『反転』が術式の高専先生   作:揚げ物・鉄火

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二話連続投稿です。
今話は、主人公の領域展開が猛威を振るいます。
めちゃくちゃ考えて作った領域展開なので説明に結構苦労しました。
あと、他にも色々やります。
では、どうぞ。ごゆっくり!


第七話

三人称視点.

 

転弥が領域展開を行い酒吞童子の領域を押し返した。

それと同時に先程まで様々な声が聞こえて来た騒がしい宴会場から一転、周囲は何も無い薄暗い空間に包まれた。

 

「なんだ?ここは…」

酒吞童子は困惑していた。

 

ただの呪術師の小童に自分の領域が押し返されたかと思ったらこの何もない薄暗い空間に閉じ込められたのだ。

酒吞童子が周囲を見渡していると遠くに等身大の鏡が一つ、ポツンと置かれている事に気が付く。

そちらに向かって一歩踏み出そうとして…違和感に気づいた。

 

「なんだと?」

酒吞童子は、前に後退した(・・・・・・)のだ。

 

前に進んだつもりが後退していた。それだけの事だ。

特に変な話では無い。

この領域内では極普通の出来事だ。

 

しかし、それを知らない酒吞童子は再び進もうと前へ一歩踏み出した。

「なにっ!?」

再度、前へ後退した。

鏡に近づこうとすればするほど遠ざかっている。

 

それならばと後ろへ進むと後ろへ前進した(・・・・・・・)

しかし後ろに進んでいるため当然鏡から遠ざかる。

 

「どうなっておる!?」

前に行こうと後ろに行こうと鏡には一向に近づけない。

 

酒吞童子が困惑していると空間に一つの楕円鏡(だえんきょう)が現れる。

その向かいにも一つの楕円鏡が現れる。

その後も次々に様々な形の鏡が現れる。

鏡は、どんどん増えて行く。

最初は一つだけだった鏡が十、百、千、万、十万、百万、千万、億、十億、百億、千億…そして遂には兆を超える。

 

暗い空間を全て埋め尽くすほどの鏡。

形の違うそれら全てが酒吞童子を映している。

控えめに言って恐怖しか感じない空間だ。

そうこうしているうちに全ての鏡に一つずつ赤い瞳が現れる。

 

「なんなんだこの空間は!?」

酒吞童子は復活して初めての恐怖を感じていた。

どこを見ても目の付いた鏡がある。

それら(無数の鏡)から逃げようにも全く動けない。

 

前に後退する。

後ろに前進する。

右に左折する。

左に右折する。

上の降下する。

下に上昇する。

前を向けば後ろの景色が映る。

後ろを向けば前の景色が映る。

右を向けば左の景色が映る。

左を向けば右の景色が映る。

上を見れば下の景色が映る。

下を見れば上の景色が映る。

右手を動かそうとすれば左手が動く。

左手を動かそうとすれば右手が動く。

右足を動かそうとすれば左足が動く。

左足を動かそうとすれば右足が動く。

前後左右上下全てが反転している。

己に掛かる重力も目に映る色彩も五感に伝わるはずの情報も反転している。

 

全てが正反対のこの世界を異常と理解せず正常と理解してしまう。

仮に動き方を理解して動こうとしても理解が反転して理解していない状態に戻される。

術式を使って脱出しようにも呪力が乱されて何もできない。攻撃を防ぐために呪力を纏おうとしても同じ結果だ。

その上で己の呪力を勝手に吸われている。勝手に吸われた呪力は、この世界の維持に使われているだった。

思考を放棄しようとしても理解させられる。そして理解した瞬間に思考が反転して理解していない状態に戻される。

 

とにかくこの世界では全てが反転している。それすらも理解させてくれない。

そんな狂った世界に酒吞童子は、一人で立っている。

 

酒吞童子が困惑している様子を見た鏡の瞳が何か新しい玩具(おもちゃ)を見つけたかのように細められる。

その直後に全方位から幼子(おさなご)のクスクス笑いが聞こえ始める。

 

クスクス…

クスクスクスクス…

クスクスクスクスクスクス…

クスクスクスクスクスクスクスクス…

『ねえ見て見て』『新しいおもちゃかな?』『ええ、きっとそうよ!』『ねえ、あなた』『一緒に遊びましょ?』『私たちと』『僕たちと』『一緒に』『遊ぼ?』『ねえ?』『いいよね?』『いいでしょ?』『何して遊ぶ?』『おにごっこ?』『チャンバラごっこ?』『おままごと?』『ヒーローごっこ?』『かくれんぼ?』『お医者さんごっこ?』『追いかけっこ?』『なわとび?』『お砂遊び?』『家族ごっこ?』『恋人ごっこ?』『それとも…』

無数の鏡から無数の幼子の声が酒吞童子に向かって発せられて行く。

最後の幼子の声が響くと同時に無数に存在していた鏡の中からこの世界作りだした禪院 転弥の姿を模したナニカ(・・・)が一斉に現れる。

 

『『『『『呪霊殺しごっこ?』』』』』

無数の禪院 転弥の姿を模したナニカが一斉にそう口にして偽りの遊雲を構える。

 

「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

その光景を見た酒吞童子が遂に発狂する。

が…

 

状態反転.精神崩壊⇔精神安定

 

「ああああ…!!落ち着いた!!?なぜだ!?」

発狂して崩壊した精神を反転させられて強制的に鎮静、修復させられた。

この領域内では、精神崩壊である一種の心の防衛すら対象には許されない。

 

『『『『『そう言えば…先程絶望を始める。とか言ってませんでしたっけ?』』』』』

「ヒィッ!!?」

酒吞童子が領域を発動した時の言葉をそのまま繰り返した無数のナニカに酒吞童子が恐怖の声を上げる。

酒吞童子の恐怖した声を聞いた無数の何かが一斉に歩みを進める。

この全てが反転した世界の影響を受けていないのか、その歩みに一切の淀みが無い。一方、逃げようと必死に足掻いている酒吞童子は全てが反転した世界の影響でその場から殆ど動けずに居た。

 

「い、嫌だ!来るな来るな!来ないでくれ!!頼む!後世だから!こっちに来るな!わ、儂の傍に近寄るなああーッ!!!」

己に近づくナニカに拳を振るうと、その攻撃は自分に返って来る。踏みつけようとしても自分に返って来る。ならばと瓢箪にある酒をかけて弱らせようとも全く意味を成さない。

部下達に見せた事のない剣を振るってもやはり斬撃が自分に返って来るだけだ。

 

狂えれば、発狂して理性を失えれば、どれ程よかったのだろうか?それすら許されないこの狂った世界で酒吞童子は、どこから来るか分からない攻撃の恐怖に震えた。

無数の禪院 転弥が一斉に酒吞童子に飛び掛かる。

 

「ガフッ!!」

無数の禪院 転弥の一人が酒吞童子の顎に遊雲を叩き込む。

その際、軽い脳震盪を起こした酒吞童子がバランスを崩して倒れた。

 

「ゴフッ!」

また飛び掛かった無数の禪院 転弥の一人が頬を力の限り殴る。

 

そのまま額、こめかみ、乳様突起*1、喉、頸椎、肩口、肝臓、腎臓、金的、脛、膝、大腿などの人体の急所を遊雲や『反』、『乱』、『貫』を用いて的確に狙って行く。

酒吞童子も無駄に防御力が高いために並の呪霊なら既に終わっている苦しみがひたすらに長引いている。

 

『『『『『反転呪法・奥義!』』』』』

全ての禪院 転弥が一斉に閃蹴(せんしゅう)の構えを取り一斉に空高く跳び上がる。

 

『『『『『黒・閃蹴!!』』』』』

全員が全員同じ構えを取り同時に酒吞童子に向かって『黒・閃蹴』を喰らわせる。

その中で当たるの一人だけの為、酒吞童子は震えて待つ事しか出来ない。

 

「カハッ!!!」

遂に黒・閃蹴を胸の中心に受けた酒吞童子が吹っ飛ばされた。

遂に酒吞童子が動かなくなり、酒吞童子の呪力が切れた事で『反転境界』が崩壊を始める。

この領域の唯一の出入口である等身大の鏡の近くに居た本物の(・・・)禪院 転弥がその事を確認して反転境界を解除する。

 

 

「ふぅ…疲れた」

領域展開を使った事で充分以上にあった呪力の半分が持って行かれて軽い倦怠感が転弥を襲う。

 

「おっとと!ヤバいな、思ったよりも疲れてる。高専に帰ったらパンダ君をもふもふして癒して貰おう。うん、そうしよう」

歩こうとして少しバランスを崩す程疲労が溜まっている事に気が付き呪術高専東京校に帰って自分の生徒に癒して貰おうと決めて気を付けながら今回の任務の回収目的である『酒吞童子の盃』を回収するため一歩踏み出した。

 

「ッ!!」ゾクッ!

その瞬間、死の恐怖を背後から感じて全身に呪力を回し急いでその場から飛び退いた。

 

「ガフッ!?」

急いで飛び退いたにも関わらず何かしらの攻撃が自分に当たり両腕と肋骨数本を折られた。

急いで状態反転で傷を治し攻撃が来た後方を振り向く。

 

「マジかよ…おい」

振り向くと倒したはずの酒吞童子が拳を握り締めて仁王立ちしていた。

 

「しつこい男は嫌われるぞ?」

「黙れ!よくもこの酒吞童子様に恥を欠かせたな?貴様には、この上無く惨たらしい死を与えると今!決めた!!」

呪力を全て奪われたはずの酒吞童子が何故か出会った時以上の呪力を充満させながら拳と大剣を構えていた。

 

「なんで呪力が充満してんだ?全て奪ったはずだぞ?」

「ふん!どうせ死ぬ貴様には特別に教えてやろう!」

転弥の疑問に答えるように酒吞童子が己の肉体に行った縛りの説明を始める。

 

「儂は、貴様を殺すまで一滴たりとも酒を飲まないと自身に縛りを掛けた。これにより貴様を殺すまでの間に限り、儂は全盛期の強さを手に入れた。酒は儂の命の源!それを断つ事で全盛期の力を取り戻す。貴様を確実に殺す為ならこの程度の縛りなど容易い事だ!」

文字通り、最後の手段。酒吞童子は、己に出来る最大限の力を持って転弥を殺すと決めた。

 

「困ったなぁ…もう任務を終わらせて帰りたいんだけどな」

一方、倦怠感も相まってさっさと任務を終わらせたい転弥が頭を掻いてどうすべきか悩み始める。

 

酒吞童子には、普通の攻撃が効かない。

遊雲で殴っても『反・乱・貫』を合わせた閃蹴を使っても決定打にならない。

かと言って、もう一度領域展開を発動できるほどの呪力も残っていない。

それにこれ以上に強力な一撃必殺は、もう併せ持っていない。

完全にネタ切れだ。

 

そう考えながらも拳を握り締めて戦闘の構えを取る。

それを見た酒吞童子が大剣を構えて戦闘の準備を始める。

 

「領域展開を押し返されたのう。貴様は、純粋な物理でのみ殺す事にした」

「……」

大剣と拳を構えた状態の酒吞童子がそう言うと倒し方を思い付いた転弥が構えを解く。

 

「諦めたのか?」

「いや…」

酒吞童子の言葉に転弥がゆっくりと首を振ってから口を開く。

 

「奥の手を出す…奥の手中の奥の手をな?」

言うが早いか両手を合わせた。

 

合わせたままに両手を動かし互いの指がもう一方の手の手首を向くように動かしていく。

その次に両手がギリギリ離れないように動かして両手を円の形にする。

 

「なんだ…それは?」

転弥が両手を円の形にすると頭上に巨大な丸鏡が現れた。

 

転弥の頭上に現れた直径5メートルの丸鏡。

本来なにかを映す役割を持つはずのそれは、何も映さずにひたすら黒かった。

これこそが禪院 転弥の奥の手。

一つのモノしか閉じ込めて置けない縛りを術式その物に課す代わりに、四級以下から特級上位のあらゆるモノを相手の強さ関係無く閉じ込めるチート呪術。反転呪法.極ノ番『鏡』。

 

「極ノ番『鏡』」

極ノ番を発動させたままの転弥がゆっくりと口を開く。

その数秒後に鏡の中心が渦巻き始める。

 

「死ねい!禪院 転弥!!」

その現象を本能レベルで危険だと察知した酒吞童子が術者を殺そうと一気に飛び掛かる。

その速度は、全盛期のモノと呼ぶに相応しい先程までとは比べ物にならない速度だった。

が、時すでに遅し。

 

「…『開』!」

酒吞童子の攻撃が当たるより先に転弥が頭上に現れた丸鏡の門を開いた(・・・・・)

 

 

 

瞬間、酒吞童子の視界は闇に覆われた。

先程の反転境界とは違い、近くには何も無い。

ただひたすらの闇。虚無と表現した方が良いレベルの闇。

酒吞童子が何も見えないはずの場所で周りを見渡す。

 

「…」

ふと、視界に何かが映った。

そちらを見ると男が立っていた。

 

「……」

まだ幾らかの若さが残る一人の男が立っていた。

赤い道服に王と書かれた変わった形の帽子を被り右手には(しゃく)を持っている。

 

「なんだ…貴様は?」

「………」

酒吞童子が問うと男は、初めて酒吞童子に視線を向ける。

男は、酒吞童子を数秒眺めた後、おもむろに笏を持ち上げた。

 

「まさかお前は…いや、貴方様は!?」

「………消えろ」

その姿と手に持つ笏を見て男の正体に気が付いた酒吞童子が、その名を口にしようとした。

その前に男が笏を振り下ろす。

 

「え……」

「………」

酒吞童子がその名を口にする前に無限の圧力により全方向から同時に圧し潰され、この世から姿を消した。

 

「…………」

潰された酒吞童子だったモノを見た男は、そのまま視線を外して暗い空間に垂れた一本の光る蜘蛛の糸を眺める。

この世界の出口にして己を封印する術者へ干渉する唯一の方法だと知りながら、男はただその時を待ち続ける。

 

 

 

「『閉』」

「ゴホッ!ゲホゲホッ!!ああ…疲れた」

丸鏡の門を閉じた転弥が膝を突いて咳き込む。

久方ぶりに極ノ番『鏡』を開いた影響で残っていた呪力の大半を一気に持って行かれた事で少しの間その場から動けない。

 

「はぁ…酒吞童子討伐完了。瀕死回数三回、反転術式使用回数二回、状態反転使用回数五回、領域展開使用回数一回、閃蹴使用回数三回、極ノ番『鏡』の使用回数一回…結論を言うと大苦戦からの辛勝」

酒吞童子との戦闘を一人で振り返った転弥は、ゴロンと仰向けに寝転がり休み始めた。

 

「二度とやらない…帰ったら悟くんにキン肉バスター喰らわせよう」

自分にこんな任務を与えた後輩へのお仕置きを考えながら数分の休憩を始める。

 

「そう言えば…傑くんと乙骨くんは、酒吞童子(こいつ)と同等の実力(ちから)を持つ化身玉藻前を降伏させたり祓ったんだよね?…特級って本当にヤバいんだ」

自分が大苦戦した酒吞童子と互角の実力を持つはずの『化身玉藻前』を降伏させたり祓った後輩と教え子の力に軽く戦慄する。

 

こうして一級呪術師、禪院 転弥による特級呪物.酒吞童子の盃の回収及び特級過呪怨霊.酒吞童子討伐任務は、幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様にかける慈悲は無い!!キン肉バスター!!!」

「えっ!?ちょ、待っ!うわああああ!!?」

後日、高専へ帰宅した転弥に術式を乱され抵抗出来ずに生徒達の前でキン肉バスターを喰らう呪術師最強の姿が目撃された。

 

「ざまぁねぇな」

「ま、当然だな」

「しゃけしゃけ」

そして事情を全て聞かされた教え子たちはフォローする事無く、ただ傍観していた。

*1
耳の後ろの隆起した骨




解説.

領域展開.反転境界
ありとあらゆる世界の理が反転した世界を作り出す領域。
全てが狂った世界のため一般的な精神の持ち主は、物の数秒で精神崩壊を起こす。その直後に精神を修復される。
兆を超える鏡から兆を超える禪院 転弥を模したナニカが現れ、対象を攻撃する。
この世界では、全てが反転しているため狙って出せないはずの黒閃が全ての攻撃に乗る。(通称.偽・黒閃)
相手への攻撃が全て自分に帰って来る。
相手は、あらゆるデメリットを受けるが術者は、一切のデメリットを受けずにメリットのみを受け取る(呪力の回復や傷の修復など)。
等の現象が領域内で起こる。

極ノ番『鏡』.
術式自体に縛りを課す事であらゆるモノを封印する極ノ番。
まさに封印にのみ特化した奥義とも言える。
獄門彊と瓜二つの能力だが封印の中に垂れた一本の蜘蛛の糸を辿って脱出できる縛りを設けた為、術者が死んでも封印は続く。
コマンドは、『開』『閉』『解』『封』の四つのみ。

キャラ解説.
極ノ番『鏡』の中に封印されているナニカ。(cv.森川智之さん)
全盛期の酒吞童子を無限の圧力を用いて一瞬で殺したガチの化け物。
五条先生でも勝てるか怪しい。
転弥の不死の秘密。

では、また次回!
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