まずは前回の続きです。
では、どうぞ。ごゆっくり!
歌姫さんに散々弄られ真衣に『兄さん』と呼ばれてから少し時間が経った。
「本当にもう…勘弁して下さい」
想い人と妹に頭を下げてお兄さん呼びを止めてくれるようにお願いする。
「仕方ないわね」
「そうね…」
その甲斐あってか二人共お兄さん呼びをやめてくれた。
しかし二人共まだニヨニヨしてる。きっと後でまた揶揄う気だ。
また揶揄われたら溜まった物じゃないのでさっさと本題に入ろう。
「そうだ歌姫さん。この前の一級術師推薦の件なんですが…」
「…うん」
一級術師推薦の話を切り出すと歌姫さんが真剣な表情でこちらを見て来た。
「……」
あと何故か真衣も真剣な表情で見て来る。
「申し訳ございません。俺からは推薦出来ません…」
「そう…」
頭を下げてそう言うと歌姫さんが神妙な表情で頷いた。
「兄さん!なんで!?」
「真衣、いいの…」
俺の言葉に真衣が声を上げるが歌姫さんがそれを制する。
「転弥君。理由を…教えてくれる?」
悲しそうな声で歌姫さんが理由を聞いてくる。
(ほんと…ズルいな)
そんな顔をされると言い辛くなる。
こんな時、悟くんなら遠慮無くドストレートに理由を言えるだろう。
だが、自分にそんな無遠慮さは無い。
しかし言わなければ本人の為にならない。
「それは…単に歌姫さんの実力不足です。今の歌姫さんでは、一級術師の荷が重すぎます。同期の術師として歌姫さんに掛かる
そこまで言い切ると歌姫さんが困った様子で笑った。
「そうなんだ…うん、分かった」
「ありがとう。ごめんね?こんな事頼んじゃって…」
「いえ、大丈夫です」
歌姫さんの言葉にそう答える。
「…」
「…」
「…」
三人共黙り込み何とも言えない空気が流れる。
prrrr…prrrr…
そんな空気を裂くようにスマホの着信音が鳴り響く。
「すみません。電話です」
内心安堵しなが断りを入れて部屋の外に出てから電話に出る。
「はい、禪院です」
『あっ、もしもし転弥?』
電話に出ると何とも軽薄さが感じ取れる無駄に良い声で話す呪術師最強が居た。
「悟くん…先輩呼びしないの?」
『いいじゃんそれくらい。それよりも頼みたい事があるんだよね』
「どんな事?」
注意してみたものの軽くあしらわれ挙句の果てに頼み事までされた。
断ったら面倒なので一応話だけでも聞いて置こう。
『特級呪物…酒吞童子の盃。それの回収・封印』
「馬鹿なの?」
悟くんの言った台詞に思わずそう答えた。
酒吞童子と言えば日本三大妖怪の一体。
呪術が一般に認知されなくなった現代でもその存在を知られている化け物だ。
その酒吞童子が使っていたとされる盃の回収・封印は、一級術師に任せる案件じゃない。
完全に特級術師に任せる案件だろう。
「悟くん…俺、一級。君、特級。オーケー?」
『知ってるよ。その上で頼んでる』
念の為に確認を取っても答えは変わらなかった。
「じゃあ、言い方を変えよう。なんで俺に特級呪物の回収・封印を任せるの?」
『えー?だって転弥は、封印に特化した
「………そうだね」
悟くん言葉に少し黙り込んでから答える。
『じゃあ、頼んだよ』
「分かった。詳細は伊地知くんに確認する」
そこまで言って通話を切った。
「はぁ…酒吞童子の盃か。これまたとんでもない特級呪具だな…」
依頼された特級呪具の事を考えて頭を抱える。
「ああ…完全に特級案件じゃないか!なんで俺の所に来るんだよ!?」
確かに特級呪霊は倒せるよ?万全を期して向かえば相手が玉藻の前であろうと祓えるよ?
けど封印ってなんだよ!?俺の術式は反転だ!確かに『極ノ番』を使えば封印も出来るが決して完全な封印じゃない!飽くまで閉じ込める事しか出来ない。
それに何よりも今は使用中だ。一度に一つしか閉じ込めておけない極ノ番に何を期待しているのか知らないけど封印は無理。出来ても精々回収が限界だろう。
「相変わらず厄介事ばっかり持って来るなぁ…」
そう呟きながらスマホをポケットに仕舞い部屋の扉を開ける。
「すみません。お待たせしました」
「大丈夫よ。誰からだったの?」
「悟くん」
「げっ…」
俺の言葉に歌姫さんが忌避な表情を浮かべた。
「ぷはっ…嫌いなんですか?」
「逆に聞くけど好きなの?」
「術師や教師としては信頼できるし信用してるけど、あの性格のせいで尊敬は出来ませんね。でも好きか嫌いかで言えばギリ好き寄りですね」
「そうなんだ。ま、その気持ちは良く分かるわね」
歌姫さんが俺の意見に共感してくれて少し笑った。
「……」
それを見ていた真衣が何故か少し笑みを浮かべた。
「歌姫先生って兄さんと付き合ってるんですか?」
「えっ?」
「は…?」
真衣の発言に俺と歌姫さんが同時に声を漏らした。
「な、なななな何言ってるの!?」
「い、今のところ付き合っていないぞ!」
「転弥くん今のところってどういう事なの!?」
「あっ、仕舞った…!」
ヤバい、つい本音が漏れた。
「え、えーとですね…これはそのぅ…」
なんて弁解しようと頭を必死で回転させていると真衣がニヤニヤしたまま再び口を開く。
「兄さんは、昔から歌姫先生が好きなのよ。ただ、一度もそれを口にしなかっただけでバレバレだけどね?」
「ま、真衣ー!!?」
俺の恋心をさらっとバラした妹に驚愕しながら歌姫さんに視線を向ける。
男の一方的な片思いは非常に重い。あれだけの恋心を向けられていたと知ればきっと軽蔑するだろう。
そう考えて歌姫さんを見た。
「ほえ…?」
「か、可愛い…」
顔を真っ赤にして可愛い声を出していた。
思わず可愛いと呟いてしまったが聞こえてないようで安心した。
「転弥くん?えと、その…どういう事なの?私が好きって…」
「そのままの…意味です…」
歌姫さんの質問に出来る限り冷静に答える。
(ヤバい…術式を使って気持ちを落ち着かせているはずなのに全然収まらない)
内心困惑し焦りながら努めて冷静に対処しようとするが気持ちが全く落ち着かない。
「転弥くん…あのね?気持ちは嬉しいんだけど…その、無理なの…」
「何故ですか?」
歌姫さんの言葉に思わず食い気味に答えた。
「私も転弥くんも呪術師だし…」
「そうですね」
「明日生きてるか分からないし…」
「はい」
「それに…私は顔に傷があるし…」
「それが?」
「私って弱いし…」
「準一級ですよね?」
「転弥くんは、御三家の人間だし…」
「絶縁しましたよ?」
「私じゃ、釣り合わないだろうし…」
「俺が惚れた相手が釣り合わない訳ないじゃないですか」
「あと、その…教師だし」
「俺もですよ?」
「お金も…あまり稼げないし…」
「既に使い切れない程の大金を稼いでますよ?」
「お酒も大好きだし…」
「俺は、酒と煙草の両方をやりますよ?」
「それに…こんな歳だし…」
「同い年ですよね?」
「あとは…えと、その…うーんと…他には…」
「無いですよね?」
歌姫さんが自分を否定しようと次々と言葉を並べるが、その全てを肯定した。
「て、転弥くんの妹さん達にも迷惑が掛るかもしれないし…」
「真衣、迷惑か?」
「全然。むしろ大歓迎よ」
「うっ…」
必死に考え着いた案も真衣に一蹴されて遂に黙り込んだ。
「ふぅ…歌姫さん」
「は、はい」
自分も覚悟を決めて黙り込んだままの歌姫さんに声を掛けた。
「俺と……結婚を前提に付き合って下さい!」
10年以上になる気持ちを自分の想い人に伝えて右手を差し出す。
自分に出来るだけの事をしたのだ。
これで断られても悔いは無い。
「こんな私でよければ…よろしくお願いします」
歌姫さんが顔を赤らめて俺の手を握り返してくれた。
「……絶対幸せにします」
「うん…ありがと」
自分の気持ちを素直に伝えて歌姫さんの手をもう片方の手で包み込む。
「ねぇ、兄さん。目の前で教師同士の純愛を見せられている生徒の気分を考えた事ってある?」
真衣に話掛けられて思わず手を離す。
血が繋がっていないとも言えない妹の前で想い人、改め恋人とイチャついたのだ。
恥ずかしくて死にそうになる。
「…」チラッ
「…///」カァーッ
歌姫さんの方を見ると同じく顔を真っ赤にしていた。
ヤバい。色々と死にそうになる。
真衣もそんな新しいおもちゃを見つけたような目で見ないで下さい。
「兄さん…と」
真衣がそこで一旦区切ると歌姫さんの方を見る。
「お
「うっ…!」
真衣の言葉に歌姫さんがさらに顔を赤らめて遂に両手で顔を隠した。
「ふふっ、お邪魔虫は退散するわ。後は若いお二人に任せますかな?」
「どこでその言葉を覚えて来た!?」
お見合いで良く言うセリフを言い残して部屋から出て行く真衣に叫ぶが気にしていないように手を振りながら扉を閉めた。
実家での扱いがあまりにも可哀想だから散々甘やかして映画を一緒に見たからか?そこであのセリフを覚えたのか?
おのれ過去の自分!恨むぞ!
「ね、ねぇ…転弥くん」
「は、はい!」
急に話し掛けて来た歌姫さんに驚いて勢いよく答えた。
「えと、今夜の…予定なんだけど…」
「ああ…焼肉食べに行くって話でしたっけ?」
恋仲になる前に決めた予定の事を思い出す。
「う、うん。初デートとして…そ、その…どうなのかな?」
「そうですね…」
俺が奢る予定の焼き肉店。
京都にある老舗の焼き肉店で一食のお値段がサラリーマン月収を超えるらしい。
デートとして考えると…夜景が綺麗だし食事も美味しいしお酒も美味しい。
ただ、一見様お断りの店だしドレスコードもある。
初デートの場所として考えると少しアレだ。
それも全て込みで考えると…
「歌姫さん」
「なに?」
「買い物に行きましょう」
「え?」
まずは買い物デートにしよう。
その後で焼肉を食べに行こう。
「でも仕事が…」
「無いでしょ?」
「え、でも…」
「楽巖寺学長には、俺から説明しておきます」
そう言って歌姫さんの手を取る。
「さあ、行きましょうか?」
「え、ええ!?」
困惑する歌姫さんをお姫様抱っこで抱えたまま京都校を後にした。
この後めちゃくちゃデートした。
後日、東京校に帰ってから悟くんにめちゃくちゃ揶揄われ、夜蛾学長に温かい目で見られた。
あと何故か真希に「そいつの写真見せろ」と迫られた。
俺は、幸せです。
キャラ解説.
禪院 真衣.
原作では、真希と共に落ちこぼれ扱いされて雑用係のような扱いを受けていたが転弥が禪院家の人間を粗方ボコしてから姉妹共に普通の扱いを受けれた呪術高専京都校の学生。
この作品では、小さい頃から守ってくれた転弥が初恋の相手だったりする(言ってない)。
そして恋のキューピットも担当してしまった。
庵 歌姫.
転弥の初恋の相手。
実際は、両片思いで10年近くの恋がやっと実った人。
原作でも生徒思いのめっちゃ良い人。
可愛い
禪院 転弥.
初恋を実らせた主人公。
恋愛初心者だが色々と拗らせてるし禪院家の血も受け継いでいる為、一般人には理解出来ない行動を取る。
あと、押しに弱い。正面から来られても弱い。
追加解説.
反転呪法.極ノ番『鏡』
禪院 転弥の持つ最後の一手。
対象を閉じ込める事に特化している。
効果を説明された五条 悟の感想は「お前が呪詛師じゃなくて本当に良かった」との事。
尚、現在閉じ込めている呪霊の影響で疑似的な不死状態を得ている。
では、また次回!