狂心者 作:no w here
カーテンで覆われた窓に、朝日が当たる。今日は此処までらしい…まあ、平日に徹夜で遊び通せる相手でも、仕事や学校といった物―――現実での生活が存在するのだから、仕方ない。
30分の仮眠後、冷凍庫から煮込んだ野菜を凍らせた真空パックを取り出そうとして―――何時もの場所にそれが無い。作り置きしていたそれが、昨日で尽きていたらしい。…引き返し、日記を確認してみるとその旨が冒頭に書かれていた。そうなると、普段とは別の方法で朝食を済ませる必要があるらしい。
冷蔵庫を見る。見る限り今日一日の朝食を作るだけの分しかない。そうなると帰りにスーパーによる必要がありそうだ。
―――取り敢えず、野菜の切れ端全部纏めて炒めるか。
残っていた野菜は生でも食べられるものだ、強火で一気に炒める。それと、食パン1枚と―――野菜炒めで余った油をそのまま目玉焼きに流用する。味付けはする必要が無い。
―――いただきます。
食前の挨拶後、1人で食べ進めていく。何時もの食事風景―――皆が
食事を終え、食後の挨拶を立ちながら呟く。食器を流しに入れ、調理道具など諸共を纏めて洗った後―――想定以上に時間がある。今から神山高校に向かうと1時間ほど暇を持て余すことになるだろう―――なら、身支度を終えた後少しばかり編集を進めておこう。
パソコンの前の席に座り、スタートから録音データを纏めたファイルへ飛ぶ。その中身にあるのは音声―――それも、自身含めた13人分の物。その中でもそれぞれが歌った共通の一曲を編集で纏めていく。
「…珍しい」
パソコンに付属させたホログラム投影の器材が勝手に起動し、隣にベージュがかった灰色の髪の少女―――IAが現れた。3年前はバーチャル・シンガーと言っていたが、今ではバーチャル・オペレーターと改めている。
相変わらずの無口による言葉足らずに、苦笑いを浮かべながら返す。
―――朝にやるのは、確かに珍しいな。IAが出てくるのも珍しいが…ゆかりやマキ辺りが来るだろう、普段なら。
IAが画面隅を指さす。目を向けると、恨めしそうに小さくデフォルメされた2人がIAへと画面上部のカメラを通じてみていた。他にもOИEもいる。
―――成程、抜け駆けと。
『そうなんだよ、―――
「…まさかの?」
沈黙。IAの声には何処か怒気も含まれているのが分かる。
デフォルメされたマキにおいては大量の汗を象るエフェクトが絶え間なく流れていく。…随分と小器用な事で。
『お姉ちゃんに失言って、レベル高いねマキさん』
画面端で行われるショートコントを見つつ、声を再生してパートを振り分けていく。時折画面内の3人が意見を出してくれるのが助かった。バーチャル・シンガーと初めに名乗っていただけあって、音質や音程・声質の組み合わせでは非常に頼りになる。
―――助かった、皆。…とはいえ、女声が1つしかないからバランスが怪しいか。
「…私達?」
―――そうだな、帰ってくるまでに音声データを頼んでいいか?
4人からの心強い返事。それを確認した後、時間を確認すると登校に丁度良い時間となっている。音声データを取ってもらうために、今日はパソコンを付けっぱなしにしよう。
―――いってくる。
「…ん」
『いってらっしゃいー』
『お気をつけて』
マキ、ゆかりの順でPCのスピーカーから声が聞こえる。IAとOИEにおいては流石は姉妹というべきか、小さく声を上げた後手を振っていた。
―――音楽が、聞こえる。
その歌詞が、その想いが突き刺さる。
4人の少女と、1人の少年の声。―――ニーゴの"悔やむと書いてミライ"が、何故聞こえる?否、それ以上に―――体が、ある?
目を覚ます。視界に広がる―――微かな光以外、何も存在しない世界。
―――…いや、セカイ…か?
「…そう」
振り向き、腰に携えた鞘の手前に甘くこぶしを握り込みながら構える。その先にいるのは、「初音ミク」。
だが世間一般で知られているそれとは違い、白髪と生気の無いオッドアイだった。
―――バーチャル・シンガーか?
「うん。まふゆの想いのセカイ―――でも、貴方は此処には来れない筈」
―――だろうな。異常事態であることは分かっている。セカイの主にも、それ以外の人にも迷惑をかけたくない。送り返してほしい。
彼女が目を閉じる。―――首を小さく、然し確かに横に振った。
「…できない。どうして」
―――分からないが、少しばかり拙い。
―――兎に角、遠くに案内してくれ。此方も望む状況ではない。
「…分かった。…貴方は?」
―――…―――だ
「…?ノイズが入って、聞こえない」
―――そうか。取り敢えず、頼む。
頷き、彼女が歩き出す。それに