酸素濃度を上げたり、可燃性の塵を生成したりする物です」

「……魔導士はどのようにして飛んでいると思いますか?」

「それは……魔力によって重力に逆らっているから……ですかね? 高度を上げるほど魔力の消費が激しくなりますし」

 

 

 …………。

 

 

 こ れ は ひ ど い

 

 いや本当に何でそうなった? どう考えても矛盾点だらけの仮説を、無理やり干渉式に当て嵌めているんだから、そりゃ効率も落ちまくる。触媒の質で無理やり出力を上げるなんて非効率な事が出来る訳だよ……。

 

 大体、宝珠なんて高価な物じゃ無いんだ。おもちゃ用の宝珠は流石に安全性を考慮して高級品を使っているが、極論ガラス玉だって問題は無いんだぞ? 

 

 そもそもこの研究所に『工房』が無いのはそういう事か? そんな基礎的な事まで失ってしまったというのか? 

 

 それとも科学的な根拠が取れなかったからと、切り捨ててしまったのか? はっきり言って魔法に関する知識が素人レベルだぞ。魔法は魔法で、科学のそれとは別の理論で動いている事に何故気づかなかったんだろうか……。

 

 

「えー……。もうこの際ハッキリ言います。貴方がたが使ってきた干渉式については全て忘れて下さい。ぶっちゃけゴミです。使う価値がありません」

「……そ、そこまで酷いのですか?」

「そりゃもう。魔導士の方々に土下座して謝った方がいいかもしれませんね。大体、これは戦闘用なのでしょう? 少しのミスが生死に関わる中、こんな物を押し付けられたら普通は叩き返しますよ」

 

 

 あたりがシンと静まり返る。だけど止まるつもりは無い。こんな状況を良しとして、使えもしない宝珠を本気で研究してきたなんて、あまりにも杜撰過ぎる。

 

 宝珠とは演算機である前に魔法の触媒なのだ。そこに潜むのは紀元前から綿々と受け継がれてきた魔導の真奥。それを忘れて作った物など、妖精の悪戯にも劣る。

 

 

「まずは干渉式云々ではなく、基礎的な事から始めましょうか。

 この工廠で働く技師はここにいる人で全員ですか?」

「はい。就任式ですので」

「各人適当に座る物なり、メモ用紙を取りに行く時間を与えます。その後は……まぁちょっとした講義を行いましょう。それでいいですかね? 副主任」

「了解です」

 

 

 

 ──────

 

 

 

 ……さて、皆さん集まりましたか? 質問は随時受け付けましょう。

 

 まずは『魔力』について、です。

 

 そも魔力とは、体質やらに関係なく、その人個人が持つ『魂』に起因するエネルギーです。この世界とは別の世界……アストラル界だとか幽界だとか言ったりしますが、ここよりも高次元に位置する場所にある、強い力の事を指します。

 

 魂に大小はありません。象も蟻も同じ魂の容量を持ちます。問題はその魂の『位置』にあるのです。

 

 こちらとあちらでは、物体の在り方が明確に違います。あちら側には距離だとか重さだとか、三次元的な法則は全く機能しておらず、思念や意思などの、『明確に不安定な』力をもろに受けるのです。

 

 魂はそんな力の大小で、こちらとあちらの位置がズレます。こちら側に魂が近いほど、引き出せる魔力は大きくなり、遠ければ小さくなるのです。

 

 

『その理論だと、誰しもが魔力を持っている事になる』ですか? 

 

 

 その通りです。我等は皆魔力を持っています。私も、当然ながら貴方も、です。訓練や学習によって魔導に関われば関わるほど、使える魔力も大きくなっていきます。

 

 ただ、それはあくまでも魂の位置をこちら側に近づける、というだけの行為です。そんな事をしなくても、死の体験が近い人間は必然的に魔力が上がっていきます。

 

 今の航空魔導士達は、入隊当初よりも魔力が増大していませんか? おそらくですが旧式の宝珠を焼き切ってしまったり、吸収不可能な程の魔力を放出したりした筈です。

 

 

『産まれた時から魔力が多い人間についてはどうなのか』ですか……。

 

 

 ……いえ失礼。答えは出ているような物なので、答える必要があるかと思っただけです。

 

 胎児は非常に不安定なんですよ。言うまでもありませんが。母体の状態でいともたやすく命の危機に陥る。当然ですがその経験が魂をこちら側に引き寄せます。

 

 難産であったり、産まれたと同時に母体が死亡した時も同様です。この世に産まれるまで、胎児はこの世に居て、ここに居ないという不安定な存在なのですから、我々大人よりもより強く魂を引き寄せてしまうのです。

 

 まぁ稀に輪廻を巡った魂に記憶が染み付いていて、その経験が魂を必要以上に引き寄せる事もありますが……。大抵は5歳までに消えますし、そう問題視する事もないでしょう。

 

 

 ……はい。私が言いたかった事、もうお分かりになられたかと思います。

 

 

 この干渉式……『使用者の魔力を集める』干渉式の事です。当然ですが『血の流れに乗った魔力を吸収する』とか『体表に流れる魔力を吸収する』とか、無意味という訳ではありませんが非効率が過ぎます。

 

『魂から魔力を吸収する』……これだけで良いんです。

 

 大体、こんな吸収の方法だと、ぶら下げているだけじゃ満足に魔力を集められないじゃ無いですか。全力で魔力砲を放つ時、少尉は宝珠を『握って』発動すると言っていました。

 

 当たり前ですが馬鹿馬鹿しいにも程がある。武器を握らず宝珠を握る? そうでもしなければ魔力を集められない? そんな物、生死を分ける戦場ではゴミ以下でしか無いでしょう。何故誰も改善しようと思わなかったんですか……。

 

 

 はい、次に行きましょう。

 

 次は『飛行』について、です。

 

 ……少し質問なんですが、皆さんは航空魔導士を航空機か何かと勘違いしている訳では無いんですよね……? 

 

 魔導士は人間ですよ? 鋼鉄の翼も無ければ強力なエンジンも無い、ただの柔い人間です。

 

 それを防殻の強度に物を言わせて真上にかっ飛ばすとか正気ですか……? しかも航行中の制御や推進もこの方法で強引に動かし、使用者の安全はそれを補う干渉式で賄う……。

 

 鋼鉄の箱を真横や真下からぶん殴って空を飛んでるようなもんですよ? まともに飛べる訳無いじゃ無いですか……。そりゃ飛ぶのに訓練が必要です。身体の水平を保つのですら術者任せとか宝珠の風上にも置けませんね。

 

 大体ですね、昔の魔女は何で空を飛んでたと思います? ザルですよザル。あの一般家庭にもある網目の付いたふるいで空飛んでたんですよ? こんな生命維持の干渉式なんか無くても、自由自在に飛べた訳です。

 

 ザル以下ですからね? この飛行干渉式。先人の作り出した術式に少しでも敬意を払ってればこんな事にはならなかった筈ですよ。

 

 ……まさか御伽噺とか言わないですよね? そんなに疑うならここにある椅子で空を飛んでやりましょうか? ……ほら、この通りです。説明の為にもこのまま講義を続けますよ。

 

 

『ではどのようにして飛べばいいのか』……この状態を見ても分かりませんかね? まぁいいでしょう。

 

 

 防殻です。飛行干渉式は防殻を頼りに飛ぶんです。……いえいえ、矛盾なんてしてませんよ。

 

 ……まさか防殻とは何なのかすら分かって無いなんて言いませんよね……? 魔導士の命ですよ? 例え誰であろうと、魔導士ならば誰もが先に覚えるべき干渉式です。その防殻がどのような存在なのかなんて、そこらに転がってるエセ魔導書にすら書かれているんですが……。

 

 

 本当に…………分からないんですか? この中にいる誰一人として……? 

 

 

 ……いえ、分かりました。何が分からないかすら分かってない状態なんです。仕方ありません。ですが死ぬ気で覚えて下さいよ? でないと貴方達が死にかねませんから。

 

 防殻とは、全ての魔導においての基礎の基礎。これなくして魔導は語れず、これなくして魔導の行使はあり得ません。魔導におけるタブーの一つでもあり、防殻を築けない術式は基本的に術式とみなされない程です。

 

 というか禁呪や呪詛にすら防殻は存在します。それだけ必要不可欠な物なんです。防殻を構築できないなら、その術式は失敗作なんですよ。

 

 帝国の干渉式……大雑把に分けるなら飛行、光学、爆裂、通信……でしょうか。それら全てにおいて防殻を構築できるのが最低条件です。私の作った6連直列の宝珠も、この最低限の条件は満たしています。

 

 

『それは防殻を張ったまま、飛行と攻撃が出来るという事か』ですか……? 

 

 

 当たり前じゃ無いですか。なんで攻撃の時にわざわざ防殻を解く必要性があるんです? 干渉式の同時使用なんて幾らでも簡潔にできます。というか術者が思い描く通りに発動出来ないとか、魔道具として失格ですよ。

 

 ……いや、驚く必要がどこにあるんですか……。大体、私はおもちゃ屋ですからね? こんな攻撃系の干渉式なんて、本当は専門外ですから。子供相手に作る宝珠はもっと繊細です。

 

 大人と比べる事もできない小さく不安定な魔力を、できるだけ均一に、かつ綿密に干渉式に走らせ、拙い思考でも大まかな指向性を持った魔法を行使できる。私が得意とするのは、そういう干渉式です。攻撃用なんて初めて作りましたよ……。

 

 

 少し話がズレましたね。防殻についてです。

 

 防殻は術者の護りです。干渉式による構築も出来ますが、護りを意識するだけで、大抵の術者は防殻を構築できます。

 

 それは防殻が精神や魂の壁の意味を持つからです。宝珠を使用した時に可視できるあの防殻は、実の所呪詛なども弾けるんです。魂に直接作用するような攻撃も、防殻さえあれば防ぐことができます。

 

 術者が無意識に認識している壁……。心の壁、なんて言ったりしますね。防殻は単なる防御用の壁なんかじゃありません。もっと深く、そして根強い防護の業なんですよ。

 

 だからこそ、防殻の中は術者にとっての『工房』となり得るのです。工房内ならばある程度の突飛な干渉式も構築できてしまいます。そもそも、防殻の中は多少『あちら側』の領域になるので、魔術というより魔法を使用できてしまうんですけどね。

 

 心の壁とは、そのまま魂の壁でもあります。あちら側の物を引き寄せ、自身の周りを自身に優位な状態にする。防殻とはただの防御用の壁にするだけでは惜し過ぎる物なんですよ。

 

 さて、有能な皆さんなら分かったんじゃないでしょうか。『防殻を頼りに飛行する』というその意味が。

 

 

 簡単な事です。『自分の周りを飛行できる環境にしてしまえばいい』それだけの話です。

 

 

 つまり重力とか空気抵抗とか酸素濃度とか、そういう面倒な物を全て切り離して考えて、適当な推進力を発動させれば、それはもう飛行干渉式なんですよ。

 

 ついでに防殻は座標指定にも有効です。何せ自分にとっての領域な訳ですから、殆ど自分の身体のようなもの。空間固定の構築だって全く苦になりません。

 

 防殻内を無重力にしてしまえば、どれだけ高度を取ったとしても魔力の消費に差なんて生まれません。わざわざ重力を振り切り続ける必要性なんてどこにも無いんですよ。

 

 ……まぁ、それとは別に高高度ですと魔素の濃度が下がりますので、必然的に魔力の消費が上がってしまうのですが。

 

 

『魔素とは何か』ですか? 

 

 

 魔素は魔素です。魔力とは別に空気中にある魔力の素となる物ですね。地球の表面上であればそれなりの濃度がありますが、上空に上がるたびに少なくなっていきます。

 

 空を飛べるあちら側の存在が少ないのも、ここら辺に理由があるんですけどね。その話は今はいいでしょう。

 

 魔素が薄いと、干渉式の構築に余計な魔力を使うと考えて下さい。色々と面倒な理論があるので詳細は省きますが、結果はそうなります。

 

 ……そういえば、高度が上がるほど魔力を使う事はご存知なんですよね? 何故それを『重力を振り切れないから』と考えたんですか? 高度を上げるほど重力の影響は少なくなるはずなんですが……。

 

 はぁ……生命維持の干渉式に魔力を費やしていたと考えたんですか……。まぁ間違いではないですけどね。主な原因は魔素にありますよ。

 

 ちなみに、防殻を使用すれば、ある程度の魔素を引き連れる事が出来ます。高高度でも問題なく干渉式が使えますよ。まぁ制限付きですがね。

 

 

 さて次です。『光学干渉式』について、です。

 

 

 はい。はっきり言います。貴方がたが使うのは光学干渉式ではなく、『魔力光干渉式』です。光学ではありません。断じて。

 

 そもそもおかしいと感じなかったんですか? 光を集めて放つ干渉式が、あんなに曲がる訳ないでしょう……。

 

 それに昼でも夜でも魔力の消費が変わらず、雲や霧に当たっても減衰せず、物に当たれば融解させる程の高温になり、弾着地ならともかく他視点でも光って見え、近接戦闘において切断出来るほどの高火力……。

 

 どう考えても光な訳が無いでしょう。いくら光を集めたところで、人間がちょっと焦げるくらいにしかなりません。放射圧により多少は動くでしょうが、当たった対象があんなに吹き飛ぶとは考えにくい。光にそんな事できると、本当に思うんですか? 

 

 ……はい。これは光ではなく、魔力です。魔力の塊をぶつけているだけです。厳密に言うと、魔力反応の一種である魔力発光した物を、ただぶつけているだけの術式です。

 

 しかも信じがたいことに、元の干渉式はデコイ用の光学干渉式ですね。これを攻撃用にするとか正気の沙汰とは思えません。誰ですかこんな物発明したの……。戦犯ものですよコレ……。

 

 ちなみにですが、名称は『光学干渉式』で問題ありません。魔法や魔術は攻撃の際に光を発する物とそうでない物があり、その為に『光学』とつけていますので。

 

 

『もしや光学干渉式を構築した人間は、それを勘違いしたのでは』ですか……。

 

 

 おそらく、そうだと考えています。『光学干渉式』『無光学干渉式』と二つの干渉式が存在し、その一方だけが残った上で、その原理を勘違いした……と言ったところでしょうか。

 

『光学干渉式』は大雑把な括りでしかなく、その内容は『魔力砲』『幻術』『使い魔』など、攻撃的な物が多く存在します。『無光学干渉式』ですと『念話』『呪詛』『探知』でしょうか。

 

 まぁはい、そういう事です。通信は『念話』、探知は『探知』。それぞれ無光学干渉式だというのに光学干渉式のくくりに入ってしまっていますね。……確かに似ていると言えば似ているのですが……。

 

 そも干渉式自体、かなり新しい考え方ですからね。それまでにあった魔術をどう区分するかなんて、結局の所はその時の研究者の定めた物になりますから。

 

 さて、光学干渉式とは魔力の発光現象を指す言葉です。なので光を使うとかまるで意味が分かりません。魔力を使って下さい。

 

 

 次は……爆裂干渉式、ですね。

 

 

 はい。これに至っては魔術じゃありません。錬金術です。

 

 疑問なのですが、何故こんなにも大規模な爆発を必要とするのですか? 

 

 

『攻撃の対象となる戦車や歩兵を効率よく処理する為と、対魔導士相手に、隊列による一斉射撃を用いて敵を撃滅する為』ですか。……あれ、少尉じゃありませんか。いらっしゃったのですね。

 

 

 確かに……広大な座標の中を一気に殲滅する事において、爆発の右に出る物はありません。ですがそれは何も爆発でなくていい筈です。

 

 爆発には熱が伴いますが、魔術的観点からすると無駄です。爆発から生じる衝撃波のみを炸裂させれば、十分な殺傷力があるのではと思うのですが。

 

 ……可能かどうかで言えば余裕ですね。むしろ魔術の本懐は、そういった無駄を徹底的に省く事にあります。

 

 衝撃波を波と捉えて、海に纏わる魔術を使っても良いですし、音でも問題ありません。それらを複合させると、更に効率の良い魔術が作れるでしょう。それを干渉式にしてしまえばいいのです。

 

 爆発による火災や火傷などの効果が欲しいのであれば、熱波という選択肢もありますよ。こちらは一定時間内に、一定範囲内の物を、ほぼ跡形もなく焼き尽くす術式になります。

 

 元素を変換して爆発を起こすより、よほどスマートだと思いますよ。

 

 大前提ですが、魔術は魔術です。科学ではありません。科学的観点から魔術を語る事も確かに可能ですが、それは魔術の一側面でしかありません。

 

 そして錬金術は科学です。魔術じゃありません。混同されやすい分野ではありますが、錬金術の本質は物質の探求です。魔術の本質は魔導の探求にあるので、目指すところが全く違ってきます。

 

 

 さて……これで大体の基礎は話し終えたでしょうか。

 

 

 

「……成る程……蒙を啓かれた気分だ……。確かに言われてみればおかしく思える部分は多々あった。我々はそれを盲目的に信じ、ただ干渉式自体の効率化のみに目を向けていた……。それこそが間違っていたと言うのに……」

「……あの、この程度でそんなに感じ入られると、とてもでは無いですが次に進めませんよ……? これまでの話は本当に基礎の基礎ですからね……?」

「ハッター主任技師……つかぬ事をお伺いしますが、これでもまだ基礎なのでしょうか? 既に既存の論文が1ダース紙屑になってしまったと思うのですが……」

「防殻の応用技術、工房の必要性とその汎用性、王笏の解釈と効率的な使用法、魔法と術式の差異と効果、干渉式同士の干渉とその回避、術式と干渉式の変換においての法則性、光と影の必要性、負の干渉式の必要性、カウンターとは何か、感染魔法及び呪詛や呪術の防護、座標と防殻の重要性、防殻に対する負荷による反応……。全て基礎ですよ?」

「「「「…………」」」」

「応用技術になりますと、ネクロノミコンの可能性、王笏の拡大解釈と曖昧さ、干渉式の自立性、使い魔の行使、新しい干渉式の構築……などですかね? まだまだ先は遠いと思って下さい」

 

 

 いやぁ……。まさか研究職の人間相手に講談する事になるとは……。

 

 ほんと、先は長そうですわ……。


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